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【ぷりかる】メイド奪還戦

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【ぷりかる】メイド奪還戦

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四章 スニークウォーカー


「なあ、さっきの銃声はなんだったんだ?」
「さあな、どうせまた誰かが暴発させたんだろ」
「ったく……グランドの消火でクタクタだってのに何を騒いでるんだか……」
 そんな話し合いをしながら兵士の二人は退屈そうにあくびをする。
 元々は真面目に働かずに楽して儲けようというチンピラの集まりであり、彼らには特に仕事に対する勤勉さというものが欠如しているのだ。
 だから例え車両が爆発しても周囲が多少騒がしくとも、そこまで駆けつけて面倒ごとに巻き込まれようとする兵士の方が稀といえた。
「う……うぅ……」
 突然廊下に女の子の声が聞こえる。
 男たち二人は押し黙り、互いの顔を見合わせると廊下の角から聞こえる声に向けて銃を構えると、
「……きゃっ!?」
 仁科 姫月(にしな・ひめき)が角から飛びだし、銃口を向ける兵士を見て悲鳴を上げた。
 姫月はメイド服を着こんでいるが、服の前がはだけており白い肩がチラリと覗いていた。
「「おお〜……」」
 兵士たちは思わず感嘆の声を上げながら銃を下ろして、姫月に近づいていく。
「おいおいお嬢ちゃん、どこから逃げ出したんだ?」
「それに、そんな格好して……何があったんだい?」
 兵士二人はニヤニヤと姫月の口から何があったのか聞き出そうとする。姫月は目に涙を浮かべながら、俯いてしまう。
 そうすることで肩が下がり、兵士二人の視線に胸の谷間が飛び込んでくる。
「ま、なにがあったかしらないけどとりあえず来なよ。俺達が慰めてやるからさ」
「そうそう……優しくするぜ?」
「悪いが、そうもいかんぞ」
 不意に兵士たちは背中から声をかけられ、表情を強張らせて後ろを振り返ると、
「な……」
 言葉を失った。
 ホッケーマスクがあった。
 あった。というよりかは装着している人間が目の前にいるだけなのだが、あまりの非現実的な光景にホッケーマスクしか意識をもっていけなかったのだ。
 さらにホッケーマスクはメイド服を着ており、背中には巨大な剣を背負っていた。
「な、なんだてめえ!」
「わしは夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)。臨時のメイドじゃ」
「メイドより不可解な要素が多すぎるだろ!」
「ただの変態じゃねえか! ふざけやがって!」
 兵士達は同時に甚五郎に銃口を向けると、
「はぁっ!」
 姫月が兵士の一人の後頭部をぶん殴り、兵士を気絶させた。
「な! てめえ!」
 兵士はようやく自分が挟撃されていることに気づいたが後の祭りである。
 甚五郎は兵士が自分から視線を逸らした隙をついて、兵士ののど輪を鷲づかみにする。
「おぬしらには少し聞きたいことがある。この組織の内部情報を吐けば命だけは助けてやろう。もし喋らぬと言うなら……ククク!」
 甚五郎は不敵に笑い、その見た目もあって効果は抜群だった。
「ひっ! しゃ、喋る! 喋るから! 俺達はもともとここのリーダーに雇われただけの盗賊なんだよ! 他の奴らも仲間でもなんでもないんだ! お、俺達は下請け企業だってリーダーは言ってた! なあ、もういいだろ? 助けてくれよぉ!」
「うむ。ご苦労!」
 甚五郎は兵士の頸動脈を止めて気絶させた。
「囮作戦、大成功ね。まったく、男ってバカよね、ホント」
「返す言葉も無い」
 甚五郎がクククと笑っていると、
「お〜い姫月〜」
 遠くから声が聞こえると、成田 樹彦(なりた・たつひこ)が数人の女の子を連れて姫月達の元へ戻ってきた。
「言われた通り攫われた人たちを助けてきたよ」
「うん、ご苦労様」
「連れてくる途中に見つかったらどうしようかと思ったよ、俺一人じゃこの人数は守りきれないし……心臓に悪い作戦だよ、これ」
「いいじゃない成功したんだから。男が終わったことを引きずらないの」
「……別にいいけどさ。それじゃあ、外に出ようよ見つからないように」
「ならばわしが先陣を……」
「目立つからやめてください。甚五郎さんは後ろをお願いします」
 樹彦がピシャリと言い放つと、甚五郎はクククと笑いながら後列に引っ込み姫月たちは脱出を図った。


「廊下の先に兵士が二……四人かな」
 殺気看破を使って廊下の先にいる兵士の数を確認しているのは猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)だった。
「目的の部屋は多分そこだな……っていうか、訊いていいか? なんで女の子抱えてるんだ?」
 同行していたシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は勇平が抱えている少女、魔導書 『複韻魔書』(まどうしょ・ふくいんましょ)を指差した。
「わらわは身体が弱いのでな、勇平に担いでもらうのが一番楽なのだよ」
「そんなことより、あの兵士達をどうするかを考えないとな……楊霞、何か案はないか?」
 勇平は複韻魔書を下ろして、楊霞に話を振る。
「なるべく気づかれない方がいいかと思います。銃声で他の兵士が来ると厄介ですから」
「それなら勇平とサビクに行ってもらうか。大所帯で行っても仕方ないだろうし」
「うん、引き受けたよ」
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)は首を縦に振り、
「よし、任せろ!」
 ──勇平は言うなりダンボールを被り始める。
「勇平様? 何をしているんですか?」
「なんだ楊霞知らないのか? 潜入捜査でダンボールを被るのは社交界でタキシードを着るようなものなんだぞ?」
「嘘をつくでない!」
 複韻魔書は勇平の頭をダンボール越しに殴った。
「ぐお……う、嘘じゃねえよ! 伝説の傭兵はこれで数々のミッションを遂行したんだぞ!」
「ゲームの話じゃろうが!」
「まあまあ、おふざけを入れる余裕があるのはいいことだよ」
 サビクが止めに入って二人は騒ぐのを止め、勇平は窓に目をやるとそっと窓の外を覗きこんだ。
 窓の下にはつま先くらいなら引っ掛かりそうな出っ張りがあり、ずっと先までそれが繋がっていた。
「ここを伝って兵士たちに奇襲をかけられそうだな」
「正気かい? とても足場とは言えないと思うけど。……それに見つかったら落とされると思うよ?」
「でも、成功すれば混乱するだろ? 複、あいつらの注意を引きつけてくれ。サビクは俺が突入したら援護して欲しい」
「うん、了解したよ」
「仕方ないのぅ」
 二人が了承するのを聞いて、勇平は窓の外に飛び出して爪先立ちをしながら軽身功で壁に張り付きながらゆっくりと廊下の外を歩いていく。
 周囲に建物のないことが幸いしてか、誰も外から勇平を確認する人間はいなかった。
 声が徐々に近づいていき、
「な、なんだ!? ネズミ!?」
「ど、どこから湧いて来やがったこいつ!」
「わっ! お、俺ネズミ苦手なんだよ!」
 複韻魔書が獣寄せの口笛で呼び寄せたネズミに浮き足立っているのを確認すると、勇平は一気に窓の外から飛びだし、兵士の足を引っ掛け頭を押さえてそのまま地面に叩きつけ、
そのまま流れるようにもう一人投げ捨てた。
「CQC大成功だな」
「な、なんだてめ……ぐあ!?」
 勇平に視線を集めていると、サビクがアヴァターラを二本携えて兵士二人に斬りかかった。
「よそ見は禁物だよ」
 サビクはアヴィターラを鞘に収めると、兵士達がたむろしていたドアにピッキングを行い難無くドアを開けた。
「でかしたサビク!」
 待機していたシリウス達は勇平たちと合流し、中に入る。
「ここは……書庫のようじゃの」
「ここなら、誘拐を手引きしてる首謀者の情報もあるかもしれないだろ?」
 そう言いながらシリウスは大雑把に資料を探し始め、楊霞もそれに習って資料を手に取り始める。
「どうだ楊霞? 犯人がわかりそうな手がかりはありそうか?」
「……」
「楊霞?」
「……いえ、あまり期待するような資料は無さそうです。……ただ、攫った人を買った顧客リストはありました」
「おお! それはそれで大発見だぞ!」
「これはシリウス様に預かってもらってもよろしいですか? 僕はまだ攫われた人の救出にいかないといけないので」
「ああ、分かった。後の事はオレたちに任せな」
「それでは失礼致します」
 楊霞はペコリと頭を下げて廊下に出ようとすると、
「楊霞」
 サビクが声を掛けてくる。
「本当に犯人が分かりそうなものはなかったんだよね?」
 その問いに、楊霞はニッコリと微笑んだ。
「ええ、残念ながら」
「そっか……それじゃあ、気をつけてね」
「はい、そちらもお気をつけくださいませ」
 楊霞は再び頭を下げると、書庫を後にした。