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リアクション
「あんまり水臭いこというもんじゃないぜ、シェヘラザード。オレは前にも絡んだからな、当然今回もだ」
「……ありがとう、シリウス。でもだからこそ巻き込みたくなかったのよ」
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)の言葉に、シェヘラザードは苦笑する。
「不思議なものね。アタシに力を貸してくれる人を探しに行ったはずなのに。知り合うと、その決意が鈍るのよ」
「……」
シェヘラザードの横顔を、さゆみは無言で見つめる。
複雑な感情を秘めた笑顔は、どんな事情を秘めているが故なのか。
まだ、誰もシェヘラザードの口からは聞いていなかった。
水晶骨格、そして理想追求機関ネバーランド。
そういった断片的な情報をアーシアから聞いているだけだ。
「水晶骨格……だっけ? 地球の水晶ドクロもこの仲間なの?」
「あれは模造品だという研究結果もあるからなあ……」
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の疑問に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が答える。
結局のところ、水晶ドクロですら諸説あるのが現状。
その原型であると言われても、眉唾モノと言われてしまうのが正直なところだろう。
だが、それでも実在すると言われるものが水晶骨格であった。
「で……だ。シェヘラザード。お前を狙ってる奴、狙われる心当たりについて、なにかねぇか?」
「君がこの国に来た目的もだ。そろそろ話してくれてもいいだろう?」
シリウスとダリルの言葉に、シェヘラザードは前を歩いていたアーシアを不安げに抱き寄せる。
珍しく抵抗しないアーシアにクスリと笑いつつも、ルカルカも黙って話の続きを待つ。
「シボラには、幾つもの部族があるわ。それぞれの部族にはそれぞれの役割があるけれど、私の部族は大英雄の血が最も濃いと言われてきたの」
シボラの大英雄、シャフラザード。
かつて悪竜フェイターンを倒したと言われる、シボラの英雄の中の英雄。
シェヘラザードの名前も、その大英雄の名前を授かったものである。
「でも、同じくらい大英雄の血が濃いと言われている部族があるの」
大英雄の妹にして、フェイターン打倒の旅へと同行した精鋭の一人……英雄ドニアザード。
その血を色濃く受け継ぐ部族があるのだという。
「大英雄と縁があるということは、誇りよ。だからこそ、頭の固い連中はそれで権力争いをしてるのよ」
外と交流のあったシェヘラザードの部族の若い者達からしてみれば、それはくだらない争いにすぎなかった。
実際にシェヘラザード達は子供の頃から、部族の垣根を越えて森を駆け回っていたりしたものだ。
「アタシ達の時代になれば、そんなくだらない争いは無くなる。そう信じていたわ」
だが、そうなる前に争いが起こってしまった。
大英雄の妹の子孫たる部族の長が、我等こそがシボラを導く者……とシェヘラザード達の部族に服従を迫ってきたのだ。
それは通常で考えれば、正気の沙汰ではない。
余程の何かが無ければ、長年の均衡を崩すはずがないからだ。
「向こうの部族にいる幼馴染が、教えてくれたの。向こうの長の自信の源……水晶骨格の事を」
その幼馴染の名は、ドニアザード・アズラーン。
勿論、英雄ドニアザード本人ではない。
その優秀さ故に、英雄の名を与えられた少女である。
「ドニアも言っていたけど……向こうの部族には、水晶骨格が秘密裏に伝えられていたらしいの。その封印を解く気だって言ってたわ」
女王器である水晶骨格がどのようなものかは分からないが、争いを激化させるものである事は間違いない。
そうなれば、二つの部族の話では終わらなくなってしまうかもしれない。
「争いが本格的になる前に、止めなきゃいけない。ドニアは部族を抑える役割を……アタシは、協力者を探しにきたのよ」
そこでシェヘラザードは、何かを抱え何かを隠した、仲間達に出会った。
いつしかプリンセス・カルテットと呼ばれるようになった彼女達に相談しようとも考えたが、出来なかった。
彼女達にも、彼女達の事情があることが分かったからだ。
だが、刺客が送られてきた夜に、全ての事情は激変した。
その刺客が持っていたのは、ドニアザードの名での作戦書。
すなわち、古代呪術研究所での水晶骨格に関する資料の探索。
何故ドニアザードがそのような場所の事を知っているのかは疑問だったが、此処に来たときに全ての謎は解けた。
「で……だ。シェヘラザード。お前を狙ってる奴、狙われる心当たりについて、なにかねぇか?」
そうシリウスに問われて、シェヘラザードは口を開く。
「心当たりなら、あるわ。アタシは部族の次代の指導者候補だもの。狙ってるのは……アタシの幼馴染のいる部族よ。あのネバーランドとかいう連中については、よく分からないわ」
「ネバーランド……って、あの絵本の国ですわよね? そんな名前を付ける組織が……何故シボラに興味をもつんでしょう……?」
リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)の疑問に、黙ってシェヘラザードに抱きしめられるままになっていたアーシアが、口を開く。
「……果てぬ理想を求めよう。夢の国を探し当てよう。遥かなる地平、永久の荒野。我等は理想の追求者。笑われ蔑まれ、届かぬ理想にいつか届く者である」
「それは?」
「ネバーランドの設立文の一節」
アーシアはそうリーブラに答えるとシェヘラザードの手から抜け出て、深いため息を吐く。
「オレたちは前の塔の絡みでしか連中をしらねーが、お前はもう少し情報を掴んでる…って感じがしてたぜ」
シリウスの言葉に、アーシアは頷く。
「あの太陽の塔を作ったオルヒト・ノーマンの組織よ。活動範囲は世界規模……と言われてるけど、よく分かんない。活動内容は、全ての理想を実現へと導く為の援助らしいけど、ね」
理想追求機関ネバーランド。
機関長たるオルヒト・ノーマンが立ち上げた組織……ではあるが、世界規模に広がった組織を、オルヒト自身が統率するという事はほとんどない。
機関員達はネバーランドの理想に殉じ、自らの理想を追い求め、他の理想を援助する。
そして、そこに善悪は関係がない。
「副機関長は二人。ホークス・リンデンブルドとガルデ・ラルネン。ホークスには会った事ないけど、ガルデはヤバい奴よ」
「此処に来てたって奴か……」
シリウスの言葉に、アーシアは頷く。
「ガルデは……アイツはオルヒトと違って、自分の利益になりそうに無い事には動かない」
「水晶骨格が、その方にとっても利益になるかもしれないもの、ということですか……」
リーブラに頷いて、アーシアは溜息をつく。
「分かんないけど、ただで済む予感はしない……かな」
「……とんでもないものってこと?」
「たぶん、ね」
ルカルカに、アーシアはそう答える。
それ以上は分からない、というのが実情なのだろう。
ルカルカがシェヘラザードに視線を向けると、シェヘラザードも首を横に振る。
やはり、それ以上は何も分からないのだろう。
「……まぁ、考えても仕方ないですわ」
「そうだな。敵の好きにはさせねぇ、ってところは変わらないか」
リーブラの言葉に、シリウスも頷く。
そう、結局はそれしかない。
この古代研究所に入った時点で、攻める側であり……同時に、守る側でもあるのだから。
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