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リアクション
その4 ヌルヌル撮影会
また別の場所。
「じゃじゃーん、ピンクのビキニ水着だよー。布地をギリギリまで減らしたマイクロビキニ! 今回やろうと思ってるのにはこれがいいかなーって♪」
神月 摩耶(こうづき・まや)はかなりきわどい衣装を身にまとい、くるりと一回転した。それだけで、周りの男の視線が集まる。
「ふう……なんだか胸やお尻が苦しいわ」
赤色の若干小さめのビキニを着たクリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)が、息を吐く。
「あたしたちは囮になるのよ。カメラを持っている人たちの注意を引きつけて、他の人が確保しやすくするの。いい?」
「「承知いたしました」」
「わかったなのー♪」
白いワンピースのリリンキッシュ・ヴィルチュア(りりんきっしゅ・びるちゅあ)とメイド服姿のアンネリース・オッフェンバッハ(あんねりーす・おっふぇんばっは)が同時に答え、スクール水着(旧スク)のミム・キューブ(みむ・きゅーぶ)は弾む声で答えた。
「それじゃあカレン。せっかくだから、来なさい」
「いいの?」
金盞花・オッフェンバッハ(きんせんか・おっふぇんばっは)……通称カレンは、とろんとした表情でクリムを見上げた。
「ええ。せっかくの海よ。楽しみましょう」
「ボク……海遊びするのなんて……初めてだわ……♪」
カレンは奈落人で、人間に憑依することができる。彼女はクリムの体に憑依し、いつもとは違う体を全身撫で回す。
(カレンは此の世界の海は初めてなのね。さ、いろいろ教えてもらいなさい……♪)
心の中に声が響く。
摩耶は笑みを浮かべてサンオイルを取り出し、
「ミムちゃん、一緒にカレンちゃんに塗ってあげよー」
「うん、ミムちゃんもお手伝いするのー♪」
ミムの体にサンオイルを塗りたくる。
「?」
ミムが疑問符を浮かべていると、
「ほらミム、カレンちゃんにカラダをすりすり擦り付けてオイル塗ってあげるの。これが正しいサンオイルの塗り方よ?」
「知らなかったのー。面白そうなのー」
ミムはカレンの魂が入ったクリムの体に、体をすりすりと擦り付ける。
「ひゃふぅん……♪ あぁ……摩耶、ミム……こんなのぉ……♪」
カレンは気持ちがいいのか、体を仰け反らせて言った。
(カレン〜情けないわよぉ、あたしが色々教えてあげたでしょう? ほらぁ、もっと頑張りなりなさい♪)
「無理ぃ……クリム、ボクには無理だわ……あ、あ、はうぅんっ♪」
心の中に響く声に応えながら、カレンは荒い息を吐いた。
「私は、皆様の為にトロピカルジュースでも作らせて頂きましょう」
リリンが席を立ち、近くに広げたシートの上で果物を絞り始める。それを氷術を応用して冷せし、オリジナルのジュースを作っていた。
「はあ……はあ……」
その近くにアンネが向かってきた。ずっとクリムたちの様子を見ていたからか、息が荒い。
「リリン様。お手が汚れておりますわ……失礼致します、あむっ♪」
「……って、あ、アンネ様…!?」
アンネはいきなり、リリンの指を口に咥える。果物の甘さか、はたまた別のものか、入念に、丹念に、恍惚の表情で舐め回す。
「……あ、こ、このような処で……あぁ、ですがアンネ様の唇が、舌が心地よく……っ♪」
リリンも気持ちよくなってきたのか、力を抜いて手をアンネに委ねる。アンネの愛撫はますます過激さを増し、手のひらから手首へ、手首からひじへと舌を伸ばしていった。
「……ぁ、なんかお写真取られてるの……あぁん、見られちゃってるよぉ♪」
ミムが言う。口ではそう言うが、なぜか彼女は嬉しそうにポーズを取っていた。
摩耶もクリムの体に両手を這わせ、いろいろなところをオイル塗り広げるついでに撫でたり揉んだりしている。周りで写真を撮られているが、全く気にする素振りはなかった。
「はぁ……ボク……もっと、幸せになりたい……♪」
(いいのよカレン。あたしが、良いところにイかせてあげるわ……)
「ふぁ……らめだよぉ……撮られてるのに……見られてるのにぃ……」
「リリン様……うふぅ」
「はあ……アンネ様……」
「ふふ、とってもとっても楽しいのー」
そんなこんなで行われているヌルヌル撮影会を、綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は冷めた目で見ていた。
「あんなにおおっぴらにやられると、しょっぴくものもしょっぴけないじゃない」
不機嫌そうに言う。彼女は普段とは髪型を変えて、可愛らしい印象のターコイズブルーのチェックのセパレート水着を着ていた。
「さゆみ、捕まえるべきは盗撮をしている人ですわ。あちらは放っておきましょう」
さゆみの隣で、同じく騒ぎを眺めていたアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)が言う。服装は清楚感のある白いビキニだ。
「……そうね」
さゆみは頷いて歩いていこうとするが、途中、どこかからの妙な視線に気づいた。フラッシュ音を聞いてから駆け、逃げようとしていた男を捕まえる。
「アイドルの水着姿をタダで撮ろうなんて……悪いけど、これで終わりよ?」
「な、なんのことだよ……」
男がとぼけるが、アデリーヌがカメラを取り上げ、データを確認する。さゆみの姿は、しっかりと捉えられていた。それだけじゃない、多くの盗撮と思われる写真が、データには残っている。
「なにすんだよ!」
カメラを取り返そうとする男をさゆみが制し、アデリーヌはカメラを砂浜に勢いよく叩きつける。男が「おいっ!」と声を荒げた。
「なによ! 盗撮しておいて、なにか文句があるって言うのっ!?」
「壊すことないだろ!」
「うるさいわね! あんたのやっていることは犯罪よ! わかってるのっ!?」
「くっ……」
男が口を紡ぐ。ふう、と息を吐いてさゆみが視線を反らしたその一瞬、男はカメラを拾い上げて走り出した。
「あ……」
「はいはーい、確保」
その走り出した男に誰かが足をかけ、もう一人が男の首根っこを掴む。
「セレンさん!」
「やっほー、さゆみ」
彼女と親しい間柄であるセレンとセレアナが、偶然にも通りかかったところだった。
「この人も盗撮を?」
「……ええ。ありがとう。逃げられるところだったわ」
じたばたする男に、セレンが手刀を入れて黙らせる。
「セレアナ、連れてって」
「ええ」
セレアナは気を失った男を連れ、歩いていった。
「ずいぶんとご機嫌斜めじゃない。どうかした?」
「それが、その……」
彼女はプライベートでビーチに遊びに来た際に盗撮されたかもしれないことを、セレンに告白した。
「さすがに盗撮で、しかもそれをネタに脅迫までする様な輩は、到底許せないわ」
「なるほどね……」
セレンが頷く。
「わたくしも、非常に不愉快です。いくら有名なコスプレイヤーだからって」
さゆみはコスプレ界では名を知らぬ者のいないほどの有名人だ。写真に撮られなれてはいるが、それはあくまで仕事上の話である。プライベートまで写真を撮らせる許可をした覚えはない。
それに、コスプレイヤーにとって重要なのは、ルックスでも衣装でもなくマナーである、とも彼女は考えている。一部のマナーの悪いコスプレイヤーによって、コスプレ界が卑猥だとか不潔だとか、そういうふうに言われるのは最も嫌いなことの一つだ。
そんなふうにマナーを重要視している彼女にとって、盗撮などという最大級のマナー違反をしている人間は許せなかった。許すことができなかった。
「確かにこの辺りには盗撮する人が多いわね。なんか、名所みたいな感じで言われてるみたいよ」
「……そうなの」
「あたしもさっき変なの捕まえたしなー」
セレンは先ほど遭遇したバースト・エロスを思い出して言った。
「脅迫については調査中。今のところ被害の報告はないから、こっちはただの噂じゃないかって話ね。ま、そんなことがあれば結構な犯罪だし、そうであるといいけど」
それを聞いて、さゆみは少しだけ安心した。
「……運営側に預けてきたわ」
セレアナが戻ってきて言う。
「あたしたちはちょっと奥の方を調査するけど、さゆみたちは?」
「わたくしたちは……」
アデリーヌがちらりとさゆみを見る。さゆみは、
「もうちょっと、この辺りを見て回ってみるわ」
なにか予感でもしたのか、そのように口にした。
「そ。じゃあまた、後で。気をつけてね」
「セレンさんも」
手を振り、すれ違う。すれ違い際、セレアナと目が合ったため、さゆみは思わず言ってしまった。
「……二人とも、普段と変わらない格好なのね」
「やっぱりネタにされたっ!?」
セレアナは頭を抱えて叫んだ。
「……ん、カレンちゃんが中にいるせいかな……いつものクリムちゃんのカラダとは何か違う感じ……♪」
「はふぅ……ぬるぬるして気持ちいぃのぉ……♪」
摩耶とミムは、相変わらずカレンに絡みついていた。カレンは長らく責められて力尽きたのか、うつ伏せになって息を荒くしている。
「んちゅぅ……♪ ちゅぱっ、はぁ……リリン様ぁ♪」
「はあ……アンネ様ぁ」
リリンとアンネは指を舐め合っていた。
そして、その周りを多くのギャラリーが取り囲み、いつの間にか即席の写真撮影会になっている。
「さすがに、これは盗撮ではないですわね」
「こうまで堂々としているとね……」
そのヌルヌル撮影会を、少し離れた場所から冬山小夜子と、レオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)が眺めていた。
「それにしてもレオーナさん、その格好は?」
「どう、ビーチの視線を独り占めしようと思って」
彼女は水着は着ていない。本来であれば水着で隠すべきところを、まるでどこかの国の民族衣装のように、昆布で覆っている。
「……そうですね。注目されますね。……違う意味で」
「なんか意味深!?」
「まあ、貝殻とかみたいなものでしょうか」
「そんなところね。ちなみに、昆布は日高昆布よ。やっぱり北海道が最高よ」
「……そうですか」
小夜子は周りを見回した。
この辺りは摩耶やクリムたちが騒いでいるせいで、盗撮行為はそれほど行われていない。まあ、盗撮よりも美味しいものがあるのだから、バカな男はそっちに飛びつくだろう。
「このエリアは問題なさそうですわね……そろそろ受付に戻りましょうか」
「……さよちん、一体なにをしていたの?」
「かくかくしかじかで、公式な写真撮影の手伝いを」
「??」
はあ、と息を吐く小夜子にレオーナは疑問符を浮かべる。歩き出した小夜子の背を追おうとしたが、小夜子はすぐさま立ち止まった。
「どうかした?」
「いえ……」
小夜子の向く先には、一人の男がいて女の子になにかを渡していた。そして、カメラを見せる。女の子はちょっと嫌そうな顔をしたが、男になにか言われて砂浜に寝転がり、両手を胸の上に置いた。
「あれ? 小夜子さん?」
その様子を眺めていた小夜子たちに誰かが話しかけた。振り返ると、この辺りを再び調査している、さゆみとアデリーヌの姿があった。
「どうかしたの?」
「それが……」
小夜子は写真撮影をしている男を示し、例の、名刺を使ったニセスカウトの話をした。
「さっきはそれが公式なものでものすごく大変だったから、実は密かにへこんでいるのですわ」
「へこんでたんだ……」
レオーナは言う。さゆみは少しだけ顎に手を当てて考えた後、
「ちょっと、行ってくるわ」
そう言って、その男の元へと歩き出した。
「うん、君は?」
撮影が終わって歩き出した男の前に、さゆみが立った。
「あなた、雑誌のモデルを探しているですって?」
「ああ、うん、そうなんだよ」
男は懐に手を入れ、名刺を取り出す。出版社の名前と、雑誌の名前。そして、専属カメラマンである旨が書かれていた。
「ふうん。あの出版社の方でしたの」
「うん、まあね」
男は余裕の表情で頷く。
「あの出版社には私も世話になったわ。千葉編集長は相変わらずなのですか?」
が、さゆみがそんなことを口にすると、男の表情がわずかに変わった。
「ええと、千葉……?」
「ええ。ファッション誌の。まさか、ご存知ないわけはないわよね?」
「あはは、ごめん、それ、昔の名刺だったよ……えっと、これが本当の名刺だ」
男は慌てて、別のポケットからさらに名刺を取り出す。そこには全く違う出版社が書いていた。
「ああ、こちらの。高橋さんにはいつもお世話になってるわ。お元気ですか?」
「たか……はは、高橋さんね。ああうん、あの人は元気だよ」
「あの人の男らしい発言には、いつも驚かされます。私も見習いたいですね」
「そうだね……まあ、ほら、彼は男の中の男って感じだからね」
「彼? ……私の知っている高橋さんは、女性なのですけど」
「じょ、女性?」
「ええ」
「あ、あははははは」
「ふふふふふふ」
男はいきなりさゆみの肩を押すと、走り出した!
「捕まえて! 偽物よ!」
声を聞いて、レオーナと小夜子、アデリーヌが走り出す。
「くそ!」
男はなにかを砂の上に撒いた。たちまち砂が盛り上がっていき、人の形になる。
「サンドゴーレム!?」
「厄介なものを……!」
三体の砂で出来たモンスター、サンドゴーレムは、砂の剣を振りかざし、迫ってくる。
「ふー」
小夜子は大きく息を吐いて身構え、目を閉じた。そして、ゴーレムの接近に合わせて、目を開く。
「はああああぁぁぁぁぁ!」
そして、まっすぐ伸ばした拳でゴーレムの頭部を粉砕する。ゴーレムは砂へと戻り、風に乗って飛んでいった。
「『野生の蹂躙』!」
レオーナが手を掲げて叫ぶと、いくつもの魔獣が砂浜に現れ、一体のゴーレムに向かって突進していく。ゴーレムは魔獣に踏みつけられ、そのまま砂になった。
「いかづち! そこですわ!」
アデリーヌは手を掲げ、振り下ろす。たちまち空から一本の稲妻が走り、最後のゴーレムを消滅させる。
「さゆみ……」
アデリーヌはさゆみに手を伸ばした。さゆみはアデリーヌの手を借りて立ち上がる。小夜子とレオーナは、逃げる男を追いかけた。
「『バーストダッシュ』!」
レオーナはスキルを使い、低空を飛ぶようにして男に迫る。もう少しで男に手が届くというところで、男がまたなにかを投げた。
「わぷ……」
ただの砂だ。が、急接近しているところに砂を投げられレオーナの視界が塞がる。
「なに?」
「なんだか騒がしーの」
摩耶とミムが、なにやら騒ぎに気づいて顔を上げる。そこには逃げる男と、少し苦しそうなレオーナがいた。
「よくわからないけど」
憑依から逃れたのか、クリムが立ち上がる。
「お楽しみタイムを邪魔したのは……気に入らないわね」
それを合図に、他のメンバーの立ち上がった。
「逃がさなーいの♪」
ミムはスキルによって自分の幻影を作り出し、男の前にいくつも配置した。男が急ブレーキをかけ、止まる。
そして、止まったところに、
「『サンダーブラスト』!」
「『光術』!」
リリンとアンネの魔法攻撃が、男を直撃する。
男はたちまち地面に倒れ、それでも逃れようと地面を指で引っかく。その男の手がなにかに触れた。顔を上げると、クリムの足だった。
「あなたも混ざりたいの? それとも、一方的に嬲られたい? 好きよ、そういうの」
「そういうことなら、お任せを!」
少し涙を浮かべたレオーナが、クリムのもとへと近づく。
「ふふふ……嘘ついて女の子を撮影して逃げた上、女の子の顔に素直を撒くなんて……あなたみたいな人には、これがお似合いよ!」
レオーナは昆布の隙間から、一本の野菜を取り出した。
「低農薬のゴボウよ! 用途から考えて具体的には言わないけど、これも北海道産!」
それをこの状況でどうするのか……男は恐怖以外のものを感じなかった。
「さあそこの人、これを、この男のお尻に刺してあげましょう!」
そして想像以上だった。男の顔は恐怖におののく。
「ふふ〜ん。それはなんか面白そうだね」
「そうね。たまにこう言うのも悪くないわ」
摩耶とクリムが怪しい笑みを浮かべて言った。摩耶とレオーナは協力して男のズボンを脱がし、クリムはゴボウを構えた。
「さ。あたしが、良いところにイかせてあげるわ!」
「や、やめ、やめーてーっ!」
男が叫ぶ。が、すでに遅かった。ミム、やリリン、アンネとレオーナに押さえつけられた男は抵抗することもできなかった。
「アッー!!!!!!!!!!!!」
「ふぇ……海ってさいっこぉ♪」
カレンだけはまだ、地面に寝そべって夢心地だった。
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