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第4章 幽霊inエロ?

『そんなわけでエロを要求する!』
(うわあストレートだなこの幽霊!)
 自分の体に入った幽霊の主張に唖然とするまーけっと・でぃる(まーけっと・でぃる)
『18禁とは言わない。15禁、いや全年齢でも!』
(ぐ、具体的には……)
『パンチラを!』
 女子のスカートを覗こうとして階段から落ちて死んだという幽霊は、パンチラを切望していた。
 そしてでぃるは、冷血だった。
 パートナーの橘田 ひよの(きった・ひよの)を餌に差し出す。
(お前の隣にいる橘田な、アレ、好きにしていいぞ)
『な…… あれはお前のパートナーだろ。お前に人の心はないのか!』
(お前に言われたくないぞ……っていうか駄目か?)
『駄目どころか願ってもない! しかし、オレはパンツが見たいんだ。あれは浴衣だ。パンチラは難しいだろ』
(チラでいいのか? お前はそれでも男か!)
『何ぃ』
(今こそ男の夢! 帯を引っ張って「あ〜れ〜」と言わせてやれ!)
『お、お前の体でそんな事やってもいいのか…… 後でどうなっても知らないぞ!』

 自分の隣でそんなとんでもない会議が行われているとは露とも知らないひよのは、楽しそうに出店を回っていた。
「よし、でぃる、次は射的だ!」
 がばっ。
「ん?」
 背中で、何かを掴む気配。
 でぃるに取りついた幽霊が、ひよのの浴衣の帯を引っ張る!
「あ〜れ〜!」
 くるくるくる。
 突然のことにもノリノリで対応するひよの。
 回って、回って、ぱたり。
「急に何すんだ!」
 起き上がったひよののあられもない姿を見たでぃるの幽霊は……がくりと、肩を落とした。
「ん?」
「パンツじゃない……」
「ん、え、う、うわあ!」
 ひよのは、ノーパンだった!
「て、てめえ…… 許さねえ!」
 生まれたままの姿のひよのの飛び蹴りが、でぃるに決まる。
「こ、これはこれで……」
 でぃるの体から成仏する幽霊。
 そのままげしげしとでぃるを踏みつけるひよの。
 その為、彼女は気づかなかった。
 周囲の男性の視線に。
 彼女の脱げた浴衣が、風に飛ばされてしまっていることに。

 さあ、エロ入りまーす。

   ※※※

「ん? どうした公貴君」
「な……なんでも、なんでもない!」
 森下 信嘉(もりした・のぶよし)は、隣にいる三島 公貴(みしま・きみたか)の様子がおかしいことを、鋭く察知した。
「しかし……」
「なんでもないっつってんだろ!」
「ははは、そんなに顔を赤くして。まるで恋する女の子じゃないか」
「……っ」
 初めは笑っていた信嘉だが、すぐにパートナーの変調に気づく。
「君は……公貴じゃないね」
「……」
 最初はなかなか答えなかった幽霊だが、包み込むような信嘉の言葉に、態度に、次第に自分が幽霊だったこと、願いを叶えたいことを打ち明けていく。
「願い、ねえ。何をしたいんだい」
「……別に……」
 赤くなってそっぽを向く公貴を、信嘉は全てを見透かしたような瞳で見つめる。
「まあ、まだまだ祭りは始まったばかりだ。何か食べるか?」
「そ、そんなのいら……なっ、ん」
 公貴の口に、熱いものが放り込まれた。
 たこ焼きだった。
「ん……ッ熱ぅ……何すんだ!」
「いやあ、てっきりお祭りを楽しみたいんじゃないかと思ってね」
 怒る公貴をさらりと交わす。
「そ、そんなんじゃ……っ!」
「じゃあ、こういうのかな?」
 公貴の腰に、信嘉の手が回る。
「ひゃ! ち、ちが…… 違う……」
「違うの? 何でも、協力してあげるよ?」
 腰から、手が離れる。
「あ……」
「どうしたの?」
「は……離さ、ないで……」
「ああ」
 ぐい。
 公貴の腰が、引き寄せられる。
 しばらくのきつい抱擁の後、解放。
 それを寂しく思う間もなく、唇が塞がれた。
 そして……

「んぅ……うーん」
「やあ公貴君。気が付いたかい?」
 目が覚めた公貴は、木を背にして地面に座り込んでいた。
(ぼ、僕はたしか幽霊に取りつかれて、森下さんに声をかけられて……)
 それから先の、記憶がない。
 ただ、やたらと体が重い。
 泥の様に疲れ切っている。
(幽霊に、取りつかれたせいなのかな……)
 重い体に鞭打って立ち上がろうとしたら、信嘉が手を貸してくれた。
 その手は、いつもより優しい気がした。

   ※※※

「えっ、えぐえぐえぐぅ〜」
「ちょっとセレアナ? 一体どうしたっていうの!?」
 突然、キャラに似合わない泣き声をあげたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は困惑を隠せないでいた。
「うぇえええ〜」
「セレアナ、セレアナってば」
「え、えぇえ……んっ」
 セレンフィリティに抱き着いたセレアナの手が、明らかに意志を持ってセレンフィリティの色々な所をまさぐり出す。
「ちょ、やんっ、こ、こんな所じゃダメだって……じゃなくて!」
 どう考えてもおかしい。
 いつもならどこかおかしい行動は自分の役目。
 どうしたの? と心配したりたしなめる方こそセレアナの役目の筈だ。
 聞き出してみた所、彼女には幽霊が取り付いているという。
「で、その幽霊さんが何を未練に思っているワケ?」
 セレンフィリティの言葉に、幽霊の入ったセレアナは赤くなってもじもじし始める。
「その……は、初体験を……」
「へ?」
「お願い! 本当は男の人にお願いするつもりだったけど、女の人でも構わないわ! 私の……初めてを、貰ってくれない?」
 いきなりの唐突なお願いに茫然とするセレンフィリティ。
 しかし、彼女の答えは明瞭だった。
「本当に、あたしでいいの?」
 こくりと頷くセレアナ。
「わかったわ。セレアナの体だし…… 今から、あなたを愛してあげる」
 二人は人気のない所へ消える。
(セレン……? セレン!)
 自分の体の奥底で、セレアナが吠える。
 自分が今体験している事実を、見せつけられて。
 セレンフィリティが“彼女”にキスをする。
 優しく地面に横たえる。
 “彼女”が着ている白地に朝顔をあしらった浴衣がはだける。
(セレン、それは、私じゃないの!)
 セレンフィリティのピンク地の浴衣から、白い肌が見える。
(私以外の人と、セレンが……嫌ぁああああああ!)
 セレアナの声は、セレンフィリティには聞こえない。

   ※※※

「……はっ」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が気が付いた時には、祭りはピークを越えていた。
 出店は既にいくつかたたみ始めている所もある。
 人出も、だんだんと少なくなっていた。
「お、俺、は……」
「気が付きましたか?」
 傍らに付き添っていたエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が、馴れ馴れしい様子でエルデネストの前髪を払う。
「う、ええ、と……」
「主は、幽霊に取りつかれていたのだ」
 黙って微笑むエルデネストに代って、アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)が説明する。
「たった今、帰って行ったところである。……大丈夫、主には傷一つつけていない」
「そういえば……」
 グラキアスの短期記憶がゆっくりと戻り始める。
 祭りを楽しみにして来た途端、頭の中で泣き声が響いたかと思ったら……
 そして今、目の前の祭りはまもなく終わろうとしている。
(はぁ……)
 心の中で、小さく溜息をつく。
「主」
 その溜息を見抜いたのか、アウレウスがグラキエスに何かを差し出した。
「これは?」
「景品、なのだよ。幽霊がやりたがったので、射的などの手本を見せた際、入手しました」
 それは、ぬいぐるみだった。
 紫色の、小さなタコ。
 差し出したアウレウスとそのぬいぐるみのギャップに、思わずくすりと笑うグラキエス。
「何か?」
「いや……」
 笑うグラキエスの肩に、手が置かれた。
 エルデネストだった。
「元気になったようですので、支払いを請求させていただきましょう」
「支払い?」
「そうです。このように……」
「何を……っん……」
 唇が無理矢理塞がれた。
「エルデネスト! 何をする!」
 血相を変えるアウレウスにも構わず、エルデネストは続けようとする。
「あなたに憑いていた幽霊を成仏させるために、様々な協力をしたのですよ。この私が…… 見返りを頂いて、何がおかしいというのですか」
「何を言うか! おまえはただ成仏にかこつけて人前で主を翻弄しただけであろう!」
 取りつかれている間も、平常運転だったらしい。
「それでも、ほら…… 先日の海のように」
「……っ!」
 先日の、海。
 痒みを押える為とはいえ、エルデネストに好き放題弄ばれた記憶がグラキエスの脳裏に浮かぶ。
 同時に、体を支配する反応。
 体温が上昇し、汗が出て、そして。
 グラキエスの反応に満足したのか、エルデネストの手は躊躇なくグラキエスの服の下に潜っていく。
「……あ」
「それでは、いただきましょう」
 満足気に微笑むエルデネスト。
 ちなみに彼は幽霊には取りつかれていません。
 素、です。