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通り雨が歩く時間

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通り雨が歩く時間

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 実験室の惨事の後。
「なんで雨の中、アイスを買いに行かなきゃなんねぇんだよ」
「だよなぁ。そう言えば、大図書館に謎の扉があるとか。行ってみないか?」
 双子はぶちぶちと美羽に言い渡された罰に対して文句を垂れていたが、すぐに好奇心の虫がうごめき始めた。
「おう、行ってみようぜ。みんな実験室にいるから分からねぇぜ」
「……図書館に行ったらあいつがいるから気を付けねぇと」
 ヒスミはすっかり乗り気な様子、キスミはダリルを警戒。何せ、これまでに怖い目に遭ったり説教されたりと散々な目に遭わされているので。
「とにかく行くか?」
「だな」
 双子は仲良く寄り道を始めた。

 大図書館。

「あの双子ならもうそろそろ来るはずだが」
 ダリルは用事をしながらのんびりと来るはずの双子を待っていた。
「……この機会に深奥に立ち入りたいからな」
 とダリル。実は大図書館に精通している証である世界樹の紋章を持っており、何度も通い奥まで行ったりして内部に詳しい。ただし、深奥の入ってはならない区画や魔法で隠された区画には行った事は無い。今回はそこが目的。
「……ん?」
 突然、ルカルカから連絡が入ってきた。内容は双子が悪さをした事でもし校内で悪さをしているのを見かけたら受けた罰を実行するようにしてくれというものだった。
「……本当に相変わらずだな」
 連絡を終えたダリルは慣れた様子であった。
 その時、
「……予想通り来たな」
 ダリルは明らかに自分を警戒しながら入館した双子を発見。
「さて」
 ダリルは双子に気付かれないようにゆっくりと尾行を始めた。
「……扉、扉」
「多分、かなり奥だよな」
 双子は尾行されてるとも知らずに呑気に謎の扉を探していた。
 そして、さらなる奥へと歩を進める。

 さらなる深奥、立ち入りが制限されている区画。

「……かなり奥だな」
 ダリルは双子を見失わないよう見張りつつも周囲を確認していた。
 そもそも発見した扉という物は無い。何せさらなる深奥の立ち入りが制限されている区画には行った事が無いのだから。双子の好奇心をくすぐり、大図書館のさらなる深奥に向かうよう仕向け、そのついでに疼く自分の好奇心を満たす作戦だ。

「おい、キスミ、これじゃないか?」
「だよな。明らかに怪しい」
 双子は妙な扉を発見した。
 ノブに手を掛け、
「……鍵が掛かってないぞ」
「よし、今の内に中に入るぞ!」
 双子は扉を開けて中に入った。実は書物の点検と換気のため扉の鍵が開いていたのだ。
「……さて、俺も行くか」
 ダリルは双子が入ってから行動を開始した。

 扉の奥。

「本ばっかじゃん」
「もっと、面白いもんがあると思ったのにな」
 辺り一面の書物にがっかりする双子。謎というぐらいだからもっと面白い物があると勝手に期待していたのだ。
「間違えたのかな?」
「かもしれねぇな」
 小首を傾げる双子。
 しかし、すぐに現実に戻り
「……まずいよな」
「急いで出るぞ、ヒスミ」
 急いで部屋を出ようとした時、
「……そこで何をしているんだ?」
 扉の前にダリルが登場。
「げっ!?」
 青ざめる双子。また何か嫌な目に遭わされると怯えを見せる。
「……ここで油を売っていていいのか。アイスを買いに行くんだろ?」
 そう言いつつダリルは双子回収の名目で堂々と部屋へ入った。
「……何で知ってるんだよ……というか誰かちくったな」
「おい、謎の扉ってこれなのか? 本以外面白い物無いぞ」
 不満を垂れる双子。
「さぁ、前の事で俺も記憶がぼんやりだからな。しかし、貴重な書物が結構あるな」
 ダリルはさらりと双子の相手をしてから棚に並べられている本の背表紙を確認して感想を洩らした。
「……」
 じっとダリルを疑いの目で見る双子。
「俺達をはめただろ。謎の扉があるとか言って」
「そうだろ」
 ダリルを見て思った事を口にした。
「さっきも言っただろ。記憶がぼんやりで覚えていないと。それより、さっさと買い物に行った方がいいんじゃないか。寄り道をしている事を知られたら痛い目に遭わされると思うが」
 ダリルは何も企んでいない風を装い、双子を買い物に行くように促した。
「……仕方ねぇ、行くぞ」
「そうだな」
 双子は溜息をつき、大人しく扉の外に出て買い物へ。ただし、ダリルの言い分はまだ半信半疑の様子。
「……悪戯小僧の勘か、鋭いな。さて……」
 ダリルは軽く苦笑を浮かべながら双子を見送った後、用事に戻った。
 本日は自分の真の目的も果たされ、ダリルにとっては良い日であった。