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学生たちの休日10

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学生たちの休日10
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    ★    ★    ★
 
「こら、サツキが行方不明だというのに、なんでこんな所でのんびりしているんだよ」
 喫茶店でフィーア・レーヴェンツァーンを見つけた新風燕馬が怒鳴りました。
「のんびりはしていないですぅ。ちゃんと手は打っているんですぅ」
 そう答えると、フィーア・レーヴェンツァーンがチラリと時計で時間を確認しました。そろそろ、予定の時間です。
「さっき、ウッソーから連絡があったんですぅ。クライベイビーを見つけたので、シャンバラ宮殿の展望台にむかうそうですぅ」
「げっ、どうしてリューグナーが……」
「人手は多い方がいいんですぅ。フィーアが連絡して、手伝ってもらったんですぅ」
 そう答えると、フィーア・レーヴェンツァーンが陰でちょっと舌を出してほくそ笑みました。
「うう、まあいい。とにかく、展望台へ急ごう。どこへ行っていたのか確かめないと。いや、それよりも、B作戦を……」
 フィーア・レーヴェンツァーンを追いたてるようにして、新風燕馬はシャンバラ宮殿の展望台へとむかいました。
 シャンバラ宮殿にはいくつも展望台がありますが、こちらは30階あたりのガーデンテラスになっている展望台です。
「サツキー、無事かー!?」
 全力疾走で汗だくになりながら、新風燕馬が叫びました。
 まだリューグナー・ベトルーガーに掴まれたサツキ・シャルフリヒターが、それに気づいて振り返ります。
「燕馬、どうしてここに?」
 予想もしていなかった新風燕馬の登場に、サツキ・シャルフリヒターがちょっと戸惑います。
「メリークリスマス。それとハッピーバースディ、サツキ」
 そう言うと、新風燕馬がプレゼントをサツキ・シャルフリヒターに差し出しました。
「メリークリスマス、燕馬。……ありがとう、ございます」
 緊張の糸が解けたのか、思わずサツキ・シャルフリヒターが涙ぐみます。
「ちょっ、誕生日祝いが遅れたのは謝るから、頼むから泣くのはやめてくれ」
「安心してください。嬉しい、だけです……」
 ちょっとあわてる新風燕馬に、サツキ・シャルフリヒターが答えました。
「それにしても、いったいどこに行っていたんだ?」
「この子が迷子で、それで、お母さんを探して……」
 新風燕馬に聞かれて、サツキ・シャルフリヒターが答えました。そういえば、なんでここに新風燕馬がいるのでしょうか。なんだか、いろいろと不自然です。
「迷子!? リューグナーがあ!? ああ、また嘘をついたな!」
 新風燕馬が睨むと、リューグナー・ベトルーガーがちろりと舌を出して、フィーア・レーヴェンツァーンの後ろに隠れました。
「知っているのですか?」
「ええと、まだ紹介してなかったが、この子はリューグナー・ベトルーガー。この間、俺とパートナー契約を結んだ子だ。さては、フィーア!」
「逃げますわよフィーア!」
「ちょ、ちょっと待ってですぅー!」
 新風燕馬に悪巧みがばれて、フィーア・レーヴェンツァーンとリューグナー・ベトルーガーが一目散に逃げだしました。その逃げ足の速さは芸術的です。
「待てや、この偽幼女ども!」
 怒って追いかけようとした新風燕馬を、サツキ・シャルフリヒターが袖を引っぱって引き止めました。
「花火です」
 シャンバラ宮殿の中程の空中に花開いた花火の爆発をさしてサツキ・シャルフリヒターが言いました。
「ああ、綺麗だな」
 思わず、新風燕馬も花火に見とれます。
「その、実はこの後レストランも予約してあるんだが、一緒に行かないか?」
 そう新風燕馬に聞かれて、サツキ・シャルフリヒターがこくりとうなずきました。
 
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「綺麗な花火だね」
 シャンバラ宮殿近くに上がった謎の花火を指さして、シエル・セアーズがはしゃぎました。
「うん、綺麗だよ」
「ホント綺麗……!?」
 神崎輝に視線を戻したシエル・セアーズは、その瞳が自分にむけられているのに気づいて、はっとして顔を赤らめました。ちょっとうつむいてからまた顔をあげると、いつの間にか神崎輝の顔が間近にあります。吐息を感じる唇が、自分の唇のすぐそばにあり、そして重なりました。
「うん、今日はいい絵がたくさん描けるなあ」
 サズウェル・フェズタが、しっかりとその場面を逃さずにスケッチをしていきます。
「!?」
 神崎輝が気づきましたが、すでに後の祭りです。
「さ、さあ、帰ろうか……」
「うん」
 逃げるようにして、神崎輝がシエル・セアーズをつけてその場を立ち去ります。
 少しして、何かがシャンバラ宮殿前広場の池に墜落しました。
「こっちだ、回収するぞ。コーラルリーフを用意しておいてくれ」
「分かったわ」
 皇彼方に言われて、テティス・レジャが星槍を取り出して彼の後に続きました。
 
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「さてと、今日はいろいろな絵が描けたから、一つぐらいはおいていくかな。僕からのクリスマス・プレゼントということでね」
 書き上がった神崎輝とシエル・セアーズの絵の裏にサインを入れると、サズウェル・フェズタはその絵を空京美術館のエントランスにそっと残していきました。
 
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「少し疲れたか?」
 膝の上に硯 爽麻(すずり・そうま)を乗せたまま、鑑 鏨(かがみ・たがね)が聞きました。
 新幹線は、じきに空京に着きます。日本を出発したのは、どれほど前のことでしょう。わずか数時間前、パラミタを離れてからもたった数日であったはずなのに、なんだか、何年もの時間の中を漂ってきたかのような感じです。
 実家での墓参りは、硯爽麻と鑑鏨の二人だけでした。十三回忌には顔を出すことすらできなかったため、この時期のお墓参りには、二人の他に墓石の前に立つ者もおりません。
 音もなく降りしきる雨の中、拭っても拭っても濡れそぼる墓石は、まるで硯爽麻の視界にしか存在しないかのように、周囲の風景から浮きあがって見えました。
 硯――それは失われた者の名前です。その名を写し取ったため、爽麻の名は霞となって姿を消しました。けれども、お墓参りのときだけ、その名が爽麻の許へと戻ってきます。
「ごめんなさいね。なかなか戻ってこられなくて。でも、姉さんはいつでもあたしと一緒だから」
 その名は言霊と共に、爽麻と共にあります。
「そろそろ行くね」
 今ひとたび両手を合わせると、硯爽麻は鑑鏨と実家へと戻っていきました。
 思えば、行き倒れていた鑑鏨を助けたときも、姉のことが頭の中にあったのかもしれません。それが、互いの契約となり、より深い繋がりとなっていくことは、そのときは思いもしませんでしたけれども。
「昨夜はお楽しみでしたね」
 一緒の湯浴みから出てきた硯爽麻を使用人が茶化しますが、それもそれが普通であるからこそ。赤面する硯爽麻を、鑑鏨がそっと後ろからだきしめました。
「堂々と……」
 そっと耳を甘噛みするかのように鑑鏨が硯爽麻にささやきます。
 次期当主としては、この程度のことでうろたえてはなりません。堂々と見せつけてやればいいのです。
 帰省したと同時に、パラミタでのことを現当主に報告しました。これは、次期当主としての義務です。
 パラミタで、ニルヴァーナで、各地で起こる紛争には心を痛めます。けれども、それに対して自分が何を成したと問い質され、硯爽麻としては返す言葉がありません。すべての事象の中心であるなどと言う傲慢は愚か者の考えです。けれども、すべてと無関係であると思い込むのは身勝手な者の考え方です。ならば、どう向き合うのか。その問いに中途半端にしか答えられない自分がもどかしいのでした。
「大丈夫ー。でも、もう少し、このまま。ねー」
 そう言って、硯爽麻は自分の背を鑑鏨に預けました。