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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

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 同日 教導団本校 資料室
 
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)を始めとする籠ったトマス隊の面々は誰もいない資料室に籠って調査を遂行していた。
 だが、思いのほか難解な『偽りの大敵事件』に苦戦しているようだ。
「真実が、少なくとも僕個人としては知りたい。が、それを公表するかどうかは政治的判断だ」
 読み終えた資料の一つを机に置きながら、トマスは言う。
「隠されたもの」があるなら、知りたいと思うのが僕の好奇心だ。その『偽りの大敵事件』が、本当である可能性があるならば、「僕も」真実を知りたい」
 そこで一旦間を置いてからトマスは続ける。
「が、真実を広く人々に知らせるかどうかは別問題。真実を知らせる事が必ずしも、民衆にとって良い事かどうかはわからない。時効になってしまった、と人々が思えることなら暴き立てても可、か。無用な混乱・争乱となる原因にならない様、調査結果を慎重に『政治』的判断を加味して取り扱わなければ」
 どこか言いにくそうに言い淀んだ後、意を決してトマスは言う。
「イリーナ中尉の供述だけを聞くと、その事件で大切な人を失った者の妄想、とも取れなくもないというのが個人的な感想だ。かつての鏖殺寺院も今は無く、憎しみをぶつける相手を求める心が生み出したのが『偽りの』大敵事件ではないか」
 それに関して、トマス隊の面々は特に口を挟まない。
「テロめいた事件が「あった」のは事実だ。が、その裏事情について、彼女が話が事実であったかどうかはわからない。外に現れる事象は同じものであっても、その観察者の立場や感覚によって、まったく別の意味に解釈されて理解される事というのは多々ある」
 言い終えたトマスは、一拍置いてから、ゆっくりと告げた。
「今、不都合がないなら、秘め事は食器棚の奥に隠しておくものさ」
「明確になっているところから順次解きほぐしていきましょう」
 そう言葉をかけるのは魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)だ。
 まず今般の事件に関わっているイリーナ中尉の過去の行動や人間関係のデータを根回しによってで調べ上げたのを洗い出し、発言背後を少しづつ明確にし『事実である』と確信できる情報を積み上げていく。
 それが彼の方針だった。
 そして、そのおかげか、今の『所発言背後において特におかしい所はないように思える』ということが判明していた。
「時を元に戻す事はできないが、残された記録や記憶を付き合わせ参照する事によって「その時」実際に何が起こったか、かなりの近似値で推論する事が出来ます」
 纏めた資料を見せながら、彼はなおも語る。
「信用、という点ではイリーナ中尉は残念ですが均団長ほどには「裏付け」になる行動を私達は知りません。彼女の言を事実として受容し、『事実』として騒ぎたてるには相応の事がなくては」
 そして最後に、彼はこうも付け加える。
「人はゴシップ好きですよ、ええ。」
 しばし無言になる資料室。
 その沈黙を破ったのはテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)の一言だった。
「そりゃあイリーナ中尉の言葉が本当なら、信じていた大地が足元からガラガラ崩れおちる……って、パラミタ大陸は宙に浮いてるじゃんかよ!」
 テノーリオの一言で、思わず彼にトマス隊全員の視線が集まる。
 どこかバツが悪そうにテノーリオはわざと咳払いすると、たった一言を呟く。
「とりあえず『今の俺』が無事ならいい。宙に浮こう」
 またも資料室を無言が支配する。
 再びそれを破ったのもテノーリオだった。
「が、彼女がそういう発言を意味もなくする訳もない。何の動機がなきゃ、そんな事を言ったり行動したりはしない」
 話しながら何か確信めいたものが出てきたのか、テノーリオは迷いなく言い切った。
「『よっぽどの理由』が何かある。そして、得体の知れない攻撃を仕掛けてきてる連中にも何か理由がある筈、『盗人にも三分の理』ってな」
 しばし黙った後、テノーリオは静かに語り出した。
「だからといって、成す事が全て正当化される訳じゃない。よしんば校長連中が知らぬ顔の半兵衛を決め込んだにしても、保身だけが理由でそういう事をする人達じゃない事を俺は知っている」
 そしてふと思いついたように、テノーリオは言った。
「――過去を掘りに現場に行くか?」
 その提案を受けてしばし考え込むトマス隊。
 ややあって、ふと口を開いたのはミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)だった。
「そんなに都合よく証拠隠滅できるものかしら? 九校連のトップ達が共犯……当事者が多いと、秘密はたやすく漏れるものだもの」
 しばし考え込んだ後、ミカエラはいくらか柔らかな表情になる。
「ただ確実なのは、イリーナの中では『それは真実』であり、彼女にとって重荷であった事。私達に話せて、少しは心が軽くなった事かしらね」
 柔らかな表情は保ったまま、ミカエラは続ける。
「誰が、何者が彼女に『そのよう確信』を与えたか? 彼女の告白は、一個人で知りえる範囲を大幅に越えている。叶中尉のお話では、金団長は疚しいことは無いと断言されたそうね。イリーナの言葉を信用して、金団長の言葉を信用しないに足る理由はない。彼女の認識は、彼女にとって真実」
 そう告げると、ミカエラはトマス隊の仲間達を見渡して言う。
「では、本当の事実・真実を事件当時の体験者等を追って聞き取り調査をし、縁取りを見極めましょう」
 その言葉を受け、テノーリオは再び呟いた。
「やっぱり、俺達は過去を掘りに現場に行くべきなのかもしれないな」