リアクション
終章 Merry X’mas
ヤドリギが消えたテラスは、ようやく静寂を取り戻そうとしていた。
……ただ、尋常でない疲労感が立ち込めてはいるが。
「なんだか、雰囲気としては……炊き出しやってるみたいだねぇ」
佐々木 弥十郎が呟いたのも無理からぬことだった。魔力に踊らされた人々の群れが、ぐったりと座り込んでテラスの一角を埋め尽くす。その中で、花を咲かせた人たちに、その花で作ったハーブティを飲ませて体力を還元させているわけだが、気分的にボランティアの炊き出しをしているような錯覚を覚えてもおかしくない光景だ。年末という時節が、雰囲気に拍車をかけている。
「炊き出しなら食べ物も必要じゃろ。ゆで卵を作るんじゃ!」
「そんな無茶を言われても……卵ないし」
ゆで卵を食べたいだけのネオフィニティア・ファルカタの要求に、苦笑する弥十郎である。
ぐったりしている人々の群れの中に、“リア充ヤドリギ”の下から無理くり救助された仁科 姫月と成田 樹彦の姿もあった。
姫月は顔を赤くして樹彦の顔をまともに見られず、樹彦はヤドリギの魔力に突き動かされた反動で、半端ではない疲労感に半ば放心している。
あの衝動が、ヤドリギの魔力によって煽られたものであることを彼が知るのは、もう少し後のことになる。
同じ群衆の片隅に、ネージュ・フロゥの姿もあった。
ヤドリギの効果が去り、ネガティブな気分は抜けたものの、疲れてぐったりしていた。まだまともに頭が働かず、弥十郎から受け取ったお茶を、素直にすすっていた。
「お茶……あったかい……」
ラヴェンダーの香りの湯気が、暮れかかる空に立ち上り、消えていく。
人的被害に対し、テラスそのものへの被害は、さほどではなかった。
ヤドリギと契約者との戦いで、クリスマスの飾り付けは一部壊されたりもしたが、どれも修復不可能というほどではなかった。物騒なヤドリギはすべて撤去されたが、ルカルカ・ルーが【ラブアンドヘイト】で無害なヤドリギを1つ、補給してくれたので、それを飾ることができた。救助に携わったキリト・ベレスファーストも、ヤドリギを求める男女の心を鑑みて「需要があるならカップルづくりの手伝いをしてもよい」とは考えていたが、魔力に踊らされた人たちも周りでやきもきした人もヤドリギに挑んだ人たちも、現在は皆疲労困憊のていで、ヤドリギを使った“キャッキャウフフ”な遊びを求める者はいなさそうである。
「とにもかくにも、騒ぎが収まって……よかったですぅ……」
疲労しているのは校長室のエリザベートも同じことだった。除草剤の開発は途中で終わることになったが、取り敢えず事態の収束が早かったことを喜ぶべきであろう。薬液作りに付き合ったジギタリスの花妖精も、ぐったりと椅子に座りこんでいる。
「魔道書達も今頃喜んでいるでしょうねぇ……けど、私はもう疲れたですぅ……」
薬の香りの立ち込める校長室。
そこに突然、甘い、チョコレートの香りが、ドアの開く音と共に入ってきた。
「めりくりー!!」
ルカルカの明るい声と共に、ダリル・ガイザック作のクリスマスケーキが届けられた。
それぞれの人に、人それぞれのクリスマスが訪れる。
参加してくださいました皆様、お疲れ様でした。
できれば年が明ける前に公開できればよかったんですが、思いっきり年明けてからのメリークリスマスです、はい(汗)。
今回はちょっと、情報共有的な描写が入れられなかったのが残念です。書いてくださった方もいたのですが、他の方々と上手くマッチングさせられず……自分の力不足です。すみません。
思いのほか、お見舞いアクションが充実していたのが驚きです。キカミも喜んでいるでしょう。感謝です。
途中、以前のシナリオに参加していない方にはピンとこない個所があるかもしれませんが、申し訳ありません。
魔道書シリーズ、まだ少し続きます。お付き合いいただければ嬉しく思います。
一部の方に称号を贈らせていただきます。ご笑納ください。
花を咲かせた方とヤドリギ除去に携わった方には積極的にその旨の称号を贈らせていただきましたが、二つが重複している場合には、迷いましたが主にMC(もしくは立役者)には除去の手柄、LCにはお花という感じで行かせていただきました。
それでは、またお会いできれば幸いです。ありがとうございました。