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カオス・フリューネ・オンライン

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〜 phase 03 〜
 
 「【アダム】以下、ナビAIの全コンバート確認しました!
  現在、彼らによるナビゲーションネットワークの構築とプレイヤーの接続及び登録作業中です」
 
卜部 泪(うらべ・るい)の報告を聞き
彼女の護衛と戦闘行為に集中していた成田 樹彦(なりた・たつひこ)仁科 姫月(にしな・ひめき)が安堵する

 「これでプレイヤー同士の情報の交換と位置把握が容易になったな」
 「それにしても、この段階の前でも多くのプレイヤーが率先して動いてるんだから凄いわよね
  ゲームそのものの愛着か、囚われている人に対してのそれ……どっちなのかしらね」
 
姫月が周囲の熱狂にやや呆れた調子で呟いた言葉に、リアルタイム通信を解した返事が返ってくる
泪や姫月3人の耳元に展開してる通信アイコンから林田 樹(はやしだ・いつき)の凛とした声が聞こえてきた 

 『両方だろう?メカフリューネも元の素体は【戦闘機兵】だ
  そのガチな集団戦闘特性は戦闘タクティクスの応用に適してるんでな、戦闘訓練目的で参加してる者も多いはずだ』
 
くしゅん……というささやかな言葉に、泪が遠くを見るとくしゃみの主は六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)のようだった
VRでもヒトの噂には反応するのか、そういう諺的なルールが適用されるエンジンでも備わっているのかはわからない
 
 『とにかくこちらにも【息子】を介して情報が集まっている
  ある程度整理してそちらに送るから、マップ化してくれると助かる
  もとよりこちらは、メカ空賊ロボ一択なんだ……状況の把握が進めば塔攻略組のサポートができるはずだ』
 
樹の通信が続くと同時に、新しいデーターの受信を知らせるアイコンが目の前のウィンドウに表示される
送り主はヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)
……彼の【息子】がゲーム状のNPCのデーターを介して収集された情報の様で、すかさずそれを現データーに組み込む
ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を中心とした現実世界のコントロールルームとの連携で整理されたそれは
新しく展開した画面には、攻略塔を中心に広がったマップと確認できるプレイヤーの位置表示が数多く現在進行形で示され
そこから算出された3方向の攻略ルートが矢印で映し出されていた
 
それと同時に通信アイコンのネーム表示に新たにダリルの名前が表示される
 
 『これが現段階で割り出された攻略ルートだ
  塔内に分散している【三騎士】の場所への最短経路はこの三つ
  幸いな事にルールの書き換えで入り口は規定の入り口だけでなく、途中階からの進入も可能らしい
  もっとも、その為には高度跳躍か空中移動が必要になるが、それが困難な参加者でもないだろう、泪?』
 「ええ、ではこのマップをナビAIのネットワークを仲介にしてプレイヤーに送ります!
  その中からそれぞれ行動を選択して貰い、一斉に行動を開始しましょう」
 『了解、もっとも、この場合は【攻略】の方が相応しいかもな
  引き続きデーターの解析とシステムからのアタックも続けるよ、その有象無象のふざけた機兵の対処も必要だしな
  そちらは引き続き内側からの協力が必要だ、要望どおりの仕事を頼む……狩生』
 
不意に名前を呼ばれ、泪の護衛位置につきながら準備をしていた狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)が不敵に笑って応対する
 
 「任せな、こういうサイバー系の調査ならあたいの相棒の出番だ、きっちりいい仕事してやるぜ!」
 『お前は暴れてるだけだろう?
  泪、ついでに未沙達にも伝言を頼む、例の件は何とかできそうだがマテリアルが必要だ、私情込みでデーターが欲しい
  ……何やらテンションがダダ下がりらしいが、目指す先を想像して頑張ってくれ……とな』
 「伝えますね、ではお互い頑張りましょう!」
 
通信アイコンからダリルの名前が消えるのと同時に、泪も攻略マップデーターのプレイヤー送信を終了させる
データーの把握も終わったので、これから自分達が向かうルートとその付近にいるプレイヤーの位置もすでに把握済みだ
 
 「これから私【卜部泪】を中心としたグループは、中央から塔への侵入を試みます!
  激戦区は避けつつも、最短距離は保持したいので戦闘は避けられません!
  ルート付近の有志の方は【メカフリューネ】への応戦をお願いします!塔の到達までで構いませんので!」
 『了解!【林田樹】他有志、全力でルート付近のメカ連中と応戦させてもらう!』
 『【夜刀神】および【】了解!塔付近のルートを一掃させる役、承った!』
 
樹や夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)ら、現在戦闘中の面々から承認の通信が次々と入る
泪も空中で指を操作しながらウィンドウを最小限に展開させ、移動の準備を始める中
乱世も意気揚々と武装の確認をしながら、足元で作業をしているグレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)に声をかけた
 
 「さて、そろそろドンパチ始めるぜ……そっちはどうよ?グレアム」

彼女の言葉に、グレアムが顔を上げる
彼の手に握られていた【メカフリューネの破片】はたった今【耐久値】をゼロにしてエフェクトと主に消滅したらしい
だがそれへの【サイコメトリ】は終了したらしく、解析したデーターの分析をしながら彼は乱世に返答した
 
 「残存したデーターにわずかばかりの介入の痕跡があった
  仮想都市事件とで聞いていた特徴と照らし合わせるとタイプが違うね
  確かにフリューネのスキャンデーターを利用してるけど、彼女をコアにしてるわけじゃない……予想が外れだ
  ただ、明確に外部からの介入があるのは確かだ……ただそれを確定するにはもう少しデーターが……」
 「要は残骸をがんがん作ればいいってことだろ?ならそこは、あたいの仕事だ……任せな相棒」
 
二丁の愛銃をくるくる回しながら、それ以上の説明は不要と乱世が言葉を遮る
細かいことはどうでもいい、この場において重要なのは戦闘の場がある事
そして強化人間として感情を切り離され【生体デバイス】となっているグレアムが珍しくやる気になっている事の二つ
もっとも、彼の特性上このような電脳の状況下の方が適しているのだろう

 「あんたにゃあんたの戦い方がある、あたいはあたいの戦い方がある……簡単さ
  大いに踊って皆のサポートをしようじゃないか?派手に暴れるぜ……相棒!」
 
ご機嫌に飛び出した彼女の銃から派手に弾丸が発射される
戦っている優希達や樹彦の間を掻い潜ったそれは、見事複数の【メカフリューネ】に炸裂し
無数の爆発の花が、仮想の戦場に派手に咲き乱れた
 
 
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一方こちらは、現実世界……VR空間のコントロールルームである
をはじめとする全てのプレイヤーのログと共に、行動と戦闘を無数のモニターに中継しながら
多くのスタッフが状況の把握と、原因の究明に奔走している
 
その中心では今しがた通信を終えたダリルが改めて現状の確認をしていた

 「内部の方は大方整いつつあるようね?」
 「ああ、それに伴うシステムの解析のレベルを上げてみる……そこは協力者が多いからな、分担して出来るはずだ」 
 
ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の言葉に部屋を見渡しながら答えるダリル
彼の言葉に、傍らのパネルを操作しているシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)が苦笑しながら返答した
 
 「気楽に言ってくれますね
  一応言っておきますけどこちらの第一目的はクラッキングですよ、本来力技で行きたい所なんですがね」
 「確実に城を落とすなら、まず外堀からだ
  しかも今回、そこで泳ぐ魚が人食いで無尽蔵ときた、そいつを何とかするのが先だ……ルカ」
 「わかってる、ローグ達の方でしょ?
  データー受け入れから解析のまでの流れは構築できてる、網の準備は万端よ」
 
彼女の言葉にローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)ナターリア・フルエアーズ(なたーりあ・ふるえあーず)が頷く
 
 「サーバー一個利用しての容量だ、最悪一個師団まるっと受け入れられるぜ?」
 「何せ最終目的は【カオスフリューネ】の受け入れだもの、何が来たって大丈夫にしてあるわ
  これも菫さんのおかげね、ただでさえこちら側の人手が少ないのに、ホント全然遅れを取ってない
  今も分析をしてくれてるし、助かるわ」
 
二人の話題の主、茅野 菫(ちの・すみれ)がその言葉に微笑む
しかし眼差しと手は、ログのリアルタイム解析の為PCから止まっていないのは流石といったところか
 
 「礼には及ばないわ、これもフリューネの為
  それにトラブルとはいえ折角誕生した存在を消滅させるのは忍びない……そんなあんた達の気持ちもわかるしね
  大丈夫、足りない人手の分なんて愛で倍以上にカバー……」
 「?……愛?」
 「あ、うん、ゲーム愛よゲーム愛、ほほほほほ」
 
すかさずのさりげないルカの突っ込みを適当に誤魔化す菫

 (いけないいけない、あたしの本当の目的がアレだなんて知られるのはまだ早いのよ
  今回の布陣にバレると囚われているとはいえ、最悪あのフリューネに知られてしまう……気をつけよっと)
 
内心肝に銘じる彼女のPCに、さりげなく【むすめカンパニー】のロゴが張られているのは、ここだけの話である
そんな個々の思惑は水面の下、ダリルは再びログイン組の動向を確認しながら最後の問題を口にする
 
 「あとはワクチンの作成か……
  構成素材は把握してるが、こればかりはもう少し素材を集めないと生産に繋がらない、朝野達の報告を待つしかないな」
 
彼の言葉にルカも黙って頷く
それぞれが万全の戦意を持ったとしても、土俵は向こうの物なのだ……好戦を望むのはまだ早い
現実世界もまた、電脳同様に一秒の油断も許さない状況なのだった
 
 
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 「からデーターが届きましたわ、攻略ルートも記載済みです」
 
ユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)が展開させたマップデーターをリネン・エルフト(りねん・えるふと)が覗き込む
血気盛んな彼女に視界を遮られるのを苦笑しつつ隙間からヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)もデーターに目を通そうと試みる
……リネンの行動など今更責めるのも無駄だと解っているあたり、毎度毎度の積み重ねといったところだろうか?
 
 「この位置だと……【モエフリューネ】ってヤツの位置が近いわね
  パフュームと件のちっちゃいナ達もここを目指しているみたい、合流しつつってところかしら?どう思う、フェイミィ」
 「あの……」
 
リネンが何か喋ろうとしているのにお構いなく、ヘイリーの問いにフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が答える
 
 「いいんじゃねぇ?見たところここ激戦区じゃん
  何か主力が固まってるのが玉に瑕だが、戦力が必要ならここだろう?うってつけじゃん?ユーベルもそう思うだろ?」
 「ねぇ、ちょっと……」
 「そうですわね、他の方の行動にもよりますが【メカフリューネ】の壁も一掃しないといけません
  ただあまり暴れすぎて中ボス……いえ【三騎士】で力尽きないでくださいね?」
 「………もしもし、お〜い」
 「じゃぁ二人の意見も一致したから決定ね
  【シャーウッドの森空賊団】は他と共闘して【モエフリューネ】攻略ルートを目指します
  スタートは10分後、各自装備確認を怠らないよう、よろしくね」
 「ねぇ!なんでみんなして私を無視するわけ!?」
 
尽く言葉をスルーされ、小噴火を起すリネン
だが、その火勢に動じず、ユーベル達三人が一斉に彼女の方を振り向いた
 
 「うるっせぇな!お前の意見なんざ聞かなくてもわかるっての!」
 「どうせあなたはラスボスの【カオスフリューネ】と囚われの姫の事しか頭にないでしょう?」
 「単独でも向かうでしょうから、そのサポートの話をあたし達はしているんですのよ?口出ししないで下さいな」
 「何だかんだ言って、最後はお前が活躍するに決まってんだから、今くらいオレ達の出番増やさせろってんだ!」
 「…………ハイ」
 
負けず劣らずの勢いに結局縮こまり、成すがままヘイリー団長達三人の相談がまとまるのを待つリネンである
そんな様子を見ながら、一方でこちらもお互いの攻略ルートの相談を終える二人がいた
レン・オズワルド(れん・おずわるど)ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)である
 
 「向こうは【モエ】の方で決まりらしいな、確かにここからは近い、主力とも合流できていい判断だ
  いいのかレン?我等の決めた進路だと遠回りになるが?」
 「案ずるには及ばないさ帝王、そこを見越してすでにメティスリィナを向かわせている
  戦力的には厚くないルートだからな【デレフリューネ】の戦力はわからんが、余力は残しやすい
  悪いが俺の最終目的も【カオス】の方だからな、中堅は悪いがサポート程度にさせてもらう」
 
実直で正直なレンの言葉に苦笑する帝王……そういう不器用さは嫌いではない
まぁその想いと迷いのなさを知ってこそ、今回は共闘を決めたのである
 
 「無論、彼女との戦闘は我等に任せてもらおう
  お前は安心して目指すところを目指せばいい……さて、そろそろ【息子】の新しい情報が来るはずだが……」
 
現在別行動でキリカ・キリルク(きりか・きりるく)と共に情報収集している【我が子】を案じるヴァル
目覚めて早々、現状を案じ率先してキリカをつれて動く彼……その心中を仮初とはいえ親は案じずにはいられない

 (帝王の子といえど、誰もが等しく民である事は同じ……その望みに手を添えてやるのが帝王の務め
  我が友の事もあるからな……全力で手を差し伸べさせてもらうぞ)
 
その胸のうちの決意を知ってかしらずか、絶妙なタイミングで【我が子】からのメッセージ通知が帝王の前に表示された