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求ム、告ゲラレシ天命ノ被験者

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求ム、告ゲラレシ天命ノ被験者

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3月生まれ:水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)のケース


『えーと……無理な条件多すぎじゃないの……』


 訓練を受けるためパートナーと教導団に来て、件の依頼の貼り紙を見たゆかりは、占いの文言に眉を顰めた。
 正直、占いなどは半信半疑だが、別に試してみるだけならタダだろうと、乗っかってみる気になったはいいが……

『水難の相あり』水辺を避けろと言われても……今日の訓練は水泳。無理。
『ラッキーアイテムはブロンズ像』……どうやって持ち歩けと?
 では、ラッキーパーソンは……というと、『水着姿の人』。
「そりゃプールに行けば、確実に水着の人がいるけど……」

 一体誰なのよ、とぼやくゆかりの隣で、6月生まれのマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)も、自分の占いを確認する。

『謝れずにいたこと』……今のところ、ない。
『ラッキーアイテムは家族写真』……家族?
 ゆかりと撮った写真ならあるが、これも家族写真と言っていいのかしら……と、パートナー同様、首をひねることに。
「まぁ、あんまり気にしていてもしょうがないわね。占いなんだもの。取り敢えず、訓練に出ましょうか」
 一つ息を吐いてそう言ったゆかりに、マリエッタは頷いた。そして二人は、掲示板の前を離れた。


 訓練とはいえ、暑い日に水に入れるのは嬉しいと思う人間も多いのか、教導団のプールには自主的に訓練を受けにきた者も含めて結構な数の生徒がいた。
 ――やっぱり、この中の誰が幸運の鍵かなんて、分からないわよ。
 見回しながらゆかりは心の中でこっそり溜息をついた。だが、それをあまりいつまでも考えるのはやめよう、と気を引き締めもした。これから訓練を受けるのだから。
 決められたメニューをこなし、ぐんぐん泳ぐうちに、雑念は自然と忘れられていった。
 が。ラストスパートのひと泳ぎ、の最中に。
(!!)
 ――足が攣った。プールの真ん中で。


「カーリー!」
 声が聞こえて、目を開けると、心配そうに覗き込んでいるマリエッタの顔が見えた。それから、取り囲んでいる水着姿の人たち。その顔が一斉に、ホッとしたものに変わる。
「大丈夫!?」
「あ……ええと」
「あなた溺れたのよ? 覚えてる?」
 訓練を指導していた教官の話で、足が攣ったことを思い出した。そのまま泳げなくなって、プールの底に沈んでしまったのを、異変にいち早く気付いたマリエッタがすぐさまプールサイドに引き上げ、蘇生措置を施してくれたので意識を取り戻したのだという。
「そう……だったの。あぁ……ごめんなさい、迷惑かけて。……マリーも、心配させて悪かったわね、ありがとう……」
 助けてくれて、と言って見上げると、何故かマリエッタは妙に赤い顔で、歯切れ悪くうん、と頷いていた。

 その後ゆかりは医務室にいって診てもらうことになった。その間ずっと、付き添いながら、マリエッタは黙りがちだった。
 ――溺れているのを見つけて、それから習った通りに人口呼吸を施して、ゆかりが目を覚ますまでは無我夢中だったから、ほとんど意識はしていなかったけど。
(人口呼吸……もしかして、キス、しちゃった……?)
 もちろん、ゆかりに何かあったらそれどころではなかったが――安堵してみると、無我夢中の内に触れ合った唇を思い出してしまって、頬から熱が冷めない。脳内でよからぬ妄想が走り出す。
 もしかして、これは自分にとっての「ラッキー」?
 指を唇に当てて悶々と考える。


「はあ……」
 水難が実現してしまった……パートナーを始め、あの場にいた沢山の人に心配もかけてしまった。医務室で手当てを受け、しかし大事には至らなかったため、ゆかりは更衣室に戻って着替えた。
 着替えながら、今日のツキのなさに少ししょげていた。夕方の更衣室の薄暗さが、湿ったテンションに拍車をかける。
 荷物を纏めていたら、スマホの着信に気付いた。メールを開いてみると。

『おめでとうございます!! 貴方に御食事券が当たりました!!』

 以前応募した高級レストランの食事券の当選通知メールであった。
「……」
 薄暗い更衣室の空気の中、メールのデコレーションの光が場違いに眩しい。


プラマイゼロな結果? ……ちょっと複雑な気分。』
(あたしは幸運と言えば幸運? 当たってたかも!


**************

●委員Aによるチェック●
 水難事故は危ない! 大事に至らなくてよかったね〜。
 しかし、人口呼吸で胸キュンは……青春やね……いいわぁ……       って、ハッ。いやいやえーと。