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タイトライン:ヘッドマッシャー3

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タイトライン:ヘッドマッシャー3

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【十二 最後に笑ったのは】

 乱戦の中、気が付けば、エリステアの首から上が、消えてなくなっていた。
 最初に大講堂に現れたヘッドマッシャー・メルテッディンが突如姿を現し、ブレードロッドを駆使して、その名の由来通り、エリステアの頭部をすり潰してしまったのである。
「し、しまった……!」
 レオンは愕然と、鮮血を噴き上げながら崩れ落ちるエリステアの亡骸を見つめた。
 対する源次郎はやっと仕事が終わったといわんばかりに、ひとつ小さな背伸びをしてから、首を左右に振ってぽきぽきと関節を鳴らしている。
「あー、終わった終わった。帰ってコーラでも飲むか」
「おっさん、マジでコーラばっかりだな……」
 もう何度目になるのかと、自分でも数えるのが嫌になってはいたが、矢張りそれでも竜造は呆れた声を漏らしてしまう。
「ええやんけ、別にぃ。ひとの趣味嗜好に、いちいち文句つけんなよ。さてはお前、あれか。オレンジジュース派やな」
「せめてジンジャーエールぐらいの発想はねぇのかよ」
 源次郎と竜造の漫才のようなやり取りの間にも、教導団側は態勢を立て直して反撃に転じようとしている。
 が、エリステアを始末し終えた源次郎には、これ以上戦闘を続ける意味は無かった。
「ほんならエッツェル君、後は頼んまっさ」
 源次郎の指示を受けると同時に、エッツェルの触手の群れが、時空圧縮を駆使して雨あられと降り注いできたのだが、それもほんの一瞬のことで、気が付いた時には源次郎一行の姿は、一陣の風のように掻き消えてしまっていた。
 しばらく、誰もが呆然とその場に立ち尽くしていたが、ややあってフェンデスが、エリステアの首なし死体の傍らへのろのろと重い足取りで近づき、がっくりと崩れるようにして、その場に膝をついた。
「この方は……」
 フェンデスの声が、涙に震えた。
「自分の技術が鏖殺寺院に流れることを何よりも恐れ、鏖殺寺院の力が及ばないエリュシオンこそが、唯一の救いの場だと、おっしゃっていました……なのに、私はこの方をエリュシオンへ迎えるどころか、守ることすら、出来ませんでした……」
 更に、フェンデスはいう。
 正式な移籍手続きを踏めば、必ずパニッシュ・コープスが妨害に出る。
 だからこそ、こうして極秘裏に亡命する手段を取らざるを得なかったのだ、と。
 だがそれも全て、徒労に終わった。
 エリステア亡命の情報を、パニッシュ・コープスは既に握っていた。だからこそ、若崎源次郎による屍躁菌第二世代散布、及びヘッドマッシャー派遣が実施されたのだ。
 だが、それらの情報は一体、どこから漏れたというのか――その謎は、未だに解明されていない。
 レオンは沈痛な面持ちながらも、項垂れるフェンデスの肩口に、そっと掌を触れさせた。
「フェンデス嬢……ここはまだ危険です。武装住民の脅威は、今も尚、続いているのです。これから救出部隊が先導して、あなた方を地下坑道経由でソレムから脱出させます。宜しいですね?」
 念を押すようなレオンの声に、フェンデスは弱々しく頷き返すのが精一杯だった。
 既に、ローザマリア達四人が先導を切る形で移動を開始しており、ルカルカと白竜率いる救出部隊も、護衛陣形を整えて、フェンデスが立ち上がるのを待っていた。
 フェンデスは、やっとの思いで立ち上がった。



 この後、救出部隊は武装住民による多少の妨害を受けたものの、フェンデス一行を地下坑道から無事にソレム外へと避難させることに成功した。
 若崎源次郎の目的を止めることは叶わなかったが、最低限の任務は果たしたことになる。


     * * *


 彩羽、スベシア、素十素の三人は、北都、クナイ、そしてジェライザ・ローズという面々を加えて、再び源次郎のもとを訪れた。
 源次郎が刹那を介して居場所を連絡してきたのだが、今度は北街門上の楼閣ではなく、モルベディ鉱山の東の裾野に位置する小さな鉱山村の一角だった。
 一行が源次郎の待つ建屋に踏み込むと、そこに居たのは源次郎と刹那の他、気を失っているザカコと月夜の両名のみであった。
「生胞司電で支配していた、あのふたりは?」
「あー、あのご両人はもうだいぶん前に解放したよ。竜造君は時空圧縮の使い過ぎで流石に疲れとったけど、エッツェル君はまだまだぴんぴんしとったからな、面倒臭いし、逃げてきたんや」
 源次郎は相変わらず、コーラをがぶがぶ飲みながら自虐ネタ気味に、己の逃走劇を笑い飛ばす。
 つくづく逃げ足の速い男だと、彩羽は呆れるというよりも、寧ろ感心した。
「それはそうと……ワクチンは貰えるの?」
「あー、そやそや。せっちゃん、そこの鞄、渡したって」
 源次郎の指示を受けて、刹那が手近のテーブルから黒い鞄を取り出し、彩羽へと投げ渡した。
「ついでやから、このふたりも連れて帰ったってぇや。もうワクチン投与してあるから、次に目ぇ覚めたら、普通に回復しとる筈やねんけどな」
「……どうして、ワクチンを渡すつもりになったの? これを私達が増産したら、屍躁菌は商品にならなくなるんじゃないの?」
 彩羽の疑問に対し、源次郎は口角を吊り上げて小さくかぶりを振った。
 曰く、S3ワクチンは屍躁菌が散布されたその土地の水質と空気成分によって、DNAが大きく変化するのだという。
 つまり、ある土地で散布された屍躁菌へのワクチンは、その土地でしか作ることが出来ない。しかも、その土地で生成されたワクチンは、別の土地では使えないのだという。
「ソレムで生成されたワクチンは、ソレムで感染した患者にしか効果が無い、という訳か。成る程、上手く出来ているな。同じ細菌でも、土地ごとによってワクチンDNAが変わるという自動バリアント方式になっているのか」
 ジェライザ・ローズが、善悪の判断を抜きにして、純粋に医学者の立場から感心したように何度も頷く。
 その傍らで、北都とクナイが鞄の中を覗き込んでいた。
「数は、これで足りるのかい?」
「十分やろ。足らんかったら増産するなり何なりしてや。それぐらいの用意はしてあるんやろ?」
 源次郎にいわれるまでもなく、既にワクチンの増産体制は、エースの進言で整備済みである。
 尤も、ソレムで生成されたワクチンはソレムでの感染者以外には使えないということだから、増産体制など全く意味が無いのであるが。
 そして彩羽は、もうひとつの疑問を口にした。
「ねぇ……どうして、ワクチンを渡す気になったの?」
「いや、単純な話や。まだワクチンの評価試験が、終わってへんねん。なんぼS3だけの効果が良うても、肝心のワクチンが機能せんかったら、商品にならへんがな」
 ザカコと月夜に対するワクチン投薬は成功したが、コントラクターだけに効き目があっても仕方が無い。
 そこで源次郎は、ソレムの住民い対するワクチン投薬を、彩羽達に任せよう、と考えたらしい。
「どうせ君ら、あそこの住民を救いたいとか思うてるんやろ? わしかてワクチンの評価試験を終わらせたいしな、一石二鳥やん」
「……ほんと、どこまでも損得勘定だけで動くひとなのね」
 源次郎にしてみれば、エリステアを抹殺するまでの間だけ、フェンデス一行をソレムに封じておければ、それで良かったのである。
 そしてエリステア抹殺が成った今、ワクチンを提供して評価試験を実施する方が、彼にとっては何よりも重要だった。

 彩羽達が引き払ってから数時間後、パニッシュ・コープスの幹部モハメド・ザレスマンが、源次郎と刹那を訪れた。
「ソレムでのワクチン投与は、概ね成功した模様です。屍躁菌もワクチンも、最終的な評価試験にパスしたようですな。おめでとうございます」
「いやぁ、ほんまおおきにどうも。これでやっと、販売ルートに乗せられますわ」
 源次郎は上機嫌で応じたが、ザレスマンは幾分神妙な面持ちで、源次郎の長身を見上げた。
「これからは、どちらへ?」
「まぁ、今後は地球が仕事場になりますわな。S4でのヘッドマッシャー増産体制も、半島の北でやっと整いましたしな。いつまでもパラミタにおる必要はありませんわ」
 この返答に驚いたのは、刹那の方である。
 源次郎はパラミタを去り、地球に降りるというのである。
「デルタ時代の知人が、生物兵器を扱う武器商人ルートを開拓してましてな。それに便乗させて貰おう思てますねん」
「パニッシュ・コープスとしては、あなたのような優秀な技術者を失うのは大変痛いところではありますが……今後の成功を、祈っておりますよ」
 最後の挨拶を終え、ザレスマンはその建屋を辞去しようとした。
 が、扉を出ようとした際に、ふと何かを思い出した様子で足を止め、源次郎に再度、向き直った。
「あぁそうそう。ご依頼頂いていたプリテンダーのジェリコですが、若崎さんの推測通り、ザンスカールに潜伏しておりました。何でも、カフェ・ディオニウスの常連客を装って連絡を取り続けているとか。このジェリコについては、如何致しましょう?」
「あー、もう宜しいですわ。好きなようにしたってください」
 源次郎の回答を得て、ザレスマンは満足げに頷き、そして建屋を出て行った。



『タイトライン:ヘッドマッシャー3』 了

担当マスターより

▼担当マスター

革酎

▼マスターコメント

 当シナリオ担当の革酎です。

 ちょっと今回は敢えて苦言を呈しますが、基本的な情報の見落としや、自分に都合の良い内容の(半ば確定ロールに近い)アクションが多く目立ちました。
 コメディや日常、或いは恋愛シナリオなら問題ありませんが、戦闘シナリオではそのような内容のアクションは確実に失敗します。
 アクション提出前に客観的に見直してみて、自分のアクションに自分自身で酔ってしまっていないか、もう一度確認してみてください。
 客観的に見るというひと手間を加えるだけで、劇的にアクションの質が向上する場合もございますので、参考にして頂ければ幸いです。

 それでは皆様、ごきげんよう。