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第2章  やまへ


 慣れぬ山道に苦戦し、なかなか進めないでいた房姫達。
 焦る気持ちとは裏腹に、耀助と那由他は少し安心さえしていた。

「房姫があれほど焦っておるとは珍しいのぉ〜」

 それは、予想外に多くの生徒達が追いついてきてくれたから。
 玉藻 御前(たまも・ごぜん)も、その1人だ。

「なるほど……ハイナが病気と聴けば、房姫も放っておくわけにはいくまい」

 うんうんと、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)は首を振る。
 識る者が不調とあらば、助けるのが道理というもの。

「俺にできることがあれば、遠慮せずに言ってくれよな!」
「わらわ達も房姫を助けるのじゃ!」
「皆の者、恩に着るえ」

 セリスと御前の申し出に、房姫はなんとか笑ってみせた。

「私、このように山に来たの初めてですわ〜♪
 まぁ、鳥さんがいらっしゃるのね」

 ヴェール・ウイスティアリア(う゛ぇーる・ういすてぃありあ)が日傘の影から見上げれば、樹上には綺麗な鳥が鳴いている。
 周囲の緊張感をものともせず、ヴェールはふわふわな笑みを零した。

「あはは♪
 山は色々楽しいね!」

 そんなヴェールの前で、にこにこと笑むアイラン・レイセン(あいらん・れいせん)
 なにより房姫に危険のないよう、少し先を歩いていた。

「木が一杯あって、足をかけるところもあるし!」

 【軽身功】で樹木に登り、遠方の様子を確認。
 かと思えば駆け下りてきて、石などの障害を取り除く。
 数秒先でも未来を予想しながら行動していると、大変そうだが頼もしい。

「ところで、悲哀さんは何を見ていますの?」
「うん?」

 ひそひそ話のヴェールとアイラン、眺む先には。

「はぁ……」
(いつぞや話しかけて貰えて……凄く、凄く嬉しかったですし。
 眼の前の仁科さんに「この前はありがとうございました」って……言えるといいんですが……あぁ。
 ……でも……私の事なんて覚えて居ないでしょうか……)

 2人のパートナーである、一雫 悲哀(ひとしずく・ひあい)の姿があった。
 頬を赤らめたり、儚い視線を飛ばしたり、忙しい。

「ねぇねぇ、キミってさぁ〜」
「にっ、仁科さん!?」
「このあいだの子だよね〜?」
「は、はいっ!」
「やっぱりかぁ〜また会えて嬉しいよ。
 今日もよろしくね〜」
「ぁ、はい、あの、こちらこそ……」
「うん」
「あの、それと……」
「うん?」
「こっ、この前は、声をかけてくださって、ありがとう、ございますっ!」
(やったっ、言えたっ、言えましたっ!)

 ころころ変わる表情に惹かれて、耀助が近寄ってきた。
 奥手なため自分からはなかなか話しかけられず、困っていたのだが。
 予想外の出来事に、悲哀は心臓がばくばく。
 それでもなんとか目的を果たし、感無量といったところか。

「いえいえ、また出逢えたことに握手でも」
「あ、はいっ、ありがとうございます!」
「青春ですわね……」
「えいえいおー♪」

 さらに一歩の前進を経て、満面の笑みを浮かべる。
 ヴェールもアイランも、そんな悲哀を割と堂々と応援するのであった。

「房姫さん。
 今回お探しの植物について、特徴をお教えいただけませんか?」
「えぇ……」

 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)に訊ねられた、房姫の解答。
 全体的に小さくて、丸っこい葉とふわっとした花がついているのだとか。

「なるほど、それでは……」
「房姫さんを助ける事で、ハイナさんを助ける事にもなる。
 だから、全力で頑張る!」
「戦う力はそんなにありませんので、僕はフォローに回りますね」

 掴めぬ言葉に苦笑するも、優斗は【イナンナの加護】を展開した。
 同じく、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)カムイ・マギ(かむい・まぎ)も。

「僕も、ハイナさんも房姫さんも好きなので助けたいのです」

 加えて【殺気看破】も発動し、周囲の危険へも気を配る優斗。
 【テレパシー】も使えるため、他の場所への現状報告係も兼ねている。

「さて、少し休憩しようか」
「房姫さんを危険な目に遭わせるわけにはいかないもんね!」

 レキの呼びかけを聴き、生徒達は徐々に足を止めた。
 岩や木陰に腰掛けて、水分やお菓子を口にする。
 房姫の背後に近付いたカムイは、胸元から髪留めを取り出した。

「髪が枝に引っかかるといけません。
 いまからでも、後ろでひとつに束ねておきましょう」
「あら、助かりますわ。
 よろしくお願いいたします」

 実際、幾度か危ない場面もあったから。
 カムイ自身は、レキとお揃いのリボンで髪を結わえていた。
 気遣いを嬉しく思い、髪を委ねる房姫である。