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封印された機晶姫と暴走する機晶石

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封印された機晶姫と暴走する機晶石

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■第二幕:人の力

 見えない何かが綾原に迫る剣を宙に止めていた。
 剣の機晶姫が四本の剣を自分の下へ集め、再度彼女に対して攻撃を開始する。
 一本、二本、と剣が振るわれるがやはり何かが邪魔をして綾原にまで届かない。
「――え?」
 彼女にも何が起きているのか分からない様子で目の前で起きている事象を見つめていた。呆然としている彼女に歩み寄るものの姿があった。緋王 輝夜(ひおう・かぐや)だ。
「ヤバそうなのを片っ端からぶっ壊せばいいんだったよな?」
「ええ……そうです……ほら丁度良いのが……目の前に」
 あきらかに身の丈に合っていない大斧を背負いながら、少女、ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)は答えた。彼女の後ろには重火器をこれでもかとばかりに身に着けたアーマード レッド(あーまーど・れっど)の姿もある。
 緋王は倒れている綾原たちを見て、奥で戦っているアルクラントらに告げた。
「こいつらの相手はあたしらがするからさ。アンタたちはこの子ら連れてちゃっちゃと逃げなよ?」
「そうしたいのは山々なんだけど、さっ!」
 アルクラントは放たれる盾を銃で叩き落とす。
 そこへフレンディスらとぺトラがチャンスとばかりに盾の機晶姫に攻撃を行うが、直撃には至らない。残りの盾でどうしても防がれてしまうのだ。
「堅いねー」
「まったくだらしのない。このエロ吸血鬼、さっさと働くといいのです」
「働いてんだろ。ワン公は少し黙ってろ!」
 ベルクは言うと雷を放つ。疲れてきているのだろう。その動きは鈍い。
 機械と人の差がそこには窺えた。
 その戦い様を見て緋王はなるほどと頷き、正面に立ちふさがる剣の機晶姫を見た。
「けど、コレくらい楽にこなさないと……エッツェルを止めるなんて笑い話だよね」
 思い浮かべるのは何処かへと姿を消したエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)の在りし日の姿だ。彼女の視線の先、剣の機晶姫が左右に二本ずつ剣を滞空させる。回転が始まり、その速度が上がり、風切り音が鳴り響く。
 彼女の後方、アーマードが構えたライフルの引き金を引いた。
 発砲音と同時に機晶姫が地を蹴って距離を詰めてくる。銃弾は剣によって弾き飛ばされ、見当違いの方向へ跳弾した。機晶姫の勢いは止まらない。
「標的……損傷ナシ」
「見れば分かるっ!」
 緋王が駆け出した。
 彼の視界の中で、彼女は自らの影をいくつも生み出す。それは卓越した運動能力と技術の産物だ。これにはさすがの機晶姫も虚を突かれたのか、足を止め剣を前面へと押し出した。刃がいくつか残像を切り裂く。だがそれも長くは続かない。
 不可視の力によって剣がその動きを止められた。
 緋王の一撃が剣の機晶姫の頭部を直撃する。その顔に深い爪痕が刻まれた。
「…………」
「これだけしても何も言わないってのは喋らないのか、喋れないのか――」
 緋王の言葉を遮ってネームレスが手にした大斧を振り下ろした。
 防ぐのは無理と考えたのか、機晶姫は剣を斜めに構えその軌道を逸らす。結果、斧は地面へと叩きつけられた。通路に亀裂が入る。
 攻撃の手は緩めない。
 彼女は大斧を振り回して剣の機晶姫に迫った。
「ククク……楽しい……お仕事……の時間で……す」
 その容貌が変じた。口が裂け相手を喰らおうと咬みついた。
 機晶姫はその攻撃を一本の剣で防ぐ。ガキンッ! と音が鳴った。
 彼女はそれを意に介さない。一回、二回、三回と続けざまに喰らいつき噛み砕いた。仲間の危険を察知したのだろう、盾の機晶姫が緋王たちの所へ向かう。
「私たちは負傷者を離脱させます故、援護を願います」
 フレンディスが皆と共に遺跡を入口の方へと向かって走り出した。
 二体の機晶姫の意識が緋王たちに向かったのを好機と判断したのだ。
 緋王は負傷者たちを見て口を開いた。
「任せておけって!」
 彼女の眼前、剣の機晶姫と入れ替わるように盾の機晶姫が前へと出た。
 先ほどと同じように残像を用いた戦法で攻撃を試みる。
 しかし剣の機晶姫の時と具合が異なっていた。守りに特化しているその動きを抜くことは難しい。攻撃を当てようとしても四枚の盾が邪魔をする。剣と違うのはその防御に対する面積だ。格段に盾の機晶姫の方が攻撃を通し難い。
 さらに攻撃の息が途切れた瞬間を狙って剣の機晶姫が前へ出てくるのだからたまったものではない。
 アルクラント達がいなくなったのを確認すると緋王がぼやいた。
「――とは言ってみたものの、こうも硬いとどうぶっ壊せばいいもんかな」
「相手の意表をつけばいいじゃないか」
 背後から聞こえた声に振り向こうとしたその時、横を通り抜け機晶姫へと突貫する男が現れた。手にした剣で攻撃を仕掛ける。だがそれは当然のように盾の機晶姫によって防がれた。
「堅いな」
 続けざまに何度か斬りかかる。
 幾手か、少し変わった動きで攻撃をするがどれも盾に防がれてしまう。
 一旦下がり、様子を見やる。
「先に行かないでよ」
「まったくもってその通りだぜ」
 男、匿名 某(とくな・なにがし)を追ってやってきたのは結崎 綾耶(ゆうざき・あや)大谷地 康之(おおやち・やすゆき)の二人だ。彼女たちは追いつくなり臨戦態勢をとった。
 結崎の指先が淡い光を放ち虚空に文字を連ねていく。
「俺の知り合いやダチにも機晶姫がいてすげぇ戦い難いが……すまん! 今回は止めさせてもらうぜ!」
 大谷地が駆ける。
 匿名も合わせて地を蹴った。
「こっちを見やがれっ!!」
 叫び、手にした槍で剣の機晶姫に狙いを定める。鋭い一撃は一振りの剣を弾き飛ばした。どうやら彼は本体を傷つけるつもりはないようだ。先だっての言葉から察するに、機晶姫との対話を狙っているのだろう。
 しかし機晶姫が彼の言葉に耳を貸すことはない。
「おっと――っ!?」
 緋王が盾の機晶姫に接敵していたとき、急に身体が上手く動かせなくなった。
 隣を見やれば匿名が何かをしている様子で剣を構えていた。
「すまないが無重力空間を作った。さすがに急な環境の変化には追いつかないだろうな!」
「そういうことするなら前もって言いやがれ!」
 匿名の剣と緋王の不可視の力が盾の機晶姫を盾ごと吹き飛ばした。
 二人が下がろうとしたその瞬間、剣の機晶姫の剣が二本、無重力をものともせずに襲い掛かってきた。だが結崎の生み出した光の文字列が剣を弾き、彼らを守る。
「させません」
 彼女はさらにいくつも文字を虚空に連ねていく。
 守る、その思いの強さが瞳からは感じられた。
「これで、しばらく動かないでくれよ?」
 大谷地の槍の柄による打突が剣の機晶姫の胸を穿った。
 機晶姫の表面に亀裂が入り、剣の機晶姫も盾の機晶姫同様に弾き飛ばされる。
 機晶姫たちの様子を眺めていると後方から駆けてくる足音が聞こえてきた。
「すまないが通らせてもらう」
 緋王たちの間をすり抜け、四つの影が通路の奥へと向かって駆けて行く。
 それは瀬乃 和深(せの・かずみ)を先頭にした上守 流(かみもり・ながれ)セドナ・アウレーリエ(せどな・あうれーりえ)リオナ・フェトラント(りおな・ふぇとらんと) たちだ。
 前方、地面に転がる二体の機晶姫の動き出すところを見て、セドナが言った。
「自分が足止めをしている間に先に行け」
「セドナ一人に任せてはおけない。私も残る」
 剣の機晶姫が立ち上がり、散らばった剣を自分の周囲に集めた。
 通路を抜けようとする瀬乃たちに視線を向ける。
「させんよ」
 セドナが手にした大槌を機晶姫に振り下ろした。
 ガキンッ! という音とともに剣の機晶姫が彼女に振り向いた。槌は剣により防がれている。こちらを見ていなかったというのに防がれた、その事実を目にしてセドナは笑みを浮かべる。
「斬り合いは望むところだっ!」
 二体の機晶姫と人間たちの戦いは加速する。