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【第三次架空大戦】這い寄る闇

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【第三次架空大戦】這い寄る闇

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 女子更衣室――
「さて、妙なことになったのう」
 織田 信長(おだ・のぶなが)がシャツを脱ぎながらそういう。実用性重視の白いブラジャーが、大きな胸を包んでいる。
「どうせ――」
「――偽情報じゃろ」
「ちょっと、あたしのセリフ取らないでよねぇ」
 言いかけたセリフをとられたミレリアが抗議の声を上げる。
「まあまあ……」
 スパイ問題の監査役として国軍から出向しているルカルカ・ルー(るかるか・るー)がミレリアに抑えるように言う。
「実際問題、ダリルが調べた限りではリリーが通信なり思念なりで外部と連絡をとった形跡はないのよね〜」
 ルカルカのパートナーにして国軍の科学者であるダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が調査した結果を告げた。それに対して
「へ? 軍はそんな事までわかるの?」
 とジヴァが驚きの声を上げる。
「あ、うん。軍がその気になればすべての通信を傍受できるし、通信ログにもアクセスできるから、リリーの通信を調べてみたのね。そしたら外部との通信履歴は一切なかったよ」
「だと思ったわぁ……」
 ミレリアが気だるげに言う。
「良かったですね……」
 ベアトリーチェがリリーの手を握りながら我が事のように喜んだ。
「うん。ありがとう――」
「ということで、これ以上リリーに誹謗中傷を飛ばすようなら、あたしが物理的に制裁加えるからねぇ」
 ミレリアが肉食獣のような笑顔でそう告げると、周囲の女生徒たちは不承不承頷いた。
「ごめんなさい、リリー。みんな私のせいね……もっと慎重に行動すべきだった」
 そう言ってリリーの手をとったのはディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)
「そういえば……スパイの話が持ち上がったのって貴女がきてからだったわねぇ?」
 ミレリアが胡乱な目でディミーアを睨む。
 ディミーアが『逃げる途中、勇者たちに潜んで同士討ちを狙っているというスパイの会話を偶然聞いた』という情報とともにその話を拡散したのが発端ではなかったか? ミレリアがそう問いただすと
「そ、それは本当だよ!? でも、軽率にそのことを言っちゃったから……リリーにつらい思いをさせちゃったな……って」
「ふぅん……」
「いいよ。ルカルカさんがちゃんと私が潔白な証拠を教えてくれたんだし」
 リリーは微笑んでディミーアを抱きしめる。
「罪滅ぼしのつもりじゃないけど……友達になってくれない? 私も転校生だし、友達いなくて……」
 ディミーアがおそるおそるそう言うと、リリーは笑って、「うん!」と答えた。
「ありがとう――」
 感極まった面持ちで、ディミーアが感謝の言葉を告げる。
 そんな一連の様子を――ヘルガイアの幹部ドクター・キョウジこと湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)がモニタで見ていた。
 有機アンドロイドのネフィリム姉妹の見聞きした情報は、すべてキョウジに送られてくる。しかしキョウジは国軍がすべての通信を傍受していることにまでは頭が回っていないようだった。
 ――国軍
「うん。この前の流星騒動の辺りから、ってのがあれだね」
 リカインはなんとか時期についての解明を終えたようだった。
「はい、ドクターダリル」
 そして、ダリルの研究室に通信をつなげる。
「やあ、リカイン大尉」
「有機コンピュータたるドクターに頼みごとがあるんだけど、いいかな?」
「内容によるが……」
 なんだね? とダリルが尋ねると、リカインは【流星騒動のあとの通信ログを、内容は必要ないから誰がどこに発信しているかとその頻度】を調べるように要請した。
「……成る程。概ね把握した。数日中には報告できるだろう」
 万全の自信を持ってダリルが答える。
「よろしく頼むよ」
 それからいくつか挨拶を交わして、リカインは通信を切断した。
「あ、お嬢ちゃん。これ整備班に渡してくれる?」
 リカインはどうしても電子データでは渡せない書類を、最近ボランティアスタッフとして基地に居着いたエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)に手渡す。
「あ、はい。わかりました」
 エクスは頷いて書類を受け取ると格納庫へと向かって駆け出す。
 すると、何やら途中で人だかりに出くわした。どうやら騒動が起きているらしく、スパイだの銃殺だのと怪しげな単語が聞こえてくる。
 そんな中、一人の少女が大きな声で叫んだ。シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)だった。
「わざわざ敵が人質を渡してくれたようなものじゃない。スパイだというのなら必ず「今の顔」を持っているはず。だったら。ここで過ごす時間で埋め尽くしてそれを「本当の顔」にしてしまえばいいじゃない。いい意味でも、悪い意味でも逃がしゃあしなきゃいいだけのことだよ。単純でしょう?」
 それを見ていたキョウジは
「残念ながら、ネフィリム姉妹は使い捨ての駒にすぎないんだけどねえ……人質としての価値などないよ?」
 とほくそ笑んだ。
「とはいえ、警戒レベルが厳重な国軍の基地だと、やはり重要な情報には出会えないね……」
 そう言っている間に、エクスは整備班長と面会していた。
「ふむ……この際整備でもいいか? 整備に不良があれば相対的にこちらが有利になるだろうしな」
 キョウジはそうつぶやくと、手元にあるスイッチを押した。
「ん? 嬢ちゃん? どうした?」
 整備班長が、突然苦しみだしたエクスに心配そうに尋ねる。
「ガ……アッ……」
 エクスは、急激に変貌していく。体中のいたるところから、銃身やミサイルの発射口がとび出す。
「うわああああああああああああああああああ」
 整備班長がエクスに背を向けて走りだす。が、すでに遅かった。
 照準も定められぬままに発射されたミサイルが格納庫にいる整備班や、整備に使う各種工作機械、そして機体を破壊する。
「ダリル博士! これは!!」
 ダリルの研究所。ダリルの部下として配属になった天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が叫ぶ。
「どうした?」
「格納庫で敵性体がミサイルを乱射。甚大な被害が出ています!」
 十六凪はそんな報告をしつつ
(ふむ……これはドクター・キョウジの手のものですね。派手にやってくれる)と考えていた。
 十六凪は実はドクター・ハデスに作られたオリュンポス・パレスの制御用生体コンピュータであり、魔神帝国ヘルガイアの参謀であった。軍に対してスパイとして潜入していたのだった。
「ルース大尉に報告回せ!」
「やっています!」
 十六凪は支持を受ける前に、すでにルースに状況を送っていた。しばらくは信用されるためにまじめに軍務に励むつもりだったので、エクスの行動を停止させるために自分の職権で動かせるあらゆるコンピュータにアクセスした。