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リアクション
異常気象の空に、あらたな天災が加わった。
鏖殺寺院の飛空艇を、次々と稲妻が撃ち落としている。
いや。よく見るとそれは天災ではない。
「ツァンダー稲妻キックッ!!」
ソークー1が、空中をジグザグに駆けて連続蹴りしていたのだ。
「雑魚には用はねぇ。隊長っぽいやつはどこだ!?」
彼は敵機を蹴り落としながら、ステータスの高そうな相手を探す。そしてついに、いかにも『隊を指揮しています』といわんばかりの、立派なヒゲをたくわえた構成員を見つけた。
ドアを破壊して、ソークー1は操縦席に乗り込む。
「知ってる事は全部聞かせて貰うぞ、人身売買の事は特にな」
「ひぃぃぃ……」
構成員は哀れな声をあげると、すぐに舟を岩陰へと着陸させた。ソークー1の狙い通り、相手は小隊の隊長だったが、立派なのはヒゲだけで、とんだヘタレであった。
ソークー1の尋問に、小隊長はすべて即答していた。
「……知っていることは全部聞き出したみたいだし。もう、あんたに用はないな」
教導団に引き渡すため、ソークー1が捕縛用の縄を取り出そうとしたとき。
「バカめ! 隙ありだ、このバッタもどき!」
すかさず小隊長が飛びかかってきた。
ソークー1は、敵の体当たりをさらりとかわすと、よろける相手にむけて、こう告げた。
「あんたが気を失う前に言っておく。……モチーフはバッタじゃねぇ! スズメバチだっ!!」
「ふべっ!」
振り下ろした彼の拳が、小隊長にめりこむ。
ソークー1の一刺しによって、敵はアナフィラキシーショックを起こしたように、動かなくなった。
「奴隷として売られていく子供を減らさないと――。今捕まっている他の子も助けたいね」
上空にて、ワイルドペガサスに乗ったエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が、優雅にささやいた。
「ええ。僕が補佐をしますから、寺院メンバーを空から落としましょう」
エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)もワイルドペガサスを駆りながら、上品な口調で応える。
不当に売買される子供たち。
紳士を具現化したような彼らが、そんな奴隷商人の兇行を見逃せるはずがない。
「熾天使の少女も気になるけどね。彼女のことは、他の契約者がなんとかしてくれるだろう」
エースは、一隻の飛空艇に狙いを定めた。エオリアと連携しあって、敵を牽制していく。
ワイルドペガサスを乗りこなす彼らはスピードで相手を上回っている。素早い動きで撹乱させてから、ふたりは一斉狙撃で、飛空艇を撃ち落とす。
「残念だけど。君にはもう、逃げ道はないよ」
コクピットから脱出を図ろうとする構成員に、エースが素早く回りこむ。しっかりと拘束すると、彼らは構成員をつれ、戦線から離脱した。
「無駄な抵抗はしないでください」
エオリアが、相手のこめかみへ銃をつきつけた。脳髄にちょくせつ伝わってくる、兵器の冷ややかさに、構成員はすっかり観念する。
「君には、聞きたいことがたくさんあるからね」
そうささやくエースは相変わらずエレガントだが、その瞳には、いつになく冷酷さが潜んでいた。
「さすがに、30分じゃ駆逐できないか」
融合機晶石の効果が切れ、フリューネやリネンたちをまとっていた炎は鎮火された。
降りしきる雨のなか。フリューネの白い翼は、しとどに濡れる。
ヘリワードが、炎の鎧がとけた彼女たちへデファイアントを放った。氷槍の切っ先が彼女たちに触れる直前、ブレードドラゴンのブレスが、生ぬるい液体に変えた。
「まだ気を抜くには早いわよ。リネン! フリューネ!」
「ありがとう。助かったわ」
フリューネが濡れた前髪をかき上げる。細かい雫をキラリと煌めかせる彼女の仕草は、なにかシャワールームの彼女を見ているようで、とてもセクシーだった。
「融合機晶石が切れても大丈夫。敵の装甲だって、だいぶ傷んできたみたいだし」
「そうね、ヘイリー。趨勢は決まったようなものだわ。私たちの勝利は揺るがない!」
リネンが朗らかに応じた。パートナーの笑顔を見届けたヘリワードは、安心して前線の指揮へと戻る。
しかし、リネンにも懸念があった。ますます濃くなっていく一面の霧だ。
視界が悪いため、飛空艇の位置を把握しきれない。思わぬ所から敵機によるレーザーが飛んでくるのは、危険だった。
「とにかく、視覚を確保しましょう」
リネンがフリューネに告げる。ふたりは束の間、見つめ合ってから、無言でうなずきあった。
フリューネの【タービュランス】と、リネンの【風術】。まるで申し合わせたような連携プレイで、ふたりは霧を払っていく。
霧の晴れ間には、ひっくり返した岩の裏側を這う虫みたいに、飛空艇の残機がたむろしていた。
フリューネは間髪入れずにペガサスを走らせる。
「見つけたわ! 覚悟しなさい!」
「ネーベル、エネフにあわせて!」
互いのペガサスの名を呼びながら、リネンもすぐにフリューネを追った。ふたりは連携し、背中を守りあいながら、空の敵たちを駆除していく。
戦いのなかにあっては、ふたりの間に言葉はいらない。かすかな呼吸、わずかな目配せが、すべてを物語っていた。
「かつての恋敵を応援ってのも癪だが……。フリューネ、手ぇ貸すぜ!」
裂帛の気合をあげて、フェイミィが天翔ける。彼女の姿は勇ましかった。
だが、リネンへの愛を打ち砕いた張本人――フリューネには、やはり幾ばくかの嫉妬が残る。
それを心配してか。ヘリワードが、トーンを落とした声で聞いた。
「……ねえ、大丈夫なの?」
「オレか? オレは問題ねぇよ……リネンはとられても、コイツがあるからなぁ!」
セラフィックフォースを発動して、熾天使モードになるフェイミィ。潜在能力を解放して、彼女は敵の機体を蹴散らしていく。
――問題ない。リネンへの想いはすでに割り切っている。
なのに、なぜ、こうも胸が疼くのだろう。
熾天使の恋とやらに感化されたのだろうか。セラフィックフォースの効果が解けたフェイミィは、墜落する飛空艇を見下ろしていた。その先には、竜哭の滝と呼ばれる崖が見える。
愛を告白すれば、竜の涙が流れると噂される崖。
フェイミィが今の気持ちを叫べば、竜哭の滝は、瞬く間にあふれだすだろう。
その複雑な感情を、言葉にすることができるのなら。
「……いけね。ちょっとセンチになっちまったぜ」
頭をかくと、フェイミィは漆黒の翼を、猛々しくはためかせる。降り注ぐ氷の槍をかわしながら、彼女は残りの敵を蹴散らしに向かった。
異常気象が止まらない、アトラスの傷跡上空。
荒れ狂う空模様は、人々が内に秘める、さまざまな愛を映しだしていた。
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