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とある魔法使いと巨大な敵

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とある魔法使いと巨大な敵

リアクション


・A new hope

巨大なアッシュが突如出現してから一時間が経過した。

空京にある駅のホームで乗りこむ電車を待ちながら、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は手に持っていたスマートフォンで時間つぶしのために面白い動画や生放送が無いかネットブラウジングをしている時だった。
画面の片隅で異様に人数と、コメントが増えている生中継枠が目に入ってきた。
何か面白い事でもやっているのかと興味本位で放送をしている枠をクリックする。
画面に映ったのは、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の姿だった。
「リポーターの葛城 吹雪であります!! 自分は今巨大アッシュのすぐ側まで接近しております」
 吹雪は片手にデジタルビデオカメラを持ちながら、小型飛空挺オイレを操縦しているようで画面が小刻みに上下に揺れている。
 生中継画面の上部には、「画面揺れてるぞー」だの「この揺れ駄目だ……他の枠見て来る」という散々なコメントが流れていたが、当の吹雪はそんな事気にしている様子はなかった。
「かつてこの森で変態的姿で暴れ回ったあの男がまたもやイルミンスールの森に再び姿を現しました!」
 吹雪の中継画面に被せるようにコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の声が聞こえてくると、吹雪の映っている画像から何処かのスタジオでフリップを持って大喜利をしている場面へと切り替わり、
「この大喜利が彼の運命を変えるとは、まだ誰も予想していなかったのです」
 そのナレーションが流れた後、また画面が切り替わり目に黒線が入れられたアッシュの上半身が映し出される。
「……アッシュ君何やったんだ? というか、これ指名手犯っぽくなってるし」
 そんな陽太の呟きに答える者はおらず、VTRはアッシュの偽者が本物のアッシュに倒される場面へと移り変わっていた。
「さて、アッシュさん現在の心境をお聞かせください」
「お前ら、よくこんなVTR持って来たな……どっから持って来たんだ!」
 学校の校舎の前でがっくりとうなだれるアッシュに容赦なくマイクを近づけているコルセアの後ろ姿へと画面が瞬く間に切り替わっていく。
「ふふ……教導団の力を舐めてもらっては困る――」
「あ、ルー少佐の出番はまだですので勝手に入ってこないでください」
 いつの間にかマイクを奪って胸を張っていたルー少佐にコルセアはぴしゃりと言い放ち、言葉に詰まったルー少佐の手からマイクを受け取ると、
「では、もう一度中継の葛城を呼んでみましょう」
 後ろで背を向けていじけているルー少佐には目もくれず、コルセアは吹雪に中継を振った。
「……たかがアッシュとはいえ、この巨大さは十分に脅威であります」
 今度は上下にぶれていないしっかりとした映像の中で、巨大アッシュの顔が映ったのだが心なしかこちらを睨みつけている様子が映し出される。
「いや、それ俺様じゃないし」
「だけど、あの身体のパーツはアッシュさんの物でしょ?」
 緊迫した吹雪にコルセアとアッシュが突っ込みを入れる。と言うよりマイクのスイッチをコルセアが切り忘れているようで、アッシュ達の会話が所々聞こえてくる。
「アッシュ! こんな所で油売って! 先生が避難誘導の手伝いをって言ってたから、手伝いに行くよ」
「ちょっと! アゾートちゃん。今回はアッシュちゃんが主役なんだから邪魔しないで」
 アゾートと共に聞こえて来た聞き覚えのある女性の声に、陽太は首を傾げると中継を見続けようとした時だった。
「五番線ホーム、ヒラニプラ行き電車が到着いたします。白線の内側に下がってお待ちください」
駅のアナウンスが流れて来たのを陽太は聞くと、残念そうにスマートフォンのホームボタンを押して視聴するのを諦めた。
スマートフォンがホーム画面に戻ると、陽太はメールアプリに一つ番号が付いているのに気がつきメールの送信主を確認する。
それは、三十分前に送られてきたノーンからのメールだった。
『おにーちゃんへ。 アッシュちゃんが大変な事になっちゃったみたい。だからワタシ、アッシュちゃんの手伝いにイルミンスールに行くね。あ、大丈夫。アッシュちゃんに戦って! って言いに行くだけだから!』
 今にも飛び出しそうな文面に、思わず陽太は口元を緩ませる。
(なら安心だ。事件の行方が気になるが、帰ってから聞いてみよう……)
 そう胸中で呟くと、陽太は真顔に戻りスマートフォンを上着のポケットに入れながら電車へ乗ろうと待合所を出たのだった。

 陽太はこれ以上視聴するのをやめて正解だった。なぜならば、その後吹雪の乗った飛空挺は巨大アッシュの手の攻撃により落とされたからである。