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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

リアクション

「ちぃ!」
 ウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)は≪積雪のガーディアン≫に銃撃を浴びせるが、弾丸は雪でできた体を抜けて後方の遺跡の壁へとぶち当たった。
 反撃とばかりに≪積雪のガーディアン≫の雪でできた球体状の手が、弾丸のように飛んでくる。
 それを横から東 朱鷺(あずま・とき)が魔法を当てて弾き飛ばした。
「ありがとう!」
「いえいえ。それよりどうします?
 このままでは埒があきません」
 朱鷺が弾き飛ばした手は、周囲の雪と混ざって損傷した箇所を再生して本体へと戻っていく。
 その様子を見てエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が苦笑いを浮かべる。
「ダメージ蓄積は意味がないな。
 一気に全体を破壊しないと……」
 斬撃や打撃は食らわせても用意に再生されてしまう。
 となると、もっとも有効なのは魔法による攻撃だ。その中でも雪を相手に有効なのは……。
「焼き払いますか」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が【パイロキネシス】を発動する。
 包みこむかのように発生した炎に、≪積雪のガーディアン≫の体の表面が少しずつ溶けていく。
 だが――
「火力が足りませんか」
 メシエが両腕をだらりと下げて、魔法を中断させる。額から大量の汗が流れていた。
 炎は≪積雪のガーディアン≫の表面部分しか焼き払うことができなかった。雪が降り注ぐ広々とした最深部の環境が、熱量を拡散して炎の出力を低下させていた。
「大丈夫か、メシエ?」
「ええ……お気遣いなく。
 これくらいなんともありませんので」
 本人が言うほどメシエの表情に余裕はない。それは皆とて同じだった。≪積雪のガーディアン≫と戦い初めて随分経つが、未だに勝機が見えてこなかったのだから。
 何か手はないかとグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は考える。
 ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)に体調を考慮して魔法の使用を極力抑えているが、それでもいくらか使わざる得ない状況になっている。これ以上、長期戦は狂った魔力を宿すグラキエスにとって危険が伴う行為になってくる。
「ガーディアンのことはここに来る途中にいくつも記述があった。
 だが、破壊する方法までは記されていない。どうする……」
 グラキエスはせめてこの雪を止める方法についてだけでも記されていなかったか、頭をフル回転させて考えた。
 すると、グラキエスは≪三頭を持つ邪竜≫が業火に焼かれ、心臓だけ残ったとされる記述を思い出す。
「あれには遺跡が術者の思いに応えて炎が増幅したとあった。
 だとしたら、それ以外に使われている素材にも……」
 グラキエスが周囲を見渡す。
 最深部には戦闘開始前からいくつか壊れた石像や柱が転がっている。
「……やるだけやってみるか。
 すまん! 誰か協力してくれ!」
 グラキエスは仲間に呼びかけ、≪積雪のガーディアン≫を引きつける者と自分を手伝ってくれるメンバーをわけた。
 力ある生徒がグラキエスの指示で、≪積雪のガーディアン≫を囲むように石像や柱を隙間なく並べていく。
「よし! エース、こっちだ!」
 グラキエスの呼びかけに答えて、≪積雪のガーディアン≫を引きつけていたエース達が囲いの外へと脱出する。
 後を追いかけてくる≪積雪のガーディアン≫。
「させるか!」
 グラキエスが【奈落の鉄鎖】を発動させる。その瞬間、立ちくらみのような眩暈を感じた。
 それでも、もう少しだけだど言い聞かせて踏ん張った。
「ゴルガイス! メシエ! いまだ!」
「任せろ!」
「今度こそ終わらせます」
 【奈落の鉄鎖】で動きが鈍った≪積雪のガーディアン≫に、ゴルガイスが【煉獄斬】を、メシエが【パイロキネシス】を放った。
 二つの炎は囲いの中で合わさり、渦巻くように≪積雪のガーディアン≫を絡みつく。その勢いはグラキエスが予想した通り、石像や柱にぶつかるたびに威力を増していた。
「くっ――!?」
 【奈落の鉄鎖】を破られ、グラキエスが弾き飛ばされたように尻餅をつく。
 溶け始めたアイスのように徐々に形を失う≪積雪のガーディアン≫。丸い手から囲いの外から炎を浴びせ続けるゴルガイスとメシエへ向けて伸ばされる。それは人間の手の形をとりつつ、腕を伸ばしてくる。
「いい加減――」「――消えろぉ!!」
 ゴルガイスとメシエはさらに力を込めて、炎の勢いを挙げた。
 ≪積雪のガーディアン≫は悲鳴のような音をあげる。
 容赦ない炎の渦にのみこまれた≪積雪のガーディアン≫身体を構成していた雪は、跡形もなく溶けてただの水となっていく。
 そして、消火作業を行って炎が鎮静化する頃には、空気中の水分と同化していた。
 
「おわった……」
 どうにか戦いを切り抜けた生徒達は、微熱の残る床の上に次々腰を下ろしていった。
「ん? これは……」
 その時、皆と同じように休んでいたウルディカが何かを見つけた。
「どうした、ウルディカ」
「あ、ああ、エンドロア。実はこれなんだが……」
 グラキエスに尋ねられたウルディカは自分の足元を指さす。
 そこには遺跡に書かれていたのと同じ文字が、戦闘時にできたと思われる床板のヒビの隙間から顔を覗かせていた。
 その後も近くの床板を捲ると文字と絵が次々と現れる。
「ふむふむ……」
 グラキエスは時間を忘れて、食い入るように書かれている文字を見つめていた。
 そこには≪三頭を持つ邪竜≫の心臓がなぜ処分されずに封印されたのかについても記述されていた。
「そういうことか……」
 グラキエスが感心していると――遠くから複数の足音が聞えてきた