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涙の娘よ、竜哭に眠れ

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涙の娘よ、竜哭に眠れ
涙の娘よ、竜哭に眠れ 涙の娘よ、竜哭に眠れ

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「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)! ふむ、特訓にちょうどいい崖があるではないか!」
 竜哭の滝が見下ろせる崖に立って、ハデスが白衣を風にはためかせていた。
「ククク、我らオリュンポスの一員である、怪人サソリ男よ! 今こそ、真の力に目覚めるがいい!」
「フハハハ!」
 崖の下では、マイケル・ストレンジラブがハデス仕込みの高笑いを上げていた。

――恐縮だが、ここでもまた、彼を知らない人のために説明させていただこう。
 先日、ニルヴァーナでは、子供たちを蟲に改造する実験『蠱毒計画』が行われていた。マイケルは、その計画における実験体のひとりで、サソリと融合させられた。
 他の子供たちは、契約者の協力によって、もとの姿に戻っている。
 しかし、マイケルだけは、ハデスがそのままの姿で連れて帰っていたのだ。


「怪人サソリ男よ! この滝の跡で特訓し、パワーアップを果たすのだっ!」
「フハハハ!」
「よぉし、いい返事だ。サソリ男よ」
 ハデスは【優れた指揮官】として、崖の上に配置した戦闘員たちへ指示をだした。
 戦闘員たちはテキパキと、自分の体重くらいありそうな重さの岩を持ち上げる。
「古来より伝わりし由緒正しい特訓――『岩石割り』を実行するのだっ! この特訓を成し遂げた暁には、お前に新たなる必殺技が身についているであろう!」
「フハハハ!」
 現在のところ、マイケルは蟲に改造された後遺症からか、「フハハハ」しか喋れない。新しい必殺技の前に、言葉を覚えさせたほうがいいような気もするのだが、ハデスは気にしない。
 戦闘員に合図を送り、崖の上からマイケルに向けて岩を落とさせた。
「さあ、サソリ男よ! その尻尾の毒針……【オリュンポスニードル】で、この大岩を砕くのだっ!」
「フハハハ!」
 笑いながら毒針を振り払い、岩を粉砕していくマイケル。
 その様子を見下ろすハデスも、高笑いで応じていた。
「フハハハ!」
「フハハハ!」
「フハ! フハ! フハ!」
「フハハ! フハハハ! フハハハハ!」
「フハハハハハ!」
「フハ! フハハ! フハ!」
「フハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 不思議なことに、「フハハハハ」だけでも意思の疎通が図れているようである。
 竜哭の滝の前。
 言語を超越した、師弟愛が叫ばれつづけていた。