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【ぷりかる】メイド奪還戦

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【ぷりかる】メイド奪還戦

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五章 灰色の狐


 部屋の中で女の子達の泣き声が響く。
 その中にはバーボンハウスで働いている女の子達の姿もあった。
「大丈夫ですよ〜すぐに助けが来てくれますから〜」
 そう言いながら女の子達をハグしていくのはヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)だった。
 女の子達はその行為で不安が涙となって溢れて、ヴァーナーはよしよしと頭を撫でる。
「そっちの人も安心してくださいね〜? 助けは必ずきますから」
「……」
 ヴァーナーはドアの近くにいる女の子にも声をかけるが、女の子はジッと下を見るだけで返事を返しはしなかった。
 と、
「ぐお!?」
「がっ!?」
 廊下から兵士の叫び声が聞こえる。
 女の子達は顔を青ざめさせて、ドアを注視しするとドアがゆっくりと開かれた。
「皆様、お迎えに上がりました」
 ドアの前にいたのは楊霞だった。
「楊霞おねえちゃん!」
 ヴァーナーは目をキラキラさせて、楊霞に抱きついてくる。
「さ、早く脱出しましょう。外にも脱出を手引きしてくれる方が大勢いますので」
「悪いが、そうはいかない」
 突然、男の声が聞こえて楊霞は女の子達を背にしてドアの方に目をやると、そこにはドアの近くで俯いていた少女が立っていた。
「人質を助けたければ……私を倒してみせろ!」
 言うなり、女の子は自分の顔を思いっきり引っ張るとマスクが剥がれ服が剥がれタキシードにマント姿の魔法 博士(まほう・はかせ)が姿を現した。
 その瞬間、博士は宙を浮き十人ほどに分身し近くにあった椅子や机をサイコキネシスで動かしてみせる。
「ヴァーナー様。少し隅の方に皆様を誘導してください。あの方は僕に用があるみたいですから」
 楊霞は博士から目を離さず、スカートの裾を摘んで少し持ちあげるとシアータイツに隠してあったナイフと拳銃を取り出して、博士に向かって構えると──容赦なく発砲した。
「ぐぁぁ!?」
 銃弾は博士の左胸を貫くと、博士の身体は霧のように消えてしまう。
「残念、ハズレだ!」
 叫ぶなり、博士は宙に浮かびながら楊霞を囲んで円を描くように回転を始める。
 その間にもサイコキネシスで操られた椅子や机が飛んでくる。
「これはこれは……お気遣い感謝致します」
 楊霞はニッコリと微笑むと飛んでくる机を足場に博士と同じ高さまで跳躍。
「なっ!?」
 博士は面食らった表情を見せるが、楊霞は表情に笑みを貼り付けたまま近くにいた三人の博士の首をナイフで掻き切り、銃を持った腕を背後に回し、五人の博士目がけて発砲した!
 楊霞が着地すると、最後の一人を除いて博士が全て霧となって消えてしまう。
「君は後ろに目でもあるのかい?」
「気配を察するのもメイドに必要なスキルです」
 そう言って、楊霞は自身のバイザーに触れてみせる。
「なるほど……君の戦闘能力はよく理解できた今回はこのまま退散させていただく!」
 博士はマントを翻して、部屋から飛び出すが楊霞は追いかけなかった。
 博士は角を曲がり、顔面のマスクが剥がれるとその中から四代目 二十面相(よんだいめ・にじゅうめんそう)が姿を現した。
「ふう……まさか、こんなに早く決着が着くとは思ってませんでしたね……楊霞くん、面白い子だ」
 独りごちながら、二十面相は蒼空学園の生徒、遠藤平吉に変装すると先ほどの部屋に戻っていく。
「楊霞おねえちゃん、すごく格好良かったよ〜!」
 ヴァーナーははしゃぎながら楊霞に抱きついていた。
「あ、平吉様。どうしたこんなところに?」
 楊霞は平吉の姿を見て、不思議そうな表情を浮かべる。
「楊霞ちゃんが心配で追ってきた、大丈夫? 怪我とかしてない?」
「ええ、僕は大丈夫です。それより、彼女たちを外まで連れて行ってあげてください」
「楊霞おねえちゃんは一緒に来ないの?」
 ヴァーナーが訊ねると、楊霞は優しく微笑んだ。
「僕は、行かないといけないところありますから」
「ふうん?」
「それでは平吉様、よろしくお願いします」
 楊霞は一つお辞儀をして、ゆっくりと部屋を後にする。
「よし、それじゃあ脱出しよう。みんな、ついてきて」
 平吉こと二十面相は先陣を切り、出口を目指す。
「楊霞くん……本当に面白い子だ」
 独りごちながら、二十面相は小さく笑みを浮かべた。