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死の予言者

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死の予言者

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 10 

「早く、こっちへ」
 十兵衛はしほりと風太郎を連れて、どんどん奥の部屋へと進んで行った。
 やがて屋敷の最奥部の部屋にたどり着くと、そこに風太郎としほりを入れ、自分は部屋の入り口で見張りに立つ。
 そこへ、竜胆がフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)を連れて現れた。十兵衛は驚く。
「どうした。今まで帰らぬから心配していたのだぞ」
「すみません。実はオズノの幻術にはめられていて……」
 竜胆は答えた。そして、オズノの隠れ家で聞いた事、オズノに逃げられてここまで追いかけてきた事などを話した。
「なるほど」
 十兵衛がうなずく。
「では、既にここにオズノが忍び込んできているかもしれぬということだな」
 その言葉に竜胆がうなずいた。
「その通り。油断はなりません。幸いこちらには心強い味方がおりますが……」
 そういうと、竜胆はフレンディス達の方をちらりと見る。
 フレンディスは言った。
「お久しぶりです。お二人ともお元気そうで何よりで……しかしこの度は何やら物騒な事件のようですね。風太郎さんご安心くださいませ
私も忍びの端くれ彼らに負ける訳には参りませぬ。私達が必ずや貴方様をお守り致します。マスター、ポチ頑張りましょう」
「もちろんです、ご主人様。この優秀なハイテク忍犬たる僕の科学力で必ずや警護を成功させて見せましょう!」
 フレンディスの言葉にポチが答える。彼は自称優秀なハイテク忍犬であり、実際はフレが飼っている見た目愛くるしい豆柴だ。竜胆にはフレの前なのと雰囲気で愛想振り撒いている。
「うーーん」
 ベルクは少し渋い顔をした。
「しっかし忍者か……かなり厄介だな。どういう攻撃するか解らねぇし。気を付けねぇといけなさそうだ」
 すると、ポチが言った。
「エロ吸血鬼(ベルク)はキリキリ働いておけばいいのです」
「ふむ、久しいな十兵衛に竜胆よ」
 レティシアが言った。
「我は別段そやつ(風太郎)がどうなろうと興味はないが。中々に面白そうな連中が来るとフレンディスに聞いてな。そして十兵衛、我はお主の腕を今一度確かめたくもある……失望させるでないぞ?」
 レティシアは、以前十兵衛に宣戦布告して以来、恋愛感情という意味でなく、彼の事が気になっているようだ。
「ここで勝負をしようというのか?」
 十兵衛がおもしろそうに言う。
「しかし、今回は残念ながらその余裕はないようだ」
「そのようですね」
 レティシアのかわりにポチが答えた、そして、ポチはどこへともなく去っていく。
 近接苦手なポチは、戦闘サポート要員として参加していた。それで、事前に【防衛計画】で建物内を把握した上で【インビジブルトラップ】を設置しに行ったのである。
 一方、フレンディスは事前に『不可視の糸』を張り巡らしておく事にする。
 こうしてしばらくは何ごとも起きず、時間だけが過ぎていった。
 どれほどの時が過ぎただろうか。
 突然、どこからかなにかが爆発する音が聞こえてきた。
 ポチの設置したトラップに何者かがかかったようだ。
「敵です!」
 フレンディスが叫ぶ間もなく、いくつもの『目に見えぬ何者か』が天井から障子の向こうから襲いかかって来た。
 しかし、それらは全てフレンディスの仕掛けた『不可視の糸』にかかりその正体を露にして行く。
 フレンディスは同時に【殺気看破】で敵の動きを察知し『忍刀・霞月』での【魔障覆滅】で確実にしとめて行った。
 また、【行動予測】にて敵の動きを先読みし、【分身の術】も駆使しながら敵の攻撃を巧みに躱しつつ、『鉤爪・光牙』にて捕縛を狙う。
 フレンディスは、普段は天然鈍感世間知らず加えて時代錯誤のぽやぽやドジッ子忍者で、アホの子度合いも悪化中だが、今回は戦闘なので真面目だ。敵は同業者である以上プライドがある。一人でも多く仕留めたいと思っていた。その狙い通り、忍び達はフレンディスの刃の下、次々に倒れて行く。
 さらに獣人姿に身を変えたポチが、ライトニングブラストを展開。忍び達に雷属性のダメージ。さらに弾幕援護でフレンディスをサポートする。
 しかし、全ての敵を倒し終えるより先に、襖の向こうから悲鳴が聞こえた。
 何ごとかと思ってふすまを開いた一同の目に、銀色の髪の青年の姿が映る。説明するまでもない。オズノだ。
 オズノはやつれ果てた風太郎の顔を愛おしそうに見つめていた。
「あなたが、丸山風太郎さんですね?」
「その……とおりだ。……お前は?」
 風太郎はうつろな目でオズノを見つめて答える。
「私はオズノ。ずっとあなたを捜していました。あなたの中に眠る宝を求めて」
 それから、オズノは封印された風太郎の記憶を解き放つために、印を組んでマントラを唱え始めた。
 それらの言霊が風太郎の意識を再び混濁へと突き落とす。
「ああ、摩利支天……摩利支天が……」
 風太郎が混乱し始める。
「しっかりしろ、風太郎!」
 しかし、十兵衛の言葉も風太郎には届かぬようだ。
「まずいです!」
 フレイは叫ぶと建物内を逆手に取り【隠形の術】と【壁抜けの術】で移動。オズノの真後ろに迫り、【魔障覆滅】で攻撃しようとした。
 しかし、その瞬間、オズノが全身から炎を放った。
 フレンディスは咄嗟に逃げて事なきを得たが、その時、既にオズノは炎で燃えさかる剣をフレンディスに向かって振り下ろそうとしていた。
「フレイ!」
 ベルクが『闇氷翼』で飛行しながらオズノとフレンディスの間に入り込み、【行動予測】を駆使してオズノの攻撃を酒、そして【ホワイトアウト】を展開した。辺り一面に猛吹雪が吹き荒れオズノの炎が消えて行く。
 ベルクはフレイを後ろに守りながら言った。
「無茶すんじゃねぇぞ? 相手は大物だ」
「大丈夫です」
 フレイは答えた。
「敵は同じ忍者さんです。忍びの端くれと致しましては負けられませぬ…勝負です! マスニンとしての意地があるので負けられません」
「いや、ここは俺にまかせろ」
 ベルクは強引に押し切った。なぜならベルクにとってフレイは何にも変え難い存在だからだ。二人は最近漸く恋人同士(?)になれたところだった。もっとも、ベルクの気持ちを受け入れすっかり彼を頼……というか常時具現化中の耳と尻尾動かした懐き状態の割に手を出しにくい鈍感オーラを纏ったフレイのおかげで、二人の関係は微妙に進展していない。それを、気のせいだと信じつつ手を出す機会を考える日々の何気にへたれ苦労人のベルクだった。

「ふふ、やりますね」
 オズノが笑った。
「しかし、今の炎は幻覚です。私はアスラのように炎を扱う事はできませんからね。あなたは無駄な労力を費やした事になります」
「うるせえ」
 ベルクはオズノに言い返した。
 その一方で、彼はオズノの体が微妙に傾いでいる事を見逃していなかった。
 オズノは先ほどのエッツェルとの戦いで受けた傷に体を犯されていた。あの時、エッツェルが撃った混沌細胞射出器官によって、体の内部が破壊されていたのだ。それでも、恐ろしい精神力で持ちこたえたいたのだが、今のベルクの攻撃によるダメージで限界に近づいていた。
 ベルクはオズノが弱っているのを見抜いた上で言った。
「お前が幻覚で人の心をもてあそぶなら、俺はこの手を使う」
 そして、ベルクは【カタストロフィ】を展開。オズノの精神の混乱を狙う。さらに、【貴族的流血】を展開。具現化した無数の杭がオズノに襲いかかる。
「喝!」
 オズノはマントラで杭を打ち砕こうとした。しかし、数本の杭がオズノの体を刺し貫く。それでも、オズノは立っていた。ギリギリのところで精神の錯乱を持ちこたえているのか目が赤く充血している。
 そこにポチが【破壊工作】により威力を上げた『機晶爆弾』を投げつけた。
「なん……だと?」
 不意を撃たれたオズノに一瞬の隙ができる。
 その背後から、ヴァルキリーの脚刀を装備したレティシアが襲いかかた。彼女は、同じく脛に装着した『アルティマレガース』でスピードアップした飛行でオズノの背後に迫り、ヴァルキリーの脚刀に念じて刃物でオズノを攻撃した。

 ガシュ!
 
 オズノの背中から血が溢れ出す。
 さらに、大剣を駆使し所持スキル全て活用にて力業でオズノに斬り掛かった。

 ズガ!

 鈍い音とともに、オズノの体が崩れ落ちる。
 だがしかし、オズノは自らの鮮血を浴びながら不敵に笑った。

「ふふふ。良くやったとほめてあげましょう。風太郎さん。あなたにかけられた死の予言は破れました。あなたが今日死ぬ事はないでしょう」
「……」
 その言葉に風太郎は顔を上げた。
 そして、まるで、悪夢から覚めたかのような表情でオズノを見つめる。
「しかし、あなたの潜在意識の中に眠る記憶は目覚めた。いずれ、あなたは全てを思い出します。そして、『それ』を狙って新たなる刺客が狙って来るでしょう」
「そんな事はさせません」
 しほりが兄を庇うように言った。
「ふふ。可憐な乙女よ。しかし、定めには逆らえないのです」
 そこまで言って、オズノはがっくりと頭を垂れた。
 どうやら、こと切れたようだ。