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求ム、告ゲラレシ天命ノ被験者

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9月生まれ:神代 明日香(かみしろ・あすか)のケース


『占いは可能性の一つに過ぎないと思ってます。従えばいい事があるかもしれない、けれど無理をしてまで従ってみる気は全く無いです』


 イルミンスールの校長室で、明日香は、散らばった書類を日付順にきちんと並べ直して片付けていた。
 それが終わると、机に向かって書類とにらめっこするエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の前にお茶を出した。
「どうぞ、一息入れてくださいな、エリザベートちゃん」
「……ありがとうですぅ。はあぁ…」
 眉間に皺を寄せて、文字のびっしり並んだ紙面を睨んでいたエリザベートも、お茶の良い香りに顔を上げ、目の辺りに凝り固まっていた緊張をほぐす顔になる。
「お疲れですね」
「何で毎年、夏の休暇の終り辺りになるとこうも、新学期に向けて何かと面倒くさい案件が出てきやがるんですかねぇ」
 ぼやくエリザベートに、明日香は柔らかく微笑みかける。
「今、おやつを用意しますね。一休みしましょう」
「お願いしますぅ」

 占いによれば、9月生まれは体調が乱れやすい時らしい。
 けれど、明日香は規則正しい生活をしている自負がある。暑い日は続いているが、ひどくだれるようなことになるとも思えない。
 休みたい時に甘い物を食べるのがいいなら、おやつに甘いものを食べよう。甘辛いたれをかけたみたらし団子。
 買ってきておいたそれを皿に移し、明日香はエリザベートの元に戻る。
 身に付けたラッキーアイテムの『誕生日プレゼント』の小物――それをくれた大事な人の傍へ。

「エリザベートちゃん、帽子はかぶっていませんね」
 明日香の言葉に、団子を頬張っていたエリザベートはきょとんとした顔で彼女を見た。
「ぼうひ? なんふぇへすふわぁ(なんでですかぁ)?」
「いえ、別に大したことでは……あ、頬張ったまま喋っちゃだめですよ」
 12月生まれのエリザベートのラッキーアイテムが『帽子』だったのを思い出してつい口に出してしまったのだが、そのことを説明する前に、団子を咀嚼し飲み込んだエリザベートが、ぽんと手を打った。
「そういえばこないだ、生徒に帽子を貰いましたねぇ」
「貰ったんですか?」
「何でも、ハロウィーンに何かイベントを計画している同好会だとかぁ……大ババ様のみたいな帽子ですよぅ。わざわざ貰う必要があるかどうかですしぃ、第一気が早すぎですぅ」
「そうですね、ふふふ」
 そこからしばらく二人で、暑い夏が終わってからの行事や予定に思いを馳せ、話をした。
「……まぁ、先のことを話す前に、今の仕事を終わらせなきゃなんですけどねぇ」
 大儀そうにぼやくエリザベートの口元に付いたみたらしのたれを、明日香はハンカチで拭ってやった。
 重責を担う立場にある彼女にしかできない仕事は、幾ら案じても自分が肩代わりすることはできないけど。
「私も精一杯、出来ることをお手伝いいたしますから……もう少しだけ、頑張りましょうね?」
「……。明日香ぁ、手もべたべたしますぅ」
「はいはい。拭いてあげますから、手を出してください(うふふ)」
「はぁい(ずいっ)」


『エリザベートちゃんが好い反応してくれるならば運気が上昇しているに違いないので、占いは当たってると思います


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●委員Dによるチェック●
 イルミンスール、校長室……校長室……校長、室……?
 …………保育所……?     …ふふふ。