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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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第10章 リア充なんて大嫌い、リア充、地獄へ落ちろ! Story8

「なんだありゃ?」
 カルキノスが右往左往して慌てている弥十郎の姿を見つけた。
 その近くではエースが石化し、クマラが砂の上に倒れている。
「斉民が青い髪の女を追いかけてるな」
 浜辺でフレアソウルの炎を纏った斉民が、青い髪の魔女を逃がさないように追っている。
「あれは…オメガ殿ではないか。カルキ、早く彼女を救出するのだ」
「お、おう」
 なんでこんなところにいるのか疑問に思いつつも、翼を羽ばたかせ淵の言う通りに追う。
「グラッジに憑かれるのか、憑かれてねぇのかどっちなんだ…」
「ちっ、増えやがったな。落ちろーっ」
「って…両手が塞がってちゃ、魔道具が使えねぇな。あ、やべぇ」
 カルキノスは石化の魔法にかけられてしまい、砂浜へ墜落する。
「―…根性で耐えろ、カルキッ。うぐぁあ、お…重い…っ」
 抱えられたまま彼が石になってしまったせいで、淵も身動きがとれない。
 なんとか這い出たが、魔女に冷たい眼差しで見下ろされる。
「チビが相手じゃつまんねーな」
「―…〜っ!?」
 その態度の変貌ぶりに、淵は思考が一瞬フリーズしてしまった。
「オメガ殿、なにゆえそのような乱暴な…。はっ、もしや魔性の毒のせいなのだな」
「ぁあ゛?うぜーな、てめぇー。何ぶつぶつ言ってんだ。脳天カチ割られてぇーのかよ」
「やめるのだ、そのような汚い言葉を使ってはいけない!」
「てめぇも石にされてぇのかよ、オェーゼシャイセ」
 訳してはいけないほど、とてつもない暴言を淵に向かって吐く。
「いたしかたない、力づくでも綾瀬の元へ…。そろそろルカたちがいる海の家に戻っている頃だろう」
 彼女の腕を引っ張り、海の家へ連れて行こうとする。
「淵さん……、引っ張らないでください。痛いですわ…」
「オメガ殿、もしや正気に…」
「んなわけあるかぁあっ」
「うぶっ!?」
 不意打ちをくらったかのように、石化したカルキノスの頭部に頭をぶつけ、昏倒してしまった。
「暴れてやんぜ、ヒャハハハッ」
 魔女は可笑しそうに大声で笑いながら駆けていった。
「起きて、ねぇ起きてってば!」
 2人を放っておけず、斉民は必死に淵を揺り起こそうとする。



 淵が目を覚ますと、魔女の姿はそこになかった。
「気がついたみたいね。あの人はもうどこかへいっちゃったけど」
「そうか…」
 ひとまず海の家に戻ろうと、カルキノスの石化を解除する。
「さんきゅー、いきなりひでぇー目に遭ったな。…おい、どうした?顔が死んでるぞ」
「ルカのところへ戻ろう…。憑依しようとする魔性はまだ、この海にいるはずだ」
 顔を俯かせ、ふらふらと店へ戻っていく。
「おかえりー!どうだった?」
「なんやかんやでさっぱり収穫なかったな。ルカのほうはどうなんだ?」
「いくつか情報をつかんだわ。…あれ、淵…元気ないわね」
「とてつもないもんに遭遇しちまった結果がコレだ」
「ん、何のこと?」
 話がまったく見えず、ルカルカはハテナマークを浮かべたような表情をする。
 カルキノスから事情を聞いた彼女は、かなり驚いた様子を見せたが、すぐに冷静さを取り戻す。
「事情はだいたい分かったけど。今どこにいるか分からないし、1人を重点的に探すよりも、今やるべきことをやらなきゃね。感情のままに動いちゃうと、周りが見えなくなってしまってはいけないもの」
「そう…だな」
「あっ!何か忘れていると思ったら、エースさんが石にされちゃっていたんだわ」
「ふむ、では案内してくれ…」
 まだショックから立ち直れない淵は、虚ろな目で席を立った。
 砂浜で石になっているエースを、元に戻してやる。
「―…オメガさんは!?」
「すまない…、見失ってしまった」
「くそ、グラッジめ。よくもオメガさんをあんなふうにっ」
「クマラはケガをしているのか?ルカのところへ運ぼう」
 うずくまったままのクマラを抱え、パートナーがいるテーブルへ戻る。
「ルカ、治療してやってくれないか」
「分かったわ、椅子の上に寝かせてあげて」
 ぐったりと横たわるクマラの傷を、命のうねりによって治す。
「うぇええん。オメガちゃんがおかしくなっちゃったよーっ」
 起き上がったクマラはテーブルの上に突っ伏し、ぽたぽたと涙を流した。
 向かい側の椅子に腰をかけている淵のほうはまだ憔悴している。
「ずいぶんとワイルドな感じの子だったね」
「普段は大人しい子なんだよ、斉民」
 いつもは暴言や暴力を行わない、魔逆の性格なんだと斉民に教える。
「グラキエス様。店の中で視覚確認の出来ない気配、もしくは気配を感じられない者はいますか?」
「この店の中にはいないようだ」
「でしたら、外へ見回りしませんか?」
「あぁ、じっとしていても仕方ないからな。ルカルカ、海辺のほうへ行こう」
「そうね、行きましょう。…ほら、淵も」
 ルカルカは淵の肩を軽く叩き、探索を行うために席を立つように促す。
「―…分かった」
「エースはここにいて、粗方終わったら呼ぶから」
 まだショックのあまり泣きじゃくっているクマラを放っておくわけにもいかなし、一緒に待っていたほうがよいだろうと判断する。
「そうさせてもらうよ。…クマラ、水でも飲んで落ち着け」
 泣きやまないパートナーのほうへグラスを寄せてやった。



「わりと普通に遊んでいる者がいるな。このような場所で魔性に襲われているとは、とは信じがたい…」
 友達同士やカップルで海を満喫している様子を眺め、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は本当に人格を変えてしまうような魔性がいるのだろうかと呟く。
「公に緊急規制するわけにもいかないからのぅ」
 パニックをさけるために、立ち入り禁止にも出来ないのだろうと草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が言う。
「それに、妾たちが到着する前に、毒によって狂ってしまった者を止める者がいなくなってしまう。死者を出さぬためにも、止むを得ないじゃろう」
 まだ死者が出たという報告はないが、通行規制によって出てしまう可能性があるのだ。
「自殺しようとしている方もいらっしゃるようです…」
 酷くネガティブな人格に変わってしまい、自ら命を絶とうとする者もいるとロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)が告げた。
「まったく…、人をいたぶって何が楽しいのやら。さっぱり理解出来んな」
 幸せそうな者ばかり嫉み、苦しめる根暗魔性の思考回路は、相当捻じ曲がったものだろうとため息をつく。
「喜怒哀楽の感情のうち、哀がないのじゃろう?」
「グラッジのこともそうだが、もう一体の魔性についても調べねばな」
「ふむ、被害者に聞くのが一番じゃな」
 草薙羽純はアークソウルで人々の気配を探知しながら探す。
「ひいふうみ…、…む?気配の数が多いのぅ」
 ビーチボールでドッジボールを楽しんでいる男女の数と、アークソウルによる気配の数が合わない。
 急ぎ確認しようと、フレアソウルの炎による翼で空を舞い、気配の元へ向かう。
「あの者、海で遊ぶでもなく深いほうへ歩いているだけじゃな」
 わいわいと楽しんでいる若者の近くに、独りきりで海に入る者を発見する。
「そなた、独りで何をやっておる?歩いているだけでは沈んでしまうぞ」
「私は沈みたいんだ…、沈んで死んでしまいたい…」
「魔性の毒にやられてしまったのじゃな。早まるな、浜辺へ戻るのじゃ」
「いやだ、死なせてくれ!取引先が急に、別のライバル店に出資するから、うちとは取引しないと言い出して…しかも今まで協力しあっていた他店まで…っ。そのせいで職場は倒産寸前になったあげく、店は原因不明の爆発で失ってしまったし…。もう、生きる意味がないんだぁああ!!」
 毒による侵食だけでなく、呪いによる不幸のせいで赤字だらけになり、職場まで失ってしまったようだ。
「生きていれば再起のチャンスもあるじゃろう?簡単に死ぬとか言うでない!」
「黙れ、お前に何がわかるっていうんだ。ずっと黒字経営だったのに、突然どん底に突き落とされて、もうどうしていいかわからないんだ。死んで楽になりたい…。死ねばもう、面倒なことで悩まなくてもすむからな!」
「甚五郎、この者を止めるのを手伝うのじゃ!」
「やれやれ、服が濡れてしまうが仕方ないな」
 発煙筒を浜辺に置き、海にずぶずぶ入っていこうとする中年の男を浜辺へ引っ張る。
「カメリアさんの花で、毒の治療を行えますか?」
 ロザリンドはカメリアを召喚し、解毒剤を作ってほしいと頼む。
「えぇ、まだ腐敗毒まで進行していなさそうだから大丈夫よ」
「お願いします」
「対象が非物質の魂だから、飲み薬がよいからしらね」
 身体の中から非物質部分へ、浸透させるべきだと判断したカメリアは砂浜に身の丈ほどの木を生やす。
 木にはいくつもの薄いピンク色のつぼみがつき、鮮やかな色合いの花を咲かせた。
 カメリアは指で枝を操作しながら編みこんでポットを作り、ピンク色の花を摘んでポットの中へ入れて、緑色の葉のグラスに注ぐ。
「症状が進行しないうちに、飲ませてあげなさい」
「ピンク色の砂粒のようなものが入っていますね。さきほどポットに入れた花びらがこの状態になったのでしょうか」
 グラスを傾けてみると液体のように、滑らかに揺れた。
「そうよ、ポットに入れることで暖かくすることも可能なの。人はずっと海に浸かってしては、体が冷えてしまうからね。冷えたものなんて、飲みづらいでしょう?」
「ありがとうございます。さっそく飲ませてみますね」
 被害者の魂を痛めつける毒を消し去ってあげようと、ロザリンドは海へ入った。
「そのまま押さえておいてください」
 抵抗しようとする男の身体を、草薙羽純と甚五郎に捕まえていてもらい、解毒剤を飲ませる。
 それを飲んだ男はしだいに大人しくなっていき、なぜ死のうとしたのかはっきりとは覚えておらず、曖昧な記憶に混乱する。
「どうして私は海の中に…?」
「もう大丈夫ですよ、砂浜へあがりましょう。(顔色が悪いようですね、精神までダメージを受けてしまっているせいでしょうか)」
 まともに歩けない彼の顔を覗き込むと、青みがかった色をしている。
 おそらく起きているのがやっとの状態なのだろう。
「呪いの解除や精神の治療は、儂では出来ないからな。ホーリーソウルを使える者を呼ばねば」
 浜辺に戻ると甚五郎は発煙筒に火をつけ、応援要請をした。
 煙を発見したグラキエスたちが駆けつける。
「治療が必要なんだな?」
「あぁ、精神と呪いのな」
「エルデネスト…」
「はい、グラキエス様」
 全てを言わさず、速やかに治療を行う。
「しばらくの間、目を閉じていてくださいね」
 そう告げたエルデネストはホーリーソウルの気で、精神を蝕むものを浄化しようと試みる。
 被害者の身体から黒い霧が抜け出す。
「(邪気の浄化は成功しましたね。では、呪いの解除を…)」
 休まず不幸を招く呪術の解除を行った。
「(また蛇のような影が現れましたが、これはかけた相手の性格などを模したものでしょうかね)」
 対象者の首を締めつけ殺そうとしているかのように、巻きつく影へ視線を落とす。
 影は褐色の首筋から離れ、不幸のどん底に落としきれなかった悔しさのあまり、海の家で聞いた言葉と同様のセリフを吐いて消え去った。