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リアクション
2、温泉タイム 〜自然災害と厳しい仕掛け人〜
「……死屍累々ね……」
思わず雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)がつぶやいた。
たくさんの生徒達が、スライムやドクターフィッシュや、つるつる石けん地獄にはまり、気絶していた。
「隙あり!!」
「きゃああああああっ!?」
すっと、白い手の平が雅羅のわきから伸びて、胸をもみくだいた。
同時に風船が割れる。
あわてて、雅羅は近くの露天風呂へと飛び込んだ。
「あら、雅羅だったの? てっきり、風船かとおもったわ」
「そんなわけないでしょ!?」
宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が、わざとらしく驚いて見せながら、謝まる。
だが、雅羅はわざとだと自分の胸を腕で隠しながら怒りたてた。
「まったく、風船が割れてしまったじゃないの」
「……」
祥子はじーっと、雅羅の胸をまだ見続けていた。
「雅羅、あなた本当に大きいわね……風船と変わらないどころか西瓜くらいあるんじゃない?」
「ないわよ!!」
「あ、ちょっと待ってて」
そういうと祥子は突然、どこかへと歩いて行った。
その先には、水着姿の女性が2人、まさに湯船に入ろうとしていたところだった。
祥子は空気をゆっくりと吸い込むと、2人を呼び止めた。
「待った」
「えっ?」
お風呂に入ろうとしていた彩光 美紀(あやみつ・みき)の腕を、祥子は掴んで制止する。
「お風呂に入るときは水着はダメですよ?」
男子がいるのにと、反論しようとした美紀だったが、祥子の鋭い目つき(侠客の威勢によるもの)に圧倒され、ただ立ち尽くしていた。
返事のない美紀を怪訝そうな表情で、さらに祥子はにらんでみた。
これも、すべて今回の仕掛けのためだった。
実際効果があるのか、風船が割れるまでカウントダウンが始まりかけた。
「すみません、すぐに水着脱ぎますから」
横からセラフィー・ライト(せらふぃー・らいと)が、お辞儀をして祥子から美紀を話した。
祥子は納得したのか、再びどこかへと姿をけした。
「あ〜怖かった」
「油断はしたらだめですよ!」
額に汗をかく美紀に、セラフィーがぴしゃりと注意する。
「あっ、早く湯船に入りましょう?」
「って、全然油断してますよね!?」
美紀は気分を切り替え、先になって湯船に足を突っ込んだ。
ため息をつきながらセラフィ―も入ろうとしたとき、何かうごめくものが見えた。
ぬるぬるした液状生物、スライムだった。
「あ……」
「きゃっ、なっ、なにかいるっ!?」
顔を少し紅くしながらも、美紀は温泉の中を飛び跳ねた。
しかし、スライムは狙った獲物は逃さないとばかりに、素早く追いかけてくる。
「やっ、そ、そんなとこだめ!」
「……どうしましょう」
色っぽい声まで出して、逃げ惑う美紀をセラフィ―は少し顔をにやけさせながらも眺めていた。
心の中でまさに助けるか、それともこの状況を楽しむべきかと葛藤していた。
その葛藤の末選んだのは。
「こ、これは試練です。きっと美紀なら乗り越えれますよね」
風船がすべて割れるまで眺めていたのだった。
§
「な、なにか悲鳴のようなものが聞こえてきたわよ?」
「気のせいよ〜」
遠くから聞こえる色っぽい悲鳴に驚きながら聞いてくる雅羅に祥子は満足げに答えた。
「おぬしの背中流しは中々に良かった」
「げっ」
一瞬で雅羅の表情が青ざめたものへとなる。まるで、信じられないものを見たかのような表情だ。
そんな、筋肉な話に馬場校長とルカルカ・ルー(るかるか・るー)は花を咲かせながら湯船、祥子と雅羅の前につかった。
「腹筋がすごいな……記念に握手をお願いしたい」
「む? かまわん」
「うおっ!」
コード・イレブンナイン(こーど・いれぶんないん)が、馬場校長に握手を求める。
が、その力は予想以上に強いもので、手がごりごりと音を立てて潰されるような感触に襲われる。
コードはその痛みを声に出さないようにこらえた。
「ふむ、良い根性だ」
「は、はは……」
馬場校長の言葉にコードは苦笑しながら、痛みの発する手を和らげるためにお湯につけた。
しばし、祥子とルカルカたちは筋肉の話で盛り上がるのだが、すぐにルカルカが立ち上がった。
「どうしたの?」
「あ、馬場さん達もそろそろ浴場から出たほうが良いよ〜」
祥子の問いかけにルカルカは不敵な笑みを浮かべながら答えた。
§
「がぼっ、がぼぼぼぼっ!?」
「『どうして、浴場が洪水になってんだぜっ!?』ですか……」
イナ・インバース(いな・いんばーす)が冷静に、言葉になってない恭也の言葉を翻訳した。
冒頭で気絶した恭也を介抱してくれたのはイナだった。
というのも正しくは恭也”を”ではなく恭也”も”である。
イナは応急手当などの裏方担当のため、生徒達を看病しておりたまたま恭也を手当したところ、洪水に襲われたのだった。
「がぼぼぼっ!」
恭也はすでに息も切れ切れでおぼれかけている。通常の波なら、なんてことはなかっただろう。
しかし、今や大浴場はすべて、お湯がサーフィンの波ばりに強い波を立てて生徒達へ襲いかかっていた。
波の高さは人を軽く飲み込める、5メートル以上はあった。
「あえて言うならあちらのかたが怪しいのではと私は思いますよ」
「気をつけて、大自然の驚異だよっ!!」
ルカルカが楽しそうに声をあげた。ただしライオンをかたどった打ち湯の吐き出し口の上。
つまり遙か5メートルほど上の安全地帯にルカルカは居た。
そこから高見の見物とばかりに、洪水を群青の覆い手で起こしていたのだった。
「がぼぼっ!」
「あ。『限界』ですか……ご愁傷様です」
イナは恭也の遺言と三つ目の風船が割れるのを見届けたのだった。
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