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ぶーとれぐ 真実の館

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ぶーとれぐ 真実の館

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真実の館 1日め

桜田門 凱(さくらだもん・がい) ヤード・スコットランド(やーど・すこっとらんど)  マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど) ピクシコラ・ドロセラ(ぴくしこら・どろせら) 



さすがに早くつきすぎてしまったヨウデスネ。

グレイの地味なロングTシャツを着た、小麦色の肌の少女(少なくとも外見はそうみえる)ヤード・スコットランドは、ため息をついた。
常識的に考えて、招待されているとはいえ、どんな家でも、午前0時ジャストの訪問者を歓迎するはずはないと思う。
たとえ、ここ、マジェスティックの影の支配者と噂されているアンベール男爵の別宅でも、いくらなんでも真夜中にお邪魔するのは、失礼だ。

最近、ワタシ、まともな生活をしていないから、頭がおかしくなっているかもしれないデス。
それもこれもすべて凱のせいデス。
ああ、早くこの状況から抜けだしタイヨ。
人として間違っているパートナーのせいで、毎夜、寝る場所もないような生活をしなければならないなんて、ワタシ、不幸スギマス。
だから、あの夜もハーブ園で○○をみてしまって、結果、こうして男爵の館に呼ばれてしまいまシタ。

アンタッチャブルなパートナーの桜田門凱から逃亡する日々に疲れはてている、きまじめな機晶姫ヤード・スコットランドは、それでもある種の期待をこめて、いかにも地球のヴィクトリア王朝っぽいレンガ造りの古風な館を眺めた。

たまにはちゃんとした屋根のある場所で眠りたいデス。

19世紀末のロンドンを再現した空京のテーマパーク、マジェスティック。
その中でも、娼婦や犯罪者の巣窟として、悪名高いホワイトチャぺルなどでは、かって地球に実在したそこと同様に、毎夜、いかがわしげな不夜の宴が繰りひろげられているのだが、いま、ヤードがいるノッティング・ヒルは、マジェの西部にある閑静な高級住宅街であり、夜もふけたこんな時間に、通りを歩いているものはほとんどいない。
間隔をおき、規則的に立てられたガス灯風の街灯たちが、夜空のしたで静かに石畳の道路を照らしている。

「お嬢さん。どうかしましたか?」

ふいに声をかけられて、ヤードは体を硬くした。

「怯えなくてもいい。アナタがなにも悪いことをしていないなら、ワタシたちに警戒する必要はない」

どうやらヤードの死角から、彼女をずっと監視? していたらしい二人が、近づいてきた。
ドラマにでてくる刑事のようなトレンチコートの青年と、小さめのシルクハットを頭にのせたツインテールの女性だ。蝶ネクタイで、しかも手には短めのステッキを持っているので、彼女はマジシャンなのかもしれない。
青年は手帳をとりだし、ヤードにみせた。

「スコットランド・ヤードのマイト・レストレイド警部だ。
君が、なぜ、ここにいるのか、理由をきかせてもらえるかな」

「百合園女学院推理研究会のピクシコラ・ドロセラ。
ワタシたちは真実の館の招待客だ。
探偵として、アンベール男爵に呼ばれてきた。
訂正しておくとマイト・レストレイドは正確には警部ではない。
地球のスコットランド・ヤードに勤めているのは、マイト・レストレイドの家族たちで、マイト・レストレイド自身は警部になるのを目指している、一学生だ」

「そういうわけだが、俺の気持ちはすでにヤードに捧げている。ところで」

「顔色が悪いようだが、大丈夫か」

マイトとピクシコを前にして、ヤードはその場にしゃがみ込んでしまった。
頭がくらくらする。泣いてしまいそう。
理屈では関係ないとわかってはいても、自分の名前(ヤード・スコットランド)によく似たスコットランド・ヤードという名称を聞くたびに、なんだか自分が疑われ、責められている気がして、不安になってしまうのだ。

この人たちは、タンテイ。
ワタシがハーブ園でみてしまった○○のことも知っているノデスカ?
殺人事件があった時、ワタシがハーブ園で野宿をしていたノモ。
すべてはワタシを犯罪者にするための凱の罠ナノデスカ。

「よかったら、使ってくれ」

マイトが、ハンカチをヤードに貸してくれた。

「俺たちは、この館に招待された者の中に不審なものがいないか、招待されてもいない者が招かねざる客として勝手に入り込みはしないか。
張り込みしていたんだ」

ヤードに優しい言葉をかけるマイトに、ピクシコが割り込むように、

「もしアナタがアンベール男爵に招待された客なのならば、アナタの名前を教えて欲しい」

「名前は」

「招待客のリストは入手してある。
もちろん、探偵として、男爵の許可をいただいたうえでな」

「ワタシは、ヤ」

名乗りかけて、ヤードは口を閉じた。

一見、親切そうにみえるこの人たちが、実は凱の仲間だったのなら、ワタシは犯罪者にされてマジェのスコットランド・ヤードに逮捕されてシマイマス。
ヤードの地下や修復中のロンドン塔にはきっと罪人を痛ぶる拷問機があるのデス。
ワタシはひどい目にあわされてボロボロにナッテ、イヤデス、イマヨリモット、ヒドイメニアウノハイヤ。

ヤードが知る人間の中で、最低最悪の人格の持ち主の桜田門凱の傲慢さがにじみでた憎々しい笑いが、彼女の耳の奥で響いた。

この人たちにワタシの名前を教えるわけにはイキマセン。

「チェルシー・ブリックと言いマス」

とっさに頭に浮かんだ適当な名前を伝えると、名簿を確認し、ピクシコはかすかに頷いた。

「チェルシー・ブリック。
美しいアナタに不似合いな粗雑な凶器と同じ名前だな。
了解した。アナタはチェルシー・ブリック」

ピクシコのミッドナイトブルーサファイアを連想させる冷たい瞳に怯えつつ、ヤードは首をたてに振る。

「チェルシーさん。きみも招待客なんだな。
中へ入ろう。きみは、とても具合が悪そうだ。
館の準備はすでに出来ている。
さすがアンベール男爵の別宅といおうか、この館は24時間、いつでもゲストが出入りできるように、住み込みの使用人たちが昼夜交代で勤めているんだ。
噂によると、離職率は高いようだが。
さぁ、きみは少し休んだ方がいい」

マイトに促され、ピクシコに見つめられながら、ヤードは重い足取りで真実の館へ足を踏み入れたのだった。