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学生たちの休日10

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学生たちの休日10
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    ★    ★    ★
 
 無事年も明け、ここ紫月 唯斗(しづき・ゆいと)邸では新年会がはでに催されました。
 続々と、招待された人々が集まってきます。
「正義と悪とで立場が違うとはいえ、たまには休戦も悪くはなかろう!」
「別に、きたくなどなかったのだが、正月じゃからのう。わらわたちが来てやらねばならんだろう。ああ、しょうがない、しょうがない」
 そう言うと、ドクター・ハデス(どくたー・はです)は堂々と紫月唯斗邸の正面門から入っていきました。ドクター・ハデスの許嫁の奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)も一緒です。
 大量のペットたちを飼うために紫月唯斗が買った家は、葦原島の旧家の作りで、長い壁に囲まれてりっぱな表門があります。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス! 唯斗よ! 呼び出しに応じて来てやったぞ! ありがたく思うのだな!」
 まったく、似た者婚約者です。嫌々来ているという台詞とは裏腹に、二人とも顔がほころんでいます。ツンデレなのでしょう。ドクター・ハデスなど、自らが作ったおせちをお土産に持ってきています。意外とマメです。
「いらっしゃいませー。さあ、奧へどうぞ」
 紫月 睡蓮(しづき・すいれん)が門戸でドクター・ハデスたちを出迎えました。
「睡蓮ちゃん、あけましておめでとうございます。お邪魔させていただきますねっ」
「唯斗ししょー、来たよー」
 晴れ着を着たアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)が丁寧に紫月睡蓮に挨拶をし、その後ろで、デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)が大きく手を振りました。
「ククク、今日のところは無礼講ということで、普段は敵対している我らオリュンポスと、唯斗たちとの交流を、認めてやることにした! さあ、遠慮なく蹂躙するぞ」
 そう言うと、ドクター・ハデスは先頭に立って、門の中に入って行きました。
 続いてやってきたのは、朝霧 垂(あさぎり・しづり)ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)です。
 朝霧垂は、珍酒『黄泉返り』を始めとする大量の酒を引きずるようにして持ってきています。
 ライゼ・エンブの方は、おせちやらお雑煮やら、念のためにカレーやラーメンまで大量に運んできています。
 二人のその姿は、もう行商か何かのようです。
「おせちぐらい、むこうで用意していそうなものだがなあ」
「お酒だってそうだもん」
 お互いに、持って来すぎたという自覚はあるものの、持ってこない方がよかったとは欠片も考えてはいません。
「だって、もし、丸餅にお味噌のお雑煮だったら、垂だって嫌でしょ?」
「それはそうだが」
 ライゼ・エンブが、思いっきりお雑煮にはこだわりを見せます。やはり、すまし汁に鶏と野菜、そしてお餅は四角の関東風です。特に、お雑煮にあんこ餅なんかは、言語道断なのでした。
「いらっしゃいませー」
「あけましておめでとうございます」
 おせちを関東風に占拠するという思惑は隠して、ライゼ・エンブが、出迎えの紫月睡蓮に挨拶しました。
 二人が奥へと消えると、何やら地響きが聞こえてきます。
「うわーっ!!」
 東 朱鷺(あずま・とき)の悲鳴と共に、第七式・シュバルツヴァルド(まーくずぃーべん・しゅばるつう゛ぁるど)が空中から降ってきました。
 ドシンと、門の中、庭先に着地します。
「ま、間にあったのか!?」
 第七式・シュバルツヴァルドの中から、必死の形相の東朱鷺が転がり出てきました。
 新年会に参加するために出発したまではよかったのですが、道に迷いかけて困っていたのです。そこで、道なら第七式・シュバルツヴァルドが知っていると言うので案内兼移動を任せたのですが……。なにしろ、魔鎧とは名ばかりではないのかと思えるほどの巨大な城のような身体です。動くたびに、はっきり言って無理矢理なので、ドシンドシンとジャンプします。そのたびに、唯一中に入れる東朱鷺が思いっきりシェイクされるわけですが、なんとかリジェネレーションで命を保っているという状態でした。
ヒャヒャヒャヒャ。だから、中に入るのはやめておけって言ったネ」
 エルサリア・ルディフト(えるさりあ・るでぃふと)の背中に乗せてもらって、後を追いかけてきた第六式・シュネーシュツルム(まーくぜくす・しゅねーしゅつるむ)が髑髏の歯をカタカタ鳴らして笑いました。その姿は、骸骨騎士と言ったところです。陰陽師の東朱鷺の式神として契約したパートナーたちは、かなりの異形でした。
「と、とにかく無事でよかったです。さあ、中へどうぞ」
「ありがとーですー」
 第六式・シュネーシュツルムを背中から下ろしたエルサリア・ルディフトが、お辞儀をして中へと進みます。他のパートナーたちと合わせてなのか、ポータラカ人のエルサリア・ルディフトは神獣麒麟の姿をとっています。
「あ、シュバルツヴァルドさんは、さすがに入れないですから、ここで待っていてくださいね。お料理はお運びします」
 そう言うと、紫月睡蓮は東朱鷺たちを案内していきました。
 その少し後です。また何かが墜落してきました。
 大音響と共に、紫月唯斗邸の門が木っ端微塵に吹き飛びます。落ちてきたのは、ゴールデン・キャッツです。
「うむ、傾いているぞ」
 今にも倒れそうになるゴールデン・キャッツを、第七式・シュバルツヴァルドが横から手を出してまっすぐに直しました。
「うおおおお、だから、まだ修理が完全じゃないって言っておいただろうがあ!」
 墜落したゴールデン・キャッツの中で、セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が叫びました。
「持ってきた酒は大丈夫だろうな?」
「大丈夫だ、倉庫にある物はアワビをはじめとして無傷だ。先の経験から、アワビ倉庫には耐ショック対閃光対風味減衰防御の新機能を……」
 自慢げに、ゴールデン・キャッツの船長であるマネキ・ング(まねき・んぐ)が説明を始めました。
「アワビよりも、まず人間にそういう物をつけぬか!」
 何か、ぼろぼろになった玉藻 御前(たまも・ごぜん)メビウス・クグサクスクルス(めびうす・くぐさくすくるす)と一緒にコックピットへ飛び込んできて文句を言います。
「ちょっと、待て。なんでお前たちまでいる」
「密航者であるな!」
 セリス・ファーランドとマネキ・ングが叫びます。
「えへへーっ、ついて来ちゃいましたー」
 メビウス・クグサクスクルスが、笑ってごまかします。
「だいたい、いつも、おぬしら二人だけで出かけて、たまにはよいではないか」
 玉藻御前が憤慨しながらセリス・ファーランドに詰め寄ります。
「まあ、おめでたい席だし、たまにはいいか。早く挨拶しに行こうぜ」
 セリス・ファーランドに言われて、メビウス・クグサクスクルスがバンザーイしました。
「あっ、ちょうどいいから、二人も、土産のアワビの運搬を手伝うのだ」
 ちゃっかりと、マネキ・ングが二人に言いました。
 
    ★    ★    ★
 
「おせち持ってきたよー」
 ライゼ・エンブが、厨房にドンとおせちをおいて言いました。
「ふっ、そんな物など必要はない。真に必要なおせちは、この俺が作ったおせちのみだ!」
 ドドンと自分の作ったおせちをおきながら、ドクター・ハデスが言いました。
「ええと、おせちはわらわが作ることになっているのだよ……」
 ちょっと困惑したようにエクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が言いました。今日の料理は、彼女が作ることになっていたはずです。
「その通り。だから早くこのアワビを使うのだ」
 ドンドンドドンと、マネキ・ングが、アワビを厨房に運び込みました。
「いったい、何をしているんですか! お客様が厨房に入ってはいけません」
 そんなドクター・ハデスたちを、紫月睡蓮が聖者の導きで外へと追い出しました。
「な、何をする。俺たちは、純粋におせちを楽しもうと……」
 悪がそんな導きに従うわけがないだろうと、ドクター・ハデスたちが抵抗しようとします。
「まあまあ。おせちの前に、すでにいろいろと銘酒を用意してございます。ささ、貴賓の皆様方は、どうぞこちらへ。早くなさいませんと、せっかくの幻の銘酒が、他の方に飲まれてしまいますよ」
 アルテミス・カリストが、貴賓への対応で、ドクター・ハデスたちをうながしました。
「何、それは大変!」
 お酒と聞いて、マネキ・ングがキランと目を輝かせました。せっかく持ってきた銘酒が、味も分からない第七式・シュバルツヴァルドたちにドバドバと零されながら飲まれては一大事です。
「酒を助けに行くのだあ」
 一同が、一気に宴会場へと雪崩打っていきました。
「ふう、助かったのだよ」
 ほっと、エクス・シュペルティアが一息つきます。
「じゃあ、できあがった料理は運んでいきますね」
 紫月睡蓮が、アルテミス・カリストと一緒にエクス・シュペルティアが作ったおせちやライゼ・エンブが作ってきたおせちを運んでいきました。