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とある魔法使いと巨大な敵

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とある魔法使いと巨大な敵

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・a proposal

 校舎内には生徒がまだ大勢残っていた。
 教師達もまた、生徒を避難させるために校内を慌ただしく走り回っている。
そんな中その流れに逆らう様に校内の奥へと進む人物がいた。ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)である。
 ロレンツォは、辺りを見回しながら何かを探していた。それは、この学校にある購買部だった。
 ロレンツォは生徒達の波をかき分けながら購買部がある部屋のドアを二回叩くと、ドアを開けて中へと入る。
「いらっしゃい。と言いたい所だけど、今日は早々に店じまいだよ。なんでも巨大なアッシュ君がこっちに迫っているとか……」
「ええ。それはとても大きなアッシュさんでしたネ」
 購買部の中に居たおばちゃんと、ロレンツォは軽く会話をする。
「なんとかするために買いに来たアルね。おばちゃん、二十メートルのロープをありったけ欲しいアルよ」
「え? ロープだけでいいのかい? 他にアイテムはたくさんあるけど……」
「ロープだけでいいネ」
 ロレンツォの言葉に、意味が判らないと言いたそうに瞬きをしたおばちゃんは商品棚の奥にあったロープを両手いっぱいに抱えると、紙袋に手際よく詰めていく。
「お会計だけど、あなたこんな大量のロープが買えるぐらいのお金はあるの?」
「そこまでは考えてなかったデス。……そうだ。アッシュに払わせる事にするデスよ。ということで、領収書の氏名の欄はアッシュと書いておいてください」
 この場にアッシュが居たら、たぶん抵抗の一つもしただろう。おばちゃんはロレンツォの言われるままに、領収書にアッシュの名前を書いてロープの束が入っている紙袋と共に渡した。
「ありがとうネ。なるべく早く解決できるようにがんばるヨ」
 ロレンツォは微笑みながらおばちゃんから紙袋を受け取ると、購買部を出て校庭へと歩き出した。
校庭へ行く廊下を歩いていると、窓から生徒達が外を見ているのに気がついたロレンツォは生徒達の隙間から窓の外を見る。
 窓の外では、巨大アッシュが何かを叩く動作が見えたのみで叩かれた何かはこちらからでは良くは見えなかった。だが、その何かは灰色の煙を上げながら森へと墜落していく。
 この時はまだ落ちた何かの事など気にも留めないロレンツォであった。

「ただいまデスよ。あれ? 何かあったんデスか?」
 校庭に出ると、泣いているコルセアとそれを優しく介抱しているアリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)の姿が目に入る。
「おかえりなさい。 ロープはたくさん買えた?」
 ロレンツォが帰って来た事に気がついたネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)はロープを編んでいる作業をやめると立ちあがってロレンツォの元へと近づいた。
「たくさん買えましたよ。アッシュさんのツケで」
「はっ!? なんで俺様のツケなんだ?」
 アゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)とエリスとノーンに左右から引っ張られていたアッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)がロレンツォの言葉に疑問を投げかけた。
「そりゃ、アッシュが『主役が欲しい』って言ったから今回もそれなりの仕事をしないといけないでしょうに」
 そう言ったアゾートに、エリスとノーンがシンクロしたように頷く。
「こんな所で意見が一致してどうするんだ」
 三人がアッシュを引っ張るのをやめたタイミングを見計らって、アッシュはロレンツォ達の方へと逃げる。
「アッシュ、そろそろどっちに行くか決めてほしいんだけど」
「どっちかとはなんデス?」
 アゾートの言葉に、ロレンツォが首を傾げるとネージュがこっそりと「避難誘導派と黒幕を退治派がアッシュを取り合ってるの」と教えてくれた。
「誘導した後に私達と合流と言うのは駄目なんですカ?」
 ロレンツォのぼそりと言った言葉にアッシュを取り合っていた三人が一斉にロレンツォに視線を投げる。
「「「駄目よ。どっちかにしてもらわないと」」」
「……じゃ……じゃあ、アゾートさんがエリスさんかノーンさんのどちらかでジャンケンをして決めたらいいんじゃないデスかネ?」
「え……俺様の意見は無いのか」
「意見あったらそもそも取り合いになってないと思うけどなぁ」
 三人の気迫にロレンツォは一瞬たじろいだが、じゃんけんで決着を決めるとの案に三人はしばし考え始める。
 そして、相変わらずアッシュの意見は誰も聞いては居ないようだった。
 なぜか三人共にじゃんけんをし始めたのを見ると、はぁ。とネージュがため息をついて手に持っていたロープを三つ網状に編む作業を再開し始める。
「……なんかさ、この分だと明日まで掛かっちゃいそうだよね」
 買って来たロープの包装を解きはじめたロレンツォにネージュが呆れたように呟いた。
「ふむ……そうデスね。では足に引っかかる部分だけを補強してその後は縛って繋ぐだけにしましょう」
「え……? ロープでアッシュをこけさせましょうって提案したのに変更してもいいの?」
 今ネージュ達が三つ網状に編んでいる作業は、実はロレンツォが提案をした作戦だ。

* * *

『エリザベート校長がすっこけて戦えなくなったと聞いたヨ。もしかしたら同じように巨大アッシュもこけさせれば動けなくなるかもしれないネ』
 ヘルプに来たコントラクター達を前に、どうすれば巨大アッシュの襲撃を阻止できるか話しあっている最中に出た案の一つだ。
『森の途中でアッシュを足止めさせるんですね。その後私達がアッシュに総攻撃をかけて短時間で倒す。と言う事で良いでしょうか』
 ロレンツォの提案に、神崎 零(かんざき・れい)が神妙な表情で作戦のまとめを言う。
 零の言葉にロレンツォは頷く。
『そうデス。私達とネージュさんが担当しますので、神崎さん達とシャーレットさん組と藤林さんとノーンさん組で巨大アッシュを倒してください』
『巨大アッシュは私達に任せなさい!』
 張り切り始めたセレン達を見ると、そっと輪から離れ始めた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と美羽の後を追いかけ始めたコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)の後ろ姿を横目で見ながら、神崎 優(かんざき・ゆう)はため息をついたのだった。
『ルカは、エリザベートを守るだけね』
『そこら辺はルーさんに任せますデス』
 誰も聞いては居ない自分の行動をルカルカが言うと、ロレンツォはかなり適当な返事を返した。
 かなり適当な返事を返されたルカルカは、しばらく思考停止状態に陥ると怒ったような表情で輪から離れたのには誰も気がつく人は居なかった。

* * *

「よし。できたよ! みんなで巨大アッシュを阻止しに行くぞー!」
 ネージュの声に回想から我に返ったロレンツォは、ネージュに向けて軽く拍手をしたのだった。

「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス! ククク、さあ行くのだ、我がオリュンポスの怪人・巨大アッシュよ!   エリザベートを倒し、イルミンスールを征服しようぞ!」
 いつもの口上を言いながら、ドクター・ハデス(どくたー・はです)はまるで自分が改造したかのように振舞っていた。
 「ククク、さあ、怪人巨大アッシュよ! 樹をなぎ倒し進軍するのだ!」
 ばっと右手をつきだし、勢いよく言うのだが巨大アッシュはハデスの言葉なんて一言も聞いておらず、勝手に魔法学校に向けて足を進めているだけなのだ。
 ハデスもまた巨大アッシュと共に街へと近づこうとした時だった。
「ここから先は行かせないんだからね!」
「そうでス! 街へ行くんなら私達の攻撃を潜り抜けるがいいデス!」
 ハデス達の進路に立ち塞がるかのように新たな飛空挺三機がやって来た。
「誰だ!」
「大ババ様と小ババ様達に心臓を捧げた者達よ。巨大アッシュを駆逐してやるんだから!」
 飛空挺に内蔵されたスピーカーからネージュの張りきった声が響く。
「巨大アッシュを駆逐しに来ただとぅ……ふふふ………ははははは! やってみるがいい!! 怪人巨大アッシュよ!! 今こそ必殺のロケットパンチをお見舞いするがいい!」
「な……なんですって!?」
 ハデスの言葉にネージュとロレンツォは驚き、その後の巨大アッシュの行動を様子見していたが何も起こらないと解ると盛大にため息をついたのだった。
「ロケットパンチとかびっくりしたネ。見えを張るのは良くないネ」
 ロレンツォがハデスに向かって突っ込みを入れる。
 と、唐突に巨大アッシュは立ち止ると近くにあった樹を引き抜こうとしていた。
「こんな漫才してる場合じゃないですよ! 早く巨大アッシュをこけさせないと」
「……そ、そうだったネ。思わず眼先の事に集中してしまったネ」
 アリアンナの言葉に、ロレンツォははっとした表情をするとロープで繋がれたもう片方の飛空挺の姿を見た。
 片方の飛空挺に乗っているアリアンナは、ロレンツォの視線を受け止めると二人で息を合わせて巨大アッシュの足元へと行こうと飛空挺の高度を下げた。
「邪魔はさせんぞ! 戦闘員達よ。巨大アッシュのサポートをしながら邪魔をする契約者達を迎え討て!」
 ハデスの合図により、周囲の草むらや樹の間から迷彩ペイントに塗られた軍人達がマシンガンでロレンツォ達に照準を向けながら現れる。
「増援とは卑怯よ!」
「ふふふ……何とでも言うがいい! これぞ悪役の醍醐味なのだよ」
 ネージュの言葉にハデスは大声で笑う。
 次の瞬間、飛空挺の窓から小さな火花が出る。戦闘員の一人が三人に向けて発砲し始めたのだ。
「こしゃくなぁぁ! 二人は巨大アッシュをこけさせるの優先。あたしはこいつらの囮になるよ」
「ネージュさんありがとうネ! 恩は忘れないよ」
 ロレンツォはネージュにそう言うと、飛空挺のエンジンをフルスロットルへと変更する。
「うりゃぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
 ロレンツォとアリアンナの二人の叫び声と共に、巨大アッシュは突如現れたロープに引っ掛かり地面へと倒れたのだが、すでに一本樹が街に向かって投げられた事はこの場にいる者は気が付きもしなかった。