校長室
学生たちの休日10
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★ ★ ★ 「じゃ、やろうか。新年会、開催だあ!」 広い客間では、紫月唯斗が新年会の宣言をしているところでした。 「御奉仕タイムといくか」 朝霧垂とメビウス・クグサクスクルスがお酌をして回って、みんなでグラスを掲げます。 「新年、あけましておめでとー」 一斉に唱和して、新年会が始まりました。 「よおし、食べるよー!」 待ってましたとばかりに、リーズ・クオルヴェル(りーず・くおるう゛ぇる)が食べ始めました。 うっかり最初にお酒を飲んでしまったので、最初からクライマックスです。食べる、食べる、食べる、飲む、食べる、飲む、飲む、飲む、食べる、飲む……。 「ひゃっはははははあ……。ゆいと、貴様も飲め! なによお、私のお酒が飲めないって言うのぉ」 「は、早いな、リーズ!?」 「なにい、早くて悪いか。どうせ、わたしはあ、ヴァルキリーのようにバーストダッシュ使えませんよお。わりいか、このこの」 「いていて……。なんでそっちへ話が展開する……。ダメだこいつ、酔ってやがる……」 ぺしぺしと叩かれて、紫月唯斗が困り果てました。 「よし、とにかくそこに直れ!」 「えっ?」 「直れって言ったら、正座だよ、正座。きまってるだろう!」 「あ、はいはい」 仕方ないので、紫月唯斗が言われるままに正座します。 「よろしい……。うふっ」 ごろんとなったリーズ・クオルヴェルが、紫月唯斗の膝を枕にして、大の字に寝っ転がりました。結構あられもない姿ですが、本人全然気づいていません。 「これでは、動けない……うっぷ!?」 どうしようかと困っていた紫月唯斗の口に、一升瓶が突っ込まれました。どくどくと、容赦なく高度数の泡盛が流し込まれていきます。 「さあ、遠慮するな、飲め! 飲め!」 遠慮していないのは、紫月唯斗の口に一升瓶をねじ込んでいる朝霧垂の方です。すでに、完全にできあがっています。 「ちょっと待ってよね、垂!」 乗りに乗っている朝霧垂の前に、メビウス・クグサクスクルスが仁王立ちになって言いました。 「なんだ、文句でもあっるてえのかあ」 「いいえ、それじゃまだ足りません、もっとです!」 空になった泡盛の瓶を紫月唯斗の口から抜き取ると、メビウス・クグサクスクルスが銘酒「熊殺し」を交換に差し込みました。 「GJ!」 「いえーい」 朝霧垂とメビウス・クグサクスクルスがハイタッチします。 「まだ、もう一本ありますから、どんどんいこうよね」 予備の熊殺しをドンとおいて、メビウス・クグサクスクルスが言いました。 この騒ぎの中、リーズ・クオルヴェルは、早くも沈没して、瀕死の紫月唯斗の膝ですやすやと眠っていました。 「なんだか大変ですねえ……。ひっくっ」 紫月唯斗に止めを刺す前のついでとばかりにメビウス・クグサクスクルスに飲まされていた東朱鷺が、軽くしゃっくりをしながら言いました。 「なんだ、もう酔ったネ? 情けないネー」 「いや、これは水れすよー。そんな、水で酔うはずないらないれすか。あれっ? ちょっとおはしいかな……」 第六式・シュネーシュツルムに言われて東朱鷺が答えますが、だんだんとろれつが怪しくなっています。 「いい? お酒って言うのはネー。こうして、全身で楽しむ物なのヨー」 そう言うと、第六式・シュネーシュツルムが、ざばあっと頭からお酒を浴びました。 「うい〜っ、美味しいネ」 骸骨の姿をしているので、はっきり言ってダダ漏れです。とはいえ、ポータラカ人なので、浴びた酒を吸収してしっかりと楽しんでいます。便利なのか、不便なのか、よく分かりません。 「いい? お雑煮って言ったら、すまし汁なんだよ、分かった!」 ライゼ・エンブが力説しました。 「はい」 首にだきつかれてもふられながら、エルサリア・ルディフトがとりあえずうなずきました。意味は分かっていません。 「シュバルツヴァルドさんも、一杯いかがですが」 紫月睡蓮が、外にいる第七式・シュバルツヴァルドを気遣って、徳利とお猪口を持っていって訊ねました。 「おお、それはかたじけない。では一杯もらおうか。ああ、杯がないな、どれどれ」 そう言うと、第七式・シュバルツヴァルドが、紫月唯斗邸の屋根をバリバリと剥がして逆さにしました。 「これに一杯頼む」 そう言うと、杯にした屋根を第七式・シュバルツヴァルドが紫月睡蓮にむかって差し出しました。 「こらあ、埃を立てるでない。せっかくのアワビ料理に入るではないか!」 いきなりなくなった屋根を見て、マネキ・ングが怒鳴りました。 「ほえっ、お空が見えるのら。なんでなのだ。こら、ハデス、なんとかせい!」 「いや、俺は今、世界征服に忙しい……」 酔っ払ってとろんとした東朱鷺にむかって、世界征服計画の説明と秘密結社オリュンポスへの勧誘をしていたドクター・ハデスが、迷惑そうに奇稲田神奈に答えました。 「なんだと。許嫁の言うことを聞けぬと申すのか。あっ、だが、勘違いするではないぞ。許嫁と言っても、親同士が勝手に決めたことであるのだからな。本人たちは、まだまだ、これからなのだからな!」 なんだか、思いっきり墓穴を掘った奇稲田神奈が叫びました。 「まったく、みんな、はめを外しすぎだぞ」 セリス・ファーランドが、呆れたように言いました。その手に、玉藻御前が、何か布の端っこを渡します。 「セリスよ、乗りが悪いぞ。さあ、これを引っぱるのじゃ」 「えっ? いったい……」 どうしろと言うのだという顔で、セリス・ファーランドがちょっとだけその布、玉藻御前の服の帯を引っぱりました。 「あ〜れ〜、助けて〜。御無体でござる〜」 なんだかわざとらしい悲鳴をあげて、玉藻御前がクルクルと身体を回転させました。帯がはらりと解けて、和服が色っぽくはだけます。 「大胆じゃのう、セリス」 「俺は何もやってないぞ!」 帯の端を持ったまま、セリス・ファーランドが叫びました。 「仕方ない。姫始めを許すぞ。さあ」 「ちょっと待て! 誰がそんなこと教えた!」 叫ぶセリス・ファーランドの視界から、メビウス・クグサクスクルスがそそくさとフェードアウトしていきました。 「楽しいな〜。そうだ、忘れてた、ししょー、お年玉ちょーだーい」 炬燵でぬくぬくしながらジュースを飲んでいたデメテール・テスモポリスが、突然思い出したように紫月唯斗に言いました。未成年なので、カオスな酔っ払いの世界には突入していません。 「お年玉か、仕方ないなあ」 そう言うと、朝霧垂が紫月唯斗の懐からお財布を取り出して、そのままデメテール・テスモポリスに渡しました。 「わーい。これで、ネトゲの課金がクリアできますー。やっぱり、働いたら負けだよねー。おこたでぬくぬくネトゲが一番」 ニコニコしながらデメテール・テスモポリス言いました。 「お年玉か。おお、我からもハデスにお年玉があるぞ」 そう言うと、マネキ・ングが紫月唯斗に、何やら分厚い袋を渡しました。 「おお、これは、世界征服の資金か?」 ドクター・ハデスが、私もあれがやりたいと、セリス・ファーランドにひっついている半脱ぎ状態の玉藻御前を指さして、すがりついてくる奇稲田神奈から逃げてきながら言いました。 「いや」 マネキ・ングにそう言われて中身を確認すると、それは請求書の束でした。 「オリュンポス・パレスの修理にゴールデン・キャッツの部品を使わせてやっただろう。その請求書だ。先月末締めだから、今月中に振り込んでおいてくれ」 きっぱりと、マネキ・ングが言いました。唖然としたドクター・ハデスが、声にならない声をあげて口をパクパクさせます。すでに、エステル・シャンフロウやリリ・スノーウォーカーによる精算は済んでいますので、そちらにたらい回しにすることもできません。 「なんだ、お年玉がほしいネ? なら、これをやるヨ。カカカカカ……」 そう言うと、第六式・シュネーシュツルムが自分の頭蓋骨を取り外して、ドクター・ハデスに差し出しました。 「まったく、皆さん仕方ないですね。はめ外しすぎです」 そこかしこで酔いつぶれたり暴れたりしている者たちを、アルテミス・カリストがナーシングで介護して回りました。 ★ ★ ★ 静かです。 あるいは、死屍累々とも言います。 「さてと、掃除を始めるかな」 難を逃れて、元気な朝霧垂が言いました。どちらかと言うと、無事だったと言うよりも、加害者です。 「すいませんね、手伝ってもらっちゃって」 紫月睡蓮が、申し訳なさそうに言いました。 「でも、屋根、どうしよう……」 第七式・シュバルツヴァルドによって半ば破壊された屋根を見て、紫月睡蓮が溜め息をつきました。紫月唯斗が目を覚ましたら、なんと言って説明すればいいのでしょう。 当の第七式・シュバルツヴァルド本人は、酔っ払った東朱鷺を乗せて、またジャンプして帰っていきました。あれは、絶対どこかで吐いてます。 墜落していたゴールデン・キャッツも、なんとかエンジンを直して帰途についたようです。 ドクター・ハデスたちは、酔いつぶれた奇稲田神奈をおんぶして帰っていきました。 紫月唯斗は、自分の家が半壊するほどの惨事になったことをまだ知らずに、ぐっすりと初夢を見ていました。