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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

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第一章

 救援要請と同時刻 葦原島 イコン整備施設

「くっ! いつか来るかもしれないと思ったが存外早かったな! だが、何とかするしかあるまいよ!」
 明倫館の保有するイコン整備施設を背に立つ魂剛のコクピットで紫月 唯斗(しづき・ゆいと)は自らを奮い立たせる。
 施設の前には唯斗の乗る魂剛の他、イコンは柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の乗るアサルトヴィクセンたった一機だ。
 残るはサオリ・ナガオ(さおり・ながお)と、そのパートナーである藤原 時平(ふじわらの・ときひら)が野戦築城した陣地であるマリア・テレジア、そしてマネキ・ング(まねき・んぐ)の所有する機動要塞――生体要塞ル・リエー
 明倫館側に残された防衛戦力は、もはやその四つだけであった。
 対する敵は、たった一機で、教導団の重要施設を防衛する部隊すべてを壊滅させ、その上、九校連から集まったエース級のカスタム機を複数相手に戦い、苦戦させるほどの高性能機の一つ――“ドンナー”が十四機。
 更には、その上位機と目される漆黒のカラーリングに塗られた“ドンナー”タイプと、同色の“フリューゲル”までもが控えているこの状況。
 圧倒的不利な状況であることは火を見るより明らかだが、それでも唯斗たちは退く素振りを見せなかった。
「仲間をこれ以上やらせるかよ! ハイナ、救援はどれくらいで来る?」
 魂剛のコクピットから背後の施設へと無線を入れる唯斗。
『既に教導団と蒼空学園の混成部隊がツァンダを出発したという連絡がさっき入ったところでありんす。だから、もうじき救援が来てくれる筈でありんすよ……それまで何とか持ちこたえるでありんす!』
 即座に返ってくる無線。
 それができるあたり、どうやらまだ施設はまだ何とか大丈夫なようだ。
 それでも、油断はできない。
 この状況が予断を許さないものであることに何ら変わりはないのだから。
「了解、まぁそれまでにアイツ等全員斬り倒しても良いんだろ。そんじゃ、行ってくる!」
 ハイナからの無線連絡に威勢良く言葉を返すと、唯斗はコクピットでペダルを踏み込んだ。
 機体が加速していくのを感じつつ、唯斗はコンソールを操作する。
 今度は僚機であるアサルトヴィクセン、そして防衛部隊を担うマリア・テレジアとルー・リエーへと通信を入れるのだ。
「こちら魂剛――紫月唯斗だ。柊、マネキ信じてるからな。いざって時は支援を頼むぜ?」
 するとまずアサルトヴィクセンからの返答が入る。
『おうよ。それはもちろんだが――って、紫月……お前、一体何をするつもりだ。まさか本当にあの敵機どもを全部斬り倒そうなんて言うんじゃないだろうな?』
 確かめるような恭也の問いかけ、それに対し、唯斗は落ち着き払った声で答える。
「実行可能かどうかは別として、それぐらいの心づもりで挑むことに違いはない。もはやこの状況、可能だの不可能だの言っていられる状況ではないからな……一か八か、全身全霊を賭して道を切り開けるかを問う他あるまいよ」
 微塵の迷いもない唯斗の答えに、恭也は呆れ半分感心半分で息を吐く。
 そして、どこかぼやくように唯斗へと言った。
『やっぱお前はすげぇよ。にしても、だ……ったく、鬼鎧のデータ収集の為に転入した早々派手な騒ぎだな、速攻で第三世代機の出番とは。しかも迎撃イコンが俺と紫月だけとは、笑えねぇよ』
「イコン整備施設が奇襲され、迎撃に出た鬼鎧も軒並み返り討ちに遭ってしまったのだ……致し方あるまい」
『ああ。そして俺等がたった二機で相手しようとしてるのは、ここに詰めてた鬼鎧部隊をバッタバッタと斬り倒した化け物機体が十五機と、空からこっちを見下ろしてるあの黒いのが一機――無茶にもほどがあらぁな』
 無線で交わされる唯斗と恭也の会話に、若い女性の声が混じる。
 恭也のパートナーであり、アサルトヴィクセンのサブパイロットである女性――馬 岱(ば・たい)の声だ。
『やれやれ、相棒も相変わらず無茶するのが大好きだねぇ。それに付き合うこっちも大変だってのに。まぁ、こういった修羅場は大好きだけど』
 すると早速、恭也がそれに反応したようだ。
『おいおい、簡単に言ってくれるぜ……まぁでも、よ。転入したばっかの明倫館をやらせる訳にはいかねぇな?』
『無論だ、相棒。これだけの敵機を相手に立ち回るんだ、小さな情報一つで生死を分けるよ。私は戦域管制に集中して常に周囲の状況を把握しよう。だからキミは操縦に専念し、奴等に第三世代機の力を思う存分見せつけてやるといい』
 そこで一旦言葉を切ると、岱は魂剛の唯斗へと語りかける。
『そういうわけで、無茶が好きなのはお互い様。だから、あたしらもいっちょ無茶させてもらうよ』
 岱のその言葉を裏付けるように、魂剛のコクピット内にあるモニターの中で、アサルトヴィクセンが加速していく。
 ほどなくしてアサルトヴィクセンは魂剛に並走する形になると、ともに土埃を蹴立てながら地面を疾走する。
 並走する二機のイコン。
 その二機に、今度は生体要塞ル・リエーから通信が入る。
『ル・リエーのセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)だ。後方支援はこっちで担当させてもらうぜ。にしても、あのトンデモ機体は一体何なんだろうな? さっきから見てりゃあ、随分と人間臭い動きをしてやがる』
 セリスのその疑問にすかさず答えたのは恭也だ。
『どうやら敵機は出来る限り動きを人間に近づけた近接機体か。最近まで天御柱に居た俺としては別段珍しい敵じゃねぇな』
 そう答える恭也は事も無げだが、対するセリスは驚きを隠せない。
『え!? どういうことだ……あんなトンデモ機体が珍しくないなんてよ……』
 セリスは未だ驚きの余韻が抜けきらないようだが、更に恭也は堂々と言い切った。
『真司――天学の柊 真司(ひいらぎ・しんじ)の最新機体ゴスホークもモーショントレースシステムを搭載してたし、むしろゴスホークに比べりゃ敵機の動きは対した事はねぇ』
 堂々とした自信とともに言い切る恭也に、セリスは感心した様子だ。
『そいつは頼もしいな。ならとっとと頼むぜ。あいつらを……蹴散らしてくれ!」