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桜封比翼・ツバサとジュナ 第三話~これが私の絆~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第三話~これが私の絆~

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■絶望の呪いに安らぎを
 ――その姿は、以前と変わらぬ……いや、以前以上に大きく美麗に咲き誇り、見る者の目を奪っていく。魔吸桜と呼ばれているその桜の大樹は封印されていた中でも成長をしていたのか、艶やかな満開桜を惜しげもなく見せつけていた。
 と同時に。契約者たちは急激に力を吸い取られる感覚に襲われ、思わず膝をつく者も出た。封印が解けたことにより、魔吸桜にかけられた絶望せし魔女の呪いが本来の力を取り戻し、周囲の生命力と魔力を無尽蔵に吸収し始めたのだ。
「こ、これはちょっとさすがにきついかも……」
 思わず翼も弱気を見せてしまう。しかし、樹菜を護衛するという役割を果たさなければならない以上、弱腰になるわけにはいかない。
「皆さん、浄化のほうをお願いします! 皆さんが力尽きる前に……早く!」
 樹菜はもし浄化が失敗した時に備え、すぐに再封印できるよう待機している。完全に無防備な状態のまま、樹菜はすぐ目の前にある魔吸桜の幹をじっと見つめ、呪いを浄化するよう浄化組の契約者たちを促していく。
 しかし当然のことながら、魔吸桜――否、絶望の魔女の怨念がそれを許すことをしない。大樹に宿る呪いが、すぐさま樹菜たちの周囲に桜の精を多数召喚していく。魔吸桜が復活したことにより、桜の精の能力も強化されているのが、雰囲気からしてわかるほどだ。
「浄化の邪魔はさせない――行くぞ!」
 すぐに襲いかかってくる強化桜の精。それを阻むべく、『神降ろし』によって魔吸桜の影響を少しでも和らげようとする樹月 刀真(きづき・とうま)が切りこみにかかる。『百戦錬磨』の経験を活かし、桜の精たちの動きを見切っていくと、敵の間合いとタイミングをずらしつつ《平家の籠手》と『ウェポンマスタリー』で扱う左手の《白の剣》、そして右手の《ワイヤークロー【剛神力】》を振るって、カウンター気味の『神代三剣』を次々と叩き込む!
 刀真の後ろのほうでは月夜が『護国の聖域』で抵抗力を高めながら、《破邪滅殺の札》で魔力強化した『浄化の札』を撃ちこみ、呪いを断ち切るべく奮闘している。
「これだけの量……もはや『禁猟区』などで警戒するどころじゃありませんね」
 《白虎》と共に戦場を駆け、刀真と同じく浄化の邪魔をさせまいと《鯨髭のヴァイオリン》を奏で桜の精たちを凍らせていく封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)。ヴァイオリンを奏でている間は無防備となってしまうが、『風の鎧』と《白虎》による二重の防衛線を張って対処する。
 白花の言うように、すでに周囲は戦意を剥き出しにした桜の精たちが絶えず襲ってきているため、『禁猟区』や『野生の勘』による警戒はほぼ必要なくなってしまっている。白花は少しでもそれらに対抗し、魔吸桜の影響を抑えようと『幸せの歌』『大地の祝福』で刀真や他の仲間たちを援護していく。
「マスターは……絶対に守る!」
 ゼクスもまた、刀真や白花と一緒に桜の精の猛攻をしのぎ、月夜への被害を出さないために守護を務める。《紋章の盾》を構え、ツタの攻撃を『スウェー』で受け流していきながら《カルスノウト》を振るって放つ『爆炎波』で桜の精を斬り伏せ続ける。一切の攻撃を浄化班へ食らわせないようにしつつ、魔吸桜の近くで浄化作業をおこなっている月夜の魔力の残存が少なくなりそうな雰囲気を掴めば『SPリチャージ』で魔力補填をするのも忘れない。
 ――刀真たち一行が護衛の一角を担っているのに合わせ、反対側の防衛網では相沢 洋(あいざわ・ひろし)率いる相沢小隊が、迫りくる桜の精たちに徹底抗戦を仕掛けていた。
「今回の作戦は樹菜、及び浄化作業中の契約者たちの護衛だ! みと、上空より火力支援攻撃! エリスはミサイルでの空爆! 洋考、自慢の『防衛計画』で時間稼ぎの策略を練ってみせよ! ――ここが正念場だ、作戦開始!!」
 拠点防衛という作戦の元、洋は接近戦を見据え……桜の精たちへ対して牽制となる『ファイアストーム』を放ち、前面に群れる敵勢力を押し返しだす。その間にも、相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)は『防衛計画』にて小隊のメンバーへ計画にて組み上げた防御陣形の指示を送る。
「はいはーい、急いで防御陣形を発表するよー。じーちゃんは樹菜ねーちゃんのそばで砲台、ばーちゃんはじーちゃんの指示通りに空中からの爆撃、エリスはじーちゃんの支援をしながら、敵を樹菜ねーちゃんに近づけさせないこと。こっちは上空から索敵してくるねー」
 軽快な口調で手早く『防衛計画』指示を送ると、《小型飛空艇アルバトロス》を起動させて上空へと飛び立つ。……ちょうどそれと同時に、洋が前進してくる桜の精へ攻撃を仕掛けようとしていた。
「みと、火力支援要請! 洋考がすぐ送ってくるであろう指定されたポイントへ火力をぶち込め! 私も――撃ちこむ!」
「――ばーちゃん、敵前衛集団A1接近。数は多数、これに思い切って砲撃して。先にその群れに砲撃すれば、味方を巻き込まずに済むから。じーちゃんは別方向からくる群れB2に対して弾幕射撃を。こっちからも支援するよー。エリスは可能な限り樹菜ねーちゃんから離れないでミサイルをC6地点に撃っちゃって。大きな穴ができてるから、そこに増援戦力が来ると思う」
 上空からの索敵による攻撃ポイントの指定。それを受けて、乃木坂 みと(のぎさか・みと)は妖艶な瞳の視線をポイントへ向けると――『ブリザード』を中心に、『ファイアストーム』も織り交ぜた魔術砲撃を桜の精の群れへ放っていった! それに合わせ、洋もブレイブでありながらも光条兵器である携行型ガトリング砲を構え、指定された場所へ無差別の広域弾幕射撃を撃ち、群れの進攻を阻んでいく。
「空対地火力支援要請、了解です。敵目標エリア設定、砲撃開始します。――ふふ、いいですねぇ……爆炎と凍結のコラボ。今宵の夜伽のご褒美としていただくためにも、邪魔な皆様には苦しみを与えましょうか」
「例え適正に差はあれど、ガンナーにはガンナーの戦い方がある! 固定砲座、迎撃開始――ミニガン発射!」
 氷炎の魔術と弾丸の雨あられが桜の精を襲い、確実なダメージとしていく。その弾幕の最中、エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)も指示に合わせて、指定ポイントへ《小型飛空艇ヴォルケーノ》に搭載されたミサイルポッドを乱射する。
「これだけの数――ミサイルではなく燃料気化弾頭でお相手したかったですが、大型すぎる上に非人道兵器ですから入手すら不可能。素直にミサイルを撃ちましょう、以上」
 やたら物騒なことを呟きながら、ミサイルの雨を上空からばら撒いていく。そしてそのミサイルたちは見事に増援として召喚されつつあった桜の精の群れへ打撃を与えることに成功していった。
「敵集団への直撃を確認。……少しは勉強できたようですね。曲がりなりにも技術官僚は伊達ではないですか? 以上」
 と、予測を当てた洋考を褒めるように呟くと、さらにそのままミサイルを撃ち続けて火力支援に移る。
「作戦はとにかく時間稼ぎだ! 浄化が終わるまで、守れるものは守らねばならん!」
 相沢小隊は作戦完了まで、攻撃的防御第一にて徹底抗戦せよ。それこそが、洋たちの唯一にして絶対の作戦指令なのであった。

 ――樹菜たちや浄化担当が作業している中央部でも、大きな混戦状態となっていた。というのも、魔女の呪いが魔吸桜本体の枝を操り、次々と樹菜たちへけしかけてきていたからだ。
「まったく……キリがないわね! 唯斗、そっちは任せたからね!」
 襲いくる魔吸桜の枝をカルベラはクナイで払いながら、対極位置にいる同じ忍びの者である紫月 唯斗(しづき・ゆいと)に激を入れる。唯斗自身も、先輩として後輩を守らなくてはならない思いから、自身の体術や技を駆使して魔吸桜の枝を次々払いのける。
 また、守らなくてはならないものがもう一つあり……それが、浄化担当として魔吸桜の呪いを祓おうと《星と翼の杖》《タロウ・カード》で力を増した『清浄化』を使うエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)だった。唯斗はカルベラの動きに感心を覚えながらも、守るべき者のために肢体からなる技を繰り出していく。
 そして唯斗たちの近くでは夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)の四人が樹菜や浄化担当契約者を守るべく奮闘を続けていた。
「やれるだけのことはやる……とにかく浄化作業を邪魔させるようなことだけはさせん!」
 『歴戦の立ち回り』で魔吸桜の枝の機動を読み、紙一重で避けながら攻撃を加える甚五郎。その動きに合わせてホリイが《流体金属槍》で枝を薙ぎ払ったり、《タイムウォーカー》による一時的な時間操作を使っての防御行動で、広範囲に渡る枝の乱撃を阻止していく。
「当機ブリジットは、自爆をせずに『弾幕援護』による支援行動を行います」
 ブリジットは後方から《六連ミサイルポッド》や《マスケット・オブ・テンペスト》を使った『弾幕援護』をおこなったり、浄化担当として『剣の結界』で自らを守りながら『浄化の札』で呪いの浄化を進めている草薙や他の浄化担当への《SPリチャージ》支援をしているようだ。
 草薙と共に浄化を進めている狐樹廊も『破邪滅殺の札』を用いての浄化を執りおこなっている。相手が相手だけあり、多少力ずくでも浄化を進めていっているようだ。リカインもディーヴァとしての役割を果たすべく、『激励』や『震える魂』で皆への支援を徹底していく。
 契約者それぞれがうまく連携を取っている……そんな中でも、ピンチというものは急に訪れる。
「っ!? 樹菜、危ない!!」
 速い勢いで樹菜へと襲いかかる複数の魔障の枝。それに気づいた翼は、美羽からもらった《アルティマレガース》の飛行能力をフルに使って、枝と樹菜の間へ一気に割り込んでいく!
「やああああああっ!!!」
 そしてそのまま、超高速で襲いかかる魔障の枝を勢いよく蹴り飛ばしていった! 蹴り飛ばされた枝は真っ二つに折れ、上空へ吹き飛ばされるが――魔女の呪いによって意思を持ったそれは、まだ樹菜を狙おうとする。
「ナイス翼っ! 燃えろぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
 が、そこへ『バーストダッシュ』で空を駆け抜け、《盛夏の骨気》によって炎の闘気を纏った飛び蹴りで、翼が蹴り飛ばした魔障の枝を燃やし尽くす。残りの魔障の枝もコハクが《蒼炎槍》による炎で焼き払っていったようだ。
「樹菜、大丈夫!?」
「はい、ありがとうございます!」
 樹菜の無事を確認した翼は、すぐに美羽と共に樹菜の元へ戻る。そしてすぐに護衛のポジションを組み直し、次の攻撃に備えていく。
「まだまだ気は抜けないかな……魔吸桜から樹菜を守るよ、翼!」
「うん、もちろん!」
 気合を入れ直す翼。その近くには同じ志で樹菜を守ろうとするシリウスたちやルーシェリアが控えており、さらに歌菜が『幸せの歌』を歌って、翼たちを支援していっている。
 それに加え、和輝が放つ『放電実験』を起点として、和輝の後ろに隠れているアニスが『稲妻の札』を、ちゃっかり樹菜の隣をキープして色々とチャンスをうかがっている久秀が『対電フィールド』を、そして久秀が樹菜に手を出さないよう監視を怠らないダンタリオンの書が『禁じられた言葉』で強化された『サンダーブラスト』をそれぞれ放って、電撃の結界を作り上げていた。これならば能力が減衰しているとはいえ、魔障の枝も易々とは襲えなくなるだろう、という算段だ。
 仲間が、戦友が、友達が一つの目的のために信念を貫き通す。その想いが通じていたのだろうか、戦況に変化が訪れてきていた。
「……リオン、気づいてる? どうやら戦局も締めのようね。これでやっと樹菜たちを私の玩具に――」
「ああ、少しずつではあるが力の抜け具合がやわらいできている。もうそろそろか……あと、手はあまり出すなと言ったはずだぞ?」
 他の契約者たちにも気づいている者もいるだろう。重ねて行われている浄化の効果が出てきているのか、魔吸桜にかかった呪いの力が少しずつ無くなりかけていた。もう少しで浄化が完了する……そして、その大役に(知らぬ間に)立ったのは……。
「ボクも気合いれて、いっしょうけんめい頑張りますよ〜!」
 《エリート巫女服》を身に纏ったヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だった。皆の気合十分な様子に感化され、人一倍の気合の入れようを見せる。『神楽舞』を踊って雰囲気的に気分を高めていくと、『呪い返し』によって魔女の呪いへの対抗策を練り込みながら――『浄化の札』で魔吸桜にかけられた呪いを……浄化していく!

「っ! この感じは……!」
 ヴァーナーが『浄化の札』で魔吸桜の呪いを浄化したその瞬間、樹菜は周囲の空気が一瞬弾け飛んだかのような感覚を味わう。そして……樹菜たちの周りを囲んでいた桜の精たちの動きが一斉に止まり、ボロボロと崩れ去り始めた。
「樹菜、まさかこれって……」
「――はい、間違いありません。ヴァーナーさんの『浄化の札』が決め手になったのか、魔吸桜……いいえ、桜の大樹にかけられた魔女の呪いは完全に浄化されたようです」
 ……それは完全なる勝利宣言。作戦が無事に成功し、契約者たちは歓喜の声を上げていく。
「やった、やったですよ〜!」
 ヴァーナーはあまりの嬉しさに、樹菜へ作戦成功のお祝いハグをする。我慢していた分もあってか、そのハグの時間は相当長かったとか。
「うん、ゼクス……よく頑張ったね、ありがとう!」
 一方で、刀真たちも作戦成功の喜びを分かち合っていた。月夜がゼクスの労をねぎらうように頭を撫でて褒めてあげると、ゼクスは嬉しそうにしている。と、その時……。
「月夜も頑張ったな……」
「ふぁっ!?」
 刀真がそう言うと、月夜をぎゅっと抱きしめていく。突然の出来事に驚く月夜だったが、嬉しく思ってか刀真の胸へ頬ずりしたりなどして甘えモードに入ってしまった。
「……♪」
「……確かに月夜さんはとても頑張りましたけど、私もたくさん頑張りましたのに……」
「む……」
 刀真が月夜を抱きしめている様子に白花は羨ましくも寂しい気持ちを、ゼクスは面白くなさそうな気持ちを抱く。そして、白花の《白虎》はその空気を感じ取ったのか――。

ガブッ

「――っ!?」
「と、刀真!?」
 次の瞬間、刀真の頭は《白虎》の口の中にへと納まってしまった。完全に齧られてしまっている。この出来事には周りの三人は驚きを隠し得ない。
「びゃ、白虎!? 気持ちを察してくれたのかもしれないけど、すぐに離してあげて!」
「白虎、刀真はこの後に白花にも同じことするから、ね?」
(……あの男も大変そうだな。あと、あんなのを従えてる白花さんがちょっと怖くなった気がする)
(――暗くて湿ってる……)
 ……その後、無事に《白虎》の口から解放された刀真は、白花もきちんと抱きしめてあげるのであった……。