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リアクション
★第二章「親の愛」★
「雪合戦なのだー! えいっ」
無邪気に我慢大会と言う名の雪合戦を楽しんでいる春夏秋冬 刹那(ひととせ・せつな)が、雪玉を思い切り投げて和深にぶつけた。
「おまっ何して」
「ピー! 111番、服を脱ぐように」
「くっ」
審判にいわれて服を脱いだ和深が刹那を睨みつけるが、刹那はなぜ怒られたか理解していないようで、笑顔のままだ。
「刹那! お前邪魔だから鎧になってろ」
「えーっ? あちし、もっと遊びたいのにー」
文句を言いつつも仕方なく鎧に戻る刹那。しかしホイッスルが鳴る!
「111番、途中での服の変更はいかんぞ。鎧を着るなら、他の物を脱ぎたまえ」
和深は上半身裸となって鎧を着ることに……ちくしょー。ヤロウを脱がしてもおもしろく……あ。なんでもありません。
「仕方ない。俺様が援護をして……む?」
「油断たい敵であります!」
白い毛玉……否。毛玉から手足が生えた不思議な説物、ポータラカ人のウォドー・ベネディクトゥス(うぉどー・べねでぃくとぅす)を掴む吹雪。どうも雪玉と間違われたようだ。
「……あれ?」
投げた後で気付いたようだが、兎にも角にもウォドーは空を飛んだ。
「俺様を投げるとは、ゆるさねぇぞおらぁっ」
怒りの声を上げながら、彼は飛んだ。吹雪が「すみませんであります」と謝罪する声があっという間に遠ざかる。
「ふふ、夏に雪なんて涼しげでいいじゃない。酷暑よりはるかにマシよ!」
そう微笑んでいるのは綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)。マシ、とはいうのものの、暖房器具をすっかりしまいこんでいるために非常に寒く、ならば動けばマシになるだろうと我慢大会に参加していた。
服装は長袖の服を重ね着してデニムの上着。下はジーンズ、手袋と靴下も二重という防寒と動きやすさを考えたものだ。
「寒いの苦手だといいますのに、どうしてわたくしまで」
さゆみのパートナーであるアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)は、室内で紅茶でも飲んで寒さをしのごうとしていたところをひきずられ、ほぼ無理やり参加させられてしまっていた。
「ほいっと。そんなの当たらな」
「っ! 後ろです」
道端にあった雪だるまを壁に雪玉を避けたさゆみだったが、後ろから飛んできた大きな雪玉に気付くのが遅れた。アデリーヌが間に入り、かばう。
「っな、何これ?」
アデリーヌに当たった雪玉は、随分とふわふわもふもふしていた。しかもそこから立派な(?)手足が生えている。
「何これとは失礼だな。俺様はウォドー様だあああああ、おらあああああっ」
「きゃっ」
ウォドーの投げた雪玉の1つがあゆみとアデリーヌに当たる。仕方なく一枚ずつ脱ぐ2人。そして脱いだ瞬間に投げた雪玉がしっちゃかめっちゃかに暴れていたウォドーを直撃。
「113番、服を脱……」
審判がそれを見て声を上げ、止まる。ウォドーは服らしき服を着ていない。しばし悩んだ後、
「113番、失格!」
「ルールだったら仕方ねぇな」
ウォドーは両手を組み、堂々と失格者席で仁王立ちした。漢らしい!
「と、とにかくこの調子でいくわよ!」
「はぁ。仕方ありませんね(水着姿で待機はごめんですわ)」
我慢大会、残るは和深、吹雪、さゆみ、アデリーヌの4人。さゆみとアデリーヌの2人は手を組んでいる。
和深は考えた。
(あの吹雪って子はすでに脱いでいる。だとすればあの2人をむくべし)
吹雪は考えた。
(さすがに2人を同時に相手するのは難しいであります。かくなるうえは)
両者の利害が合致した。
和深&吹雪 VS さゆみ&アデリーヌ
ファイッ!
「残りは契約者4人! おおおっとここで、大会運営からのお知らせです。ただいまより、スキル使用解禁とのことです! 存分に戦ってください」
一般人の参加者のために禁止されていたスキルの使用が、ここで可能となった。全員の目が輝く。
「アデリーヌ! 行くわよ!」
「分かりました」
雪玉をさゆみがサイコキネシスを使って死角から投げつける。さらにはアデリーヌが観客を巻き込まない程度のブリザードを放ち、視界を遮って動揺を誘う。さすがのコンビネーションだ。
並の相手ならばそれで終わったことだろう。しかし、相手はこのバk……神聖な大会を勝ち抜いた猛者。そう甘くはない。
(俺は……こんなところで負けるわけにはいかない)
そう。堂々と女の子を脱がせる機会などないのだから、活かさずしてなんとする。
「くらってたまるかああああああっ」
「嘘っ? 全部避けてるっ?」
それは彼の執念だった。
さゆみとアデリーヌは驚きつつ後ろに下がり、体勢を整える。そして気がついた。もう1人、吹雪の姿がないことに。
「しまっ」
吹雪は極限まで気配を押し殺し、ブリザードにまぎれてさゆみたちの背後を取っていた。
無音で放たれる雪玉たち。
直前で気づいたさゆみとアデリーヌがいくつか避けるも、和深からも投げられる。挟み撃ちの攻撃に、雪玉のすべてを避けることはできなかった。
さゆみたちも反撃をして和深を後一歩まで追い込むが、あえなくリタイアとなった。競泳水着が姿を表す。
「え? 私負けたの? うう……寒い」
「寒いです」
「よっしゃ。これで」
「おしまいであります!」
そして和深の気の緩んだ一瞬をついて投げられた雪玉が、見事に命中。
「決まったあああああ。優勝は吹雪選手です! 商品はこちら。カップアイス3カ月分、900個(1日10個計算×30日×3カ月)です!
おめでとうございます!」
多すぎる!
そんなそうツッコミを受けつつ、我慢大会は無事に終了した。
* * * * *
「親と離れ離れか……さぞかし寂しいだろうな」
ふわりふわりと降り注ぐ雪を見上げながら、龍滅鬼 廉(りゅうめき・れん)は呟いた。
「まずは手がかりを探すしかないか……エレノアの話によると、先ほどはここで冷気が強かったと言うしな」
「しかし自分の息子を置いて行ってしまうとは考えにくいですが」
吉村 慶司(よしむら・けいし)が廉の言葉に首をひねるも、「子供の方が迷子になったかもしれないな」との言葉になるほどと頷いた。
「すごイ! 暑い、無いヨ! とっても、過ごし易いネ!」
そんな2人の後ろで大興奮しているのは雪だるま……ではなく、ヴィルヘルム・エイジェルステット(う゛ぃるへるむ・えいじぇるすてっと)。その見た目通り、暑いのが苦手なヴィルヘルムにとって、この突然降った雪は喜ばしいものだった。
廉と慶司は、喜んでいるヴィルヘルムを見て、頬を緩める。
「グラートサン、お母さん探すネ! この人、見たネ?」
ヴィルヘルムはグラートたちに何だか自分と似た気配を感じ、人事では無いと張り切っていた。
「さむいーーーーー」
意気揚々とヴィルヘルムが通りすがりの女性に声をかければ、雪だるまが動いていることに驚いた女性が悲鳴をあげて逃げてしまった。ただでさえ雪のせいで寒いというのに、ヴィルヘルムの傍はさらに−20度ほど下がる。普通の人間では、傍に寄ることすらできないのだ。
「なんで、逃げるヨ?」
理由が分からず首をかしげるヴィルヘルム。寒いのが苦手で家に帰りたかったのかもしれない。と、ポジティブに解釈して、また別の通行人に話しかけ、再び逃げられた。
そんな光景を見た廉は苦笑を浮かべつつ、活き活きとした姿を見る事が出来て喜ばしく思っていた。
突然の雪で困った人も大勢いるだろうが、少なくともヴィルヘルムは嬉しそうだ。そして廉も、悪くないと思っている。
「……そうなのですか。大変な目に遭われたのですね」
「んん? 慶司?」
慶司の声にそちらを向き、廉の顔に浮かべられた苦笑が深まる。メチェーリの情報を聞くために声をかけた女性から、人生相談を受けているらしいのだ。呆れながらも、まあなんとかするだろうと彼から目を外し、通りがかった中年の男性に話しかける。
「む、すまないがこういう女性を見なかっただろうか?」
「え? いや……知らないな」
「そうか。引き止めて悪かった」
そう簡単に見つからない。
「廉サン! あっち、寒イ」
「ん? あっちの方が寒そうってことか?」
必死に話を聞こうとしていたヴィルヘルムが廉にそう言って、ある方向を指差した。廉と慶司が指を追いかけると、雪が強く降っているのが見えた。
そしてその指先方向にいた新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は、
「あれ、いつの間に冬になったんだ?」
スーパーのタイムセールにやってきて雪騒動に巻き込まれた。もちろん冬服など着ていない。口もとに巻いたマフラーをしっかりと巻きなおす。
降り注ぐ雪を見上げながら、そう言えば前にもこんなことがあったなぁ、と懐かしがっていると
「……ったい、……に……ま……い?」
ブツブツと呪文を呟く白い女性がいた。以前見た着物とは違う、しっかりした防寒具を身に着けた女性は、メチェーリその人だった。
なんとなく気になった燕馬は、近寄って声をかける。……かけようと思ったのだが、
「グラート……グラート」
どうやら何かに意識を取られているメチェーリの周りには凄まじい冷気が渦巻いていた。近寄ろうにも近寄れない。
「おいメチェーリ! 落ち着け!」
「あれは」
そんな中、たった1人だけ。平然と傍にいる男がいた。必死にメチェーリへ話しかけているが、聞こえてはいないようだ。
◆
「うりゃー! 蒼空学園の皆のアイドル(自称)のラブちゃんよ〜♪
なんか夏だってのに雪降ってきたから、久しぶりにスケート用の衣装で参上!う〜ん、春夏秋冬全てに対応できるなんて……流石あたし!」
「ラブ。今回は人探しよ? というか、どこに話しかけてるの?」
「いーの、気分の問題なの!」
ラブ・リトル(らぶ・りとる)が元気よくどこか(画面の向こうの君)に向かって挨拶をすると、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)が冷静にツッコミをいれた。
それでも動じないのが、我らのラブちゃんだ。
「スミスミー。いや、きっといつものパターン(?)でそいつらが血なまぐさい事件に巻き込まれているんだぜー。そうに違いないぜー」
不安を煽るようなことを大声で言うのは、リアルなタコのかぶり物(?)を頭にかぶった男。いや。悪魔の忍者超人 オクトパスマン(にんじゃちょうじん・おくとぱすまん)。
冷静に分析しているようだが、
(でないと俺様が暴れられないからなー!)
彼の思いはそれに尽きる。
「うむ。雪を見る限りメチェーリたちは元気そうだが……マサラたちの言うとおり、姿が見えないのは気になるな。それにオクトパスマンの言うことにも一理ある」
オクトパスマンに同意するのは白く輝くボディの持ち主、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)だ。鈿女がその後ろで額を押さえてため息をつく。
「怪しい男につけられていたり、グラートを浚われて脅されていたり、事件に巻き込まれていたりしては危ないからな」
「おうよ! 極悪人の犯人を見つけて有無を言わさず地獄に送ってやろうぜー!」
「ちょっと、オクトパスマンにハーティオン。
無駄に事件を想像で大きく膨らますのは、ややこしい事になるから止めなさいよ?」
「む。分かっているぞ」
「……はぁ。とにかく。まずは聞き込みから始めるわよ」
ハーティオンの発言に不安を抱きつつも、鈿女の指示により全員通行人に聞き込みを始めた。
「鈿女ー、その探してるメチェーリって人の特徴ちょうだい。あたしはちょっと上から探してみるから〜」
「分かったわ。お願いね」
そしてしばらくばらけて情報を集めていたが、ラブが冷気の渦巻く場所を発見した。グラートはすでに保護されている。となれば
「メチェーリか! 皆、行くぞ!」
「おうよ」
走り出すハーティオン。楽しげに追いかけるオクトパスマン。顔を見合わせたラブと鈿女が、慌ててその後を追う。
ごおごおと吹き荒れる冷たい風が強くなっていく。その中心には、白を纏う女性と、男が1人。
「そこの男、止まれ! 我々はメチェーリの友人の者達だ! 彼女に乱暴狼藉は許さん!」
「おちつ……は?」
「てめぇか悪ものは! やってやるぜー」
「え、ちょ」
メチェーリへ必死に声をかけていた男が、ぽかんとハーティオンたちを見る。ハーティオンとオクトパスマンは、渦巻く冷気もなんのその。一気に男と距離を詰め。
男を殴り飛ばした。
「……へ?」
「大丈夫か、メチェーリ?」
目がうつろだったメチェーリが、驚きから我に返った。ぱちぱちと瞬きをしている。しかしオクトパスマンが男に殴りかかろうとしているのを見て、慌てて間に割って入る。
「ま、待ってください。この人は……」
「そうそう。ちょっと落ち着こうぜ。その人はメチェーリに危害なんて加えてないし」
燕馬が庇うようにたち、言った。振り返ってメチェーリに言葉の続きを促す。
「夫なんです」
「む? おっと? ……夫、そ、それは失礼をした」
「ちっ」
ハーティオンが巨体を縮めて謝る後ろで、オクトパスマンが暴れられなかったことに舌打ちした。
「ふぅ。とりあえずなんとかなったみたいだな。……で、これは何事?」
燕馬が息を吐きながら近寄り、たずねる。
「それが……この人と偶然出会いまして、話している隙にグラートが……グラートがどこかへ……うっグラ」
「だからとりあえず落ち着けっての」
再び暴走しそうになったメチェーリの頭を軽く叩いた男。スニ・エークは、改めてこちらに向き直る。
「あなたたちが以前メチェーリたちがお世話になった人たちかな。グラートを見かけませんでしたか?」
「グラートなら海たちと遊んでいるはずだ。心配ない」
「だってさ。良かったな」
安どからへたり込んでしまったメチェーリを見つつ、他のメチェーリ捜索隊に発見の知らせを送った。
* * * * *
「あなたがメチェーリさん?」
「はい。このたびはまたご迷惑を」
「無事なら良かったわ」
駆け付けた雅羅が息を吐きだす。それから隣の男に目を向けた。
「はじめまして、ですな。私はスニ・エーク。メチェーリの夫でグラートの父親です……とはいっても、一緒には暮らしていないのですが」
エークは雪女と人間の血をひくハーフで、普段は普通の人間として暮らしている。というのもメチェーリたち一族のおきてで、人との交わりは禁じられているからだ。もしもこのことがばれればメチェーリとグラートは一族から……すみかの雪山から追放される。エークもすでに追放された身。しかしメチェーリたちは暑さには苦手であり、雪山以外で暮らすことは困難。
「だけど見つけたんだ。親子で過ごせる村を。年中雪が降る所で、人口は少ないがグラートと同じ年頃の子供もいる。学校もある。
俺も半分血はひいているから寒さには強いしここなら……」
問題は連絡手段だったが、蒼空学園で季節外れの雪が降った事件の話を聞き、もしかしたらここにいれば会えるかもしれない。そう思ったエークは、一縷の望みをかけてこの街で暮らしていたらしい。
エークがメチェーリに向かって土下座した。
「お前から故郷と家族を奪うことになるのは重々承知の上で、頼む。
どうか俺と一緒に……そこで暮らしてくれないか?」
メチェーリが口を開く。
「あ! お母さん!」
「っグラート!」
「……グラート?」
そこへ海たちに連れられてやってきたグラートが、元気よく母の元へと駆け寄って抱きつく。
「もうっどこに行ってたのっ? 心配したんだから」
「ごめんなさい」
エークがそんなグラートを茫然と見ている。グラートが気付いて、首をかしげた。最後にあったのは赤子の時で、グラートは覚えていないのだ。
「グラート。この人はね、あなたのお父さんよ」
「お父さん?」
困惑しているグラートに、メチェーリは聞く。父親と暮らしたいかどうか。そして父親と暮らすには今の村を出なければならないことを。
グラートが発したのは
「……ばあばに会えなくなるのは嫌だけど、僕、お父さんとお母さんと暮らしたい」
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