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少年探偵とぶーとれぐ

シェイド・クレイン(しぇいど・くれいん) ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ) ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと) 清泉 北都(いずみ・ほくと) ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)



「さて、ノーマンも逮捕されたようですし、今日はよい日になりましたね。
春美さんの説明によれば、ノーマンはマジェスティックの中では死ねないようですから、これからは腹が立った時には、マジェにきて彼を痛ぶればいいのですね。
刑務所の職員さんの影に潜んで、深夜にでも彼の独房へゆくとしましょう。
私の一族の積りに積もったうらみは、1度や2度の制裁ではとても消えませんから。
彼が死ねないでいてくれるのを心から感謝しますよ」

くるとくんを助けてくれたシェイドさんが、涼しい顔でこわいことを言っています。

「あまねちゃん。本当によかったね。
ワタシ、シェイドがこんなにうれしそうにしているの、はじめてみた気がするよ」

シェイドさんのパートナーのミレイユ・グリシャムさんもうれしそうです。
あたしにはシェイドさんは、いつものクールな彼とあまりかわらないようにみえるのだけど、日頃から彼の側にいるミレイユさんには、普段との違いが、はっきり違いわかるんだろうなぁ。
以前、小耳にはさんだところによると、シェイドさんの一族はゲイン家のせいで、ずいぶんひどいめにあわされてきたらしいし。
シェイドさんみたいな冷静沈着な人ほど、感情的になったら、歯止めがきかない気がするんですよね。
でも、ノーマンを心配するのは、絶対、間違っていると思うので、あたしは彼を心配しません。
シェイドさんにとってハッピーエンドなら、それでいいのです。

「ヘイ。ギャルズ。あんたが、古森あまねかい。ヘロー。ヘロー。
はじめまして。ニトロ・グルジエフと俺のファミリーだ」

あたしたちに挨拶してきたのは、袖なしの皮ジャンのガラの悪そうな人で、ろれつが怪しく、酔っぱらってるみたいでした。
彼と一緒にいるのは神父服の青年と、セリーヌちゃんと、ピンクのナース服を着た緑の髪の、

「あまねお姉ちゃんとくるとくん、お久しぶりです〜。
なにもかもがおさまるところにおさまって、大団円です。ボクもうれしいですよ」

「あー。ヴァーナーちゃん。元気だった」

「ボクは元気です。ノーマンが捕まってよかったですよ。
やっぱり正義は勝つです」

ヴァーナー・ヴォネガットちゃんは、あたしとくるとくんにハグと、ほっぺへのチューをしてくれました。
ヴァーナーちゃんもいままで、ノーマンのせいで捕まったり、殺人の犯人にされたりしたよね。

「あまねお姉ちゃんたちも、今度は安全になったマジェで観光するですよ。
ボクが案内してあげるです」

「そうだよねー。あたしもくるとくんもマジェにくるたびにひどいめにあってて、普通に名所めぐりとかしたことないんだよね」

あたしの横にいる、くるとくんも頷いてます。

「殺人だの観光だの。学生の本分である勉学はどうした。
おまえら二人とも学生だろ。このままだとおまえら自身が社会不適応の犯罪者になるんじゃないのか」

いきなり、きびしいご意見をくださったのは、薔薇学舎の清泉北都さんです。
彼のパートナーのソーマ・アルジェントさんも、神父さんの隣にいます。
ソーマさんは口は悪いけど、意外に情がある人なのをあたしは知っています。

「久しぶりにあったのに、それはないと思うよ。ソーマ。
くるとくん、僕をおぼえてるかい」

北都さんはかがんで、くるとくんと目線の高さを合わせてくれました。

「エデンの東。
自分が人から愛されているのか自信がない青年の物語」

「さすがだね。でも、僕も最近は、少しはそうではなくなってきたんじゃないかって、自分で思ってるんだよ」

くるとくんが、またわけのわからないことを言っても、北都さんは優しく受けとめてくれます。

「あまねちゃん。くるとくん。さっきは、助けてくれてりがとう」

セリーヌちゃんがあたしたちに頭を下げました。
セリーヌちゃんとわたしは、かわい家さんの紹介で知り合ったメル友で、けっこう長い付き合いなのですが、直接、会ったのは、実は今日がはじめてなのです。
メールの他にも画像付きのチャットなんかでも話していたので、初対面の気がしません。

「ううん。気にしないで。セリーヌちゃんが無事でよかった」

「OK。OK。俺の妹を助けてくれたのは、あんたらだったか。
兄の俺からも礼を言うぜ。
頭のおかしい犯罪王とやらも捕まって、万々歳だからよ。今夜でも明日でも、俺のLIVEにきてくれよ。
ご招待するぜ。な、坊や。ロックはすげぇぞ。
俺のは特に極上だぜ」

「この酔っ払いがニトロ。
この通りバカ野郎なの」

泳いだ目で話しかけてくるニトロさんをセリーヌちゃんが紹介してくれました。

「私のパート」

「おう。俺がセリーヌの兄貴のニトロ・グルジエフだ。
俺の妹のセリーヌ・グルジエフをよろしくな」

「よろしくじゃねぇ」

あたしに抱きつこうとしたニトロさんをセリーヌちゃんが押しのけてくれました。

「セバスチャン。
いくらお友達とはいえ、野蛮なことをしてはいけません。
くるとくん。大丈夫かい。
兄のニトロがきみをこわがらせたのなら、謝ります。
私がきみを守るから、安心していいのですよ。
はじめまして。私は、ルドルフ・グルジエフ。
神に仕えるものです。
ルディと気軽に呼んでくれたまえ」

ルディ神父さんは、セリーヌちゃんから聞いていた通り、あたしをスルーしてくるとくんにだけ話しかけてきました。この人は、ニトロさんとは違う意味で危ない気がします。

「私の背後にいる、古森、あまね、さん。
弟のセバスチャン・グルジエフがお付き合いさせていただいているようですね。
セバスチャンはうちの兄弟の末弟で、私たちと多少、歳が離れているせいか、どうもしつけが行き届かなくてね。
まったく恥ずかしい愚弟なのだが、どうやら、きみとは偶然にもレベルが同じらしく話が合うようだ。
仲良くしてやってくれたまえ。
あ、それから、私のことはルドルフ神父と呼んでください。
親しき仲にも礼儀ありですので」

くるとくんの方をむいたまま、ルドルフ神父様が、冷たいお声でご挨拶してくださいました。
女嫌いもここまでくると、ほとんどギャグですね。
セバスチャンって誰ですか。
ただ、思ったのですが、ニトロさんも神父も、二人ともセリーヌちゃんを自分たちの家族だって言ってます。
まるで、それを強調するように。
彼らにとって、それは絶対に譲れないことなのかもしれません。
この人たちって、素直じゃないけど、本当はものすごくセリーヌちゃんを大事に思ってるんじゃ。

「グッモーエビアン!
パーフェクトワールド。
疑似家族の物語。
家族に大切なのは血のつながりじゃない」

「素晴らしい。くるとくん。きみは天才です。
我々はみな神の子で、神の名のもとに家族なのです」

くるとくんに神父さんがからんでます。

「おう。くると。ルディがあんまりうるさかったら、俺を呼ぶんだぞ。いいか。俺は、ニトロ兄さんだ。
兄さん、助けてぇーってな。
ほら、言ってみろ。せーの」

「ちょっと、くるとくんが困ってるでしょ。ルディもニトロもいい加減にしなさいよ。
あんたたちみたいなのと家族だと思うと、私のほうが、恥ずかしいわ。
ほんとにもう、とても人様には紹介できない」

セリーヌちゃんが怒鳴り散らします。

「セバスチャン。
ルドルフ神父と呼びなさいッ」

神父さんもかなりの大声でわめいていますが、よろしいのでしょうか。
三人ともなんだかとても楽しそうです。
くるとくんがあたしの耳もとで、ささやきます。

「僕は、グルジエフ兄弟って苗字からしてロシア人だと思ってた。
違うみたい。ルディさんはバチカンで、ニトロさんはアメリカ、セリーヌちゃんはイギリスだと思う」

「そうね。複雑な家庭みたいね」

あたしが笑うと、探偵小僧は不思議そうに首を傾げました。