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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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第6章 リア充なんて大嫌い、リア充、地獄へ落ちろ! Story4

 エリドゥに到着してからグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)は、ずっと宿屋の椅子に腰をかけている。
 イルミンスールから“とある人物”を呼び出したため、ここでその者を待っているのだ。
「来たわね」
 愛想のない声音で、長い黒髪の少女を出迎えた。
 彼女はグラルダのパートナーであると同時に、魔術の師でもあり、道具だった。
 グラルダは目の前の少女を、“シィシャ”と呼んだ。
「はい」
 シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)はぽりと一言、抑揚のない返事をグラルダに返す。
 喜怒哀楽のいずれかの表情に無該当な、人形のような無表情な顔をパートナーに向けた。
「時間が惜しいわ、始めるわよ」
 無駄な雑談をせず、ただそれだけ言葉を交わすと、2人の教師が待機している部屋へ先導する。
 グラルダが自ら学ぶ貴重な時間を減らしてまで、シィシャを呼んだ理由はスペルブックの扱い方を学ばせるためだ。
 無論、長々と指導するつもりはなく現場での実戦で使えるように、ここで習得させるのだ。
 シィシャに“免許だけは貰っておけ”と命じていたが…。
 今更、エクソシストの心得を説くつもりはまったくない。
 そんなもの免許を会得する際、教師に教えてもらったのだから“覚えていない、教えてほしい”などと、甘ったれた根性を許すグラルダではない。
「アタシが学んできたエクソシストの術と経験の全てを、これからアンタに叩き込む」
 別段、シィシャに期待という感情を向けてもいない。
 パートナーにやるものは、“ただの命令”のみ。
「与えられるだけでなく、自分のモノにして見せなさい」
 その“命令”に、シィシャは無表情で頷いた。
 他人に教えることは、グラルダ自身の知識を再確認することにもつながる。
 指導はシィシャのためであると同時に、自らの知識をより深めることにもなるのだ。
「初めから共に行動していれば、このような手間を取らずとも済んだのではありませんか?」
 シィシャは自らの意思では行動せず、常に彼女に付き従っている。
 皮肉を含んだ堅苦しい口調でグラルダに問う。
「思慮が浅はかだったと反省はしてる。でも、過ぎたことよ」
 その言い回しを好む、唯一のパートナーの態度に気分を害することなく答える。
「後悔はしない、と?」
 グラルダが発するであろう言葉を先読みすると、パートナーは“当然”と返答した。
「アンタはアタシの指示に従えばそれでいい」
「貴方が私に適切な指示を与えるならば構いません」
 シィシャがそう告げると、グラルダによるハイリヒ・バイベルの特訓が始まった。
「これはその辺で拾った石だけど、これを魔性に憑依されたモノだと思って的にしなさい。まずは何も言わないで、アンタのセンスを見てあげるわ」
「(免許を得るために、教えられた感情…。それを元に、術を行使)」
 己の思考の願望・雑念を全て心の奥底へしまいこみ、哀切の章のイメージに合わせた言葉を唱えてみるが…。
 章から発せられた光が拡散してしまい、的に命中せずに消えてしまった。
「―…失敗ね」
「もっと具体的に、適切な指示を与えてくれませんか?」
「術はただ使えばいいっていうんもんじゃない。発動した時の形状をイメージしろ。基礎形状の波・嵐のパターンをやってみなさい」
「初めからそれを言っていただければ、拡散して消えるだけの流れにはならかったかと」
「ただ単純にうつとはね」
 失敗することは予想通りとはいえ、たいしたイメージの具現化もない様子に、グラルダは眉間に皺を寄せてため息をついた。
 シィシャは彼女の態度に逆らったり、苦情を言ったりすることもなく、与えられた指示通りに光の波をイメージし、的を目掛けて放つ。
 的は光に飲まれたがそれが消え去った後、的を見てみるとまったく傷がついていない。
「―…失敗ということでしょうか」
「いいえ、成功よ。的に傷をつけていたら、ある意味“失敗”の部類に入っていたわ。その意味は、アンタの頭で考えてみなさい」
「はい…理解しました」
 シィシャは納得したように頷く。
 その言葉から、魔道具とは器を傷つけてはならないものなのだと、簡単に回答が導き出せた。
 器の代わりであるモノを傷つけてしまったら、グラルダが言うように“失敗”ということなのだ。
「休んでいる暇はないわよ。次は嵐のパターン」
「―…はい」
 2度目の術の行使でこつを掴んだシィシャは、思考で“嵐”の形状をイメージする。
 一見、荒々しくも見えるがそこに害意はなく、ただ指示通りに術を行使。
 的は1ミリも動かなかったが、それも失敗ではない。
「アンタが使っている哀切の章に風力はないから、あくまでもイメージよ。基礎を応用することで、そこから別の形状や操作を行えるわ。ただ、形状を維持して効力を保つためには、かなりの修練が必要よ」
「自分のものにする…ということですね」
「そうよ。手足を扱う感覚でやることも必要となってくるわ」
「ですが、初期の段階である私は、基礎を完璧に取得しなければなりません」
「アタシの指示を無視する気?」
「―…いいえ。ただ、自分の力量を図り、行使する必要性があります」
 無理だと諦めたわけでも、ましてやグラルダの指示を無視してもいない。
 力量以上の過ぎたマネはしない、ということだ。
「それでいい。今はきっちり基礎を固めなさい」
「はい…」
 無表情かつ簡潔に返事をし、シィシャは祓魔術の特訓を続けた。



「校長先生、町の外で練習してもいいですか?」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は外出許可をもらうと、エリザベートに声をかける。
「今、他の生徒さんが実戦を行っていますし〜。この町はグラッジたちがうろついていますからぁ、私たちが待機している宿の中で行ってくださぁ〜い」
 前回の村とは異なり、魔性の悪霊にいつ狙われるかわからない町中や海辺では、練習に集中出来ないだろうと許可を出さなかった。
「ボクたちみたいに居残り組みが集まる場みたいだし、問題ないんじゃないの?術の雨で、室内がびしょ濡れになるわけでもないからね」
 生徒用の部室よりも広めな空間ということもあって、練習するのに不便はないだろうとリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)が告げる。
「今は実戦をやるわけじゃないし。このメンツだと、私と磁楠以外は狙われる可能性が高いものね」
 歌菜に呼ばれて来たカティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)が、嫉まれそうな恋人たちを見て言う。
「羽純、そんな目で見ることないでしょ?それより、ちゃんと歌菜を守りなさいよね」
 余計なフラグを立てるな、と言いたげな視線に気づきつつも、うっかり目を離してた…じゃ済まされないのよ?と月崎 羽純(つきざき・はすみ)に釘を刺す。
「…誰に向かって言ってる」
「陣もリーズちゃんを守るのよ、グラッジってリア充を狙うんでしょ?」
 羽純の言葉を無視し、七枷 陣(ななかせ・じん)にも言う。
「当たり前や!(…って、人格変わっても、やられることは同じなんかなぁ…)」
 ハードにいじられるか、ツンツン化したリーズに、スーパーハードにいじられるかの違いなんだろうかと想像してみる。
「アイデア術は呼吸を合わせなきゃね。手を繋ぐのもいいけど、抱き着くのはどうかしら?歌菜やジュディちゃんにぎゅーってね☆」
「バカ言うな。相手の攻撃などを避けなければいけない時、どうするつもりだ」
 身動き出来ない状況を見て、真っ先にやられるだろうと羽純がカティヤの提案を却下する。
「その場合、お前じゃなくって2人がヤバイことになりかねない」
「冗談よ。そんなに怒らなくたっていいじゃないの」
「(ふむ…小僧に来いと言われて渋々来ては見たが…エクソシストの訓練か)」
「お互い新人同士、頑張りましょうね、磁楠」
「ん?…ぁあ、そうだな…。(正直私に務まるかは分からんが…まぁ、やれるだけはやってみよう)」
 自分であった者が術を行使出来るなのなら、問題なくやれるだろうと陣たちに協力してやる。
「アイデア術に必要な魔道具は、アークソウルとエアロソウル、それと裁きの章や」
「バイベルの担当は、今のところはジュディだけか」
「オレたち3人はペンダント担当やし。術名はレインオブペネトレーションや。オレら宝石使いが、スペルブックの章に効力を送って…それを混ぜ合わせて、発動させる感じやね。ぁー、効力を送るといっても、それを使うってこととは違うんや」
「宝石の元々の効力を、私たちが使えるようになる…というわけではないんだな?」
「そうやね。アイデア術の効力のみ、扱うっつーことな。それで…」
「ねぇ、歌菜。この宝石可愛いわね」
 陣が真面目に、術について仲瀬 磁楠(なかせ・じなん)たちに教えているのにも関わらず、カティヤの思考は早くも脱線し始めている。
「宝石可愛いですよね♪」
「ぉおおいっ。人が話ししてんのに、ちゃんと聞いて!!女子トークは後にしてほしいんやけど…」
「あ、ごめん♪」
「女子の会話…、略して女子会だね!」
 リーズはにゃははっと笑い、新たな略語を作る。
「なんかもう、いきなりグダグダ感が…」
「陣、続きを話してちょうだい」
「んで…、この術の効力は不可視の魔性の姿を、見破る術なんや。術者ならエアロソウルを使わない者でも、見ることが出来るようになるんやけど、見えるのは普段の視力範囲な。それ以外の者はぼんやりと、見えるようになるんやけどこっちも視力範囲のみや」
「今後、通常の視界領域以上で、確認可能になることはあるの?」
「おそらく無理やね。魔道具に千里眼的な効力はないからなぁ。アイデア術についての説明は、ざっとこんな感じや。本はジュディに教えてもらってくれ」
 説明を終えた陣は椅子に腰をかけ、レクチャーが終わるのを待つ。
「カティヤ、磁楠。聞き逃すでないぞ?不の感情での術の行使は、魔道具の効力に影響を及ぼす。章による詠唱ワードは、その章に合わせたものでないとならぬ。哀切の章による術の基本形状は、波や嵐じゃな。裁きの章は雨じゃ。イメージによる形状変化や、ある程度の操作は可能じゃ」
 ジュディ・ディライド(じゅでぃ・でぃらいど)は今まで学んだことを、2人に話して聞かせる。
「経験を積まぬと、形状維持は長く保てぬ。だが、対象に恐怖を与えるものは思わぬ事態を招きかねぬため、注意が必要なのじゃ。どんなに集中しても、多少の痛みは与えることになる。痛みを与えなくすることも可能じゃが…その分、威力が下がってしまう」
「実際の場で試すことは危険ということね」
「うむ、敵前で精神力が尽きてしまうと、他者に負担をかけてしまうからのぅ。スペルブックには目次のようなものがあるのじゃが。それを読み解き、使いたい章のページを探すのじゃ」
「裁きの章のページはこれか?」
「そうじゃな」
 磁楠のスペルブックを覗き、該当ページかどうか確認してやる。
「アイデア術と違って、雲は発生せぬ。どの章も必ず、術が命中するわけではない。1体に対して酸の雨を降らせるため章のみの効力を扱う際、他者と協力して追い込んだりするとよいかもしれぬ。ふぅ…基礎的な説明は、こんなところじゃな」
「レクチャー終わったんか?」
「試してみるのもよいが、今はアイデア術の修練を優先せねばな。…今度も気合いで頑張るのじゃぞ、アルト、ネーゲル!」
 ジュディはアルトとネーゲルを手招きし、人形を持たせる。
「ボクは引き付け役だね」
「役立つのか?」
「まー、挑発に乗ってくるレベルまでかもだけど、今のところはなんとかね♪陣くんたちが術を発動するまで、時間稼ぎをしなきゃいけないからさ」
 首を捻る磁楠に、誰かがやらなきゃいけないことだから、と言う。
 バーストダッシュで室内を駆け、アルトとネーゲルを引き付ける。
「以前の練習では術者同士で手を繋いでみたんだよ。カティヤさんは初めてだし、これやってみようか」
「またやるのか」
「もちろん♪本番は危ないって思ったら手を離せばいいし」
「そんな調子で大丈夫なのか…?」
 手を離しても離れすぎなければ、問題なく術は発動するだろうが、不安要素満載だな…と言いたげにため息をついた。
「いいんじゃない?練習だし」
「カティヤ…、お前も少しは危機感を持ったらどうだ?」
「いざとなったら、羽純が助ければいいでしょ♪」
「はぁ〜…。まぁ、助けるには助けるが…」
 言い出したら聞かないところがあるし、ここで試す試さないの討論しても時間がもったいない。
 しぶしぶ歌菜の提案に付き合ってやる。
「あら?本を持っていると、手が繋げないわ」
「そりゃそうだろう。スペルブックは両手で使うんだからな。大事なことだから繰り返すぞ、本は両手で使うものだ」
「隣の人に、腕を掴んでもらうのは?」
「何かあった時、いきなり引っ張られたりしたら危ないだろ。バカ言ってないで、集中しろ、集中」
「宝石を使う人同士だけ、手を繋ぐってことね。ん〜、残念ね」
 カティヤは寂しそうにしょんぼりとする。
「最初は詠唱ワードを唱えるのが遅れてもいいから、後から続けて読むんだ」
「分かったわ♪」
「まずは俺たちからだな」
 “魔を貫く雫よ…。”
 羽純たちはアークソウルの大地の魔力を、ジュディ、カティヤ、磁楠が抱えているハイリヒ・バイベル、裁きの章のページへ送り込む。
 “魔の匂いと魔の真実を暴く元素を抱き、天へ駆け昇り…弾けて混ざれ”
 ペンダントの中のエアロソウルが淡く輝き、本に目に見えぬ者の姿を見破る力、黄緑色の光が章に飛び込むように吸収されていく。
 “混ざりし雲よ、我らに全てをさらけ出す豪雨を降らせよ。セット、レイン・オブ・ペネトレーション!”
「―…ってことだ。まぁ、不発だったな」
「えー…失敗?」
「イメージを掴むためだ、問題ない。今度はちゃんと、言葉を重ねて唱えるんだ」
「次は遅れずに唱えるなきゃいけないのね?」
 手順を思い出しつつ、羽純に教えてもらったことをしっかりメモを取る。
「ただ降らせるってわけじゃない。アルトとネーゲルに命中させるんだ。2人は機械に憑くものじゃないから、加減は無用だ」
「ふむふむ…」
「カティヤたちが宝石を使うとしたら、こちらのパワー調節が必要だが、今回は本だから問題ないだろう」
「アルト、ネーゲル。ラウンド2じゃ♪」
 ジュディの声に2人は再びリーズを追いかける。
 互いに声を重ね合って唱え、アルトたちの真上へ雨を降らせる。
「今度はちゃんと命中したわね」
「うむ。次はアルトとネーゲルが、詠唱中に襲ってくるのじゃ」
「ボクは護符で近づけないようにしてみよう♪」
 スピードを緩めたり、疲れた時はバーストダッシュを使わずに、接近して護符を投げてみようと試みる。
 アルトとネーゲルは人形を抱え、ジュディたちに体当たりしようと向かってくる。
「へへんだ、邪魔させないよ。ていっ」
 リーズが人形に祓魔の護符を投げつけると、2人はわざとよろけた様子を見せつつ、再びジュディたちを目掛けて突進する。
 注意を引き付けていると、3人のスペルブックの章から黒い霧が噴出し、黒い雲となって広がっていく。
「(むむっ、術が発動するっぽいね)」
 黒い雲を見上げたリーズは、もうすぐ降ってきそうだと気づき、アルトたちから離れた。
 雲から降りしきる雨にアルトとネーゲルは、またもや全身命中してしまったが、術による外傷はまったくない。
「はぁ〜…ちょっとだけ休憩…」
「まだだ、リーズ」
「へ?でも…」
「今へばったら、今日のリーズの夕飯は全部オレのものや」
「やだぁああ!!ぶぅ〜、陣くんのいじわるぅ」
 カノジョをこきつかうカレシに対してブーイングをする。



「ふにゃぁ〜…、もうへとへとだよ」
 走るスピードを下げたりしてみたが、何度も練習に付き合ったため、リーズはくたくたに疲れてしまった。
「リーズちゃん、何か作ってあげるわね♪」
「わぁ〜い、ごはーん!」
「食べている暇なんかあるのか?」
「なかったら事件を解決した後ね、羽純くん」
「のんびり夕飯を食べている場合でもなさそうだからな」
「ほぇ〜〜、そんなぁー」
 まさかの事態にリーズはくにゃ〜んとへたりこむ。
「せ…せめて味見だけでもーっ」
「じゃあ…味見よろしくね♪」
「私もなにか…」
「カティヤは料理を手伝うな」
 せっかくの手料理も、すぐに台無しにする台無しクイーンのカティヤは、キッチンへ行くなと睨む。
「なにかってところまでしか、言ってないじゃないの」
「言わなくても、目がキッチンのほうを見ているだろ」
「てへ、バレちゃった?」
 こっそり行こうとしたが羽純に見つかり、ぺろっと舌だして見せた。
「ぶりっこするな。いいか、絶対に…キッチンに入るなよ」
「運ぶだけなんて、つまらないわねぇ…」
 カティヤは暇そうに、しょぼーんと椅子に腰掛けた。
「材料は冷蔵庫にあるし、おでんにしようかな」
「この気候で暑いものってどうなんだ?」
「だから、塩味のさっぱりしたやつにするの。羽純くんは、鳥の手羽先に塩をすりこんでおいて。私はこっちのインゲンと、たまねぎ担当ね」
 歌菜はインゲンの節を取ってざくざく切り、たまねぎのほうはくし切りにする。
「トマトの皮は湯むきして、カボチャは食べやすい一口サイズに♪羽純くん、手羽先のほう終わった?」
「あぁ、次は何をすればいい?」
「そこのフライパンにサラダ油をひいて、手羽先の表面に色がつくまで焼いて」
「分かった」
「うわぁ〜いい匂い♪」
 じゅうじゅうと焼けていく手羽先の香ばしい香りに、リーズは鼻をひくつかせる。
「卵も鍋にいっぱいを入れておこうっと。あ、土鍋のほうの準備もしなきゃ!」
 コンロの上に鍋を置き、水と粉末のダシを入れて沸かし始める。
「もう茹であがったかな」
 熱々の卵を菜箸でつまみ、表面を水で冷やして殻をむく。
「羽純くん、それ焼けたら土鍋に入れておいて」
「たまねぎとかは、まだ入れなくていいのか?」
「それもお願い!ふぅ…このまま15分間、煮えるのを待たなきゃね」
 数分後…。
「―…15分経ったかしら。卵と残りの野菜も投下ーっ」
 土鍋に残りの食材を入れて煮続ける。
「よし、もう食べられるわよ!」
「以外と早く出来るものなんだな」
「羽純くんが手伝ってくれたからね♪本当はダシが染み込んだほうが、もっと美味しくなるんだけど…」
「もう待てないよ!」
「リーズちゃん、味見してみて」
 はらぺこ少女におでんをよそった器を渡す。
「いただきまーす♪はふはふ〜…熱いけど美味しい!」
「おいリーズ、食べすぎるなよ」
「いくらでもいけちゃうよ」
「ちょ、おま…っ。この後、現場出るのわかってんのか?横っぱら痛くなってもシランぞ」
 カノジョが“走れないよ〜!”と騒がないように、心配して注意しているのが…。
 カレシの言葉をシカトし、カノジョはおでんを食べ続ける。