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学生たちの休日10

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キマクの苦離巣魔素

 
 
「ううっ、寒い。こう寒いと、なんか戦う気も失せちまうよな。なあ、ゼブル。おい、何やってんだ?」
 拠点としているキマクの安宿で、白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)が、ゼブル・ナウレィージ(ぜぶる・なうれぃーじ)に訊ねました。
「ははぁん? もちろん、崇高なる研究。永遠なるめえいだあい。『聖夜における性交渉数増加の原因究明』に決まっているじゃあなあいですくわぁ」
 大仰なポーズをつけて、ゼブル・ナウレィージが答えます。相変わらずマッドです。
「そんなくだらねえ研究なんかより、俺の質問に答えやがれ。アユナの奴が前々から言ってる『トモちゃん』っていったい誰だ? そんな奴俺は見たことねえが、アユナの奴、しょっちゅうそいつの名前をあげやがる。いったい、どこでうろちょろしてやがるんだ、そいつあ。あいつの製作者のてめぇならなんか知ってるんだろ?」
 アユナ・レッケス(あゆな・れっけす)は魔鎧です。そして、その魔鎧を作ったのが、悪魔であるゼブル・ナウレィージなのでした。
「トモちゃん? それを説明するには〜ひとつ前知識を知る必要がありま〜す! イマジナリーフレンドという言葉を、御存じかなぁ?」
 逆に、ゼブル・ナウレィージが白津竜造に聞き返してきました。
「なんだ、そりゃ」
「これは直訳すると『空想の友達』と呼ばれ〜、解離性同一性障害に分類されがちですが〜、実は幼少期にだぁぁれにでも起こりうる現象の一つなのでぇす。ただぁし、過度なストレスによりぃ、希に一個体の人格となる場合がありまぁす! それが彼女で言うところの『トモちゃん』なのでぇす。つまりは、『トモちゃん』とは、すなわち彼女自身が作り出した空想の親友! 私はこぉれに興味を持ってぇ、『魔鎧化による別人格補完の可能性』と題してた実験をしたのですがぁ……残念ながら雲散霧消! できあがっていた別人格は、綺麗さっぱり消えてしまいましたぁ。ゆえに、この世界のどこにも存在などしなぁぁいのです!」
「なんだそりゃあ。……つまりはアユナはこの世界にいないお友達を延々と探し続けてるってわけか……。こいつは傑作だ! 灯台下暗し、いや、あいつが飼ってる蒼い鳥で例える方がしっくりくるか? どちらにせよ笑わずにはいられねぇ。こんだけ笑える話はそう多くねえぞ?」
 白津竜造が大笑いしていると、肝心のアユナ・レッケスがやってきました。
「おっと本人登場だ。よかったな、アユナ。お友達は無事に見つかったようだぜ?」
「えっ、ホント? どこにいるの」
「この辺かな、いやあの辺か? いいか、トモちゃんなんてのはお前の妄想だ。どこにもいやしない」
 わざとらしくあちこちを指さしてすら白津竜造が言いました。
「えっ……トモちゃんが、この世界にいない……? う、嘘です! トモちゃんはちゃんとこの世界にいます! いなきゃおかしいじゃないですか! そうやってトモちゃんを……『私を』苦しめるつもりですか! 許さない、絶対に許さない!」
 そう言うと、アユナ・レッケスは白津竜造に突っかかっていきましたが、あっさりといなされてしまいました。
「いくら暴れても、てめぇの友達は世界中でてめぇの頭の中にしかいねぇんだよ。いや、消えちまったから『いた』が正しい表現か?」
「違います……トモちゃんがいるのは、私の頭の中なんかじゃありません! 違う……この世界にちゃんと、います……だから探さなきゃ……」
 そうつぶやくように言うと、アユナ・レッケスが外へと飛だしていきました。トモちゃんを探すために。
 けれども、当然のように見つかるはずがありません。
「……やだよぉ。出てきてよ、トモちゃん。意地悪しないで、出てきてよぉ……」
 そう言うと、思わずアユナ・レッケスは宿屋の前で座り込んで泣きじゃくり始めました。
「どうしたんですか、何か騒がしいようでしたが……」
 騒ぎを聞きつけて、黒凪 和(くろなぎ・なごむ)がやってきました。
「それで、何があったって言うんですか?
「なあに、アユナに本当のことを言ってやったってだけよ」
 聞かれて、悪びれずに白津竜造が答えました。
「本当のことってなんですか、教えてください!」
 黒凪和に聞かれて、ゼブル・ナウレィージが再び大仰に説明して見せました。
「……アユナさんのお友達が、イマジナリーフレンドで実在しない。それを知らされたからあんなに取り乱して……。だとしたら竜造! 君はどれだけ残酷なことを言ったのかわかってるのかい! 君がそこまで人の心がない奴だとは思わなかったよ! 君には、欠片の良心もないのかい!」
「俺らはホントのことを教えただけだ。お前がどうこう言うことじゃねえ。それに、俺に人の心の在り方を説くか……。それを問う資格がないということは、てめぇが一番よく知ってるだろ?」
「そう、だったね。僕には君に人の心についてを問う資格なんてない……。それでも、アユナさんへの態度は行き過ぎてるよ……」
 そう苦しげに白津竜造に言い返すと、黒凪和はアユナ・レッケスを追いかけて飛び出していきました。