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●して、せんせぇ

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●して、せんせぇ

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4時限目 保健体育……?

 最初、それは編み物の授業だった。
「小さなものをコツコツと作っていくの」
「あい」
「小さな世界。それを極めれば、その中に美しいものが見えてくるかもしれません」
「あい」
「そんな、小さな世界を大切に……はうっ」
 彩光 美紀(あやみつ・みき)は、編み方を教えていた隣りのバニーを見る。
 そして絶句する。
 編んでいたのはマフラー、の筈だった。
 しかしそれは編み方を完璧にマスターし、更に高速編みを可能としたバニーによって既に何メートルというレベルで伸びに伸び、もう何の物体だか分からなくなっていた。
「あ、編み過ぎ。編み過ぎよ!」
「そうどすか?」
 既に小さな世界なんてものではない。
 がくりと肩を落とす美紀の肩に手をかけたのは、セラフィー・ライト(せらふぃー・らいと)
「では私は、美紀さんと『人を愛する』授業を始めます」
「あい」
「え、ええ!?」
 突然巻き込まれて困惑する美紀。
 そんな美紀に、セラフィーは耳打ちする。
(実演です。手伝ってください)
(そ、そんな……)
 おろおろしながら、セラフィーの手に抗えず流されていく。
 美紀の手を握り、熱っぽく愛の言葉を囁くセラフィー。
 そのままセラフィーの手は、美紀の腰に、頬に。
 柔らかな接触。
 やがてそれは濃厚に、ともすれば淫らなものへと変貌していく。
「せ、セラフィーさん……?」
「美紀さん……」
 セラフィーの手が、美紀の唇へ。
 それは、これから進む道行への確認。
 誘われるように、唇が……
「はい! はいはいはーい! 実演なら俺が、俺が!」
「いえ俺が俺が!」
「ちょ、いい所でしたのに……!」
「は?」
 セラフィーと美紀の甘い? 雰囲気を完全にぶち壊しながら争って登場したのはアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)
 いつもなら勉強の邪魔をしたと怒るバニーだが、実演だと宣言されたので先生ならば、と大人しく見ている。
 しかしその言動からも分かる様に、彼らの目的は一つだった。
「ABCのお勉強……なんて如何でしょうか」
「えーと、まあ、こんな所じゃ何なんで……少し離れた個室を用意したから! そこで色々とお相撲なんちゃらの勉強とか……」
 貴仁の言うABCとは恋のABC、アキラの言うお相撲とは勿論布団の上で行われるものだったりするのだが。
「ちょっと待ってください! 貴方の言う『お相撲』には下心が含まれ過ぎているような気がします。俺はもっとこうピュア―でプラトニックな……」
「いやいやいや別に密室で教えるフリしてあんな事やこんな事をなんて考えてませんよ!?」
「はいはいはい、邪魔するぜ〜」
 醜く言い争う二人を尻目に、バニーの前に進み出た者がいた。
「女の子に胸囲もとい教育といえばこれ、気持ちイイコトしかねぇだろぉっ!」
 ゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)はそう宣言すると、バニーの前にさささっとマットを広げる。
「エステの授業だ! まずはてめぇがその身で体験しやがれ!」
「あい」
 ゲブーの言葉に素直に従い、勧められるままにマットに横になるバニー。
(ちょろい! かつてこれ程までにちょろいおっぱいがあっただろうか!)
 意外にあったような。
 両手にたっぷりとローションをつけると、セーラー服に包まれたバニーの意外に豊潤な肢体に手を伸ばす。
 むに。
「は」
 むにむにむに。
「あ」
 むにむにむにむに。
「……っ」
 ゲブーのエステテクニックが炸裂する。
 無言の、いや時折僅かに吐息の漏れるバニーの顔が、次第に赤らんでくるのが分かる。
「さあ、この気持ちイイ気持ちこそが、俺の教えだ!」
「あ……あい」
「あーっ! いつの間に抜け駆けを! 俺だってバニーちゃんに手取り足取り腰取りナニ取り……」
「あい」
 凄いことになっているゲブーとバニーを見て悲鳴を上げるアキラ。
 そんなアキラの前に、バニーが立っていた。
「お?」
「あれ、いつの間に……」
 ゲブーの“授業”は終わったと判断したバニーが、即効マットから抜け出してきたのだ。
「次はアキラせんせぇの実演、お願いしますえ」
「お……おおお!」
 アキラの意図を素直に受け止め、手を取り足を絡め腰に手を回すバニー。
「ナニ取りは……何でっしゃろ」
「ととと取ってくれるの!?」
「取るわけ……ないじゃろうーッ!」
 ドカーーーン!
「ひいいっ!?」
 アキラの野望を打ち砕く、ルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)の一撃。
 バニーとアキラの間に大穴ができる。
「いいいやこれはあくまでもアレだ実演実習の一環で……」
「……せんせぇの授業の、邪魔したのん?」
 しどろもどろに言い訳を始めるアキラを見て、バニーはルシェイメアに殺気の籠った眼差しを向ける。
「い……いや違うぞ」
 その瞳の本気具合に、ルシェイメアは思わず後ずさる。
「これはな……そう、コヤツは身を持って“変態”の撃退方法を教えてくれようとしとるんじゃ」
「そうなんえ」
 ルシェイメアの言葉に、静かに頷くバニー。
「そうじゃ。もし、“変態”に遭遇したらじゃな……」
「あっ、あ痛っ、ちょっとルシェイメアさん……」
 アキラの言葉には耳を貸さず、ボコボコにするルシェイメア。
 そして縛って木に吊るす。
「こうやって、動きを封じて……そして縛って木にでも吊るしておくのじゃ」
「ちょっと、本気で動けない……っ」
「……とまあ、こんな具合にお仕置きするのじゃ」
「あい」
 最終的に吊るされたアキラの前で、素直にルシェイメアの言葉に頷くバニー。
「ええと……いつの間にかライバルが吊るされたので、俺が行ってもいいの……かな?」
 アキラ亡き(違)今、貴仁が立つ!
「といっても改めて言うと……その、つまり俺が教えたいのは恋のABCもといこの世界には調べても分からないことが沢山あるという事で……」
 恋人がほしい!
 あわよくばバニーをと狙っていた貴仁のその下心を感知されたのだろうか。
 バニーがぎぎぎ、とアキラの方を向く。
「バニーさん……とぅわっ!?」
 問答無用の、バニーの攻撃。
 アキラが避けることができたのは、先生という存在への手加減だったのだろうか。
 ギリギリ死なない程度の。
「ちょっと、何ですか……っ」
「貴仁せんせぇも、アキラ先生と同じなんやろ?」
 僅かに微笑むと、バニーは改めて貴仁に向き直る。
「いや、正直一緒にして欲しくないというか……」
「ゲブーせんせぇもや。きちんと撃退できなくて、堪忍な」
「げ!?」
「うわあもっと一緒にして欲しくない!」
「今からきちんと、ルシェイメア先生に教えてもらったとおりに“撃退”しますえ」
「ちょ、違っ……!」
「うぉお!?」
 手加減しているとはいえ、バニーはバニー。
 その強力な“撃退”により、木に吊るされたのは3人となった。

 ちなみに、ルシェイメアが本命としてバニーに教えようとした漫画。
 こちらはバニーも興味を持ち、物凄い速度でルシェイメアお勧めの漫画を読了。
 しかし、ルシェイメアが勧めた創作活動に関しては、技術は高いものの『お話』を創ることは全くできず、模写、写生のイラストだけになった。