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●して、せんせぇ

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●して、せんせぇ

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1時限目 世界征服と化学実験(料理含む)

「フハハハハ、我が名付け子バニーよ! この俺が悪の美学、世界征服のイロハから叩きこんでくれるわ!」
「あい。ハデスせんせぇ、よろしゅう頼んます」
「初っ端が兄さんの授業ってどういうことですか!?」
 ハデスの言葉に悲鳴を上げるのは高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)
 そう、授業第1時限目は、何をどう間違えたのか世界征服。
 バニーの名付け親になったハデスがその勢いのまま授業を始め、バニーも素直に従ってしまったからだ。
「大陸と言うのは消滅させるものではなく、征服するものであることをこの俺が教えてやろう!」
「あい」
 素直に返事をするバニーの前に、ハデスはいそいそとテレビを設置した。
 そして用意したのは変身ヒーローもののDVD全52話!
「この神アニメを見て悪の組織の哲学を心身に刻み込むのだ! そう、特に42回の神回は必須! 悪の科学者の哲学がぐぎゃ!」
「兄さん! 危険な存在に世界征服なんか教え込まないでくださいっ!」
 咲耶のフライパンがハデスの頭に炸裂した。
 そのまま動きを止めるハデス。
「ハデスせんせぇ? 授業はもう終わりどすか? それとも……授業の邪魔しはったん?」
「あ……いえ!」
 ゆらり。
 一瞬。
 ほんの一瞬だけ、バニーの顔に殺気が浮かんだ。
 授業の妨害をした咲耶に対して。
 その、圧倒的な存在感。
「あ……こ、これです!」
 気圧されそうになりながら、咲耶は慌てて手に持っていたフライパンを掲げる。
「兄さんの授業はもう終わったので、私が家庭的な知識を教えにきました!」
「……家庭科のせんせぇ、やったん」
 バニーから殺気が消えた。
 ほっと胸を撫で下ろしながら、咲耶は材料を用意する。
 バニーに家庭的な意識が芽生えることを祈って。
「お料理だけ、ですけどね。料理は簡単ですよ。ほら材料を切って、お鍋に入れて煮込めば……」
「あい。こうやろか……」
 そしてバニーに謎料理のスキルがついた。
 鍋とフライパンの中にそれぞれ存在する、スライムのように蠢く存在がふたつ……

「ああっ、もう見てらんないわよあんな危なっかしい包丁の持ち方しちゃって!」
「そこ!?」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が咲耶とバニーの料理を見ながら興奮して叫ぶ。
 セレアナはその指摘内容に思わずぽかんと口を開ける。
「いいわ、あたしが本当の料理を教えてあげる!」
「待って待ってちょっと待って!」
 エプロンを手に咲耶の授業に加わろうとするセレンフィリティを必死で押しとどめるセレアナ。
 このままでは究極の謎料理と至高の謎料理が対決してしまう。
(ああもう! 私がなんとかセレンの料理実習を食い止めたのに台無しじゃない!)
 咲耶とバニーの作ったスライム的な何かを眺めつつ、頭を抱える。
 しかし、彼女の仕事はまだ終わったわけではない。
 ここでセレンの料理を食い止めなければ。
 咲耶に加え、セレンフィリティの料理技術までバニーに加わったら本当の暗殺兵器になってしまう。
「それに、ほら。セレンの料理は誰にも真似できないから…… ね、ね。それよりも、誰でも応用できる、コレにしましょ」
「そう? なら仕方ないか……」
 セレアナの必死の説得により、地球は守られた。
 いや、セレンフィリティの化学の授業は始まった。

「いい、化学は料理と同じ。要は物質の特性を正確に捉えて反応させることにあるわ」
「あい」
 白衣を着て、いっぱしの化学教師のような口調でバニーのために課題を出す。
 それを次々にこなしていくバニー。
 それを半分安堵で、そして半分心配そうに見つめているセレアナ。
「いいわね、じゃあ実験といきましょう。テルミット反応の実験なんて、どうかしら?」
「あい、セレンせんせぇ」
 それは、初心者が行うにはかなり難易度高めの実験。
 しかしセレンフィリティの指導の元、淡々とそれをこなすバニー。
「やっぱり、教え方がいいからかしら!」
「あい」
 自信満々胸を逸らすセレンフィリティに、バニーは淡々と答える。
 その体には、フィットしたセーラー服の上にセレンフィリティとセレアナから渡された白衣を羽織っていた。