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全てはあの子の為に。完結編。

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3章「恐怖の化身」


 〜屋敷地下・最奥〜


 屋敷の地下……地中深くにあるその部屋は中央に円筒上の装置があり、周辺の壁からは大小様々な無数のパイプが伸び、
 円筒状の装置に魔力を供給している。

「ぐああああああっ!!」

 横薙ぎに振られた大鎌の一撃を受け、大きく吹き飛ばされるアルバ。立ち上がろうとするも、身体に力が入らず剣さえ握れない。

「はは……結構頑張ったんだけどな……やっぱ俺一人じゃ……無理……か」

 意識を失ったアルバを無視し、死を運ぶ闇は円筒状の装置を割るとその中に入っていく。
 中の物と重なったかと思うと、黒い光が周囲に放たれ、次の瞬間そこには巨大な魔物が現れていた。
 死神のような姿はそのままに巨大化した上半身と大蛇のように長く伸びた骨の下半身。さらにそこからは骨の足が無数に生えている。
 胸部には磔になったような姿のリールが囚われていた。

 そこに恭也、クリム、カル、夏候惇が到着する。

「なんだよっ! こいつさっきまでこんな大きくなかっただろ!!」

 恭也の言葉に静かな口調でクリムが答えた。

「融合したのだ……過去に切り離された封じられし己が本体とな……」
「グオオォォォゥゥウウオオオオオッッ!!」

 死を運ぶ闇は咆哮を上げると、数十人はまとめて両断できるのではないかと思えるような大鎌を振り上げ、クリム達目掛けて振りおろす。
 とっさに飛びのき、回避するクリム達であったが、その刃は凄まじい風圧を巻き起こし彼らを容赦なく壁に叩きつけた。

「が……はっ……ここで戦うのは、まずい気がする……」
「しかし……どうやら逃がしてくれる気は向こうにはないようだ」

 カルとクリムの言葉通り、死を運ぶ闇はさらなる攻撃の態勢に入っている。
 全員が身構えた時、突如部屋に飛び込んできた辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が弾幕援護を行い、死を運ぶ闇を怯ませた。
 続けて扉の方からファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)が声をかける。

「クリムさんっ! こちらです! お急ぎください」
「むっ……ファンドラか! すまない助かる!! よし、全員退いて体勢を立て直すぞっ!」

 クリムの言葉を合図に全員が離脱を始める。
 体力に余裕のあった夏候惇はカルの指示で倒れているアルバを背中に抱えて部屋を脱出した。


 〜屋敷地下・イコン搬入用大型エレベーター〜


 その後、彼らはファンドラの案内でイコン搬入用の大型エレベーターに乗り込み、一息つくことができた。
 クリムは上の方を眺めているファンドラに話し掛けた。

「よくこの大型エレベーターの存在を知っていたな。ずいぶん昔に使われていた物だったから、
 俺もその存在を忘れていたというのに。まあ、おかげで助かった、礼を言う」
「いえ、私は最悪の状況化まで常に予測し、万全を期すのが心情ですので礼には及びません」

 クリムに一礼すると、ファンドラは刹那の方に近づき次の行動の指示や脱出経路の相談をしているようであった。
 しばらくエレベーターが上がった頃……轟音と激しい衝撃が一行を襲った。
 エレベーターの端からは骨の足が突出し、死を運ぶ闇がその姿を現す。
 死を運ぶ闇に組みつかれたエレベーターは衝撃で故障したのか機能を停止し、完全にその動きを止めてしまった。

 骨の足を振り上げ、次々と振り下ろす容赦ないその攻撃は疲弊した一行の体力を更に奪っていく。
 攻撃を剣で受け止め、必死に防戦に徹する恭也。後方からの援護攻撃ですこしでも骨の足の動きを鈍らそうと試みるカル。
 大鎌の攻撃にタイミングを合わせ、クリムと共に弾き返す夏候惇。ファンドラと刹那はエレベーターの復旧作業。

 それぞれが巧みに連携し、辛うじて死を運ぶ闇の攻撃を凌いでいた。
 誰もがこの状況では長くは持たないと思い始めた時、搬入口の遥か上空から何かが接近してくる音が響いた。
 大きな何かは壁にその身をぶつけ、火花を散らしながら接近してくる。
 それは、カルと合流しようとして撃墜されたハーポ・マルクスであった。一直線にそのまま落下し、死を運ぶ闇の上半身に命中。
 速度の乗った全機体重量を用いた体当たりは死を運ぶ闇をよろめさせ行動不能に陥らせた。

「ジョン、ドリルっ! ほんといい所に!! みんな早く乗って! 僕がみんなを上まで連れていく!!」

 全員がハーポ・マルクスに乗り込んだのを確認し、カルはハーポ・マルクスを上昇させる。
 カルが乗った事で本来の力を取り戻したハーポ・マルクスは搬入口の出口へと向かって急上昇を始めた。


 〜ハーポ・マルクス操縦席〜


 死を運ぶ闇が行動を再開し、搬入口を上りながら死神の鎌を振り回し猛然と追跡してくる。

「うおおおっ! すげえ!! なんだよ、アレ、捕まったら終わりって感じじゃないか!!」
「ドリルっ少し黙って……! これでも最大速度出してるんだから!! ちょっとでも気を抜いたら壁に激突しちゃうよ!」
「お、おう……黙る……でも、もうちょっと見たい気も、なかなかあんな巨大な魔物みれないしなー……
 おおおおおっ! やっぱりすげえ! いかにもな感じだよな!!」
「…………」

 カルは横でテンション高くはしゃぐドリルを半ば無視しながら操縦に専念する。
 見かねたのかジョンは溜め息をつくと、ドリルを掴み窓から引き剥がす。

「いいですか。カルの邪魔をしてはいけませんよ。あんなにはしゃいでいては頭が単純なのが皆様にばれてしまって
 あなたが大恥をかくだけでなく、カルにも恥をかかせることになるんですよ? 大体あなたはいつも……」
「はしゃぐことは悪い事じゃないだろう! それに今、遠回しに単細胞っていわなかったか!?」

 コントのようなほほえましいやり取りをしながらジョンとドリルはどこかへと去って行く。
 カルはほっと息をつくと再び操縦に専念したのであった。