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夏だ! 海だ! 水着だ! でもやっぱりそういうのは健全じゃないとね!

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夏だ! 海だ! 水着だ! でもやっぱりそういうのは健全じゃないとね!

リアクション









その1 瞬足の撮影会



「ああ……」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、周りを見て息を吐く。ため息というよりかは、歓喜の吐息といった感じだった。
「この格好でいても違和感がない……ここはとってもいいところだわ」
「そうね」
 彼女の隣でセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が頷く。普段からビキニやらレオタードやら、ちょっと変わった衣装を身にまとっている彼女たちも、ここ海水浴場にいる分には他と変わりがない。
「よかった……本当によかったわ」
 セレアナの目からは涙が流れていた。
「ちょっとなんで泣いてるのよ!」
「今回は服装のことでなにか言われることも、子供たちに指をさされたりすることもないと思って……」
「大袈裟ねえ。自分の着ている服なんだから、もうちょっと自信を持ちなさいよ」
「好きでこんな格好してるんじゃないわよ!」
 言い合いをしている二人の近くを、赤いワンピースを着た雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は少し早足で通る。
「とにかく、怪しい人を見かけたら、すぐさま確保よ!」
「うん! 勝手に写真を撮るなんて気持ち悪いこと、絶対に許さないんだから!」
「わたくしも頑張りますわね☆」
 その後ろを、雅羅と同じ色のビキニを着ている白波 理沙(しらなみ・りさ)が同じく早足で、さらにその後ろを、白のワンピースを着たチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)が少し駆け足気味で追いかけていた。
 前を歩く三人を少し離れた場所から、さらに二人が追いかけている。メイド服姿の美麗・ハーヴェル(めいりー・はーう゛ぇる)と、白を基調とした普段着のルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
「お嬢様方にご迷惑をかけるなんて男女問わず許せませんわね。でも、特に男性が迷惑行為をなさってるという方が許せませんわよ。どう反省していただきましょうか……」
 美麗は恐ろしい言葉を口にしている。ルカルカだけは、ただ黙っていつもよりも立腹気味な雅羅を見ていた。
「……ねえ、雅羅、」
 しばらく歩いてから、ルカルカが口を開く。ちょうど雅羅が足を止めた時だったので、振り返った。
「なにかあった?」
 それを聞くと、雅羅の動きがぴたりと止まる。
「えっと、その、ななななんのことかしら」
「や、だって、雅羅、いつもと様子が違うんだもん」
 ぎこちなく言う雅羅に、ルカルカが間髪入れずに問う。
「いいいいつもと変わらないわ、なにを言っているのよ! おほほほほほ」
 雅羅は高笑いしてごまかそうとする。が、そのせいで冷たい視線がいくつか雅羅に向いた。
「雅羅、なにかあったなら言って!」
「そうですわ、私たちにできることなら、協力いたしますわ」
 理沙とチェルシーが雅羅に言う。雅羅は観念したのか、軽く息を吐いて口を開いた。
「……実は、前ここ遊びに来た時の話なんだけど、」




「キミ、とっても可愛いね。写真撮っていいかい?」
「ええ? こ、困ります。写真なんて……」
「ああ、ごめんね、実は僕、こういうものなんだよ。はい、名刺」
「カメラマン……? ええ、あの雑誌のカメラマンさんなんですか!?」
「うん。ちょっと、夏の特集号を組んでいてね。水着のモデルを探しているんだ。もしよかったら、そのための写真を撮らせて欲しいんだけど……」
「そ、そんな……私が、あの本のモデルに……こほん、まあ、そういうことなら少しだったらいいですわ」
「じゃあちょっと、ポーズとってもらっていいかな?」
「こ、こうですか?」
「いいねいいね。そっちの手は腰の後ろに当ててみようか」
「こ、こうですね。えへ♪」
「うんうん、とってもいいよ」




「そんな嘘に引っかかって、何枚も写真を撮られてしまって……」
 雅羅は地面に両手をついた。
「ま、雅羅! いくらなんでもそれは!」
「雅羅さん、わたくしだってそれは疑いますわ!」
 理沙とチェルシーが叫ぶ。ルカルカは美麗に隠れて笑いをこらえていた。
「せっかく、モデルになれるかと思って大胆なポーズも取ったのに……なんでなの! また私の“災厄体質”のせいなの!?」
「自業自得です」
「いやーっ!!」
 美麗の一言に雅羅が倒れ込んだ。
「ふっふっふ……あのエセスカウト、今度会ったらボコボコにしてやるわ……」
 が、怒りのオーラを発しながらすぐに立ち上がる。あまりの恐怖に、チェルシーが理沙の後ろに隠れた。
「まあまあ。トラブルに巻き込まれたら、その分だけ幸運も訪れるよ」
「だといいですけど」
 ルカルカの一言に雅羅は息を吐いて言う。
「でも、この人ごみ……」
 理沙が周りを見て言った。まだ昼前ではあるが、海水浴場は多くの人で賑わっている。
「向こうにカメラを持ってる人は居るけど、一緒に来てる人を撮ってるだけっぽいわね……」
 もちろんそういった人も多い。隠し撮りや盗撮をする人を見つけるのは、難しそうだった。
「はいはーい、あたしにいいアイデアがあるの」
 近くにいたセレンが、雅羅たちに向かって手を挙げた。
「セレン、セレアナ。あなたたちもいたのね」
「アイデアって?」
 雅羅が答え、ルカルカが聞き返す。セレンはふふん、と胸を張って、
「色仕掛け、よ」
 に、っと笑って答えた。





「うふん、いいお天気ね〜」
 セレンは一人、目立つところにパラソルを置いて寝そべり、声を上げながら足を組み替えたりしている。
「こうまで熱いと日に焼けちゃうわ〜。日焼止めでも塗ろうかしら〜」
 周りに聞こえる声でそう言い、サンオイルを取り出して体に塗りつける。その度に「あはん」とか「うふん」とか口にしていて、否応なしに周りの男どもの注目が彼女に集まっていた。
「どこか間違っているような気もするけど……」
 理沙がセレンの様子を見て言う。
「それでも、間違いなく男は集まってきているわね」
 ルカルカが腕を組んで言う。セレンは周りから注目の的で、すでに声をかけている男もいた。
(行くわよ)
 そこで、セレンはスキル、『イナンナの加護』を発動させた。「身に降りかかる危険」、すなわち、この状況では「エロい視線」に、彼女はいつも以上に敏感になる。
「ねえ、キミ、背中に塗ってあげようか?」
「ビーチバレーでもしない?」
「むしろ俺に塗って欲しい」
「人のいないところに行こう。今すぐ」
(男って……)
 思っていた以上に周りは危険だらけだった。正直に言って不愉快な多くの視線が、セレンに向いている。
「ねえ、写真撮っていい?」
 そんな中、ついにカメラを持ち出した人物が現れた。
「来たわね」
「ええ」
 理沙とルカルカも構える。
「ちょっと、写真は遠慮して欲しいんだけど」
 セレンは口にしながら、加護によって上がった能力によって察知した。わずかな動作音と、今まで以上の不愉快な視線。断っているはずなのに、撮影をしている人物がいる。
(セレアナ!)
 セレンはセレアナにテレパシーを飛ばし、セレアナは待機していた理沙たちにサインを送る。一瞬でセレンの近くに来ると、カメラを持っていた何人かの前に立った。
「水着美女の撮影会はいかがだったかしら? 悪いけど、撮影会は中止よ。カメラも没収!!」
 セレンが立ち上がり、そう言う。すでにカメラを動かしていた数人は、セレアナたちによって抑えられていた。
「遠慮して欲しい、って言ったわよね? あたしは別に、撮影されても一向に構わないんだけど、それで迷惑する子もいるのよ、わかってる?」
 カメラを没収された男に言う。男は最初は文句のありそうな顔をしていたが、理沙たちが数人で取り囲むと、渋々カメラを渡してきた。
「ちっ」
 そんな中、メガネをかけた一人の男が隙を見て駆け出す。
「チェルシー、美麗!」
「はいですわ!」
「行きますわよ!」
 理沙が声をかけ、少し離れた場所で待機していた二人が動き出す。チェルシーは『空飛ぶ箒ファルケ』を取り出し、それに跨った。
「一度見つけた変態を逃がしたりはしませんわよ! 覚悟なさいませ!!」
 そして空中から、走って逃げる男を追う。男はカメラを大事に抱え、波打ち際を走っている。
「逃しませんわよ……!」
 陸からは美麗が。手を伸ばして男の肩を掴もうとすると、男がニヤリと笑みを浮かべ、そして、男の姿が消えた。
「えっ!?」
 美麗が驚きの声を上げると、男はすでに数メートル先にいて、こちらを向いていた。
「……遅い」
 そして、美麗の驚いた顔に向けてシャッターを押す。パシャパシャと連続して美麗を撮影し、そのまま男はものすごい速さで走り出した。
「加速スキル!?」
「雅羅、追うわよ!」
 雅羅とルカルカも走り出す。少し遅れてセレンたちも続いた。
「行きなさい!」
 チェルシーが大きく腕を振るうと、空から一本の稲妻が発生して男へと飛ぶ。
「ふっ……」
 しかし男は稲妻が落ちたときにはすでにその場にいなかった。
「どこに……えっ!?」
 雅羅の目の前に影が。驚いて後ろに倒れると、男は雅羅の胸元にカメラを近づけて何枚も写真を撮った。
「逃げさないよ!」
 ルカルカが鞭を振るい、男の足の自由を奪う。しかし男はその鞭を手にし、逆に引っ張った。ルカルカがバランスを崩す。
「ほえ?」
 バランスを崩して前のめりになったルカルカの目の前まで男が迫り、胸元から顔にかけてを写真で何度も撮影した。
「いい加減にしてよね!」
 ルカルカはバランスを整えつつも鞭を引き、男の足を引く。ついに男はバランスを崩して砂の上に転倒し、その隙に、追いかけていたメンバーが男を取り囲む。チェルシーも降りてきた。
「さあ、もう逃げられないわよ!」
 理沙が身構えながら言うと、男は観念したのか、ゆっくりとした動作で立ち上がった。
「よく俺を捕らえられた」
 男はメガネを人差し指で直しながら、静かに口を開く。
「俺の名は土井竜平(どい りゅうへい)。またの名を……」
 ギン、と鋭い視線を周りに見せ、竜平は名乗った。
「瞬速の性的衝動(バースト・エロス)」
「なんなのその二つ名!?」
 セレンが思わず声を上げた。
「……聞いたことがあるわ」
 雅羅が表情を変えて口を開く。
「盗撮、盗聴、隠しカメラに集音マイク、その豊富な知識のほとんどを、ただひたすらおのが性欲を満たすためだけに使うという、正体不明の人物がいる、と。その人の二つ名が……瞬速の性的衝動(バースト・エロス)」
「そんなにすごい人なの!? っていうかすごい人なのそれっ!?」
 驚きの表情を浮かべる雅羅に理沙が声を上げた。
「よく知っている」
 竜平……もといエロスはふ、と笑い声を上げて雅羅を見た。
「で、でも、いくら加速スキル持ちのすごい人だからって、」
「そうですわ。こうやって囲まれている以上、逃げ道はないですわ。大人しく観念なさいな」
 ルカルカと美麗が続けて言う。その言葉に合わせるように、全員がそれぞれ、身構えた。
 エロスは口元を歪めて笑みを浮かべ、
「俺のスキル、甘く見ないほうがいい」
 足で一度地面を叩いた。
 たちまち、エロスの姿が消える。みんなが辺りを見回すが、男の姿はない。
「う、上ですわ!」
 チェルシーが叫んだ。男は遥か上空からメンバーをカメラで何度か撮影すると、少し離れた波打ち際に着地して最後に一枚、写真を撮った。
「……さらば」
 そして、再びスキルを使って走り出す。その速さは目で追えないほどの速さで、驚きのあまり出遅れたメンバーは、追いかけることすらできなかった。
「ど、どうするのよ!」
 セレンが叫ぶ。エロスはそのまま波打ち際を猛スピードで駆け、その途中なびいた風に身を隠す女の子を立ち止まって撮影しながら離れていく。
「なんてあざといの!」
「と、とにかく追いかけますわよ!」
 理沙と美麗が言い、走り出す。ルカルカも続こうとしたが、彼女は海面がわずかに変化しているのを偶然にも目撃していた。
 なにかと思って目を凝らして見てみると、海面から、一人の人物が顔を出した。その人物は高く上がった波をかき分け水面を歩き、まっすぐ、エロスに向かって視線を向けている。
「ウィーー!!」
 そして、辺りに響く大きな咆哮を上げると、エロスに向かって一直線に走り出した。
「っ!?」
 エロスがその姿に気づく。衝動的に数枚写真を撮ってから加速スキルを使って走り出すが、その速度と同じくらいの速さで、その人物はエロスに向かっていった。
「ウィーー!! 君、撮影するのはやめなさい! さもないと、魔法の力で張り倒します!」
「断るっ……」
 流石に恐怖を感じているのか、わずかに震えた声でエロスが口を開く。
 その言葉を聞いて、人物は速度を上げた。彼女の体をオーラのようななにかが包み込み、髪と瞳の色が金色に光る。頭から耳が生え、さらには尻尾が後ろへと伸びた。
「クソッタレェェエエ!」
 真っ赤なオーラを放ちながら、彼女はエロスとの距離を縮める。
「ねじ伏せる」
 走りながら、その人物は手を前に繰り出した。人差し指と中指に、エネルギーが溜まる。
「必殺、」
 そして、彼女の頭の上に生えている耳をぴこんと動かしてから立ち止まり、指先からエネルギーを爆発させた。


「本気狩る☆光殺砲!」


 彼女の指先からほとばしった螺旋状のビームが逃げるエロスのギリギリ横をかすめ、エロスはバランスを崩してそのまま転倒した。
「ウィーー!!」
 その隙に再度咆哮をあげ、ものすごい速度で倒れたエロスの元へ。彼を片手で軽々と持ち上げると、
「キラッ☆魔法少女ろざりぃぬだよ!」
 残った左手で横向きのピースを作り、その隙間でウインクをしながらそう言った。
「ロゼ!」
 駆けつけたメンバーのうち、ルカルカが彼女の姿を見て口を開く。突如現れたこのよくわからない人物は、ルカルカの友人でもある九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)だった。
 駆けつけてきたルカルカに向けてエロスを投げ捨てると、ルカルカは急いで彼を鞭でぐるぐる巻きにする。「御用よ」と小さく言うと、エロスは「……無念」と呟いた。
「……闘気の解放してるの? なんだってこんなところで」
「皆が嫌がることをするのは許せないよ」
 ロゼが言う。彼女は普段温厚な医者なのだが、時折このような熱血状態になるそうだ。
「とにかく……捕まえたわよ、この変態」
 ぐるぐる巻きになっているエロスを理沙が見下ろす。エロスは抵抗しなかったが、セレアナがカメラを取り上げると必死に身をよじった。
「メモリーは没収したわ」
 カメラからカードを抜き出して言う。
「さて……どんなお仕置きをいたしましょうか」
 美麗がふふふと笑って口にする。
 しかし、そんな彼女らを手で制して、ルカルカが身を屈めてエロスに向き合う。
「あなた、なんでこんなことをしているの? この写真、どうするつもりだったの?」
「………………」
 エロスは目を反らした。
「今回の、写真撮影は、」
 ほんの少しだけ間を置いて、エロスは目を反らしたまま口を開く。
「目の保養と、売ってカメラのメンテナンス費用にするのと、知ってる人だったら脅してもっときわどいのを撮らせて「星になれーっ!!!!」もらうためにぃーっ!!」
 会話の途中でルカルカの拳がエロスを撃ち抜いた。
「……言ったでしょ、エロのためならなんでもするって。情けは無用よ」
「……そうみたいね」
 雅羅の言葉にルカルカは頷いた。しばらくして空から落ちてきたエロスの首根っこを掴み、雅羅に突き出す。
「あとは煮るなり焼くなり好きにして」
「そうね」
 雅羅は息を吐いて白目を向いているエロスの首を掴んだ。
「なんだか、ずいぶんと注目されていますわ……」
 チェルシーが美麗に隠れるようにして口にした。周りを見回すと、確かに注目を浴びている。まあ、あれほどの騒ぎをしたのだから仕方ないといえば仕方ないが。
「でもカメラを使う人はさすがにいなくなったわね」
 理沙が言う。さっきのセレンたちのカメラ没収などもあって、カメラを持っている人たちもどうも自重しているような雰囲気だった。
「なんだか異様に疲れたけど、目的は達したってことで、いいよね?」
 雅羅の顔を見て伺う。
「そうね……」
 雅羅も周りを確認して言った。
「アゾートに報告してきましょう。それと、これを預けに」
 雅羅は倒れたままのエロスを引っ張りながら口にした。
「……空が……もう少しで……雲に手が届く……」
 エロスは白目のまま震えながら、ぶつぶつとなにかを呟いていた。



 ――よくわからなかったけど、騒ぎは収まったようだ。
 みんなはカメラを没収されたようだが、僕は離れていたから無事だった。ざまあ。
 でも、彼女たちが口にしていたことは、なぜか胸に残った。迷惑する子、か。大抵の人は、カメラを向けると笑顔になる。ポーズを取る。取られると嬉しそうにする。
 カメラだけは裏切らない。カメラを持ってさえいれば、みんな、僕に笑顔を向けてくれるのだから。
 そう、だよね。
「隠レかめらもーど、終了シマス」