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桜封比翼・ツバサとジュナ 第三話~これが私の絆~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第三話~これが私の絆~

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■女トレジャーハンターとの再邂
 ――先行したオリュンポス一味の後を追う形で祠の中へと突入した翼たち一行。その最終地点は、天を仰ぎ見れるほど大きく開かれた最奥……儀式の間と呼ばれる広場。
 そこに待っていたのは、間もなく儀式を終わらさんとするカルベラと、そのカルベラを守り時間稼ぎをしようとするハデスたちオリュンポスとヒロユキの姿だった。
「フハハハハ、待っていたぞ! さぁ第二ラウンドといこうか! ヘスティア、アルテミス!」
「すまないけど、カルベラの目的のためだ。しばらく俺たちが相手になってやる」
 ……が、その二組の守護を無視するかのようにして、儀式を執り行っていたはずのカルベラが契約者たちの前に姿を見せた。
「お、おいカルベラ……!」
「――後は放置しておくだけでいい。ヒロユキ、それとオリュンポスの大幹部さんとやら。ここが時間稼ぎの踏ん張りどころだよ」
 どうやら、儀式は最終段階まで来ているらしい。カルベラは血跡のあるクナイに触れさせたままの“鍵の欠片”を守るべく、別のクナイを手にして、契約者たちと対峙し――戦いの火ぶたは切って落とされる。
 カルベラ捕縛組の邪魔をさせるわけにはいかないと、翼や樹菜、そして翼たちを護衛する契約者たちはオリュンポス一味とヒロユキの抑え込みに入ったようだ。だがカルベラはそれを意識することなく、一足で捕縛組へ駆け始める!
「カルベラさんは操られてるだけ……だからこそ、なるべく傷つけずに捕まえなきゃ!」
「とはいえ、骨が折れそうだがな。邪魔者がいる以上、そっちの相手もしなきゃならない」
 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)は立ちふさがるカルベラをどうにか捕まえ、種子の支配から解き放させるべく、さっそく行動を開始。羽純が『ヒプノシス』を使ってカルベラを催眠状態にしようとするがやはり効果なし。そのまま、『龍鱗化』で守りを固めている歌菜が、『武術』を駆使した手刀を首筋に撃ちこもうするものの、カルベラは『疾風迅雷』と『分身の術』による回避重視の動きで手刀を避けていった。
「うおおおおお!!」
 『ゴッドスピード』で加速した大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が、《翼の靴》で飛びながらカルベラに追随する。その脇にはペット形態となっている匿名 某(とくな・なにがし)の《フェニックスアヴァターラ・ブレイド》が並走しており、某本人は『ホークアイ』でカルベラの動きを追い、『真空波』を使ってカルベラの行動範囲を限定させていく。
(迎撃のほうは――他の仲間が抑え込んでくれているようだから大丈夫だな。カルベラ確保に――集中する!)
 もしカルベラ確保を邪魔しようとする者がこちらへ攻撃を仕掛けるようならば、《フェニックスアヴァターラ・ブレイド》による奇襲と攪乱からの『真空波』『ライトニングブラスト』をお見舞いさせようと考えていたようだが、どうやらその心配はしなくてもいいらしい。そのため、某は近くで周囲への行動支持をおこなっているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と共に、カルベラ確保に向けた布石を打ち続けることが可能となった。
「康之、そっちだ!」
「おう!」
 カルベラの移動範囲をうまくコントロールし、前衛を任せてある康之へ指示を送る。そして、狼形態となっている康之の《ウルフアヴァターラ・ソード》とでカルベラを挟み撃ちに追い込んでいく!
「甘いっ!」
 しかしカルベラはその挟撃を方向転換という形で回避。まるで空気を蹴って移動するかのような素早い動きは、ニンジャとして完成されたものとなっている。
「甘いのは――そっちだ! ルカルカさん!!」
「任せて! はあああああっ!!!」
 だが康之もそれは承知済み。カルベラの回避方向へ《マキシマムアーム》を巨大化させたある種の壁を作って、猫だましの要領による挟み込みで逃げ道をふさぎ、さらにそこへカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)から受けた『ゴッドスピード』、自らの持つ《ゾディアックエンブレム》『疾風迅雷』で加速力を上げたルカルカが《戒魂刀【迦楼羅】》による『魔障覆滅』を繰り出していく!
「カルベラ! あなたは操られてるの、気づいて!」
「操られている? この私が? ハッ、冗談は大概にしなさい!」
 《忍法・呪い影》による残像を交えての『魔障覆滅』に対し、カルベラはクナイによる受け流しや『分身の術』、そして剣戟での弾き返しで直撃を避けている。しかし、それはあくまでも直撃を避けているだけ。少しずつながらカルベラに『魔障覆滅』は効いているようだ。
 だがカルベラも忍びの心得を持つ身として負けてはいられない。負けじと『魔障覆滅』でルカルカに斬りこんで反撃するも、こちらもまた『分身の術』で直撃を避けていく。高速同士の剣戟音が鳴り響く中、カルベラは一度ルカルカと距離を取っていった。
「――『天の炎』を壁として立てて、回避範囲を狭くするとは……考えたわね」
 “鍵の欠片”を奪われないよう、常にその周囲を陣取るカルベラ。そこで見たのはカルキノスが『天の炎』を用いてカルベラの回避範囲を狭めていく作戦。先ほどの某のと似た使い方ではあるが、踏み込めない壁は回避には邪魔なため効果はてきめんのようだ。
「私も忍びの端くれ――負けるわけにはまいりません!」
 カルキノスが放つ召喚獣の攻撃を避けるべく、次の場所へ回避しようとしたその瞬間――死角から飛んでくるフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の《鉤爪・光牙》。僅かに反応が遅れながらもクナイでそれを弾き返すと、カルベラはすぐにフレンディスのほうへ攻撃を仕掛ける。
「今の一撃、捕縛狙いと見た! だけど、私はそんな程度じゃ捕まらないわよ!」
 『超感覚』『歴戦の立ち回り』ですばしっこく動きながら、カルベラの注意を引きつけるフレンディス。その気迫には、温泉旅館での失態を挽回せねばというただならぬものがあった。
(翼さんには新作クレープを作ってもらう約束をした手前……必ずや、カルベラさんの悪しきモノを祓わねば!)
 フレンディスはパートナーであるベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の意思を信じ、ベルクの救出行動の援護に徹する。そして、ベルクもまた『行動予測』でカルベラの回避先を読み、『エナジードレイン』でその動きを封じようとする、が……。
「――遅い!」
 ベルクの気配に気づいたのか、カルベラは『エナジードレイン』の範囲外へ素早く避難。いくら気を引いていても、気づかれてしまっては動きを封じることもままならない。
「ちっ、思った以上にすばしっこいな……だが、確実に追い込めてきているのも確かなこと! そっちにいった、対処頼む!」
「ああ、任せろ! ――多少、手荒な真似になるが!」
 カルベラが避難した先には、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)と由乃羽が待ち構えていた。ただし、由乃羽は『神降ろし』によって限界まで力を高めているため、全く動けずにいるのだが。
 相手は追い切れないスピードを保っているとはいえ、『行動予測』による先見は十分に通用する。佑也はすぐに予測先へ意識を向けると、『カタクリズム』による広範囲攻撃でカルベラの動きを抑制していく。
 だが当然、カルベラはその攻撃を避けるべく攻撃範囲の穴となっている場所へ回避行動をとる。……が、それは佑也が仕掛けたトラップであった。
「楓っ!」
「ナイスタイミングです、旦那っ! そぉれ!」
 カルベラが着地したその時、『隠形の術』で身を隠しつつ《宮廷用飛行翼》で空を飛んで上空待機していた楓が姿を現し、すかさず『しびれ粉』と――由乃羽から事前に預かっていた『式神』をカルベラめがけて飛ばしていく!
「なっ!?」
 周りの猛攻に気を取られて上空の隠形者に気付けなかったカルベラは思わず苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、緊急回避行動を取ろうとするが……すでに周囲を某とカルキロスそれぞれが放つ『真空波』『天の炎』によって囲われ、ルカルカが《双錐の衣》を使ってカルベラの退路を断たれてしまっている。成す術なく、《天狗のうちわ》によって起こした風に乗った『しびれ粉』と『式神』をその身に受ける。
 完成された大きな隙。この隙を逃すことは一切せず、契約者たちはカルベラの動きを止めようと一斉に仕掛けていく!
 ベルクの『エナジードレイン』から始まり、ルカルカが『疾風怒濤』で更なる加速力を加えた状態でカルベラの懐へ一気に飛び込むと、『神降ろし』『ドラゴンアーツ』による能力強化からなる人外クラスの背負い投げを決める。そして――!
「――これでっ!」
 『神降ろし』で限界まで力を高め、さらに《破邪滅殺の札》を使って魔力を高めた由乃羽が、カルベラへ渾身の『バニッシュ』を撃ちこむ! 神聖な力で種子の支配を少しでも断つことができれば、という思いの中『バニッシュ』はカルベラへヒットし、その勢いのままルカルカがカルベラに対してマウントポジションを取ると、《戒魂刀》の柄で当て身を繰り出していった。
「うっ……くぅ……」
 短い呻きをあげ、カルベラは保っていた意識を失う。……暴れ回る様子はない。どうやら、大捕り物は無事に契約者側たちの勝利で終わったようだった。

 カルベラの気絶を確認すると、ルカルカは祭壇の中央に置かれた“鍵の欠片”を回収し、翼たちの元へ行く。翼たちのほうも無事にオリュンポス一味とヒロユキを捕まえることができたようであった。
「――俺の出番はここまでみたいだ。あとは任せた」
 自身の考えを引き継いでくれることを願い、潔くお縄に付くヒロユキ。その一方で、ハデスは悔しそうに地団太を踏んでいた。
「くそ、またしても我らの野望を阻止されるとは……!」
「はいはい、話は教導団のほうで聞くから。カルキ、そっちのほうはお願いね。――樹菜、“鍵の欠片”無事に取り戻せたわ」
「おう、任せておけ」
 ハデスたちの見張りをカルキロスに任せると、ルカルカは樹菜へ“鍵の欠片”を無事に取り戻したことを報告する。報告を受けた樹菜の表情は、使命を帯びて引き締まっているようにも見える。
「ありがとうございます。……翼、ペンダントを少しの間お借りしますね」
「うん、樹菜……無理をしないでね」
 “鍵の欠片”である《翼のペンダント》《宝飾された飾り剣》《欠片が施された指輪》の三つを受け取った樹菜は、儀式の祭壇へと向かう。まずは少しでも自然に封印が解けるのを阻止するべく、状態固定をしなければならなかった。
 樹菜が状態固定の儀を執り行う間、気絶したカルベラに埋め込まれた魔吸桜の種子を抜き取ろうと作業が行われていた。カルベラはあくまでも操られていただけ。その元凶を取り除き、カルベラを救おうという契約者たちの思いによるものだ。
「――さすが私ね。他の人たちの攻撃や私の『バニッシュ』のおかげで魔吸桜からの魔力供給は完全に分断してるみたい。となれば……私の出番も終わり、早く帰ってお風呂入って寝たいわ……」
 とても面倒くさそうにしながらも、カルベラの状態を確認した由乃羽。『バニッシュ』の神聖な力で魔吸桜の邪悪な魔力を一時的に吹き飛ばすことに成功したようで、魔吸桜本体と種子とのリンクを一時的に切断できたようだ。
 だが予断は許されない。いつ魔力供給が復活し、種子による支配が始まるかわからないため、可及的速やかに種子を取り除かなければならなかった。
「……脳にかなり近い位置に小さな種子があるみたいだ。これ、取り除くのは難しいんじゃないか?」
「光条兵器でどうにかできそうだと思うんだけど、どうだろう?」
「おそらくは無理だ。対象が小さいのなら細かい作業になってしまうから、光条兵器では摘出作業には向いていないだろう。それに今回は頭部付近。脳に影響が出るかもしれない」
 『イヴィルアイ』によって、今のカルベラの弱点ともいえる種子の位置を確認したベルク。どうやら頭部の付近に埋め込まれており、取り除くのも一苦労しそうである。光条兵器による摘出を進言するエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)だったが、ダリルが首を横に振って光条兵器では摘出は不可能なことを告げていった。
「そうか……なら、俺たちは摘出後の作業に全力を尽くさせてもらうよ」
「ああ、頼む」
「それじゃあ始めよう――行動あるのみだ」
 最良の結末を目指すためにも、羽純は行動する。『ヒプノシス』で気絶しているカルベラを深い眠りへ誘わせた後、自らの『医学』知識を用いて、医師としての心得を持つダリルと共に種子の摘出を開始。ベルクも『治療』の技術で手伝い、脳を傷つけないようにしながら慎重に種子を取り除いていった。
 摘出後はダリルが急ぎ『ナーシング』『命のうねり』で応急処置を行い、カルベラの意識の回復を待つこととなった。その間にも、樹菜は三つの欠片に意識を集中させ、封印の自然開封を抑えるために頑張っている。
 ――そして、種子を取り除いた契約者たちはすぐに行動を次の段階へと移していくのであった。