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リアクション
★第一章「遊び。されど遊び」★
「この季節に雪とは幻想的です。ポチも大喜びしておりますし、一時を愉しみましょう」
「ご主人様見てください、雪がたくさんですよー! 今日はお外で遊んでもいいですか?」
フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)とその愛犬忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)が雪の中を楽しそうに遊んでいる。ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はそんな2人を眺めて
「ったく。暑かった中で急に雪が降るとかおかしいだろ。
つーかポチの奴、この寒ぃ中で盛大に大喜びしやがって。何となくムカつくから雪に埋めてやろうか」
中々に物騒なことを呟く。しかしすぐに首を振って気を静めた。もっと大事なことがあるのだ。
ベルクがフレンディスに近づいた。
「わーい! 僕、今日は沢山……! エロ吸血鬼、いつからいるのですかっ? ぼ、僕は雪程度で騒ぐような子犬ではありませんからね!」
「へいへい。んなことはどうでもいいんだよ」
慌てて平静を装うポチの助を軽くあしらい、ベルクは懐からとあるものを取り出した。
「フレイ」
「? マスター如何なさったのでしょう?」
「ちょっと早いが、誕生日プレゼントだ」
「あり、がとうございます。私の誕生日を覚えておいでだなんて嬉しいです」
差し出された右片翼のペンダントを受け取り、微笑むフレンディス。受け取ってもらえたことにベルクがホッと息を吐きだす。
(……! こ、これはその、ペアという物では)
嬉しさで顔を赤らめたフレンディスが、首を勢い良く振った。
「そ、そうでした! マスターは私に対するお気持ちをイン……プティング? で勘違いしております! ですから」
「インプティング? ……もしかしてインプリンティングのことか?」
どうか違ってくれ、という意味を込めたベルクの確認に、フレンディスが大きく頷く。
ガクリとしつつもなんとか誤解を解こうとするベルクだが、フレンディスは決して譲らない。
「……ああっわかった。じゃあそれでいい」
仕方なくベルクは肯定した。その言葉に、フレンディスはなぜだか胸が痛くなった。
「でもっそれでも俺の気持ちは変わらねぇからな!」
付け加えられた言葉に、フレンディスの胸は高鳴る。何も言えなくなったフレンディスの横で、ポチの助が複雑な思いでたたずんでいた。
主に幸せになってほしい。でも自分にかまってもらえなくなるのでは、と不安でもあるのだ。
「ご、ご主人様、あっちに氷の城やたくさんの雪像があるそうです。見に行きましょう!」
「そっそそそうですね!」
だからもう少しこのままでいたいと、彼は思った。
◆
「さて。今回はせっかくだし、思いっきり遊ぶか」
マリリン・フリート(まりりん・ふりーと)は商魂たくましい商人たちの露店を巡り歩いていた。手にはほかほかの甘酒。それを両手で持ちながら飲めば、体の芯から温まる。
「まったく、似た感じの雪精は他の者に任せるだの、水着用意してないから大会に出れないなど!
おぬしのせーいーだーぞー!」
そんなマリリンの頬をぐにぐにしようと手を伸ばした空降 冷花(そらふり・れいか)だったが、直前で避けられて頬を膨らませた。
「かき氷もう1杯追加じゃ!」
「あ〜分かったよ」
「他の雪遊びにも付き合ってもらうぞ! もらうからな!」
冷花は言いながらしゃりしゃりとかき氷を食べる。なんとも寒々しい光景だが、本人はいたって平気そうだ。
かき氷を食べ終わると、次は何をしようかと考え込む。
「大きな氷の滑り台でも氷術で作ろうかのう? 作れたら、滑るぞ。主よ!」
「それはいいねぇ。あたいも手伝うよ」
童心に帰って2人は楽しみながら滑り台を作り上げる。そして意気揚々と滑り台の上に乗った冷花。そこで再びかき氷を食べようとしたが、動きを止めた。
「ん? どうした?」
「主! あっちに氷の城が見えるぞ」
「氷の城? へぇ〜面白そうだ」
近くで見て見よう、と2人は氷の城へと向かう。
「これは……なんというか予想以上だな」
「う、うむ。この装飾もみごとじゃの」
「おぬしらは見学者か? ありがとうな。そう言ってくれるとがんばったかいがある」
「あんたが作ったのか?」
「いや、わしとパートナーたちでな」
出迎えてくれた甚五郎が、城を案内してくれた。
「ほお? 家具まで再現するとは、やるのぅ」
冷花の目がきらりと輝く。マリリンはその横で素直に感嘆していた。
「わぁっすごーい。お城だー」
そこへ響くのは甲高い子供の声。どこかで聞き覚えのある声にマリリンが振り返ると、いつぞやの雪ん子がそこにいた。
「あれ、あんたは」
「あ、マリリンのお姉ちゃん!」
グラートが気づいて手を振る。とっさに手を振り返し、背後にたくさん連れていることに首をかしげる。大勢いる中にメチェーリの姿はない。
(また迷子にでもなったんかねぇ)
とにもかくにも、全員で氷の城をたっぷりと見学しして楽しんだ。
* * * * *
「これがやたい?」
マリリンから出店の連なる場所を聞き、やってきたグラート。始めて見るらしく、きょろきょろと忙しない。
「そうだよー。あ、カキ氷だ! おじさん、3つちょうだい」
「僕イチゴがいい」
白い雪景色に負けない白くてふわふわのかき氷を買い、グラートに渡しているのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。
「……すっごくおいしいよっ!」
「ねー」
「2人とも、食べすぎには気をつけてくださいね」
美羽からカキ氷を受け取ったベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、そんな2人を微笑ましく見守る。
「あ! 射的もあるよ。グラっち、やろう!」
「やってみたい」
「ちょっと2人とも、そんなにお金は」
「えー、やりたーい」
財布役のベアトリーチェが眼鏡のずれを直しながらストップをかける。今までかき氷のほかにも綿飴や冷たいラムネ、お面など、さまざまにお金を使っている。
困った顔をするベアトリーチェに、美羽とグラートが駄々をこねる。
「……はぁ。仕方ないですね」
「やったー! ありがとう、ベアトリーチェ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「ふふ。どういたしまして」
喜ぶグラートたちに、ベアトリーチェも頬笑みを返す。本気で怒ってはいないのだ。
「あー! 外れた! おじさん、もう一回!」
「僕も僕も!」
「2人とも、ほどほどに」
「ねぇねぇ。ベアトリーチェお姉ちゃんはどれが欲しい? 僕取ってあげる」
「え? それはありがとうございます。じゃあ……」
「グラート君、どっちが先に取れるか、勝負よ!」
その後、結局2人とも目的のものを取ることはできなかった。それであまりにも落ち込んでいたため、みかねた店主がお菓子の詰め合わせをくれた。
◆
「もぐもぐ……あ、おいしい」
たこ焼きを口へと放り込み、コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は頬を緩めた。
「うわあああああああああああああん」
そんな時に響いた子供の泣き声に、彼女は「またか」と呆れつつそちらを見た。そこには小銭を握りしめてたこ焼きを買いに来た子供が、恥も外聞もなく泣きわめいている。
「む。子供よ、なぜ我を見て泣くのだ。たこ焼きが欲しいのだろう? ならばお金を渡すといい」
そんな子供に声をかけているのは、黒っぽい赤い色をし、足が無数にあり、口がまるで筒のようになっている生き物。名をイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)という、ポータラカ人だ。
身長は172ほどあり、それがうねうねと全身をくねらせている。……怖がるな、と言う方が無理だろう。
我慢大会に出ている吹雪からたこ焼き屋を任されたイングラハム。なぜ怖がられるのかを理解していない。
(完全に店番役、間違えてるわよね)
「ごめんね、僕。たこ焼きいくついるのかな?」
仕方ない、と立ち上がったコルセアが注文を取り、イングラハムに伝える。そしてできあがったタコ焼きを男の子に渡した。
「味は保証するから大丈夫よ」
再び椅子に座ったコルセアは、
「吹雪は……まだ残ってるみたいね」
我慢大会を静かに眺めはじめた。
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