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第4章  さきまわる


 山を行くメンバーのなかには、房姫達一行を追い越していく者達がいた。
 それは少しでも早く、ミッションをクリアするための心遣い。

「まさかハイナが病気とはなぁ。
 まぁ、あの格好で年中いたらそらなー」
「そうだよね〜♪」

 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は、腕組みいつものハイナを想い浮かべていた。
 胸から上を露わにして、寒くないのかとか危なくないのかとかとかいろいろと、考えてしまう。
 いつのまにか行動をともにしていたミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)も、同じことを思ったらしい。

「それでもやっぱいつも通りでいて欲しいからな。
 しっかり房姫の事も頼まれたし、頑張るかねぇか。
 ハイナの心配を減らす為にも、先回りして障害を根こそぎ片付けておかないとな!」
「うん、ミーナもやるもん!」

 なんと、偶然にも。
 唯斗の『羅刹刀クヴェーラ』にも、ミーナの『さざれ石の短刀』にも、石化の能力があった。
 ここに、敵には回したくない石化ペアが誕生する。

「ふぅ……房姫殿も、思い込んだら一直線な部分もあるのじゃのう。
 一途でいじらしいが、ハイナ殿も周りの者も気が気ではなかろうて」
「燿助さんや那由他さん達もご一緒ですから、きっとご無事だと思いますが……」
「ルビー、ありがとうのう」

 織部 イル(おりべ・いる)が『空飛ぶ箒』を降りれば、そこは既に巨鳥の住み処。
 同じく先回った度会 鈴鹿(わたらい・すずか)鬼城 珠寿姫(きじょうの・すずひめ)も、『レッサーワイバーン』から離れた。

「巨鳥とはいえ、殺してしまうのは忍びないですからね。
 薬草の採取が終わるまでだけ、この場を空けていただきましょう」
「だがイル殿の囮は流石に……大丈夫なのか?」

 鈴鹿は【龍鱗化】と【エンデュア】で防御を固め、珠寿姫とともに草むらへと身を隠す。

「さぁ鳥さん、こちらじゃ。
 はよう参らねば見失ってしまうぞえ」

 囮を買って出たイルが、まずは【我は射す光の閃刃】を放った。
 十数匹の巨鳥すべてが畏怖を感じて、大人しくなってくれればよかったのだが。

「ちっ、そう上手くはゆかぬのう……」
「イル殿っ!」
「たまき殿、心配には及ばぬ。
 妾は野外活動の心得もあるからの」

 珠寿姫の制止も聴かず、箒へと座るイル。
 無人のワイバーンを連れて、大地を蹴った。

「暫しの間、妾とルビーと追いかけっこに興じて貰おうかの」
「鳩さん、イルを助けてくださいな!」
「サポートくらいはさせてもらうのだよ」

 黙って観ていられるわけもなく、鈴鹿は【白鳩の群れ】を放った。
 巨鳥達を攪乱させれば、珠寿姫も【弾幕援護】を張る。
 さらに【クロスファイア】と【スプレーショット】での威嚇も功を奏したよう。
 イルとワイバーンは、巨鳥を従えて彼方へと消えていった。

「皆様、やっと追いつけましたね」
「やほ〜」
「敵を追い払ってくれたのね、ありがとう!」

 ほどなくして、房姫に燿助と那由他が現れる。
 3人を護衛しつつ登ってきた生徒達も……誰1人、欠けることなく。

「房姫様、ご無事でしたか!」
「えぇ、皆のおかげですわ」
「房姫様は本当にハイナ様と仲がよろしいですものね。
 でも……無茶はいけませんよ」

 思わぬ展開に駆け寄る鈴鹿を、房姫は笑顔で迎えてみせた。

(淑やかな方だと思っていたが……思いの外、行動力のある方なのだな。
 ……私とも仲良く?
 いや、私は……)

 親しげに言葉を交わすパートナーを、何の気なしに眺めていた珠寿姫。
 芽生えたキモチは、しかしどう処理をすればよいのか判断がつかなかった。

「ちょっと、たまきさん!」
「ん、なにかあったのか?」
「燿助さんに那由他さん、でしたね。
 たまきさんも明倫館にいらして日が浅いのです。
 お2人も、どうぞ仲良くして差し上げて下さいね」
「は〜い、綺麗なお姉さんどうぞよろし……ぐふっ……」
「どうもすみません。
 あたしは龍杜那由他で、こっちは仁科耀助、仲良くしてね!」
「えぇ、よろしく、お願いします」
「たまきさんったら、恥ずかしがっていますね!」
「そっ、そんなことない……」
「あぁ〜ずるいよぅ〜ミーナも入れて〜」
「ってなわけで、ここより先の道も掃除してきたぜ!」
「ミーナさんに唯斗さん、いつのまに……」
「俺、ちゃんと最初からいましたからね?
 『ブラックコート』で気配を消していたからいきなり現れた気がしているだけですよ?」
「ミーナもだよ?」
「あらまぁ……」

 いい感じに関係も深まったところで、いざ。
 植物を目指す房姫達の旅は、もう少し続くのである。