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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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第9章 リア充なんて大嫌い、リア充、地獄へ落ちろ! Story7

「いやぁ〜、それにしてもリア充を狙う魔性だなんて予想外も良いところよね…。っていうか、魔性にも恋愛感情ってあったことに驚きだわ」
 フレンディスたちに襲いかかってきたことを考えると、やはり人間のように恋愛意識があるのだろうかと、漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が言う。
「―…さぁ、どうでしょう。本当にそんなものが存在するのか…」
「だってそうでしょう?恋愛感情が無ければ他者を観て、嫉妬する気持ちが沸いてくる訳ないでしょうからねぇ…」
「ただ単に、壊して面白がりたい…というわけでは?」
「確かにねぇ、それもあるかも。だけど、それがあるってことは、恋愛がなんなのか理解してるってことよ」
「リア充イコール、恋愛というわけでもありませんよ。友達関係、仕事など日々の現実生活が充実している人のことですから」
 ドレスの発言に綾瀬が真面目に語る。
「つまり、私たちもそれに該当してしまいます。フフッ」
「何その笑い、怖いんだけど…」
 “あなたも気をつけなさい”と言いたげな態度に、ドレスは声のボリュームを下げる。
「そろそろ、ルカルカさんたちのところへ戻らない?」
「えぇ、あちらも被害者を発見する可能性がありますし。…あぁ、その際は発煙筒で知らせますわ」
「分かった。発見したらすぐに知らせてほしい」
「ではまた後ほど」
 グラキエスにそう告げると、綾瀬はルカルカたちがいる海の家へ向かった。



「リア充を憎むあまり海から離れないなんて、お約束のアレかしら。“海のバカヤロウ”的な?」
「真夏の太陽のバカヤロウってのもあるな、ルカ」
 ルカルカの小ネタにカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が乗っかる。
「それなんて青春ドラマみたい」
「青春爆発しろってか?」
「なんか若者だけがターゲットだけじゃないみたいだけどね」
「コントはそれくらいにして、真面目に聞き込みをしろ」
 毎度のことながらダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が強制的に幕を閉じ、さっさと調査を始めるように促す。
「はぁ〜い」
「俺たちは浜辺で聞き込み兼、見回りだな」
「な、何をする!?」
 いきなりカルキノスに抱えられた夏侯 淵(かこう・えん)が、足をばたつかせる。
「砂に足をとられるとめんどくさいからだ。空からのほうが、周辺の様子も把握しやすいだろ?」
「ふむ…確かにな」
「んじゃ、行くぞ」
 軽くて運びやすい、という利点を言うとキレられるため、全ての理由を告げることはなかった。
 カルキノスは羽を広げ、空飛ぶ魔法で海や砂浜の調査を始めた。
「あまり遠くに行かないでよー!…大丈夫かしら」
「勝手に離れたらどうなるか想定出来るはずだ、そんなヘマはしないだろう」
「ん〜…」
「俺たちも聞き込みを始めるぞ、ルカ」
「お客さんにでも聞いてみようかな。あの、ちょっといい?」
 ルカルカはシャーベットを食べている町娘に声をかけた。
「誰もいない時とか、誰かと喋ったり一緒にいる時に、そこにいる人以外の声とか聞いたりしてない?」
「もしかして、お化けのたぐいの意味で?」
「うん、そういうことがあったら、教えてもらえるかしら」
 目に見えない何者かの声が聞こえたか聞いてみる。
「家にいる時、お皿が何枚も飛んできたりしたことはあったも」
「うちは耳元で…女の人の声が聞こえたかな…」
「(前者はグラッジの仕業だろうな)」
 テーブルにパソコンを置き、ダリルは異変情報を記録する。
「それはどこで聞こえたの?」
「海辺で遊んでた時、海に入れるやつは皆死ねって聞こえたの。誰がそんなこと言ったのか、友達に問いただしても自分じゃなっていうのよ。うちもよっちゃんたちが、急にそんなこと言うなんておかしいなぁーって思ってさ」
「結局、誰が言ったのか分かった?」
「えぇ…。犯人を捕まえて文句言ってやろうって探してみたのよ。でさ、砂浜のほうで女がうちらのこと、めっちゃ睨んでたの!こいつだって思って追いかけたら、目の前で消えちゃったのよ。あれって幽霊だったのかなー…」
「どんな雰囲気の人だったか覚えてる?」
 例の魔性を目撃したのだろうか質問を続ける。
「ここら辺では見かけない感じだったわ。髪の毛が物凄く長くって、着ている服が…水で出来ているような…」
「―…水?」
 聞き返すと水着を着た女が“そうよ”と返答した。
 砂浜のほうでは…。
「海が近いということは、海産物を使った料理もありそうだねぇ。調査の合間に料理でもみるかなぁ」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が屋台でもないか探し歩いていた。
「妬む心を持った人が増えたあと、不幸な人も増えたんだよね。もしかして、妬む心が呼んだのかな。最初の魔性を追っかけてきた…とかないよね」
「えー、それはないんじゃない?日々が充実している人ばかり狙われているわけだし」
「そうなのかな…。で、また何やってるの?」
 “私で訓練をしている”のかと思い、彼のペンダントの中にあるアークソウルを睨む。
「他の種族も色別化を出来ないかなってね」
「へぇ〜…」
「獣人は橙、魔女は緑、魔性は赤。イメージ、イメージ…広がるイメージ」
「魔道具の訓練か?」
 エースは淡く光るアークソウルを眺めながら言う。
「今も魔性が幸せな人を狙っているっていうし、人が憑依されていたら探知にはひっかからないから実戦を兼ねてね」
「魔女ならオイラがいるよ。遠慮なく試しちゃっていいよ!」
「ありがとう♪」
「なんにしても、対象が探知範囲内にいないとね。こうまばらだと微妙よ、弥十郎」
 もっと人がいるところじゃないと訓練にならなそう…と、賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書がツッコミを入れる。
「む、なんだよ…。そういう斉民は、何か習得しようとしないの?」
「そうね、私も何かやってみようかな。透明な炎なら、魔性も油断するかも」
 フレアソウルの炎を透過してみようとチャレンジするが…。
「んー…。(透明、透明な炎…。色別出来ない色、黄色……ぁっ)」
 “黄色”という雑念で赤色の炎しか出せなかった。
「弥十郎のせいだよ」
「へ、なんでワタシのせい?」
 パートナーに睨め付けられ、ハテナと首を傾げた。
 恨まれるようなことをしたのか記憶にない。
 ―…むしろ村でプレゼントをしたから、全て方がついたと思っていた。
「黄色のせいで上手くイメージ出来ない」
「ぇぇえー?なんていうか透明は…、さすがに無理があるんじゃないかな。元々の効果に付属させるような感じがするし」
「うぅ〜…」
 あっさり否定され、頬を膨らませた。
「そこに屋台があるよ、何か分かるかも」
「情報収集が先だからね」
 料理研究に没頭しないように釘を刺す。
「わーい、美味しいもの食べたい!」
「クマラも食べるのは後な」
 屋台で食事する気満々のクマラをエースが捕まえる。
「あのー、すみません」
「はい、何名様でしょうか?」
 店員らしき褐色の肌をした若い女が弥十郎に声をかけた。
「2人です」
「ちょっと弥十郎!」
 先に聞き込みをしなさい、と彼を肘でつっつく。
「あっ、そうだった。ちょっとお話を聞きたいんですけど」
「何でしょうか?」
「最近、運が悪いな…不幸だなって思うことはありませんか?」
「んー…。店にいらっしゃる人が減ってしまったことですかね。この前なんて少し店を離れた隙に、売上金が全部なくなっていましたし…」
「不幸に会う前に何かありませんでしたか」
 人の入りが減ったりお金を盗まれる前に、異変的なものがなかったか聞く。
「店をバイトに任せて、料理を浜辺にいる人に届けに行って…戻った時ですね」
「それって、海に行った時ではないですよねぇ」
「えーっと。海…というか、ここは海の家ですからね。元々、かなり近いですよ。まぁ、浜辺で料理を届けた…という時点で、海に行ったと同じようなことかと」
「海に行く時、身に着けてはいけない色とかないですよね。緑色とか」
「いえ?海に着て行くと、危険な色とかはありませんね。白とかカラーシャツとか以外に、緑色の服を着て行く人もいますから」
 店主はかぶりを振り、着ているものは関係ないと告げた。
「こんにちは、お嬢さん。俺も聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「はい、何でしょう?」
「―…不幸なことが起こる前、何か見たり聞こえたりしなかった?」
 花を渡して軽く挨拶し、魔性について探ろうとエースも質問する。
「注文の料理を届けた後、若い女の声が聞こえたような…。“海岸沿いに住めていいな…そんなところに住んでるなんて生意気だ”とか…。凄く一方的に怒った感じでした」
「お嬢さんに無礼なことを言った相手の姿は見たかな?」
「えっと。水の塊のようなものが、すぐ後ろにいたんですが。いきなり弾け飛んで消えてしまいました」
「それで不幸なことはまだ続いているかな?」
「えぇ。今朝も新鮮だった食材が、冷蔵庫の中で痛んでいたり…。サソリに刺されてしまったりとか…。バイトの子が町の病院に運んでくれたので、助かりましたけど」
「いろいろ教えてくれてありがとう、お嬢さん」
「エースが、お礼に何か注文したい、と言ってるよ」
 まだ何も言っていないのだが、待ちきれなくなったクマラがメニューを掲げる。
「言ってないから、何も。貴重な商売時間をもらってしまったし、頼んでもいいぞ」
「わーい、やったー♪じゃー、この店のデザート全種類!」
「無理。ていうか却下」
「ぶぅー…。じゃあー…このぎょうざっぽいのにする」
「ワタシも頼もうかな。6番の魚料理と3番の肉料理をお願い」
 弥十郎は壁のメニュー表から選ぶ。
「私は2番のパスタにするわ」
「かしこまりました」
 3人から注文を受けると店長は厨房へ入った。
 しばらくすると娘は料理をトレイに乗せ、4人が待つテーブルへ戻ってきた。
「おにゃかすいたぁー…」
 一時間以上も待たされたクマラは、切なげにお腹の音を鳴らした。
「も、もうしわけありません。コンロの火が突然強くなって…、焦げて失敗してしまったので作り直していたんです。お料理の味付けをしていた時なんて、塩の蓋が開いてしまって…フライパンにたくさん入ってしまったり…うぅ…」
 不幸の呪いが続いているらしく、何度も失敗してしまったようだ。
「カリカリしてて、中にナッツとかいっぱい入ってる!」
「アタイフ…エジプトのお菓子かな」
 研究のために弥十郎もつまみ、メニュー表を見る。
「1から作ると50分ほどかかるため、生地だけは開店前に作っているんです」
「でも甘みがあるね?」
「揚げた後、少しだけシロップにつけるんです」
「おいしぃー♪」
「へぇ〜…。ワタシが注文したほうは、たまねぎやトマト…パセリとかたくさん入っているね。ふむふむ、お肉はひき肉を使っているんだねぇ。こっちの白身魚の料理の魚は、ボイルしたのかなぁ。ほぅ…クミンも入ってるね」
「サイアディアは17分ほどあれば作れます。海岸沿いに住む人たちが、好んで作る料理なんですよ」
「かなり短時間で出来るんだねぇ」
 透き通るように美しい海というだけあってほとんど臭みがない。
 説明を聞きつつ料理を堪能する。
「大きなフジツボみたいだけど、コレ美味しいなぁ」
 斉民は弥十郎が夢中で食べている隙に、彼の皿にこっそりムール貝を忍ばせた。
「なんだろこれ…。ぶにぶにしてるけど…」
「すごく美味しいよ、食べてごらん」
「ん…。んんー!?うわぁああぁあ!!?」
「はいはい、食べたものを戻さないようにね。はーい、おいしーおいしー♪」
 弥十郎が皿に戻さないように、彼の口を両手で動かして身を噛ませ、しっかり味を広げてやる。
 ムール貝の身が苦手な弥十郎は、無理やり食べさせられ悶絶する。
 いつも弥十郎にやられているため、仕返ししてやったのだ。
「どう?おいしーでしょ?」
「ぅう…」
「まさか店の人の前で美味しくない、なーんて言わないよね?」
「お…美味シイ…デス」
 “不味い”とは言えず、棒読みに答える。
「もっと食べてよ」
「や……、もうお腹いっぱい」
「何、美味しくなかったわけ?」
「そ、それはー……」
「食べさせてあげようか。はい、あーん」
「やだ、やめてよ。食べ物でいじめちゃいけないんだよ…。って、むぐぅう!?」
 またもや食べさせられてしまい、涙目を流しそうになる。



 店主の呪いを解除出来る者を呼ぼうと、エースは発煙筒に火をつけた。
 海の家外から立ち昇る煙を見たグラキエスたちは海の家へ急行する。
「外にいないということは、この店の中か…」
 グラキエスが扉を開けると、エースの姿を見つけた。
「呪いにかかってしまった者がいたのか?」
「あぁ、この店の店長さんだ」
「エルデネスト、呪いを解除してやってくれ」
「かしこまりました、グラキエス様。そこのあなた、しばらく動かないでもらえますか?」
 警戒されないように、女店主の傍へゆっくりと寄っていく。
「あなたの身に起こる不幸を、消してあげましょう」
「私の運が悪くなってしまっただけでは…」
「いいえ。不幸の素が、あなたの運気を低下させてしまっているのです。あまり説明していると、またよくないことが起きてしまいそうですから始めますね」
 片手で店主の視界を覆い隠し、ホーリーソウルの聖なる気を彼女の身体の中へ送り込む。
 褐色の肌の表面に毒蛇の形をした影が現れた。
 影は女の首に噛み付き、離れようとしない。
「(しぶといですね…。もっと深く…光の気の流れを…)」
 浄化の力をさらにそそぎ、白き光で影に絡みつかせて拘束し、身体の外へ引きずり出す。
 “ウゥ…ァアァ、シ、シネェ、コロシ…テ…ヤ……ル……ッ。”
 毒蛇を模った影はそう呟き消滅した。
「今、誰か恐ろしい言葉を…!?」
「―…それは、あなたの気のせいです。店に流れてくる風の音ではないでしょか」
 パニックになりかかる店主を不安にさせないためにごまかす。
「これで、もう不幸に悩まされることはないでしょう」
 エルデネストは目隠ししていた手を退け、店主から離れた。
「他に何もなければ、俺たちは他の者の様子を見に行くが…。魔性の探知役がいないまま、行動している者もいるだろうからな」
「今のところは大丈夫だ、ありがとう。店の中でルカルカたちを見かけたから、同行してやってくれないか?」
「あぁ、分かった。…あのテープルのほうか」
 金髪の娘を見つけ、グラキエスは中央テーブルのほうへ向かう。
 そこにはルカルカと合流した綾瀬の姿もあった。
「俺たちは外で聞き込みを続けないか?俺とクマラはスペルブックを使ってるから、ついてきてもらえるとありがたいんだけど」
「うん、いいよ」
「―…うぇー、また外?暑いよぉー」
「我慢しろクマラ」
「冷たいものがほしぃー…」
 天井でシーリングファンが回っている、涼しげな空間からしぶしぶ出る。
「向こうのほうが騒がしいな、なんだろう?」
 きゃーきゃーと悲鳴が聞こえ、エースは海辺へ視線を移す。
 彼の視界に飛び込んできたのものは…。
「そんな…、まさか…っ」
 青色の髪、青みがかった水色のローブを纏った魔女の姿。
 15歳ほどに見える魔女が、ビーチバレーをしている娘たちを石に変えてしまっている。
「探知出来ないってことは、グラッジに憑依されてしまっているんだね」
「このっ、オメガさんから離れろ!」
「オマエも、石になってしまえっ」
 エースの声に気づいたグラッジは魔女の体を操り、石化の魔法…ペトリファイを放った。
「そ、んな…、オメガ…さんっ。……っ」
 詠唱を終える前に、石にされてしまう。
「悪霊め、オメガちゃんから出て行け!」
 クマラは裁きの章を唱えて酸の雨を降らせ、魔女の中から魔性を追い出そうとする。
 相手は少しでも魔法の抵抗力を失いたくないと判断したのか、あっさり離れた。
「タスケラレナイ、タスケラレナイ。クククッ…ゲハハハッ!!」
「逃げちゃうわ、弥十郎」
「店から術者を呼んだとしても、とどめおく手段がないしなぁ。それよりも、この場をなんとかしなきゃ」
 魔性は離れたが、状況がよくなったとは言い難い。
 青い髪の魔女は顔を俯かせ、止まったまま動かない。
「クマラくん、近寄っちゃ危ないよ」
「だってオメガちゃんを助けなきゃ!―…オメガちゃん、オイラのこと覚えてるよね?」
 立ち尽くしたまま動かない魔女の元へクマラが駆け寄る。
「今、皆を呼んで助けてあげるからねっ」
 彼女の手を掴み、海の家へ連れて行こうとするが…。
「そなた…、邪魔ですわ」
 少年の姿を映すサードニックス色の瞳は暗く、低い声音でぽつりと言う。
「ぇ…?」
「失せやがれぇーーっ」
 普段の彼女の口調と異なり、乱暴な言葉を吐き捨て、少年の腹を力いっぱい殴る。
 クマラの小柄な体が宙を舞い、砂の上に落ちる。
「人ぶん殴るのっておもしれー、あはははっ。あばよ、ばぁああか!」
「けほっけほっ!ぅう…痛いよぉお…」
 苦しげに咳き込み、小さくうずくまる。