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リアクション
視点は再び砦内に戻る。
「何が起こっているんだ? あなたたちは一体なにをやっている?」
クィントゥス・ファビウス・マクシムスが大勢の護衛とともに砦にやってきたのを見て、マルクス・ポルキウス・カトーは驚きを隠せなかった。
「総司令官……どうしてここへ……?」
「何を言っている。砦に侵入者が現れたと聞いてな。敵と会いにきたのだ」
クィントゥス・ファビウス・マクシムスは言う。第一軍団を率いてやってきたらしい。作戦変更の真っ最中だというのに。だが、それくらいそれくらい危急の用できたのだ、と彼の表情は物語っていた。
「あの軍監どのも倒れて収容されたらしいな。なかなか見事な手並みだ……」
さて……、とクィントゥス・ファビウス・マクシムスはマルクス・ポルキウス・カトーを捕らえている朝斗に向き直る。
あの後、朝斗はあっさりとマルクス・ポルキウス・カトーの拘束に成功していた。
戦場にいる敵に向けて警告を促し敗北をした事を知らせ、兵力などの消耗を出来る限り抑える様にするため呼びかけていたのだが、それを聞きつけて総司令官がやってきたらしかった。
「取引だ」
クィントゥス・ファビウス・マクシムスは表情を変えずに、朝斗に短く伝えた。
「……我々は一旦兵を引こう。その代わり彼女を返してもらう」
「いけません、総司令官。わたくしのことなど無視して総攻撃を開始してください」
マルクス・ポルキウス・カトーは叫ぶように言う。
「元はといえば、この騒動の責任の一旦はわたくしにもあります。お願いします、総司令官、なにとぞ敵を……」
「あなたたちのせいではない。私の見立てが甘かったということだ。あの軍監どのの話もあとにしよう」
クィントゥス・ファビウス・マクシムスは、消沈気味のガイウス・クラウディウス・ネロに小さく微笑みかける。
「それに、わたしも少々疲れた。ミヌチウスも死んだし、その他大勢もだ。大切な武将は一人でも残っていたほうがいい……」
「総司令……」
「どうだ?」
クィントゥス・ファビウス・マクシムスの視線の先には、砦内で破壊工作を続けていた乱世と朝斗が居た。今はスキルは解除し、誰に目にも確認できる。
「ね、ビンゴだったでしょ?」
にんまりと笑う朝斗に、乱世は調子に乗るなと突っ込んでから。
「どうだ? 戦争は数じゃないってことがわかったか?」
「ああ、身にしみて痛感したぜ。だが、このままでは済まさん」
「……」
朝斗は乱世と頷きあってから、クィントゥス・ファビウス・マクシムスに答えた。
「わかったよ……。まず兵を引くのが先。信長のいる本城まであんたたちが退却したのを見届けてから、彼女は無事送り返すよ」
「疑い深いな。わたしが、約束を反故にして途中で攻撃するとでも?」
「みんなの命がかかっているからね」
「それはこちらの台詞でもあるんだがな。我々が陣を引き払う時にそちらに攻撃されないとも限らない」
「僕たちもハイナも、あんたたちと同時に戦闘を中止して一旦退却する。それでどう……?」
「信用できない。今ここで彼女を解放しろ。まだ兵力では我々が圧倒的優位な立場にあることを忘れてはいけない。その我々がこれだけ譲歩しているのだ」
「……」
どこに妥協点があるだろう、と朝斗は考える。だが、お互い引くならここだろう。相手がこれ以上は折れないだろうということも予想はついた。
「もういいだろ。オレは十分満足だぜ」
乱世は、クィントゥス・ファビウス・マクシムスにビシリと中指を立てて宣言した。
「わかった、取引に応じるぜ。その代わり、万一そちらが約束を反故にしたら、何度でも教えてやることになる。油断してると鼠の穴一つで城も滅ぶってことをな!」
「乱世がそれでいいなら、そうしよう……」
朝斗は、クィントゥス・ファビウス・マクシムスの要求どおりマルクス・ポルキウス・カトーを離す。彼女は、総司令官の取り巻きに保護され連れて行かれた。
「また会おう、戦場でな」
クィントゥス・ファビウス・マクシムスは、不敵な笑みを残すと護衛たちとともに去っていった。
「さて、砦メチャクチャにしてやったし、帰るか」
ところで、皆無は? と探す乱世。
「……あいつら、集団でボコボコにしやがって……!」
皆無は廊下の角でイコン殲滅部隊に襲撃されて倒れていた。
あの戦闘をしながらも乱世を助けるために砦にやってこようとして、追いつかれてやられたらしい。
「まあ、殺されなかっただけマシだろ。あいつら、本気で潰しに来てるからな」
呆れた様子で皆無を抱えあげる乱世。
「ランちゃん……」
皆無はぐふっ、と血を吐きながら微笑む。
「ねえ、どう……?このイケてる鎧武者姿……俺様、決まってる……?」
「ああ、十分に男前だ。安心して休め」
乱世は、皆無を抱えて連れて帰る。
イコン殲滅部隊の残りのメンバーも、総司令官がやってきたので去っていったらしい。
「みんなお疲れ様。これで一段落だよ」
朝斗は、ほっと一息ついた。
この砦は指揮官を失って機能喪失し、信長軍の兵士たちは、去っていくことになった。
かくして、この砦での戦いは、ひとまずハイナ側の勝利で終わった。
【シェーンハウゼン】は約束を守り陣を引き払い後退することになった。
「さて、全軍に伝えてもらおうか。退却だ。戦いを中止し、現場を放棄せよ」
クィントゥス・ファビウス・マクシムスは本陣につくなり即決で命令を下した。
実のところ、被害は思ったより少ない。軍団を建て直すなら今だった。余力も十分だし、悠々と戦線離脱できるだろう。
「謝るのは私のほうだ。ご苦労だったな。皆も負担をかけてしまった。立て直して反撃といこう」
その命令に、全員が敬礼する。【シェーンハウゼン】は、一斉に後退を始めた。
鶴翼の陣は、こういう時に強い。ほとんどダメージを受けずに戦場から離れることに成功した。
「……お力を落とされますな、総司令官。あなたのせいではございませぬ。私たちにも至らぬところがありましたからな」
グネウス・セルヴィリウス・ゲミヌスことアルフレート・ブッセが声をかけてくる。
「落胆してはいない。だが、いささか心残りがあってな……」
クィントゥス・ファビウス・マクシムスはちらりと彼方に視線をやる。
「あのルイス・フロイスなる軍監殿のことだ。信長からの使いの者ということで遠慮していたが、此度の働きを見るに、どうも怪しげな人物だったらしい。感づいていながら思い切れなかったところが、少々悔しい」
「……軍団長たちは皆、同感ですな。今からでも遅くはないかと存じます。戦はまだ続きます故、後顧の憂いを立っておくのが肝要かと」
私にお任せいただければ、と意味ありげな表情で告げるグネウス・セルヴィリウス・ゲミヌス。本人がイコンを装備している上に、任務もなくなり何の働きもしていない自由に動ける軍団を保有しているのは彼だけだった。
「総司令官は、何も聞いておりませんし何も存じておりません。それでよろしいですな?」
「……」
「……かしこまりました」
グネウス・セルヴィリウス・ゲミヌスは、一礼して姿を消す。
そんな中、【シェーンハウゼン】の撤退が粛々と行われていく。
当然、戦っていたシャンバラ軍も追いはしない。今だ圧倒的大軍を擁したままの【シェーンハウゼン】を見送るだけだった。
「砦までの行く手を塞いでいた敵がいなくなったので、やってきました」
森を通り過ぎようとしていた小次郎がようやく兵を率いて砦攻略にやってくる。敵兵が撤退していく中、こっそりと正面から内部に侵入し占有権を主張すべく兵力で陣を確保していく。
「ひどすぎるだろ。俺たち、戦闘シーンなしかよ!」
強力な弓隊で敵軍と目立たずに戦おうと思っていた某が、脱力気味に言う。
後はもう、去っていく敵兵を見送るだけだ。もちろん危険なので深追いはしない。複雑な表情で砦を占拠するのが彼らのお仕事だった。
敵を倒すことは出来なかったが、退却させることが出来れば上々だった。わああああっっ! と歓喜の声が上がる。
「うむ、みんな、お疲れ様だったでありんす」
ハイナもひとまず安心と笑顔を浮かべた。
この長かった【シェーンハウゼン】編にも、ひとまず区切りがつこうとしていた。
「……扱いひどすぎるだろ。俺たち置き去りかよ」
平原でイコン殲滅部隊と戦っていたカルキノスは、あっさりと去っていった敵に消化不良の様子で叫ぶ。やられっぱなしでこのまま捨て置くわけにはいかなかった。
「いや、あれで良かったんだろ。今回はちまちま攻撃が目的だったんだから」
敵の大軍が陣形を変えようとしている間に突撃していった淵もボロボロになって帰ってきた。
「少々効果はあったのか? 敵は、ハイナを追うのはやめたみたいだけど、俺の部隊ほとんど全滅だぜ。なんだよ、この無駄な消耗戦は。やってられねー」
「まあ、向こうももそう思っているだろうさ。相手を嫌な気分にさせることができたら、まあ良しとしていいんじゃねえの」
「……帰るか」
淵に促されながら、カルキノスはハイナたちの下に帰っていく。
○
「もちろん承知しておりますわ。総司令官様は何もご存知ありません。これはあくまで私たちの独断であり、命令違反ということですわね」
グネウス・セルヴィリウス・ゲミヌスから話を聞いたプルクルスは小声で答える。
「あの怪しげな軍監と、彼の率いる軍監査部隊を今のうちに処分しておこうとおっしゃるのでしょう?」
このプルクルスはアルフレート・ブッセのパートナーのアフィーナ・エリノス(あふぃーな・えりのす)であり、委任を受けて第二十二軍団の軍団長として兵を率いていた。
歴史上では、紀元前212年の執政官である。ファビウスの持久戦略を堅持し、ハンニバル軍の弱体化に努めた。紀元前211年、南イタリアの都市カプアを巡る攻防戦の最中、戦死を遂げた人物であった。
この緒戦では出番はなかったが、今後のこともある。ちょうどプルクルスも、あの軍監に軍団の粗探しをされて辟易していたところだった。私情を挟むつもりはないが、兵士たちの食べる昼食にまで注文をつけられたり、兵士たちの他愛もない噂話まで裏付け捜査され指摘される始末では士気にもかかわる。早急に手を打っておく必要があった。
「あの軍監殿は、ちょうど敵の仕掛けた爆弾によって負傷しているというではありませんか。そのまま一生起きてこないようにするのは簡単ですわ。敵のテロに巻き込まれて死亡したと、信長さまにはお伝えください」
「ほかの軍団長たちに知らせる必要もありませんな。万一の場合は我々のみが責任を取ればいいこと」
グネウス・セルヴィリウス・ゲミヌスはいう。
全軍団が退却準備を整える最中に、プルクルスは第二十二軍団を総動員し、極秘裏に軍監査部隊に圧力をかけ武装解除に成功した。彼らは解散させられどこかへ去っていった。
その後、ルイス・フロイスの行方は誰も知らないという……。
「……私たちも、そろそろ出陣の準備を致しましょうかな」
藤原頼長は、そんな戦況を扇で顔を半分隠しながら眺めていた。
「……ルイス・フロイスには気の毒でしたが、おかげであの軍の内情もすべて手に入れることができました。後は、彼らには信長さまの忠実なる軍団として働いてもらいましょう」
ルイス・フロイスを通じて届けられた【シェーンハウゼン】の情報を手に、参謀総長のゲルハルト・ヨハン・ダーヴィト・フォン・シャルンホルストはうっそりと笑みを浮かべる。参謀の手のひらの上で動いてくれる軍団でないと困る、そんな表情だ。
「彼らの奮戦を称え帰還を盛大に出迎えましょう。後は、私たちの仕事ですな」
リブロは出陣の準備を整え始めた。【シェーンハウゼン】が陣を敷いていてくれたおかげで、シャンバラ軍は大勢の配下を無駄にした。十分に効果的だったということだ。
残っている武将も数少なくなったことだし、一気に撃滅してやるつもりだった。
「……」
小早川秀秋は、軍議の最中にまた舟をこいでいた。信長が一旦退席し、武将たちでの話し合いなので誰も彼を起こそうとはしない。
いや、いっそのこと、信長の怒りを買って斬り捨てられればいいのに、この役立たずが……。と誰もがそう目で語っていた。
「……」
熱心な軍議が続く中、小早川秀秋は居眠りしているフリをして耳をそばだてていた……。
というわけで、【シェーンハウゼン】には、しばらくゆっくりと英気を養ってもらうとしよう。
▼淵軍団1000→100
▼シャレン・ヴィッツメッサー、戦線離脱。
▼尾瀬皆無、戦闘不能。
▼ルイス・フロイス、行方不明。
〜〜 オートセーブ中 〜〜
『セーブに失敗しました!』
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