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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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失われた絆 第1部 ~火花散る春の武道大会~

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■幕間:小さな迷子


 会場に設置されたテレビには外で戦っている桐ケ谷とハデスたちが映っていた。
『ペア部門の準備が終わるまでエキシビジョンをお楽しみください』という放送が流れ、観客席から離れていた人たちがテレビに視線を向ける。誰もがエキシビジョンに夢中になっている中、川村 詩亜(かわむら・しあ)は気にする様子もなく会場内を歩いていた。
「風里さんがあなた達も出るでしょ? とか言うから何のことかと来てみれば武道大会、ねえ……私は参加する気はないからいいけど玲亜はどうしたかった?」
 後ろをついて歩いている川村 玲亜(かわむら・れあ)に声を掛けるが返事はない。
「……玲亜?」
 返事がないことを訝しんで振り返るがそこには誰もいなかった。
 辺りを見回すがそれらしい姿は見当たらない。
「ま、まさか……ここでもあの子迷子っ!? しかも武道大会ってことで人が集まってるこのタイミングでっ!?」
 彼女は『もーっ!』と文句を言いながら迷子になった玲亜を探すべく歩き始めた。

                                   ■

 詩亜は手にした特注の銃型HCを起動させながら会場内を奔走していた。
 もふもふとわたげうさぎにそっくりなそれを楽しみながら歩いていると、見知った顔が近づいてくるのが見えた。東雲姉妹だ。二人もこちらに気付いたようで弟の方が手を振ってきた。
「試合出ないのね。返礼するつもりだったのに」
 機嫌が悪いのだろう。いつもより目が据わっているように見受けられた。
 だが詩亜はそんなことを気にする様子もなく彼女たちに聞いた。
「そんなことより玲亜見なかった?」
「そんなことってあんた――」
 風里の口を押えながら優里が答える。
「さっき向こうで会ったよ」
「ありがと。いま忙しいからまた今度ね」
 詩亜はそう告げると風里を気に掛けることなく駆け出した。
「……ふふ、いい度胸よね。あの子……いつか絶対にぎゃふんと言わしてあげるわ」
「ぎゃふんなんて言葉リアルで聞いたの初めてだよ」

 しばらく歩くと警備員らしい人物がいるのを見つけた。
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)だ。
「ねえ、こういう子見なかった?」
 詩亜は玲亜の特徴を説明する。
 んー、と考える仕草。何やら見覚えがあるようだ。
「その子なら転んで擦り傷が出来てたから医務室まで案内したですよ」
「医務室ってどこにあるの?」
「そこの角を曲がって、突きあたりを左に歩けば医務室って書かれてるプレートが見えてくるから」
「ありがとう。助かるったわ」
 彼女はお礼を言うとその場を後にした。
 

                                   ■

 医務室は盛況であった。
 すでに怪我人の治療は終わっており、皆が手持無沙汰だったところに彼女が姿を現した。
「もふもふ〜」
 玲亜である。話によれば迷子の様子なのだが……。
「誰も来ないと助かるよぉ……」
「そうね。暇だけどこういう時間も悪くないわ」
 わたげうさぎを抱きしめながらミリアは答えると玲亜を見やる。
 彼女はもふもふを堪能したとばかりに晴れやかな笑顔で立ち上がった。
「行くの? ここで待っていた方がいいんじゃない」
「でもお姉ちゃんを探さないと。またね!」
 玲亜はそう告げると足早に医務室を後にした。
 それからしばらくして姉の方が姿を現した。
 ミリアの姿を見つけると仏でも見たような顔で駆け寄ってくる。
「ミリアさん、玲亜見なかった?」
「さっきまでいたけど……」
 彼女の返答に詩亜はがっくりと肩を落とした。
「何であの子はじっとしてられないの〜っ!」
 叫び、彼女は身をひるがえして医務室を出て行った。

 彼女が妹と再会するのは武道大会が終わる頃になるのだが、それはまた別の話だ。