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【ぷりかる】蘇る古代呪術研究所

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【ぷりかる】蘇る古代呪術研究所

リアクション

「ふむ、ネバーランドの目的って何なんでしょうね。誰かの理想の実現とするなら、ここに居る理由はそれに起因するはずですよね」

 御凪 真人(みなぎ・まこと)は呟きながら、アーシアとシェヘラザードの言っていた事を思い出す。
 理想。
 シェヘラザードと敵対する部族にネバーランドが関わっているというのならば……その理想の実現である事に間違いはない。
 だが、シェヘラザードの部族を倒す……それ自体は、「理想」であるとは言えない。
 何故なら、それは目的であるからだ。

「なら、どんな理想の実現なのでしょうか……ここを探索する事で何か判るかもしれませんね」
「そうだな……謎が多すぎる。手がかりを掴んでおきたいところだ」

 真人の言葉に、ダリルも頷く。
 
「そもそも、こちらを妨害するようかのような細工……彼らの目的に俺達が邪魔になると言う事でしょうか?」
「元々は、対軍用なのよ。この魂の刃ってのは」

 前を歩いていたアーシアはそう言うと、真人へと振り向く。

「どんな高度な仕掛けも、現実的には数の暴力で解決できる……それを嫌がったバカがいてね。力ある者の力を削げるように、けれど削ぎすぎないように。そんなくっだらない魔法儀式を作ったってわけ」

 なるほど、と真人は納得する。
 ただ妨害するだけならば、結界でもいい。
 あるいは、何かの力を削ぐものでもいい。
 そういったものではなく、単純に数を制限する。
 ある種のゲームを楽しむかのような感覚で作られた魔法……ということなのだろう。

「ふざけた魔法ですね」
「ふざけた男の作った魔法だからね」

 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)に、アーシアはそう言って答える。
 そんな頭の螺子が飛んだ魔道結社とはいえ、その実力は本物だ。
 数日で遺跡を迷宮に作り替える手際も、見事としか言いようがない。
 平たく言えば……このネバーランドという連中は、強敵なのだ。

「アーシア先生、あなたは自分のことになると必要以上に自分で何とかしようとしてますよ」

 だから涼介は、アーシアへそう語りかける。

「たまにはあなたの教え子のことを信用してください。探索チームやあなた方の背中は私たちで守りますから」
「そうそう、ボク達に任せてよ。みんなが探索しやすいようにサポートするから」

 涼介に同意するように頷くヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)に、アーシアは苦笑で返す。

「ありがと、いい生徒を持って嬉しいわ。でもそれは、たぶんこっちの子に言ってあげたほうがいいよ?」
「何よ」

 アーシアに言われて、シェヘラザードが身構える。

「その通りですわ! 貴方の事を百合園女学院の仲間だと思っておりましたのは「私たち(他の百合園生徒の方も含みます)」だけですの!?」

 そう叫んだのは、白鳥 麗(しらとり・れい)だ。
 シェヘラザードを追いかけるように遺跡の中へとやってきた麗は、ずっと文句を言うタイミングを待っていたようだ。

「ちょ、ちょっと麗……」
「お嬢様……ご立派になられましたな。このアグラヴェイン、お嬢様のご学友を思われる心に感涙の涙を隠せません」

 麗にどう答えたらいいか悩むシェヘラザードとは対照的に、サー アグラヴェイン(さー・あぐらべいん)は目頭をハンカチで抑えている。

「シリウス、お前も何かフォローしなさいよ!」
「どうって言ってもなあ……さっきも言ったかもしれないが、オレにとっては大事な後輩だし、麗にとっても大事な仲間なんだよ」

 苦笑交じりに言うシリウスに、シェヘラザードは額を指で抑える。

「あのね、麗」
「貴方が、本当に私たちを仲間と思うなら、真っ先に声をかけて下さいな!」

 シェヘラザードが何かを言おうとした矢先に麗に機先を制され、シェヘラザードは言葉に詰まる。
 助けを求めるようにシェヘラザードはアーシアを見るが、アーシアはニヤニヤと笑いながらも口を出そうとはしない。

「わたしくし達百合園生……お友達がもちこむ面倒事を嫌がる方なんて、一人もおりませんのよ?」
「僭越ながらこの私も、お嬢様とシェヘラザード様、そして百合園生のお嬢様方の友情を深めるお手伝いの一端を担わせていただきたく考えております」
「ああ、オレもだぜ」
「わたくしもですわ」

 そんな麗とアグラヴェイン……そしてシリウスとリーブラの言葉に、シェヘラザードは天井を仰いで溜息をつく。
 その顔に浮かぶのは、喜びを秘めた苦笑。

「そうね……その通りだわ。アタシが間違っていたのね」
「わたくし達は『か弱き可憐な華』である百合園生徒ですもの…だからこそ、一人の問題も皆で力を合わせて皆で立ち向かわなければなりませんわ!」

 自信満々にそう言う麗に、シェヘラザードは柔らかい笑みを浮かべて手を差し出す。

「ごめんね、お前たち。ここまで来て今更だけど、アタシに力を貸してくれるかしら」
「シェヘラザード様…力を合わせて、この困難を乗り越えましょう!」

 麗、シリウス、リーブラ、レキ、ミア。
 百合園女学院の仲間達が、手を取り合う。
 それは、学友同志の絆のようなものだろうか。
 その様子を清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)は遠くから見守りつつも、口は出さない。
 護衛でありサポートであるというプロ意識故であるが、この微笑ましい光景の中でも、二人は警戒を解かない。
 ここが敵にとって有利な場所である以上、護衛としては一瞬たりとも気を抜くわけにはいかないのだ。

「北都……」
「分かってる。何かがこっちに来てる」

 クナイの言葉に、北都は聞こえてくる足音に耳を澄ませる。
 何かが、ガサガサと動く音。
 それは虫の足音に似ているものの、既存の虫よりはずっと重い音。
 むしろ、人の重さに似た音だ。
 そして感じるのは、強烈な敵意。
 もはや、疑いようもない。

「敵……きますわ!」

 叫び、クナイが魔剣ディルヴィングを、北都がアルテミスボウを構える。

「兄ぃ、ボク達も!」
「ええ、全力でいきますよ!」

 アリアクルスイドの呼びかけに、涼介もそう答える。
 やがて現れたのは、ムカデのような下半身と……人の上半身を持った怪物。

「万物の根源たるマナよ、大いなる奔流となりてその力を示せ」

 涼介の詠唱が、北都の矢が戦いの始まりの合図となる。
 古代呪術研究所の最奥まではまだ遠く。
 仕掛けられた罠の全貌は未だ、見えそうにはない。