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リアクション
「ばれちゃったら仕方がないわね!」
理知たち、フレンたち、舞香と一同が合流し、互いの情報を交わしあっている最中、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が乱入してきた。
黒幕の登場。
それなのに、集まった面々の顔は目が点だ。
「……あれ? なんで?」
「まったく……黙ってればわからなかったのに」
額を抑え、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が後から入ってくる。
「どういうこと?」
「私たちの情報はあっても、誰かまでは特定できていなかったってことよ」
「……もしかして」
「ええ、セレンのせいでばれたわけ」
何とも間抜けな話である。
「お前は俺に依頼してきた女だな」
ベルクの問いにセレアナが答える。
「ええそうよ。こいつらが無能だから依頼したのだけど、色々無駄だったみたいね」
彼以外にも刺客は送り込まれていた。
その上、恋人のせいで自分たちが黒幕だと知られてしまった。とんだ災難である。
「仕方ないわね。出てきなさい」
現れたのは妖刀『黒刀』をだらりと下げた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。魅せられているのか目が虚ろだ。
「これがあなたたちが探していた犯人よ」
すべての真相が明かされた。
「さてと、ここまで来たら殺るしかないわね。セレン、準備はいい?」
「くっくっくっくっく……」
「……セレン?」
反応のない相方に目を向けると、
「アヒャヒャヒャヒャ!」
奇声を上げ、乱心している姿。
「ど、どうしたの?」
「ばれたなら生かしておけないわ!」
セレンは懐から二丁の銃を取り出し、討ち入ってきた人間に乱射。
「きゃあっ!?」
「理知、大丈夫か!?」
「ご主人様!?」
「フレイ!?」
「逃げましょう!」
「自業自得じゃないの!」
戦々恐々と部屋から逃げ出す面々。
「はあはあはあ……」
「少しは落ち着いた?」
肩に手を置くセレアナ。顔を上げるセレン。
それと同時、遠方からの銃声が響く。狙われたのはセレンの持つ銃。弾丸が当たり、銃がはじかれる。
「誰よ!?」
射線を追うと、庭の塀の上から銃を構えるユリナの姿が。
「狙いは外しません」
そしてもう一発発砲。セレンの二丁の拳銃が、手元から無くなった。
「よくやったセリナ!」
「私、お役にたてました……?」
「当たり前だ、行くぞ!」
嬉しそうに頬を染めるユリナの後ろから、竜斗とロザリッタが飛び込んでくる。
「新手だわ。セレン、正気に戻って」
しかし、願い虚しく状態は改善しない。いつも冷静なセレアナに焦りが見える。
「殺るので、あります……」
それを守ろうというのか、ゆらり、ゆらりと覚束ない足取りで前へ出る吹雪。
「刀が、血を、求めている、のであります……」
構えることもしない。ただ、刀から禍々しい妖気が溢れている。
「これは……制御が効かないわ……」
今までは吹雪を薬と催眠術で操り、『黒刀』の制御をしていた。しかし、今の吹雪は何を命令しても受け付けない。
「刀の支配が上回ったってこと……?」
「はっ! 無防備だぜっ!」
お構いなしに突撃する竜斗。それに反応して、吹雪も刀を振るう。
「そんな剣戟じゃ俺は捉えられないぞ!」
難なく見切り、蹴り飛ばす。
「ギフトを使うまでもねぇぜ」
呆気ない。そう思っていた。だが、
「まだ、まだ、死ねないので、あります!」
ふらふらと立ち上がる吹雪。
「まだやるってのか?」
「……争い、よくない」
ロザリッタが制止の言葉を掛けるも、
「まだ、まだ、まだ……」
聞く耳を持たない。
「ちっ、一気に仕留める。ロザリッタ!」
「……マスターの頼みなら、仕方ない」
形状を変えるロザリッタ。それは鉤爪となり、竜斗の右手に嵌る。
「手加減できないが、勘弁な!」
「血を、血を!」
走る。振るう。鉤爪と刀が交錯する。そして――
「ううぅ……」
鉤爪が刀だけを吹き飛ばしていた。
「ロザリッタ、お前……」
『やっぱり……戦いたく、ない。人、殺すの駄目』
ロザリッタの優しさに救われた吹雪。
「……これで、よく、眠れる……」
意識を失う最後の言葉がそれだった。
「さあ、後はあんただけだぜ?」
「……セレンは?」
錯乱は続いており、銃が無いせいか手裏剣や苦無を投げ出しているが、そのすべてをユリナが撃ち落している。
「うちのユリナはこのくらいの距離じゃ狙いを外さないぜ?」
ユリナの腕を信頼し、セレアナにゆっくりと歩み寄る。
「かくなる上は……」
悪あがきの体当たり。
竜斗は軽々避けると、首筋に左手で手刀を叩き込む。
「死んでもらっては困るんだ。殺すとロザリッタにも文句を言われそうだ」
どさりと倒れるエレアな。
狂ったセレンは、体力の限界に近いのか荒い息を吐きながらも、今度は煙玉を取り出している。
「ユリナ、もういいぞ。後は俺が終わらせる」
部屋に煙が充満すれば視覚が失われる。銃弾で破裂させないため、ユリナを制止させ接近戦でけりを着ける。
「罪はきっちり償えよ」
鳩尾に入ったボディーブロー。
「うぅ……」
セレンはうずくまり、そのまま気を失う。
「最後の仕上げだ」
「まだ何かあります?」
やることがなくなり、近寄ってきたユリナに竜斗は答える。
「これが無ければ事件は起きなかったかもしれない。そして、また繰り返されることもない」
視線は床に転がった抜き身の妖刀『黒刀』
「ロザリッタ、いいよな?」
『……マスターの思うままに』
「こんな刀、無い方がいいに決まっている」
竜斗は『黒刀』の腹を鉤爪で殴りつけた。
こうして事件は本当の終末を迎えた。
―――――
捕まった悪代官と越後屋、毒婦たちは島流しになることが決まった。
もっと重い罪を、との声も上がったが、妖気のせいという主張もあり情状酌量された。
こうして国に平和が戻った。
泰平を謳歌する街。
活気は止まることを知らない。
笑顔の絶えない人々。
その中に五人の姫と二人の殿様が紛れている。
彼ら彼女らが見回る限り、平和は続くだろう。
そして事件を起こした妖刀『黒刀』。
誰かが言った。
「封印すべきだ」
壊そうとしたが折れず、黒く、輝きを保ったまま。
またいつか、争いの火種になるかもしれない。
人の手の届かぬ所へ。
それは北へ、南へ、東へ、西へ。
海を渡り、誰も居ない孤島の森の奥深くに。
岩に突き刺さったそれを次は誰が抜くのか。
今はただ、静かに過ぎる時の中で待っている。
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