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夏合宿 どろろん

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夏合宿 どろろん

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    ★    ★    ★
 
「そろそろ時間ですかね。いや、まだ早いかな。いいや、後が詰まっていることですし、遅くならないうちにどんどん行ってしまいましょう。じゃあ、最初のペア、出発してください」
 時計を確認しながら、ユーシス・サダルスウドくんが肝試し大会開始の合図を出しました。予想よりも参加者が多いようなので、少し前倒しの開催です。
「えっ、もう始まるんだもん」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)さんが、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)くんの手を取って走りだしました。
「でも、僕は救護班で……」
「いいから!」
 雪国ベアグッズのパチモンである雪山ベアのゾンビ着ぐるみを着た小鳥遊美羽さんが、お揃いの北国ベアのゾンビ着ぐるみを着たコハク・ソーロッドくんを引きずるようにして連れていきました。他のお化け役の人たちも、あわてて持ち場へむかって走りだします。
 一番のペアは、ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)くんとナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)さんの御夫婦ペアです。
「それじゃあ、行こうか。おっと、その前に……」
 そう言うと、ルース・マキャフリーくんが奥さんのナナ・マキャフリーさんのおでこにキスをしました。初っぱなから大胆です。近くには、未成年の学生たちがたくさんいるというのに……。微かに、「爆発しろ」と囁き声がしたような気もします。
「ありがと、もう怖い物なんてないです。じゃあ、これは、お返し……」
 そう言うと、ナナ・マキャフリーさんが、ルース・マキャフリーくんにキスをしました。もちろん、フレンチキッスです。だから、未成年の目があると言うのに……。
「あーっ、こほん。早く出発してください」
 やはりユーシス・サダルスウドくんから注意されてしまいました。あわてて、森へと走りだしていきます。
 ところが、森では、みんなまだ準備の真っ最中です。
「原因の分からない現象は少し怖いですれど、これならそんなに怖くはないですね」
「なあに、無粋な奴らが出て来たら蹴散らしてやるさ」
 仲良く手を繋いで歩きながら、二人はほとんどデート状態でした。しばらくデートもできない日々が続いていましたから、これはこれでありなのでしょう。
「でも、せっかく脅かそうとしてくれているんですから、少しは驚いてあげないとねっ」
 ルース・マキャフリーくんの肩に軽く頭をもたれかけさせながらナナ・マキャフリーさんが言いました。ちょっと、フローラルな香水が香ります。
 そのまま何ごともなく森を通りすぎ、海岸を抜け、洞窟に入ります。
「何かいますね」
 殺気看破でお化け役が潜んでいるのを感じとって、ナナ・マキャフリーさんがピトッとルース・マキャフリーくんにくっつきました。
「いるな。まあ、いるかあ、肝試しだからな」
「肝試しですものね」
 そのまま臆することなく、御夫婦が洞窟の中に入って行きました。
『キミタチ……コォンナ所デ、何シテルノカナァ?』
 突然、洞窟のどこからか声が響き、目の前にぬいぐるみさんが立ち塞がりました。等身大たいむちゃん人形です。マティエ・エニュール(まてぃえ・えにゅーる)さんが、曖浜 瑠樹(あいはま・りゅうき)くんから借りた物でした。
 最初はゆる族さんかと思いましたが、どうやら本当のぬいぐるみさんのようです。ひとりでに動いている、呪いのぬいぐるみのようでした。
「きゃあ、呪われたぬいぐるみよぉ」
 ナナ・マキャフリーさんが、わざとらしくルース・マキャフリーくんの後ろに隠れました。お約束は守らなければなりません。
「はっはっはっ、これは作り物だよ。怖くなんかないさあ」
 ちょっと、ルース・マキャフリーくんはわざとらしいです。
『アハハハハハハハ、リア充ナンテ!!』
 そう叫ぶと、ぬいぐるみさんが何かを投げつけてきました。ギリギリキャンディのようです。
 パラパラと飛んできたギリギリキャンディが御夫婦の足許で、かんしゃく玉のように破裂しました。
「貴様、何しやがる!」
 どこに隠し持っていたのか、素早くレーヴェンアウゲン・イェーガーを構えると、ルース・マキャフリーくんがぬいぐるみさんの脳天を撃ち抜きました。
「ひぃ〜!」
 サイコキネシスでぬいぐるみを操っていたマティエ・エニュールさんが小さな悲鳴をあげます。光学迷彩で隠れていますが、シーツお化けの格好で、出番をうかがっていたのです。とはいえ、今出ていって、ぬいぐるみさんの二の舞は嫌です。ぬいぐるみさんは、脳天から真綿をはみ出させて、凄みが増しています。
「ちょっと、やり過ぎよ」
 さすがに、ナナ・マキャフリーさんがルース・マキャフリーくんを諫めました。
『祠ハ、アッチデス』
 ぬいぐるみさんが、洞窟の奥の方を指さしました。
「御丁寧にどうも。さあ、行きましょう」
 そう言うと、ナナ・マキャフリーさんがルース・マキャフリーくんの背中を押して先に進みました。
「りゅーき……生きて……」
 二人が遠ざかっていくのにほっとしつつ、祠の所にいる曖浜瑠樹くんの心配をするマティエ・エニュールさんでした。
 祠の直前では、水死体の格好をした曖浜瑠樹くんがスタンバっていました。御夫婦を見つけると、作戦通りに光学迷彩で姿を隠したまま近づいていきます。そして、ナナ・マキャフリーさんの肩に手をかけて脅かそうとしましたが……。
はーい、邪魔、邪魔
 銃口を曖浜瑠樹くんの額に押し当ててルース・マキャフリーくんが言いました。殺気看破で、接近はバレバレだったのです。
「み、見たなあ。こんな姿、親父にも見せたことないのにぃ!」
 何やら、意味不明なことを叫びながら、曖浜瑠樹くんが逃げて行きました。
「さてと、あれが祠だな」
 邪魔者を排除したルース・マキャフリーくんが、洞窟の奥に小さな祠を見つけました。
「よくできていますねえ」
 ちょっと感心したように、ナナ・マキャフリーさんも祠を見ます。何やら、本当に古い祠のようで、ずっと昔からここにあった物のようにも見えます。学生さんたちの小道具さんが頑張ったのでしょうか。それにしては、本当におどろおどろしい雰囲気を纏っているような気もします。まあ、気のせいでしょうが。
「さあ、貝をおきましょう」
「おお、そうだったな」
 ナナ・マキャフリーさんに言われて、ルース・マキャフリーくんが白い大きな二枚貝をおきました。ナナ・マキャフリーさんのイメージに合わせたということらしいです。
「いつまでも、夫婦仲良くいられますように……」
 パンパンと手を叩いてお祈りします。
「さあ、後は早く帰って、二人だけでまったりしようぜ」
「もう、誰かに聞かれちゃいますよ」
 ほのぼのとしながら、二人はスタート地点へと戻っていきました。