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封印された機晶姫と暴走する機晶石

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封印された機晶姫と暴走する機晶石

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■幕間:古き魔物

 鈍色の牙が奔る。
 牙は深く喰い込み、信管を貫いた。炸薬に火が付きそれが本来の役目を果たす。起こるのは爆発だ。衝撃が頭部を抜け、内側が膨れ上がり、破裂した。
「単純な行動ですね」
 襲い掛かってきた狼型の機晶姫を破壊したのはブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)だ。彼は砲弾を一つポッドから取り出すと件の敵に投げつけたのである。その結果は見ての通りだった。
 彼の足元には頭部が破壊された機械の姿がある。
 と、近くで轟音が鳴り響いた。
 音の方を見やれば獣たちが爆発に巻き込まれ壁に叩きつけられている。
「本当に、獣と変わらないからトラップによくかかる」
 そう言いながら近づいてきたのは玖純 飛都(くすみ・ひさと)だ。
 彼は倒れている獣の機械部分を調べる。
「生物に機械化処理を行ったような感じだな、暴走しているわけではないのか。だとすれば獣とさほど変わらない行動なのも頷ける。試してみたいことはあるが……さすがに元気に動き回ってるのを掴まえるのは危険か」
 獣と変わらない、つまりそれは知性のある生物と比べて行動が単純だという事実でもある。
「対処が楽ならこちらとしては大助かりだ」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)は言うと続ける。
「機械の暴走の原因が石女神じゃない可能性もある。わしらはこいつらを倒しつつ、遺跡に問題がないか調べるぞ」
 パートナーたちに告げ、玖純を見た。
「一緒に行くか?」
「ここで会ったのも何かの縁だ。一緒に行こう」
 二人が話し終えたとき、視界の端に鳥の姿が見えた。
「彫像の相手くらいなら僕にも何とかできそうですけど――っと!」
阿部 勇(あべ・いさむ)が話している途中、鳥型の機晶姫が襲い掛かってくる。彼は鳥の胸辺りに機械的な処理が施されているのを確認すると、ライフルでその箇所を狙い打った。発砲音に続いて鳥が地に落ちる。
「野生の獣よりちょっと硬いくらいですよね」
「処置痕をみた限りでは制御を目的とした改造をされてるようです――」
 ブリジットは言葉を止めると、考えるように歩みを止めた。
 そしてしばし時間を空けてから口を開いた。
「お伽話の事ですが、ここの魔物の様子を見るに鬼も機械化がされているのでしょう」
「う〜、あのお伽話はめでたくないですよね? 倒す以外のめでたく終われる方法ってないでしょうか?」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)がブリジットの言葉に続く。
 どことなく物憂げな様子なのは彼女の優しさゆえなのだろう。
「白鬼が黒鬼に攫われたというくだりが正しいとすれば、再調整を施されたと考えられます。白鬼の行動自体がバグならば修理とか修正ファイルのダウンロードとかで済まされそうな気もしますが……」
「そ、それなら助けられるってことですよねっ!?」
 笑みを浮かべるブリジットに夜刀神が重たそうに口を開いた。
「だがそれらしき設備はいまのところ見当たらない」
「ですね」
 二人の言葉にホリイは悲しげな表情を浮かべた。

                                   ■

 4人が彫像の魔物を退治しながら遺跡内を探索していると、ある区画に入り込んだ先で景色が一変した。
 瓦礫の上に雪が積もっている。
 雪景色の広がるその中心に欧州に住む貴族のような姿の男がいた。
「やはりこうなるよね」
 彼、メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は駆け出したリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)を見ながら呟いた。彼女の向かう先には襲ってくる獣たちと戦っている二人の姿がある。
 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)だ。
 幾匹かの獣がエースたちに襲い掛かる。
「数だけは多いね」
 彼が床を足先で叩いた。
 すると瓦礫を割って地面から石の槍が生え、獣たちを貫く。
「グァウッ!!」
「ギャウッ!」
 獣たちの悲鳴が聞こえた。
 普通の獣であれば即死に至るほどの一撃だ。しかし石に貫かれながらも目の前の獣たちはこちらを襲うべく爪で目に届くものを掻き続ける。その様子に知性というものは感じられない。機晶姫というよりは機械のようであった。核の存在だけが獣が機晶姫であることを教えてくれている。
 だがそれも獣が動きを停止すると崩れて消えた。
 エースの死角から幾匹かの獣がさらに襲い掛かってきたが、エオリアがその攻撃を防ぐ。数匹を手にした剣で打ち払ったのち、エースが合わせて動いた。
 彼の手の動きに合わせて炎の獣が生まれる。それは機械の獣たちを追いかけて遺跡内を駆け抜け巡った。目標物以外を燃やすことなく炎の獣は暴れまわる。
「これだけ多いと収拾するのも一苦労ですね」
「そうだね。これじゃあ調べる余裕もなさそうだよ」
 エオリアの言葉にエースが答えた。
 彫像が端から動き出している現状、すべての魔物を倒すのは厳しく思えた。
 話している間にも獣たちがエースたちに近寄ってくる。
「せぇいっ!」
 声と共にリリアが剣を振るった。
 飛びかかろうとした獣が壁へと叩きつけられる。
「リリアは後方担当じゃなかった?」
「あら、前に立って戦うわよ。だって騎士だもの」
「そんな気はしていたよ」
 振り返るとメシエが何とも言い難い表情を浮かべていた。
 心中はお察しください、といったところだろうか。
 彼らが戦闘を続けていたところに夜刀神たちが追いつく。
「手を貸そう!」
 彼は言い、駆け寄った勢いを殺さずそのまま獣たちに突撃する。
 ブリジットたちも後に続いた。彼らの手によって駆逐されていく機械の獣たちを見ながらエオリアが告げる。
「エースとメシエさんは状況改善の手立てを調べてよ。僕とリリアさんはあっちに協力して数を減らしてくるから」
「任せておいて。メシエにウルサイこと言われない程度に戦ってくるわ」
 そう告げるエオリアたちにエースは笑みを向けた。
 戦いに向かう二人の背を見送って、エースはメシエに話しかける。
「それじゃあ俺たちは調べ物をしようか」
「心得た。サイコメトリでこうなった状況や魔物作成時の事など、何か情報を読み取れないか試すよ」
 彼は言うと足元に転がる機晶姫だったものに手を伸ばした。