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第四章


 多数の助力の末、DSペンギン達を捕縛、撃退に成功した面々。
「粗方片付いたか?」
「そうですわね。悪さをするDSペンギンは居ませんわ」
「これで大会が再開されたら万々歳ですぅ」
 マイト、イングリット、ルーシェリアと、思い思いの言葉を口にする。
 しかし、事態はこれで収束しなかった。
「おいっ、あれ!」
「他より大きいですわね」
「頭に王冠を乗せてるですぅ」
 突如として闘技場中央に現れたのはDSペンギンの親玉、コウテイDSペンギンだった。
 その大きさは通常DSペンギンの三倍、つまるところ人間大。
「ついに見つけたよ、DSペンギンの親玉! いや、コウテイDSペンギン!」
「王冠をつけているなんて、案外わかりやすいですね」
 そこへ登場する円とセリナ。
 指差し、口上を述べる円にコウテイは嘴を開いて一鳴き。すると、回りに居たDSペンギンが起き上がり隊列を組む。
「くっ、なんてオーラ! なんてカリスマ! ここまで成長するとは! ここまで成長したら自我を持って当然……!」
「……円さん、何て事を願ったんですか」
 セリナの冷たい視線に円は、「だってかわいいじゃん、DSペンギン……」と弱々しく反論。
「と、とにかく!」もう一度、ビシッとコウテイたちを指差す。「君たちには誰が王なのかもう一度わからせてあげる必要が有るね!」
 そう決意表明した時、新たな影が現れる。
「ダーくん! あそこ!」
「おうおう、やっとボスのお出ましか?」
「多分そうだよ! だって、王冠付けてるもん!」
 DSペンギンの毛を刈り終えやってきた王と美羽だった。
「あいつを倒せば良いってことだよな」
 王の持つチェーンソーが唸りをあげる。
「でも、それだけで倒せるのかな?」
 疑問を持った美羽の元へ、
「美羽!」
「あっ、愛美!」
 小谷 愛美(こたに・まなみ)が駆けつけた。
「久しぶりだね! 愛美も大会に参加していたの?」
「万勇拳がどれだけ通用するか腕試しにね。でも、今は再会を喜んでる場合じゃないわ」
 キッと睨む先はコウテイ。
「お菓子にされた皆を元に戻さないと」
 半身で構えを取る愛美。
 その背中に背中を重ねる美羽。
「同じ万勇拳を修行した同士、力を合わせれば大丈夫!」
「そうね。私たちならやれるわ!」
「おう、行って来い! 俺様は援護に回るぜ」
 二人の意気込みを買い、王は立ち上がったDSペンギンの掃討へと矛先を向ける。
「むむむ、ライバル登場だよ」
「大丈夫です。円さんの援護は私がします。だって、あなたは王なのでしょう?」
 王と同じく、周辺のDSペンギンへ槍を突き出すセリナ。
「か弱い乙女の精一杯の抵抗です」
「だから、それはもういいよ……」
 吹き飛ぶDSペンギン。円は突っ込まずにはいられなかった。
「私たちも負けてられないよ! いくよ、愛美!」
「ええ!」
 本命へと駆け出す美羽と愛美。
 そこへ贈り物が届く。

――どごーん!

「きゃあっ!?」
「何っ!?」
「あわわ、ごめんなさい!」
 戦車から舞花の砲撃だった。
 住民の避難を終え、外に居るDSペンギンを撥ね飛ばしながらここへ乗り付けてきた。
 着いてみると、ボスらしき存在が。
 温存しておいた【機晶戦車用大砲】を発射したらしい。
「目標が思いの外小さくて……でも、【エイミング】してあるのでちゃんと命中してるはずです」
 これで二発しかない大砲を使い切った。
 煙幕が徐々に晴れていく。
「流石にこれには耐えられないでしょう」
「私たちの出番が無いわね……」
「うぅ、とっても目立ってるよ……」
 自信満々の舞花に、愛美と美羽は恨めしげな視線を向ける。
 砂埃が全て過ぎ去った。
 そこにコウテイの姿は、
「……えっ!? 嘘でしょ!?」
 存在していた。
 コウテイ故の矜持がそうさせたのか、卵を温める親ペンギンのよう、直立不動のコウテイDSペンギン。
「な、何でですか……? ちゃんと狙って当てたのに……」
 現状が理解できない舞花。
「まだ立っているなら、ぼやぼやしちゃダメよ!」
 一足先に愛美が駆け出す。
「うん、そうだね! 今こそ奥義を見せてあげるよ!」
 追いかける美羽。並走となり叫ぶ。
『万勇拳奥義! 無影脚!』
 その名の通り、蹴り出す足には影が無い。それほどまでに素早い連続脚。
 ミニスカチャイナ服から繰り出される蹴りは魅惑を秘めている。
 二人の攻撃がコウテイを捕らえるが、
「うっ、効いてないよ……」
「このっ、凄い弾力だわ!」
 寒さを凌ぐため、毛の下は分厚い脂肪に覆われている。その皮下脂肪によって衝撃が吸収されていた。
「もしかして、これのせいで爆発に耐えられたの?」
「ほのおやこうりの威力が半減しちゃったんだね」
 ポ○モンかっ。
「とにかく、このままじゃダメだわ」
 一度距離を取り、体勢を立て直す愛美と美羽。
「どうしたらいいんだろ……」
「体が折れないなら、心を折るしかないね」
 満を持して『円ペラーペンギン王』が名乗りを上げる。
「どうやるの?」
「ふっふっふ、立場をわからせてあげるんだよ」
 やわらかい笑みを浮かべ、円はペットの【DSペンギン】引きつれてコウテイの前に仁王立ち。
「王はボクダヨ。そこを間違えちゃいけない」
 対抗するように、胸を張るコウテイ。
「無い胸だからって……だけど、君たちは重要なことを忘れている!」
 例え知恵と自我を持ったとしても、やらなければならないことがある。
「ペットだからこそ自分でご飯を調達しなくていいんだよ。独立したらサンマもうあげないよ?」
 食事、それは生きるための手段。更に、その用意まで。円はそれを奪うと宣言した。
 脅迫という兵糧攻め。
 後ろに控えていた【DSペンギン】たちは、円の言葉に驚き涙目を浮かべ、あろうことかコウテイに泣きつく。いや、鳴きつく。
 それに連れられ、コウテイ配下のDSペンギンたちも縋り出す。
 死にたくない。
 ご飯が食べたい。
 彼女ならやりかねない。
 多分、そんな会話がペンギンたちで繰り広げられていたのだろう。
 コウテイは長として、決断を迫られていた。
「早くみんなに謝んなさい!」
 急かす円。
 鳴き続けるDSペンギン。
「これで本当に大丈夫なんですか……?」
 不安がる舞花だったが、相手も部下を治める身。それらを守るためには背に腹は変えられなかった。
 ついに、コウテイは自身が被る王冠を差し出した。
「うふふ、とったどー!」
 円は高らかに王冠を掲げ、
「これを手に入れればDSペンギンは全員ボクの配下だね! これでDSペンギンの頂点へ返り咲いたよ!」
 王冠を被り、どや顔で周りを見渡す。
「ちょっとあくどい気がするわ……」
「でも、皆を助けるためだもんね……」
 自分達を納得させる愛美と美羽。
 微妙な空気の中、
「首謀者が倒されたと聞いたが、君達のおかげかね?」
 総指揮を取っていた金が来訪してきた。
「おかげ、と言いますか……」
「倒してないけど解決した、みたいな?」
「統治者の誇り、かな?」
「ふむ……」
 舞花、愛美、美羽の言に、金は現王の円を見ると、
「円さんはやれば出来る子ですね」
「まさか、あんな方法を取るとはな」
「外が駄目なら内から、ですわね」
「不殺の勝利だな」
「お見事ですぅ」
「いやいや、どうもどうも」
 セリナ、王、イングリット、マイト、ルーシェリアと談笑中だった。
「確かに、誰も傷つかなかったですね」
「私たちの攻撃が効かなかったし」
「暴れられてたら、大変なことになっちゃってたかもね」
「結果として撃退したのであれば問題なかろう。後は被害にあった皆を――」
「やっぱり、桐生円の仕業でしたか」
 金が新たに指示を出そうとした所で、ハツネと葛葉がやってきた。
「ダメな娘だと思っていましたが、役に立つこともあるんですね」
「諸悪の根源……なの」
 いきなりの非難に戸惑う面々。
「それはどういうことなのだ?」
 金の質問に葛葉が清明から聞いた話を伝える。
「俄かには信じがたいな」
「そうだよ! ボクそんなことしないもん!」
『……本当に?』
「うぅ……」
 先程の光景を見ていた全員からの目が痛かった。
「早く元に戻す方法を教えろ……なの」
「でないと、どうなるかわかりませんよ?」
 武器を構える二人。
「だから、ボク知らないって! ……ん、何?」
 弁明する円の袖を引っ張るコウテイ。彼は嘴で円の頭、王冠を示す。
「これ?」
 コウテイの肯定の一鳴き。
「どうやら、それを被せれば、お菓子になった人が戻るみたいです」
 舞花が【秘宝の知識】で仕組みを理解した。だが、
「えー、これは王の威厳だもん」
 円は貸すことを渋ってしまう。
 これはどうしたものかと考えた金。一つ案が浮かんだ。
「皆を元に戻すため、その王冠を借りられないだろうか? そうすれば、君が陰謀を企てていたことにはならないであろう?」
 金に諭され、
「うぅ、わかったよ。皆を助けるために貸すよ……でも、貸すだけだからね!」
 王冠を手渡す。
「これで侵攻は阻まれた。事態も収束するだろう。皆、良くやってくれた」
 金が激励と共に終結を告げる。
「そうです。解体した本マグロがありました。これでマグロ料理を作ってあげますね」
 セリナがお祝いに、と言い出し去っていく。
「まだ持っていたんだ……って、セリナが料理!? ちょっと待って!」
 それを円ペラーペンギン王は慌てて追う。
「王の威厳はないですね」
「でも、それでいいのかもね」
「反乱とか起こしそうにないもんね」
 武力以外での解決法を知った、舞花、愛美、美羽だった。