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学生たちの休日10

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イルミンスールのヴァイナハテン

 
 
「よーし、今日は探検なんだもん!」
 世界樹の中を、及川 翠(おいかわ・みどり)が走り回っていました。
 今年も、世界樹は美しくクリスマス仕様に飾られています。
 魔力で世界樹全体がほんわりと金色に輝き、立体魔法陣や様々なサインの光の帯が、美しく回転していました。枝々には、大小様々な飾りが下げられていました。大きい物では、アンズーサンタなどもぶらんとぶら下げられています。
 たまになんか不気味な鳴き声をあげる物がブラブラしていますが、あまり気にしないことにしましょう。
 様々なイルミネーションの海の間を、電飾をつけた大型飛空艇が橇のように飾られて漂っています。その甲板で打ち鳴らされる鐘の音が、澄んだ森の空気に響き渡りました。
 
    ★    ★    ★
 
「いらっしゃいませーですわ!」
 世界樹イルミンスールの学生寮枝の一つで、ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)が扉を開けて非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)たちを出迎えました。
「わーい、パーティーでございます」
 飾り立てられた室内を見て、アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が歓声をあげました。
 クリスマスが何かはよく分かりませんが、楽しいパーティーができる日であることは間違いありません。
「それじゃあ、乾杯しましょうか」
 みんながテーブルに着きますと、非不未予異無亡病近遠が言いました。
「メリー・クリスマス!」
 一同が、サイダーの入ったグラスをぶつけました。
「それにしても、たくさんありますね……」
 テーブルの上にならんだ食べ物を見回して、イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)がちょっと目を見張りました。
 ユーリカ・アスゲージが腕によりをかけて作ったクリスマス料理がテーブルの上にならんでいます。
 メインはローストターキーです。おっきな七面鳥が、まるまる一匹、こんがりとローストされています。
 切り分ける役目は本来非不未予異無亡病近遠となるはずですが、ここは力仕事と言うことでイグナ・スプリントが名乗り出ました。スッとナイフを構えると、気合い一閃、スパーッとターキーを真っ二つにしました。切り口から、噴水のように肉汁が溢れ出します。中に詰められていた野菜たちが、ゴロゴロと転がり出てきました。
 ちょっと切り方が間違っているような気もしますが、とりあえず結果オーライです。
 他にも、クラッカーにチーズやフルーツを載せたオードブルや、レタスやブロッコリーがもこもこしたサラダなどが所狭しとならべられています。
 どれも、ユーリカ・アスゲージの渾身の作です。
 そのできばえに満足しているのか、ユーリカ・アスゲージもちょっと自慢そうな顔をしています。
 とはいえ、四人前としては少し多すぎるような気も……。調子に乗って、少し作りすぎてしまったのでしょうか。
 これをすべて食べなければならないのかと、イグナ・スプリントがちょっと引きつったのもうなずけるというものです。お残しは許されません。
「今日は、サンタさんという人のコスプレはしないのですか?」
 去年、こどもの家『こかげ』で行われたクリスマスパーティーのことを思い出して、アルティア・シールアムが非不未予異無亡病近遠に聞きました。
 あのとき、非不未予異無亡病近遠は青いコートに青い帽子を被り、白くて長い付けヒゲという格好をしていました。何かのコスプレだとは記憶していますが、いったい何のコスプレであったのか、アルティア・シールアムとしてははっきりとは覚えてはいません。クリスマスパーティーとは、一種のコスプレパーティーだと覚えていますが、違うのでしょうか。
「コスプレ……、まあ、違うとは言い切れませんが……」
 アルティア・シールアムの言葉を否定できなくて、非不未予異無亡病近遠がちょっと苦笑いを浮かべました。
「そうですね、クリスマスというのは、イエス・キリストの誕生日を祝うお祭りとされているんですが……」
 とはいえ、もともとキリストの誕生日は12月25日ではありません。なにしろ、昔の人ですから、いろいろと説があります。
 とりあえずは、聖誕祭と称して、キリストの誕生劇などを子供たちに見せていたのが始まりのようです。
 結局よく分からないのは、大昔のヨーロッパでは年末のお祭りがすでにいくつもあったからでした。それらが、いつの間にか一緒くたにされていき、クリスマスという名前のお祭りになったわけです。そうしてイベント化してしまうと、手段と目的が逆転してしまいます。何かをお祝いするのが目的ではなく、お祝いすることそのものが目的になってしまうのです。だから、クリスマスは、楽しいお祭りの日ということで、何ら問題はありません。
 そのせいで、国によってはいろいろと雰囲気が違います。お祭りイベントとしてのクリスマスは、あちこちでパーティーを開いて楽しんだり、家族団欒や、リア充の人たちのデートの口実に使われたりもしています。
 プレゼントにしてもそうです。
 そのプレゼントを運んでくるサンタさんにしても、いろいろな姿があります。もともとのお祭りがクリスマスというイベントに統合されていく過程で、お祭りに登場する妖精などのキャラクターがサンタクロースというキャラクターに纏められていったのでした。
 サンタクロースという名前自体は、聖ニコラウスから来ていますが、本来のニコラスは聖職者ですから、法衣を着ています。それが、寒い冬の話なので、法衣に似たデザインのコートに変わっていったようです。色も、特定の物ではなかったのですが、一番有名になった物がCMで使われた赤い服でしたので、それ以降今の姿が定着したと言われています。とはいえ、サンタクロースのお話は、200年ほど前に作られたもので、そのころから赤い服を着ていたようですね。
 プレゼントを持ってくる人という伝承はもっとずっと前からあり、ニコラスがその役の代表にされたというのが本当のところでしょうか。国によっては、良い子にはプレゼントをくれるサンタクロースが、悪い子にはお仕置きするサンタクロースやその僕がいたりもするのですから。
 非不未予異無亡病近遠が着た青い服は、ロシアのサンタクロースの物ですね。
「えっと、つまり、楽しめばいいのですわ!」
 非不未予異無亡病近遠の説明にちょっと頭がくらくらしたアルティア・シールアムが結論づけました。
「ええ、そうです」
 それで充分ですよと、非不未予異無亡病近遠がうなずきます。
「さあ、ケーキとデザートを持って参りましたわ。自信作ですのよ」
 まだ料理も全部食べきれていないのに、ユーリカ・アスゲージがデザートの大きな皿を持ってきました。
 ケーキは、ブッシュドノエルです。丸太の形をしたロールケーキで、上にはマジパンで作った小さなツリーが乗っています。それにしても、ちょっと長いです。途中で継ぎ足してはあるのでしょうが、なぜか一メートル近くもあります。
 それと一緒に持ってこられたのが、プティングです。
 はっきり言って、最初の見た目は水を入れた布巾の風船という感じでした。縛っていた紐を解くと、深皿の上に暖かく煮られたパンプティングがとろーりと姿を現します。そこへたっぷりのカラメルソースがかけられました。
「さあ、めしあがれですわ!」
「うっ」
 そうは言われても、いくら美味しくてもちょっと胸焼けしそうだとイグナ・スプリントがお腹を押さえました。もっと食べ手がほしいところですが……。
 もしゃむしゃもしゃ……。
 おや、何か音がします。
 イグナ・スプリントがのぞいてみると、小ババ様がブッシュドノエルの端から食べ進んでいて、ケーキをトンネル化させていました。
「こばっ♪」
 食べた食べたと、ちょっとゲップをしながら、小ババ様がパンパンにふくらんだお腹をケーキのトンネルの中でさすっています。
「グッジョブです、小ババ様」
 イグナ・スプリントが、小ババ様にサムズアップをしました。
「こばー♪」
 てへっ、見つかっちゃったと、あわてて小ババ様が、開けっ放しになっていたドアから逃げだしていきました。