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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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stage8 遺跡から

「うわっ、なんですか。これはっ!?」
 遺跡の中を進んでいた富永 佐那(とみなが・さな)の行く先で、四方八方から支柱が飛び出しては引っ込むの事を繰り返していた。
 周囲に木材に槌を打ちつけるような音が絶え間なく鳴り響く。
 機械仕掛けで動くそれらはかなり勢いがあり、当たれば大怪我は免れない。
 派手な仕掛けに佐那が唖然としていると、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が隣にやってきて、一緒に飛び出す支柱を見つめた。
「すごい仕掛けですね」
「遊園地のアトラクションでもこんなに危険なのはありませんよね」
「そもそも作らせてもらえないと思いますよ」
 二人がそんな他愛もない会話をしていると、背後から手に武器を持った≪徘徊するミイラ≫達がゆっくりと近づいてきた。
 前方には激しく稼働する支柱。後方には≪徘徊するミイラ≫の群れ。
 唯斗は≪徘徊するミイラ≫を正面から見据えると、一歩前へ進み出た。
「佐那、ここは俺がどうにかします。
 あなたはそいつをどうにかしてください」
 そう告げると、唯斗は≪徘徊するミイラ≫に向かって行った。
 取り残された佐那は目をパチパチさせると、嬉しそうに鼻を鳴らして笑った。
「仕方ありませんね。期待に応えるとしましょう♪」
 佐那は道を塞ぐように飛び出す支柱に近づくと、凝視しながら思案した。
「機械仕掛けなら何とかできると思うのですが……」
 しゃがみ込んで床板に手を当てると振動が伝わってくる。その中に小さいが、支柱の動きとは少しずれたものを感じ取った。
 佐那は床板に耳を当てると、目を瞑って音に集中する。
「これは……歯車ですか?」
 聞こえてきた僅かな音はいくつもの歯車が動く音のように思えた。
 佐那はレーザーキンジャールを床板同士の間に入り込ませ、捲ってみた。
 すると――
「すごい……」
 床板をどかした先に広がる空間。
 そこには大小様々な歯車が相互作用を繰り返しながら回り続けていた。最下層は飲み込まれそうな漆黒な空間が広がっていて、どうなっているかわからない。
「歯車の一つでも壊せれば制止するんでしょうけど……拳銃とか持ってこないとダメでしょうか」
 一番近い歯車でも、手を伸ばすだけ無駄だと諦めるような距離である。物を投げてうまいこと歯車の間に挟まれば止まるかもしれないが、それが成功するのはどのくらいの確率だろうと考えると、天を仰ぎたくなる。
「仕方ありません。これを使いましょう!」
 佐那は【放電実験】を発動させようとする。その時、不意に唯斗のことを思い出して振り返る。
「……結構距離がありますね。ならば、大丈夫でしょう♪
 それではいきます!」
 佐那は気合を入れて【放電実験】を発動させる。
「うわっ!?」
 気合を入れすぎたのか、思いのほか広範囲に波打ち暴れながら飛び散る電気。
 そのうち一つは遺跡の床から壁を駆けのぼり、あるいは床下の空間へと流れこみ、≪徘徊するミイラ≫を打ち抜き、唯斗を直撃した。

「ぐげっうげうぎぎがっ¥◆#☆$&――!?!?!?」

 膝をつく唯斗の体からプスプスと黒い煙が上がっていた。
「な、なんですか……」
 唯斗は電撃を放った佐那の方を振り返る。
 そこには支柱の一部の動きが止まったことに喜ぶ佐那の姿があった。
「佐那……」
「え? あ……ご、ごめんなさい! 次は気を付けます!」
「やっぱり……」
 一瞬新たな敵の攻撃かと戸惑っていた唯斗は、ホッと一安心していた。
 向かってくる≪徘徊するミイラ≫の数が多く、これ以上増援が続くとなかなか厳しい状況だった。
「さて……できれば温存しておきたかったのが仕方ない」
 唯斗は練気の棍を振り回し、近くいた≪徘徊するミイラ≫の頭部を吹き飛ばすと、次々と襲いかかってくる敵の中へと突っ込んでいった。
「邪魔だ!」
 斧を振り下ろす≪徘徊するミイラ≫の腕を練気の棍で叩いて、攻撃を回避し、すかさず腹に一撃食らわす。
 さらに向かってきた数体は練気の棍で一気に吹き飛ばし、より内部へ。
 周囲には≪徘徊するミイラ≫だらけ。一匹叩いてまた別方向から攻撃が迫る。
 そんな状況で唯斗は目を動かして≪徘徊するミイラ≫の位置を確認する。
「よし、そろそろいいな。……いくぞ
 修羅の闘気により、唯斗の纏った気が周囲の≪徘徊するミイラ≫を慄かせる。
 すると唯斗は大きく深呼吸して集中すると、を練り始めた。
「これで決める――」
 唯斗は練気の棍を振り回すと同時に練り上げたを周囲に次々と放った。
 放たれたは≪徘徊するミイラ≫を打ち抜く。
 一瞬のうちに周囲の≪徘徊するミイラ≫が崩れ落ちていった。

「こんなもんか……」
 周囲を見渡して敵影がないことを確認すると、ようやく唯斗は構えを解いた。
 佐那の所に戻りつつ、少し休憩させてもらってから手伝おうと考える唯斗。
 すると、聞き覚えのある声が聞えてきた。
「ミッツさん、こっちです!」
「お、おう! みんないそげぇ!」
 声の下方向を振り返ると、遠野 歌菜(とおの・かな)を先頭にミッツ達が唯斗の所へと走ってきていた。
 その表情はどこか焦った感じだった。
「ん、皆さんどうし――!?」
 ミッツ達の遥か後方から大量の≪徘徊するミイラ≫が追って来ていた。
 箒に乗った歌菜が唯斗の隣で制止し、苦笑いを浮かべる。
「唯斗さん、どうもこんにちは!
 唐突な質問ですが、この先は通行止めですか!?」
「いや、どうでしょう。
 佐那! どんな感じですか!?」
 唯斗は離れた所で支柱の停止作業をしていた佐那に呼び掛けた。
 佐那は唯斗達の所へ走ってくる。
「あら皆さん来ていらしたのですね」
「それより、停止作業がどの程度進んでいるのか聞いてもいいですか?」
 唯斗の質問に佐那は顎に手を当てて暫し考えていた。
「あと少し……一つ二つですね」
「それは解除しないと通れませんか!?」
「そんなことはないと思いますが、かなり危険です」
 現状を理解した歌菜はミッツに目を向ける。ミッツは無言で頷いていた。
「このまま通ります。のんびりしている時間はありませんから」
 後方から≪徘徊するミイラ≫がすぐそこまで迫っている。
「佐那さん、どこから通れるか案内してくれますか?」
「わかりました」
 歌菜達は佐那の先導で飛び出す支柱の仕掛けを抜けることにした。
 下から飛び出す支柱、人ひとりが通れる隙間を壁に沿って進む。横から飛び出す支柱は飛行して通り過ぎていく。
 後方で≪徘徊するミイラ≫が支柱に潰されていく。
 佐那は天井ギリギリを飛びながら尋ねる。
「この先に何かあるのですか?」
 すると尋ねられた歌菜は首を傾げる。
「何って……私達の入ってきた入り口ですけど?」
「え?」
 佐那は自分達が進んでいる方向に目を凝らす。
 すると、光が漏れ出した巨大な口のような遺跡の入り口が目についた。
「それって……」
「道に迷って戻ってきたってことですね」
 佐那と唯斗がため息を吐く。
 遺跡内を回っているうちに彼らは元の場所に戻ってきていたのだった。

 遺跡を抜け出したミッツ達は、≪徘徊するミイラ≫が外にも発生していることを知る。
 どうやら遺跡から持ち出した≪三頭を持つ邪竜≫の心臓を取り返そうとしているとわかったミッツ達は、この区域を早急に離れることにした。